弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生き物

2008年6月 6日

アゲハ蝶の白地図

著者:五十嵐 邁、出版社:世界文化社
 前に同じ著者の『蝶と鉄骨と』(東海大学出版会)を読みました。著者は私より20年も年長の虫屋(正確には、蝶屋)です。世界中、どこまでも蝶を追い求めていく勇気と元気には、ほとほと感心します。なにしろ、乗っていた飛行機が墜落しても、多くの乗客が亡くなるなかで無事だったり、砂漠の中やトラのすむ密林の中をさまよったりするのです。うひゃー、そこまでやるか、という感じです。
 蝶の生態を明らかにするには、オスとメスの違いを一目で見分け、食草を求め、卵を産ませて育てなければいけません。根気づよい作業が求められます。虫屋って、そこまでするんですね。感動すら覚えます。
 日本の蝶愛好家はプロ・アマふくめて2万人。間違いなく世界一。たしか、今をときめく高名な保守政治家もそうでしたよね。
 日本の土着の蝶は233種。ところが、中国の蝶は1300種もいる。日本の土着種すべてを採集した人はわずか1人だけ。中国となると、1300種を採集するのは、容易なことではない。
 日本に産する蝶のほとんどが中国に産する。というより、日本に産する蝶は、中国の蝶のほんの一部に過ぎず、日本は中国の出店でしかない。
 蝶は、見たら欲しくなる。コレクションとは所有欲の究極のもの。けっして癒えることのできない煩悩である。なーるほど、そういうことなんですね。実は、私もよその家にある見事な花や木を見ると、すぐに欲しくなります。かといって、ドロボーするつもりはありませんので、何とかして買い求めたいと思うのです。ところが、これが案に相違して、なかなか容易なことではありません。近くの花屋で売っているとは限りませんし、通販でも容易に手に入りません。
 著者は、1969年7月、イラクへ出張を命じられます。その2年間の出張中、ひまを見つけて蝶の採集にいそしむのですから、並の神経の持ち主ではありません。砂漠の国イラクにも蝶はいるのですね。もちろん、砂漠に蝶がすんでいるわけではありません。
 アゲハチョウは、特有のしっかりした方向性のある飛び方をする。モンシロチョウのような、チラチラと左右にゆれる飛び方はしない。
 蝶を探すときには、食草となるウマノスズクサ科の草を探せばいい。
 一般に、蝶は雌が羽化するころには雄が待っていて、すぐに交尾するもの。だから、自然の中を飛んでいる雌に未交尾雌はいない。ところが、現実には飛んできた雌が未交尾のことがあった。ふむふむ、そうなんですか・・・。
 普通のアゲハチョウは、飼育していると、1週間に1度くらいの割合で脱皮し、孵化後30〜40日で蛹になる。いやはや、じっくり飼育までして観察するのですね。
 すごい本です。世界のアゲハ蝶のいくつかがカラー写真つきで紹介されています。なるほど、なるほど、大のおとなを虜にしてしまう魅力があることがよく分かります。
(2008年2月刊。2800円+税)

2008年5月 2日

カカトアルキのなぞ

著者:東城幸治、出版社:新日本出版社
 2002年4月、昆虫類に新たな目(もく)が追加されました。
 昆虫類は、地球上の全生物種の半数を占めるほど種類が多いのですが、新目(もく)の発見となると、88年ぶりなので注目を集めました。
 昆虫類は、名前がつけられているものだけでも100万種ある。昆虫が誕生したのは4億年以上も昔のこと。
 新しい目であるカカトアルキを発見したのはドイツの大学院生ゾンプロ。4500万年前のバルト琥珀に閉じこめられている1体の昆虫化石を見て、知っているナナフシと違うことに気がついたのです。その次の問題は、生きた虫がいるのかどうか、です。
 アフリカに似たような昆虫がいるのを思い出し、探索の旅に出ます。そして、ついに南アフリカで発見しました。昆虫は、一般に足先の爪を地面につけて歩くのが基本だが、この昆虫は歩くときに全6脚とも、その足先をもち上げて歩く。つまり、人間でいうと、つま先をもちあげて、カカトだけで歩くようなもの。そこからカカトアルキと命名された。カカトアルキは肉食性の昆虫。たいへんな大食漢の昆虫だ。その姿・形は、バッタとカマキリに似ている。写真と図解で説明されています。
 カカトアルキの交尾時間は平均で3昼夜も続く。ペア状態を維持することで、メスにほかのオスと交尾させないというオス側の戦略と考えられている。ところが、長い時間の交尾が終わったあと、お腹をすかせたメスがカマキリのように一回り小さな体のオスを食べてしまうこともある。ひゃあ、まるでカマキリと同じです。オスって、哀れな存在なんですよね、トホホ・・・。
 カカトアルキは、獲物を素早く確実に捕らえるための俊敏な動きを保障するもの。足先は、キャッチャー・ミットのように大きくなっている。
 大自然の不思議です。種の多様性を保持することの必要性を実感させる本です。
(2007年11月刊。1400円+税)

