弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年7月 1日

シルミド

著者:城内康伸、出版社:宝島社
 圧倒的な迫力の映画でした。絵空事(えそらごと)ではなく、史実にもとづいているというのが分かって見たせいもあるのかもしれません。ともかく、怖いくらいの画面で、2時間あまり息をひそめたままスクリーンから目が離せませんでした。
 この本を読むと、映画が史実といくらか異なることも知ることができます。刑務所の死刑囚たちを連れてきたかのように映画ではなっていますが、実際には、成功したら空軍大尉になれる、都心に家も持てるという条件で選抜された一般の人々だったのです。
 北朝鮮に潜入して金日成を暗殺するという任務を与えられていたことは事実です。それも、1968年1月の北朝鮮武装ゲリラによる青瓦台襲撃未遂事件に仕返しをするため、当時のKCIAの金炯旭部長が朴正煕大統領に進言して始まった計画だという点も史実です。朴大統領は暗殺されましたが、金炯旭KCIA部長もアメリカに亡命したあと、パリで暗殺されました(公式には行方不明)。
 世の中の風向きが変わると、金日成の暗殺部隊なんて必要ないし、そんな部隊があったこと自体まで隠されなくてはいけなくなります。それが第二の悲劇の始まりでした。
 国家意思とは何か、いかに非情なものであるかをじっくり考えさせる映画です。韓国で1200万人の人々が見たそうです。「卑怯者、去らば去れ」という歌は、私も学生時代に何度も歌ったことがあり、なつかしく思い出しました。そうなんです。実は、この事件は、私があこがれの東京にのぼって大学4年生の夏に、まさに同世代の韓国人がひき起こした事件なのです。戦後ずっとタブー視されていた事件を掘りおこし、韓国史上最大のヒット映画にしたという韓国人のたくましさにも私は圧倒されてしまいました。

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