弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2014年11月20日

動かすな、原発

社会


著者  小出 裕彰、海渡 雄一ほか 、 出版  岩波ブックレット

 2014年5月21日の福井地裁の判決は素晴らしいものでした。私も何度も読み返しました。
 熊本地裁玉名支部にもいたことのある樋口英明裁判長の判決文は、きわめて平易かつ明快です。
この判決が出る前、三権分立というのは単なる建前にすぎず、少なくとも国家の根幹に関わる原子力の分野では、司法は独立していないと思い知らされてきた。
上昇志向の強い裁判官にとって、国家の根幹にかかわることで国に楯突くような判決を書けば、出世の道を絶たれることは必至だから。
 しかし、今回の福井地裁判決のような判断をする裁判官がまだいることをありがたく思うし、その未来が明るいことを願う。
これは、長く「差別」されてきた小出裕彰氏の文章です。
 今回の判決を受けて、原子力推進派は、ゼロリスクを求めることは科学的でないと批判している。しかし、原子力推進派こそ、原発の破局事故など決して起きないとして、科学を逸脱したゼロリスクを主張してきた。
 30年以上も稼働してきた老朽原発とひきかえに、敦賀市・美浜町・おおい町・高浜町には各25億円の交付金が既に支給されており、プルサーマルを容認した高浜町には60億円の交付金が支給されることになっている。
 関西の原子力ムラは50兆円のビッグビジネスを展開してきたが、地元への交付金の還元はその1%ほどでしかない。
 樋口裁判長は、この訴訟で専門家証人を尋問しなかった。その理由は、原発の危険性は福島第一原発の事故で十分に証明されていること、安全性を評価するうえで重要な問題点について、関西電力も認めている事実が多いことにある。そのため、この訴訟は、提訴からわずか1年半で判決に至った。
 ちなみに、樋口裁判長は、原・被告の双方に質問を重ねている。その過程で、関西電力側の回答の不合理さ、疑問を正面から答えない不誠実さが次第に明らかになっていった。
 電力会社なら、すぐに答えるような論点についてまで、まともに答えなかった。こうやって関西電力は、自ら墓穴を掘った。
 樋口裁判長は、勇気をもって、「王様は裸だ」といい、住民の生命と安全を守るため、常識に立ち戻って判決を書いた。
 樋口裁判長は、法廷で1時間かけて判決要旨を読みあげた。
 この判決は、司法の覚悟を示している。
 福井地裁判決は、これまでの原発訴訟のような科学論争の迷路に入ることなく、明確な差止判決を出した。
 本当に立派な判決です。全国の裁判官が勇気をもって、この判決に続くことを、願わずにはいられません。
(2014年10月刊。520円+税)

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