弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年10月 1日

中国ビジネスの法務戦略

著者:范云涛、出版社:日本評論社
 京都大学で学び法学博士号をとり、中国の弁護士資格を得て、東京で渉外事務所で働いたこともある上海の弁護士の書いた実践的な本です。
 日本企業は中国で訴えられると、訴訟上の権利をやすやすと取り下げ、戦うことをあきらめてしまう行動パターンがよく見られる。決定時の遅さに引きかえ、紛争やトラブルが発生したときの対応時には、あまりにもあきらめが早く、潔い。このどうしようもない行動様式が、これまで多数の進出事例を決定的な失敗へと落とし入れていった。
 著者はこのように厳しい指摘をしています。なるほど、日本人にありがちな対応です。
 紛争発生時にあわてふためいて、泥縄式に弁護士を使うが、その時点では余分な出費を余儀なくされる。投資事業を始める時点から、現地の法律実務に明るい弁護士を採用し、顧問弁護士契約をかわすことを通じて、中国の最新法制などに関する情報が入手できる。顧問料は月に500〜600米ドルほどだ。
 著者はいくつもの失敗事例を紹介しています。身につまされる話ばかりです。
 これまでの日本企業の対応には次のような特徴がある。すなわち、不祥事が起きたときには、ひたすら紛争をおし隠そうとし、社内のクレーム処理部署のスタッフを利
用して、現地の顧問弁護士は使わない。本社にも報告せず、ひそかに事態をなんとか落ち着かせれば、もみ消せると考える。本社に紛争の詳細を報告せず、速やかな解消方法をとらず、弁護士にも迅速に相談せず、消費者に一定のお詫び金か手切れ金あるいは口止め料を払うという小手先の手段をもって終息させようと目論む。そうこうしているうちに、事件がマスコミ沙汰になって大きく企業イメージを傷つけられそうになった段階ではじめて、「救急車」「消防隊員」としての弁護士を思い出し、あわてて和解調停の労をとるように頼む。これが駆け込み寺方式。しかし、たいていの場合、すでに後の祭り。
 うーん、これはしかし、なにも中国への進出していった日本企業のことばかりではありませんよね。日本国内でも同じパターンでしょ・・・。
 ところで、この本によると、中国の弁護士は今13万人で、2010年までに30万人体制にする目標とのことです。そして、そのとき、国際弁護士を1万人以上確保するといいます。すごい計画です。
 2003年3月の全人代と全国政治協商会議に、弁護士による代表が初めて参加したとのこと。全人代には8人の弁護士、全国政治協商会議には5人の弁護士が参加したといいます。中国でも、やっと弁護士が市民権を得たようです。
 ところで、2003年3月、東北地方の吉林省人民法院の裁判官が中国史上初の弾劾罷免されました。担当している民事事件の当事者から宴会改めを受け、金員を受けとっていた事実が判明したからです。中国の裁判官の給料の低いことも原因のひとつのようです。
 四川省重慶市の高等人民法院では、裁判官の配偶者との間で、「夫の勤務時間外不正行為監督責任の委任に関する契約書」を取りかわしたといいます。裁判官のスキャンダル防止に、妻たちの女性パワーと圧力を借りようというものです。既に裁判官の99%の妻が署名しました。夫の犯罪疑惑を上司の通報すると、報奨金が妻に与えられるのです。
 うーん、そこまでするのか・・・。驚きました。

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