2008年4月25日

先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます

著者:小林朋道、出版社:築地書館
 鳥取環境大学は5年前につくられた。学生数1200人。人と社会と自然の共生をめざす人材の育成が目標だ。そんな大学で学生を教えている著者による、大学周辺の環境と身近な動物たちとの楽しい格闘記です。豊かな自然に囲まれて、人間が自然の体系と調和しながら生きていくことの大切さを実感させてくれる素敵な大学だと思いました。
 タイトルは、大学の廊下をオヒキコウモリという珍しいコウモリが飛んでいるのを学生が発見したことによります。その事件で目覚めた著者は、近くの洞穴でキクガシラコウモリにも出会うことができました。
 自然界で、ある出来事が起こると、その出来事に関連した事象に対する脳の反応性が増大する。
 近くの森でヘビに出会い、ヘビの写真もとっています。子ヘビでした。その口の中に白い穴が見える。何か? 肺に通じる気管の入り口である。人間もふくめて他の動物では、ノドの奥に開いている気管入口が、ヘビでは口の中ほどに位置している。なぜか? それは、大きな獲物をゆっくり飲みこむとき、気管が塞がれて窒息することを避けるためだ。うむむ、なーるほど、そういうことだったのですか。それにしても奇妙な穴です。
 タヌキは、地面の餌を探しながら、いつも下ばかり向いて歩くので、前方の対象物に気づかないことが多い。そのときも、著者のすぐ近くに来るまで気がつかなかった。すぐ前で気がつき、著者と目が合うと、驚いて逃げていった。
 著者は小さな無人島に雌ジカが一人ぼっちで暮らしているのを発見します。愛着がわくと個別の名前をつけたくなる。それは、外部世界、とくに社会的な関係をしっかりと把握するための、人間万人に備わった脳の戦略だ。
 岡山県の山中でニホンザルの生態を調べていたとき、夕暮れどき山奥に帰っていくニホンザルを追いかけていた著者は、ホーッと出来るだけニホンザルの声に似せて鳴いてみた。すると、群れの前方を行く数匹のサルが声に答えて、ホーッと鳴いた。半信半疑でもう一回、鳴いてみた。同じように、また、鳴き返してくれた。サルも交信できるのですね。
 ドバトは、他の個体と一緒に群れをつくる特性を備えている。そこで、一人になるのは不安を感じる。著者に飼われていたドバトは、著者が見えないと不安そうにきょろきょろあたりを見まわし、見つけると急いで歩いてやってくる。ふむふむ、そうなんですか。
 ヤギは、社会的な順位を強く認識する動物である。なじみのない人に対しては、競争的、威圧的にふるまう。ところが、小さいころから親のように優しく厳しく接してきた著者に対しては、従順だった。ヤギの社会では、移動の際には、順位の高い個体から前を歩く。
 うひょう、そうなんですか、ちっとも知りませんでした。
 この本を読むと、動物を飼うことの大変さと素晴らしさを実感させてくれます。
 庭先のフェンスにからみついているクレマチスが花を咲かせてくれました。赤紫色の花です。ほかにも真紅の花や純白の花などが、これから咲いてくれるはずです。アスパラガスがやっと食べられそうなほどの太さになりました。早速、春の味をいただきました。このところ毎日タケノコを美味しくいただいています。きのう、誰かがコラムに子どものころ毎日毎日タケノコを食べていて、竹になってしまいそうと悲鳴をあげていたと書いていました。味噌煮のタケノコは鶏肉なんかとよく合いますよね。春らしい味です。
(2007年3月刊。1600円+税)

