弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年7月 1日

脳は変化する

著者:アイラ・B・ブラック、出版社:青土社
 バラの香りをかぐとき、神経細胞はインパルスを発生させ、この経験を貯える。電気信号は縦につながっている次の神経細胞との境目を飛びこえて、情報をリレー伝達する。神経細胞間の境目をなしているシナプスは、情報の制御で決定的に重要だ。シナプスが丈夫であれば、多くの情報がリレーされる。シナプスが弱いと、少しの情報しか送られない。システムのなかで、シナプスの能率が高ければ、それだけ情報の伝達がうまくいく。
 たとえば、短い経験が神経にインパルスを発射させ、これが伝達物質の信号を放出する。伝達物質はシナプスの隙間をとび超えて、下流につながっている次の神経細胞を電気的に刺激する。伝達物質は次の神経細胞がもっている遺伝子を活性化して栄養因子を作らせ、因子はシナプス接続を補強する。こうしたシナプスの強化は少なくとも何週間か続く。短い経験がシナプスの構造に変わり、変化は長い時間続いて記憶をつくり出す。一個の酵素分子は毎秒100万回の化学反応をおこない、神経細胞は毎秒1000回の信号を伝える。
 人間の記憶はこのようにしてつくられるものなんですね・・・。うーん、なんだか少し分かった気がしました。
 先ごろ、アメリカのレーガン大統領がアルツハイマー病にかかったあと、93歳で亡くなりました。アメリカには400万人のアルツハイマー病患者がいて、毎年22万8000人の患者がうまれています。この本はアルツハイマー病に冒されていく銀行家の様子を物語りながら、脳科学の到達点をかなり分かりやすく解説しています。
 脳も再生する。脳は常に成長し、変化する生きた構造であり、経験から学んでいる。
 脳は固定配線を施されたスイッチ盤のような構造ではない。ですから、「あの人は頭が良い」というのは、あまり意味がないのです。「頭が良い」というのは脳のシナプス接続が多くて太いということであり、それは訓練の成果が期待できるものなのです。そうです。何事もあきらめてはいけないのです。私も、このごろ、やっとフランス語がかなり聞きとれるようになりました。フランス語用のシナプス(回路)ができあがり、それなりに太くなったというわけです。やはり、持続することが大切です。

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