弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年9月 1日

女帝誕生

著者:笠原英彦、出版社:新潮社
 日本には8人、10代の女帝が存在した。中国には唐時代の則天武后がただ1人いるのみ。ところが、現在の皇室典範は女性天皇を認めない。なぜか?
 この本によると、明治時代に成立した皇室典範ができるとき、明治天皇の側室となった柳原愛子(なるこ)が後の大正天皇を生んだことを前提として、兄の柳原前光(さきみつ)が嫡系を優先して女帝を認めると、庶子は不利となるので、女帝を認めないようにしたという。つまり、個人の利益が女帝否認をもたらしたのだ。
 さらに、この本は、日本に8人、10代の女帝がいたとしても、それは単なる「中継ぎ」天皇でしかなかったという俗説を完膚なきまでに叩きのめしている。8人の女帝は立派な執政能力を有していたのであり、お飾り的な「中継ぎ」ではなかった。
 「男系の男子」のみに皇位継承を認める制度は、天皇が側室をもつことを前提としていると解されている。なるほど、と思う。そして、いったん女性天皇を認めると、女系天皇も認めなければならなくなる。しかも、現在は皇族の身分が得られる民間人は女性に限られ、民間人の男性は絶対に皇族とはなりえない。男女間に明白な差別が存在する。
 日本の天皇が「万世一系」でないことは、継体天皇をどうみるかにかかっているが、歴史的には明白な事実である。天皇制度が存続する今日的意義は何なのか、よく分からない。「なぜ愛子様が天皇になってはいけないのか?」というこの本の帯の疑問は解消されそうもない。

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