2008年1月25日

進化で読み解くふしぎな生き物

著者:北海道大学サイエンスライターズ、出版社:技術評論社
 地球上には、さまざまな変な色と形をした生き物がうごめいています。この本は、写真と絵で、それを具体的に紹介してくれます。でもでも、もっとも不思議な生き物って、やっぱりヒト、そう人間ですよね。必要もないのに殺しあったりして、多くの人を無意味に殺した人間が英雄になったりして、ですね。まったく合理的な存在ではありません。どうして、ヒトはこうなったんでしょうね。それはともかく、変な生き物のいくつかを紹介することにしましょう。
 コウモリは、かつて自分が困っていたときに食物である血を分けてくれた個体に、自分が吸ってきた血を与える傾向がある。コウモリは飢え死にしそうな個体のうち、どのコウモリに血をあげて、どのコウモリを見殺しにするか、きちんと考えている。
 アデリーペンギンは、巣づくりの石が足りなくなると、メスは、他のつがいのオスか独身のオスの巣に行き、交尾をするのと交換条件で石をもらう。石を手に入れたメスは自分の巣に戻り、その石をつかって巣をつくり、つがいのオスと仲良く子育てする。
 アリはハチの仲間であり、シロアリはゴキブリの仲間である。つまり、アリとシロアリは、全く分類上は異なっている。
 ジュウシマツは江戸時代初期にインドから輸入されたスズメの仲間コシジロキンパラを祖先とする。オスのジュウシマツはカゴの中に好みのメスを見つけると、自慢の鳴き声をきかせる。その歌は文法をもっていて、それが複雑であるほどメスは強く反応する。オスは頭をつかって、なるべく良い歌をうたってメスの注意をひいて、口説き落とそうと努力するのである。ペット化されてわずか200年のあいだに、この技を身につけた。
 タマシギは一妻多夫で、メスがオスに求愛し、オスが抱卵、子育てする。メスは一腹分の産卵を終えると、オスに卵を残して移動していき、新しいオスと次々につがって産卵する。オスが子育てをする鳥では、オスがメスを選ぶ傾向にあるため、メスがきれいな羽色を発達させ、一妻多夫となる。
 寄生虫のサナダムシは、卵を2年間、休みなしに毎日うみ続ける。1日に20万個〜 100万個にものぼる。2年間の一生のうちに1億4600万個もうむ。ところが、1億個以上うんでも、終宿主にたどり着けるのは1匹程度。それでも、ヒトの小腸に入ると、1日に5〜20センチの割合で成長し、2週間で成虫になる。このとき、5〜10メートルになる。1ヶ月後から卵をうみはじめる。
 ホヤは、体液中に硫酸をもっている。ペーハー2以下というので、たいしたもの。それで捕食者から身を守っている。ところが、人間はそのホヤを美味しい珍味として食べるのですね。私も仙台に行ったとき何度か食べてみました。それほど美味しいとは思えませんでした。たしかに珍味ではありましたが・・・。
(2007年5月刊。1580円+税)

