弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年3月 1日

辰巳屋疑獄

著者:松井今朝子、出版社:筑摩書房
 江戸時代。大岡越前が裁いた最後の大疑獄事件の真相を描くとオビに書かれている。この本がどこまで史実にもとづいているのか私は知らない。しかし、いかにも史実を忠実にフィクション化したという気にさせる第一級の読みものだ。
 教え有りて類無し。これは論語の一節。人間には生まれつき定まった種類などなく、教えを受ければだれでも立派な人間になれる。語る一方ではなく、門弟にも意見を言わせ、ときどき笑い声も混じるなどしてなごやかな雰囲気で教えるという万年先生が登場する。福岡の万年弁護士を連想した。
 18世紀の大阪。辰巳屋は総勢460人の手代(てだい)がいた。忠臣蔵の赤穂浅野藩の308人の家臣より、はるかに多い。資産総額も200万両。
 この辰巳屋の後継者をめぐる内紛が裁判にまで発展してしまった。この本を読むと、昔から日本人は裁判が好きだったことがよく分かる。いったん裁判に負けても、なんとか逆転勝訴へ持ち込もうとして、担当奉行などへ贈賄攻勢をかけていく。贈収賄が発覚しても、贈賄側は軽い処罰しか受けないが、収賄側の奉行などには打ち首その他の厳罰が科せられた。
 田舎出の純朴な少年が、あるじ(社長)の忠実な僕(しもべ)としてともに栄え、倒されていく。そこに視点をすえて物語が進行するから、一気に読ませる。

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