弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年1月24日

働きながら書く人の文章教室

著者:小関智弘、出版社:岩波新書
 自宅の書斎とバーの止まり木を往復するだけのもの書きが、いくら技巧を凝らしてところで、人の心を打つものは書けない。
 グサリとくる言葉です。
 どんな仕事であれ、人は労働を通してさまざまな人生を学ぶことができる。そこで学んで深めた感性が、豊かな表現を生むのである。
 わたしも長く弁護士をしていて、いろんな人のさまざまな人生に触れあい、そこで少なくないものを学ぶことができました。あとは、深めたはずの感性で豊かに表現するだけなんです・・・。大田区内の町工場で旋盤工として51年間はたらいてきた著者の作品は、どれをとっても読み手の心にいつのまにか深くしみこんでいく語り口です。ああ、そんな情景を昔たしかに見た覚えがある。そう思わせます。
 『春は鉄までが匂った』というのは、題名から素敵です。本を手にとる前から旋盤して出てくる鉄の切れ端が目に浮かび、同時に、その湿ったような匂いが漂ってくる感じです。
 著者は、いまも2百字詰原稿用紙にB1の鉛筆で原稿を書いています。コンピュータープログラムを自分でつくってNC旋盤で鉄を削っていたのに、マス目に一字一字書いては消し、書いては消しで原稿を書くというのです。思考というのは書く手の速さと同じですすむといいますが本当だと思います。ちなみに私も手書き派です。ただしエンピツではありません。青色の水性ペン(0.7)が私のお気に入りです。エンピツよりなめらかな感触なのです。

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