2007年12月 7日

昆虫がヒトと救う

著者:赤池 学、出版社:宝島社新書
 ひゃあ、そうだったのか、知らなかったー・・・。つい、そんな叫びをあげてしまいました。
 ウジ虫が劣悪な衛生環境の中で生きていけるのはなぜなのか?
 こんな発想をもったことがありませんでした。ウジ虫は自分のもっている自然免疫を活性化させているから、ひどい環境のなかでも成長できる。その抗菌力はザルコトキシンによる。これは小型タンパク質の一種、ペプチドである。
 その殺菌力は協力で、1ミリリットルの体液中、1ミリグラムの1万分の1というわずかな量さえあれば、細菌類を殺すことができる。それでいて、動物の培養細胞には何の悪影響も及ぼさない。つまり、悪い菌だけ殺して必要な細胞は殺さない。
 そして、このザルコトキシンは、一度つくられて永久に体内に存在するわけではなく、体が傷つくたびに生成される。この物質から、人間のある種のガンにピンポイントで効果をあらわすものが発見された。うむむ、なんと、なんと、すごい発見です。
 次はシルク。シルクはタンパク質で、糸はタンパク質同士が水素結合でくっついてできた集合体。シルクは昆虫の体内にあるときには液体なのに、外に吐き出されたとき一気に美しい糸になる。糸は直径10ミクロンで、長さは1500メートルもつながっている。
 このシルクには、カビにくいし、質感を変えておいしくする作用がある。カビの発生を遅くし、味が滑らかになる。ふーん、シルクって光沢があるだけではないのですか・・・。
 スズメバチに刺されて死ぬ人が毎年25人ほどいる。それほど猛毒をもつ昆虫である。このスズメバチは巣がないと2〜3日しか生きられない。なぜか?スズメバチは虫などを食べる肉食昆虫なのに、自分で捕ったエサ(肉ダンゴ)を食べることができない。というのは、スズメバチの胸と腹をつなぐ胴がものすごくくびれているため、液体しか通らない。これは、どの方向、どの位置にいる敵に対しても毒針を刺せるよう、自由自在に腹を動かせるためのもの。ところが、その結果、スズメバチは液体流動食しかとれない身体になってしまった。では、そのエサはどうやってとるのか。なんと、幼虫からもらうのです。幼虫は親のスズメバチからもらった肉団子を食べて、大量のアミノ酸ドリンクをつくり、それを親に与える。だから、幼虫がいないと、親は栄養をとることができない。スズメバチの親子は、栄養の交換を通じて、固い絆で結ばれている。
 うむむ、これはすごーい。そして、このアミノ酸ドリンクが、スズメバチの高い運動能力をもたらしていたのです。そこに気がつき、着目した学者は偉いですよね。このアミノ酸ドリンクは、ふだん燃えにくい脂肪を燃やして、エネルギーにして運動しているのです。そして、これは運動しなくても脂肪が燃えるということから、運動なしでやせられる夢のダイエット飲料として着目されました。これが有森裕子と高橋尚子が宣伝するVAAMなのです。
 いやあ、驚きました。ちっぽけな昆虫たちが、たまに人間を殺してしまったり、嫌われもののウジ虫が実は人間のためにすごく役立つ存在でもあったなんて・・・。ホント、世の中は不思議なことだらけです。
(2007年10月刊。700円+税)

2007年11月19日

森の「いろいろ事情がありまして」

著者:ピッキオ・石塚徹、出版社:信濃毎日新聞社
 カラー写真を眺めているだけでも楽しい本です。長野の森に生きる大小さまざまな動植物が生き生きと紹介されています。
 軽井沢に野鳥の森があり、クマが町中にも出没していることを知りました。小鳥たちのたくさん棲む森なのですが、かつては、今の何十倍もの小鳥たちがいたというのです。人間の乱開発は小鳥たちの棲み家を奪っているわけです。
 春夏秋冬の四季に分けて、長野の森とそこに躍動する生き物の姿が描かれています。早春に咲くアズマイチゲの白い花は、地上に芽を出してから花が咲くまで、わずか3日、その後10日間咲いて、実をつけた半月後には葉も枯れはじめ、芽を出して1ヶ月半後には地上から姿を消す。1年間も姿をあらわさず、その間に葉はあわただしく光合成して、その養分を地下にたくわえる。これを毎年くり返し、10年目にしてようやく花をつけるという。つまり多年草なのです。
 スミレは、種をたくさん詰めこんだ袋をはじけさせて遠くへ子どもたちを飛ばす。このほか、アリに食べてもらって、遠くへ運んでもらう。こうやって、遠くへ遠くへ子孫を残していく。
 軽井沢の町周辺に出没するツキノワグマの生態も明らかにされています。電波発信器をつけて探ったのです。それによると、オスとメスとでは、断然、行動範囲が違います。メスは東西5キロ、南北4キロとか、東西2キロ、南北2キロという狭い範囲でしか行動していない。オスは、東西15キロ、南北10キロ、また東西15キロ、南北8キロという広さで行動していた。
 軽井沢の町はクマの行動圏内なのですね。
 ニホンザルも軽井沢の町周辺に2群いるそうです。同じようにサルにも電波発信器をつけて調べました。
 ミソサザイという小鳥の調査も面白いですよ。大きな鏡を彼のナワバリのなかにすえつけ、テープレコーダーで仲間の声を流したのです。すると、すぐに飛んできてさえずりして応戦します。鏡にうつった自分の姿を見て、反応しました。くるっ、くるっとその場で一周ずつ回転しては、翼をぱっぱっと半開きしたり閉じたり、鏡の中のライバルに自分の姿を見せつけ、回転ダンスの儀式で決着をつけようとした。ミソサザイは尾を立てて歌い、それを回す動作は模様のコントラストを誇示し、それで相手をひるませたり、メスに選ばれたりする効果があるのだ。その写真を見ると、なるほどね、と思います。鏡にうつった自分の姿に真剣に対抗しようとする姿には笑ってしまいます。
 秋になってヒタキの声がします。ジョウビタキと思うのですが、残念なことに、まだ姿を見ていません。いつも秋から冬にやって来る、お腹ぷっくりの可愛らしい姿を早く拝みたいものです。
(2007年7月刊。1600円プラス税)

