弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年5月27日

葬祭の日本史

著者:高橋繁行、出版社:講談社現代新書
 いやあー、驚きました。葬式って、昔はこんなに盛大に、にぎにぎしくやられていたんですね。昔と言っても、わずか90年前の日本のことです。信じられません。ひっそり、しめやかに、音も立てずに、しのび泣き。そんなお葬式のイメージが、それこそガラガラと音をたてて崩れおちていきました。
 えっ、誰のお葬式のことを言っているのか、ですか・・・。ほら、あのオッぺケペー節で有名な明治の川上音二郎ですよ。川上音二郎は明治44年(1911年)11月に48歳の若さで亡くなりました。死ぬ間際に、病院から大阪市北浜にあった帝国座に移され、そこで息を引きとったんです。川上音二郎って、新派劇の創始者でもあったんですね。ただちに帝国座の舞台に祭壇が組まれました。
 通夜は、なんと1週間。ええっ・・・。そんなの、聞いたこともありません。今じゃ、お坊さんを招いて1時間ほどで終わりますよね。1週間後のお葬式が、また実にすさまじいものです。当日の会葬者は3700人。帝国座から葬儀所のお寺までの6キロを、盛大な行列をつくってすすみます。午前9時に帝国座を出発して、午後1時にお寺に到着しました。これは江戸時代の大名行列をとりいれた葬列だったのです。
 この本がすごいのは、その葬列を再現する図をのせているところです。先頭を歩く2人の遠見。次に葬儀屋のトップがつとめる先払い。そのあとに、先箱、大鳥毛、毛槍、台笠、立笠、曲長柄と続きます。奴は、手にもった道具を宙に放り投げ、別の奴がそれを受けとります。このとき、かけ声をかけるやり方と、黙ってするやり方があったようです。
 さらに、大勢の徒士、打物、花車と続き、人力車に乗った先進僧が登場します。この先進僧は葬儀ディレクターとして、式進行の一切を取りしきります。まだまだ、行列は延々と続きます。両側には見物人がぎっしり。日本人って、昔から物見高いのです。
 喪主と遺族は白衣です。白い衣裳なのに「色着」(いぎ)と呼びます。一般会葬者は黒服です。これも、なんだか今と違いますよね。
 そして、現代の火葬場の様子も紹介され、参考になります。日本のお葬式にも、こんなに変遷があるんですね。ちっとも知りませんでした。

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