弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年1月14日

スロー快楽主義宣言

著者:辻信一、出版社:集英社
 時間は静かで、平和を好み、安息を愛し、むしろの上にのびのびと横になるのが好きだ。文明人は時間がどういうものかを知らず、理解もしていない。だから、彼らの野蛮な風習によって、時間を虐待している。
 これは、20世紀はじめに、サモアの酋長がヨーロッパに行き、帰ってから島の同胞に語ってきかせた話だそうです。うーん、今の日本人にぴったりあてはまる気がしませんか・・・。
 人生は、面倒臭くて、回りくどいし、停滞も、繰り返しも、待たされることもたくさんある。しかしだからこそ、人生は生きるに値するのではないか。効率的に人を愛したり、愛されたりすることはない。効率的に生きるなんてもったいない。生きることは、スローなのだ。うん、うん、分かります・・・。
 同時に、著者は、時間をとるか、カネをとるかという二者択一の枠からも自由になろうと呼びかけています。そうですよね。ちょっぴりおカネも欲しいのは事実ですし、もちろん自由になる時間はもっと欲しいです。なかなか、どっちかひとつと割り切るわけにはいきませんよね。私も、本当はモノカキ三昧といきたいものの、現実には担当事件や司法改革その他の文献を読み、準備書面かきに日頃は追われ、モノカキの方はすっかり空の彼方のほうへ追いやられています。残念だけど、生活の糧を得るためには仕方のないことです。もっとも、その緊張感があるからこそ、モノカキで生きたいという気持ちも持続するのです。
 電気を消してスローな夜を、と著者は呼びかけています。でも、私は毎晩それを実行しているつもりです。いえ、電気を消しているわけではありません。誤解しないでください。テレビは見ないし、インターネットで泳ぐこともありません。音楽も聞きません。静かにして、ひたすら活字の世界に没入しています。
 えっ、何が楽しいのか、ですか・・・。うーん、何と言ったらいいんでしょうか。活字の世界は、はまりこんだらちょっとやそっとでは抜け出せないほどゾクゾクするものがあるんです。毎日、この書評を読んでもらったら分かると思うんですけど・・・。

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