2007年9月 3日

有機化学美術館へようこそ

著者:佐藤健太郎、出版社:技術評論社
 直径わずか100億分の7メートルのフラーレンのなかに物を詰めるというのです。まったく想像を絶する世界です。
 もっとも辛い化合物カプサイシンは、1600万分の1の濃度で辛味を感じる。もっとも甘い化合物ラグドゥネームは、砂糖の22〜30万倍も甘い。もっとも苦い化合物である安息香酸デナトニウムは1億分の1の濃度で苦味を感じる。もっとも生産量の多いアスピリン(消炎鎮痛剤)は年間に1000億錠もつくられる。世界で売上げの一番多い薬であるリピトール(高脂血症治療薬)は、年間に1兆3000億円の売上げがある。
 私は高校3年生まで理科系の進学クラスにいました。結局は、数学が自分にできないことを悟って、文化系に転向したのですが、物理も化学も好きで、得意な科目ではありました。でも、今では、理科系にすすまなくて、本当に良かったと思います。物理や化学が好きだといっても、とてもそちらの方面で研究を続けられたはずはないと確信するからです。それでも、この本が紹介するような化学の話には依然として興味・関心があります。十分に理解できなくても、見ているだけで楽しいのです。
 この本には多面体分子の美しい姿がたくさん紹介されています。まさしく自然の不思議とも言うべき美しい姿をしています。
 亀の甲、つまり六角形のベンゼン環が基本になっています。
 有機化学の研究室は、実際にはかなりの修羅場である。きつい、汚い、危険、厳しい、苦しい、臭い、悲しい、体に悪い、給料がない、教授が恐い、彼女ができない。8Kも 10Kもありうるところ。
 エステルやアルコールをふくむこのは、一般的に比較的よい香りがする。カルボン酸やアミン(窒素化合物)、硫黄化合物などは、たいてい耐え難い悪臭がする。
 カルボン酸のにおいは、動物的なにおがする。ヨーロッパのチーズに臭いものがあるが、それはカルボン酸や酪酸による。銀杏のにおいも、ヘキサン酸やヘプタン酸が主成分。
 精液のにおいは、アミンの分解物のにおである。
 鋼鉄の数十倍の強さをもち、いくら曲げても折れないほどしなやかで、薬品や高熱にも耐え、銀よりも電気を、ダイヤモンドよりも熱をよく伝える。コンピューターを今より数百倍も高性能にし、エネルギー問題を解決する可能性を秘めている。それが、カーボンナノチューブである。
 ナノチューブの太さは、その名のとおりナノメートル(10億分の1メートル)のオーダーで、長さは、その数千倍にもなる。半導体のナノチューブは、コンピューターの素子として大きな可能性が考えられる。たとえば、一般的な銅線では、1平方メートルあたり 100万アンペアの電流を流すと焼き切れるが、安定かつ丈夫なナノチューブは10億アンペアを流すことができる。
 また、ナノチューブは、とてつもなく丈夫な素材なので、これを編みこめたら、素晴らしく頑丈な繊維ができあがるはず。欠陥のないナノチューブだけでロープをつくることができたとしたら、直径1センチのロープが1200トンを吊り上げることができる計算になる。
 化学のことがよく理解できなくても(私のことです)、分子の世界の造形の美しさだけは、よく伝わってくる本でした。
 わが家の近くの田圃の稲に、やがて米粒となる稲穂がつきはじめました。稲の花は白くて地味ですので、緑々した稲に見とれていると、ついうっかり見過ごしてしまいます。稲刈りまで、あと1ヶ月あまりとなりました。早いものです。今年も秋となり、4ヶ月しかないのです。暑い暑いと言っているうちに、やがて師走を迎えるようになるのですからね・・・。還暦を迎える年が近づいてくると、一日一日がとても大切に思えてきます。
(2007年6月刊。1580円+税)

