弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年7月20日

誰がダニエル・パールを殺したか?

著者:ベルナール・アンリ・レヴィ、出版社:NHK出版
 アメリカの「ウォールストリート・ジャーナル」紙の記者がパキスタンのカラチで誘拐され首を切断されました(2002年1月31日)。殺されたダニエル・パールはユダヤ系アメリカ人。この事件の真相をフランス人が現地に飛んで追いかけました。
 そのジャーナリストはボディガードをなぜつけなかったのかと問う人がいる。しかし、ガンマンに護衛されて出歩くジャーナリストとはいったい何者なのか。第一、そんな用心をしたら、かえって目立ち、自分の存在を悪意ある人々に知らせるだけ。第二に、護衛は1日10ドルで雇われた退役警官だ。本当に危なくなったとき、彼らは自分の身を盾にしてまで守ってくれるだろうか。誘拐にあったら、決して逃げようとしてはいけない。これが絶対の規則だ。
 首謀者として捕まったオマル・シェイクは実は1973年にロンドンで生まれた。ロンドン大学を優秀な成績で卒業している。だからパキスタン人というより、イギリス人なのだ。それなのに、なぜ、熱烈なジハード戦士になったのか・・・。つい先日、ロンドンで列車・バスの同時爆破テロが起きました。自爆犯人たちはいずれもイギリス生まれのパキスタン人だと報道されています。本件とまったく同じです。
 カラチに来たジャーナリストが守るべき規則。ホテルの正面の部屋には泊まらない。道でタクシーを拾わない。核開発計画とイスラム教については絶対に話をしない。市場、映画館、雑踏、一般的な公共の場所へ出かけるときは細心の注意を払う。出かけるときには、信頼のおける人物にどこへ行くか何時にどうやって帰るかを知らせておく。公園は麻薬中毒者と犯罪者のたまり場になっている。
 アルカイダには現代的で教養のある若者がたくさんいる。彼らは西洋の金融システムの利用の仕方も弱点もよく知っている。9.11の前にアメリカン航空の株を空売りし、値が下がったところで買い戻して利益をあげるなんて朝飯前のこと。アルカイダとは、もうずいぶん前から自分たちだけの家族経営の小企業ではない。れっきとした巨大企業、いやマフィアである。世界中にひろがった資金強奪の巨大組織網なのだ。
 サウジアラビアの進歩的な弁護士は、イスラム主義はビジネスになっているという。アッラーとは無関係に、富と権力への近道だから、みんながイスラム主義に走る。
 アルカイダの活動報酬は、1回の作戦について2500〜3000ルピー(1ルピーは1.8円)。手榴弾を投げる報酬は1個につき150ルピー(結果がよければ、別に特別手当がつく)。インド軍将校へのテロ行為なら相手の階級に応じて1万から33万ルピー。自爆テロ実行犯にも報酬がある。家族にまずまずの生活環境を保障できるようにする。とりあえず5000ルピー、ときに1万ルピーが渡され、あとは契約にもとづいた生活環境が終身保障される。
 いかにもフランス人の書いたものという感じの思索的な文体でしたが、内容はテロの温床には根深いものがあることを明らかにするものです。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー