弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年4月26日

いま弁護士は、そして明日は?

著者:日弁連業務改革委員会、出版社:エディックス
 司法試験の合格者が3000人になるときが間近に迫っています。私のころは500人でしたから、6倍です。今2万人の弁護士が、やがて3万人となります。「目標」の5万人となるのも遠い将来のことではありません。いったい、そんな状況で弁護士はどうしたらいいのか、弁護士会の役割はどういうものになるのかを考えた本です。
 統計でみると、平均的な弁護士の売上(粗祖収入)は年3800万円ほど。中央値は年2800万円です。経費を差し引いた所得は平均1700万円、中央値1300万円です。なるほど、そんなものかもしれないなと私は思います。もちろん、億単位の収入の弁護士も東京や大阪あたりでは少なくないのでしょうが、1000万円以下の所得しかない弁護士がかなりいることも間違いありません。
 東京などでは弁護士の専門分化がすすんでいるのかもしれませんが、全国的には、まだまだ小さな百貨店で、なんでも扱いますという弁護士が多いと思います。企業や自治体そして官庁に弁護士の資格で働いている人も、いるにはいますが、両手で数えられるほどです。九州・福岡では片手ほどもいないのではないでしょうか。いえ、決してそれがいいと言っているのではありません。
 私自身は、「地域弁護士」として今後とも生きていくつもりです。自分のことはともかくとして、弁護士がもっともっと多方面の分野に進出したら、もう少し日本もましな国になるのではないかと期待しています。あまりにも「法の支配」というのがないと思うからです。その意味では、このところ政治家になる弁護士が少ないのも気になります。とくに革新の側で激減していますが、なぜでしょうか・・・。
 日本がいつもお手本としているアメリカでは、弁護士の商業主義に対して繰り返し警告がなされているそうです。日本も、いずれそういう時代が来るものと思います。ますます多くの若手弁護士が弱者の人権救済に生き甲斐を見出すより、大企業の法務顧問として丁々発止の交渉に魅力を感じる。そんなビジネスローヤーを目ざしているという実情があります。団塊の世代である私などは、企業や組織に絶対忠誠を誓ったところで、報われるものは少ないと冷ややかに思うのですが・・・。これも、長年の弁護士生活のなかで、何事も疑ってかかることが習い性になっているからかもしれません。
 法科大学院の授業が始まっています。司法試験と無縁の人権課題の講義のときには耳栓して、試験勉強の内職をしているという話も聞こえてきます。
 企業合併やマスコミなどの陽のあたる場所だけが弁護士を求めているわけではありません。名も知れぬ多くの国民が人権をふみにじられている現実があります。そこに弁護士として関わって、何らかの役割を果たせたら、なによりの生き甲斐になる。そういう感覚の弁護士が大量にうまれることを願っているのですが・・・。
 弁護士会については、どこでも会長になりたい人はたくさんいても、実働部隊である副会長のなり手がなくて困っているという話があります。若手(といっても弁護士10年以上のベテラン)が、雑巾がけの苦労をしたくないということのようです。困った現象です。
 弁護士の明日を考えるうえで、いろんなヒントを与えてくれる本でした。

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