2007年5月18日

タヌキのひとり

著者:竹田津 実、出版社:新潮社
 面白く、やがて悲しき物語です。森の獣医さんの診療所便りというサブ・タイトルがついています。すさまじいまでの苦労話を読むと、野生動物とつきあうのがいかに大変なことか、ノミに喰われたかゆみ・痛さとともに伝わってきます。でも、写真だけを眺めていると、カッワユーイと、つい叫んでしまいそうです。
 森に帰らなかった一人っ子タヌキの「ひとり」。子どもを連れて里帰りしたキタキツネの娘、集団入院したモモンガ、溺れたカモ・・・。いろんな森の動物たちが登場します。
 今日も森の診療所は大忙し!
 これはオビの文句です。しかも、まだまだ登場するんです。ノネズミは愛娘の布団のなかで圧死してしまいました。キツツキは朝5時なると診療所の窓ガラスを叩きます。エサくれ、とねだっているのです。野ネコ(野良猫とは違います)は、キタキツネとナワバリをめぐって熾烈な戦いをくり広げます。
 獣医師は、助けた患者から感謝されることのない職業。それどころか、助けた患者からありがたいお礼参りで、何度も痛い目にあわされる。ひゃあーっ、損な役回りなんですね。でも、それを承知でこの仕事を続けているのですから、ホント、偉いものです。森の中にリハビリセンター小屋まで建てたというわけで、すごいすごい。
 モモンガは空を飛ぶ。でもその前に、人間はモモンガのノミにやられてしまう。痒さとしつこさはたまらない。読むだけで背筋がゾクゾクしてきました。お風呂に入ると、身体のビミョーな部分ほどたまらなくかきむしってしまうというのですから、おっとっと、近寄りたくありません。それでも、飛べないモモンガをリンゴでつって飛行訓練させているところの写真なんか、つい痒みを忘れて私もしてみたくなります。
 カモのヒナが水に溺れて、本当に死んでしまった。実はカモは水に浮かない。浮くには条件がある。カモのヒナが水に浮くのは、ひとつは体を覆う綿毛といわれる羽毛が静電気を帯びていること、もうひとつは羽毛に油脂がぬられていて、それが水をはじき、結果として水面に浮く。さらに、カモのヒナは親鳥の翼の中に出入りをくり返す。このふれあい、こすりあいの摩擦によって静電気が生じる。では、親鳥がいなかったらどうするか。絹製の風呂敷のなかにカモのヒナを入れて、上下・左右にふりまわす。油脂を体中にぬりこむ作業のほうは、お手本もなく大変だった。それでも、ちゃんと空を飛べるようになって仲間と一緒に渡り鳥になっていくのです。
 うーん、素晴らしい写真ばかりで、たんのうしました。

2007年5月11日

野生のカメラ

著者:吉野 信、出版社:光人社
 オビに動物写真家の世界冒険撮影記と書かれていますが、まさに納得のキャッチ・コピーです。すごい迫力の動物写真のオンパレードです。これで1900円とは、実に安い。
 クマが出没する地域でキャンプするときには、食料は車の中か、特別にもうけられた食料貯蔵庫に入れておかねばならない。そんな規則は分かっていたはずなのに、友との久しぶりの再会を祝って、夜遅くまで語りあってマグカップを机の上に置いたままテントに入りこんで寝てしまった。そこへ夜中、グリズリーが登場した。危機一髪。その友というのは、1996年にシベリアでヒグマに襲われて亡くなった星野道夫氏のこと。いやあ、いつも危険と隣りあわせだったんですね。
 トラの写真をとりに行ったとき、一番近づいたのはわずか3メートル。このとき、著者はゾウに乗っていました。オープンのサファリカーに乗ったときには5〜6メートル。いずれも襲われる心配はしなかったということです。トラがジープのすぐ横を通り過ぎながら、軽く口を開けて、「やあ」といわんばかりの顔で著者に挨拶していったこともあるそうです。えーっ、そうなんですかー・・・。でも、やっぱりトラって怖いですよね。
 この本には、ジープの屋根の上にチーターが乗っかっていて、著者がその脇に頭を出している写真までもあります。こうなると、何メートルどころではありません。何センチという近接した距離です。チーターがひょいと爪を立てたら一生の終わりです。
 ネコ科の動物は基本的に水を嫌う性質があるが、トラは例外で、暑い夏の日などには好んで水に入る。なるほど、それででしょう。インドでベンガルタイガーが水浴びしている瞬間をとらえた迫力満点の写真もあります。
 アフリカでもっとも恐ろしい動物は、なんとアフリカスイギュウだというのです。驚きました。ライオンやトラ、そしてワニではないんです。ホントなのかなあ、思わずつぶやいてしまいました。
 好きなことをやっていて本人はとても幸せだと思うのですが、臆病な私なんかにはとても真似できない話のオンパレードです。でも、このような冒険写真家がいてくれるおかげで、野生動物の生態が茶の間で居ながらにして楽しめるのですから、感謝、感謝。大いに感謝しています。

2007年4月13日

擬態、だましあいの進化論(2)

著者:上田恵介、出版社:築地書館
 魚類に限らず一般に、体の大きな雄は小さな雄よりも競争に強く、より繁殖場所を占有したり、多くの雌を独占したりして高い繁殖成功を得ることができる。では、小さな雄は繁殖から締め出されているのかというと、必ずしもそうではない。小さな雄は小さいなりに、さまざまな手段を駆使して繁殖成功を上げようとしている。その手段のひとつが雌への擬態である。なわばりをつくらずに雌に擬態している雄は、なわばり雄よりも小さく、年齢も若い。このような雄は体色などが雌にとても似ているので、なわばり雄からさかんに求愛を受ける。ときには誘われるまま巣の中に入って、なわばり雄と産卵行動にいたってしまう。そのとき、雌擬態している雄は、もちろん卵を産むわけはなく、あくまで産卵しているふりをしているだけ。そして、本物の雌が巣にやってきて産卵しはじめると、そこへ割り込んで精子を放出し、本物の雌が生んだ卵に授精する。産卵後、雌擬態している雄は雌とともになわばりから去っていき、残された卵は、なわばり雄が面倒をみる。つまり、雌擬態している雄は、なわばり雄に対して、巣の維持や雌の勧誘などの面で寄生しているだけでなく、子の保護まで寄生している。
 小さなオスの魚がメスのふりして、大きなオスの魚をだましてちゃっかり自分の子孫を増やすのに成功してるなんて、面白いですよね。
 ランの花、オフリスは、ハチをだまして誘いこみ、受粉の手伝いをさせている。
 オフリスの賢いところは、まだ本物の雌バチが発生する前に花をつけて雄バチを誘うこと、偽交尾はさせるものの、本当の交尾(射精)まではさせないこと。 したがって、ハチは性的興奮状態を保ちながら、次なる花を求め、次々に他花受粉させていく。
 うーん、植物の花がハチをだますなんて・・・。
 チャバラニワシドリの鳴き声を聞いてみよう。建築現場からの実況中継だ。ベルトコンベアーか何かの機械がまわり、ガラゴロと建材が運びこまれ、何かが組みたてられているような音や、現場で働く大工たちの話し声や合図のような音まで聞こえてくる。まるでトランジスターラジオが勝手に鳴りだしたかのようだ。
 カッコウのヒナも同じようなだましの音をたてている。
 カッコウのヒナは、ヨシキリのヒナと同じ「シッ」というねだり声を出すが、鳴き方はまばらに繰り返すのではなく、「シシシシシ・・・」と詰めて、まるでたくさんのヒナがいるかのように鳴く。つまり、カッコウのヒナは、たった一羽でも十分に食べて成長できるように、そのねだり声をヨシキリ一巣分のねだり声に擬態させる仕組みを生み出し、宿主の行動を操っている。これは前提として、カッコウのヒナが、ヨシキリのヒナを巣から全部け落としてしまい、巣の中は自分一人だけで占有しているということがあります。あつかましくも、ヨシキリの親をだまし続けるわけです。
 残念なことに、私はまだこれらの小鳥の鳴き声を聞いたことがありません。ぜひ一度聞いてみたいものです。それにしても、これって、大自然の神秘そのものですよね。

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