弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生き物

2009年2月16日

昆虫の知恵

著者 普後 一、 出版 東京農工大学出版会

 いやはや、昆虫って、すごいですね。昆虫に学べ、とは、よく言ったものです。そのとおりですね。
 ヒトの皮膚にとまった蚊は、皮膚の下にある毛細血管を探り当てるために、足の裏にある感覚器官から超音波を発信し、その反響を利用して血管の位置を感知する。
 うへーっ、まるで腹部エコー検査みたいですね。
蚊が吸血するとき、体重の2倍ほどのヒトの血液を一気に吸って消火器に流し込む。一度に腹いっぱい吸血するため、異なったヒトの血液型が混じり合うことはない。そして消化酵素ですぐに消化吸収されるため、血液が凝固することはない。ふむふむ、なるほど。
 蚊のもつ抗血液凝固物質は、酵素反応の最終段階をストップさせる。このプロリキシンSという物質は、血液を凝固させないほか、血管の平滑筋を弛緩させる作用を持っている。蚊は、吸血するとき、ヒトの皮膚感覚を麻痺させるために唾液を注入し、ヒトに気づかれないようにしている。蚊の唾液がアレルギー反応を引き起こし、かゆみの原因となる。ただし、本来、蚊の唾液は吸血終了とともに蚊の体内に戻る。そのため、かゆみも止まる。ところが、吸血が中断されると、蚊の唾液がヒトの体内に残されるので、ヒトはかゆみを感じる。
 つまり、蚊の気が済むまで血を吸わせたら、かゆみはほとんど感じないわけである。
 うひょう、な、なーんと、蚊を叩き潰すことによってかゆみを感じるというわけです。でも、蚊って見つけたらすぐに叩き潰してしまいたいですよね。
 ちなみに、蚊は一般には花の蜜や果物の汁、樹液などを吸っているが、交尾したメスの蚊だけが卵のためにヒトの血を吸う。蚊のオスは人間の敵ではないということなんですね。
 生ゴミを処理するのに、アメリカミズアブを使うといいそうです。初めて知りました。50センチ角の箱にアメリカミズアブを100頭入れて高温にしておくと、有機廃棄物が効率よく分解処理される。ふーん、そうなんですか……。いま、我が家はEMボカシで生ゴミを処理していますが、これより、もっと簡単で効率が良さそうです。
 モンシロチョウからピエリシンという物質がとれ、抗がん作用に役立つという話も初めて知りました。昆虫って、偉大なる遺伝子資源なのですね。絶滅させたら、人類にとって巨大の損失です。ミズスマシやセミの抜け殻が糖尿病に良いなんて、本当でしょうか。
 傷口にウジ(ハエの幼虫)を這わせておくと、早くよくなるという話にも驚きました。戦場での実際の体験的知見による発見だそうです。
 ウジは、自分の持つタンパク質分解酵素を分泌して壊死状態の組織を溶かし、それを吸い上げることによって壊死組織を除去する。このタンパク質分解酵素は、健全な組織を融解することはないので、壊死組織だけが選択的に取り除かれる。そして、この物質はMRSAなどの薬剤耐性菌をふくむ病原菌に対する殺菌作用ももっている。ただし、ウジを使った治療法には健康保険が適用されない。見かけによらず、ウジも人間に役立つということなんですね。
 将来の宇宙食として有望なのは、昆虫(カイコガ)である。カイコガの蛹は、栄養的に非常に優れ、絹は用途が広く、微粉末にして食材にもできる。カイコガをキャットフードに25%混ぜると、猫は喜んで食べるそうです。
 バッタが幼虫時代に劣悪な環境で育つと、身体が褐色となり凶暴化して、大害虫と化す。これまた人間に似た話ですね。
 うひゃあ、すごいすごい。昆虫ってバカにできませんね。人間は昆虫に大いに学ぶべきです。
 先週末、春一番の突風が吹き荒れました。まともに傘をさして歩けず、電車も乱れていました。でも、風が温かいのです。ああ、春一番だとすぐに思いました。隣家の庭に今年も黄水仙が列をなして咲いています。輝くばかりの黄金色です。そして、近所にはしだれ紅梅も咲き誇り、春到来を感じさせます。
(2008年5月刊。1400円+税)

2009年2月11日

ハダカデバネズミ

著者 吉田 重人・岡ノ谷一夫、 発行 岩波科学ライブラリー

 世の中には、まさしく珍妙としか言いようのない生き物がいるものです。女王とか兵隊というのは、アリとハチで知っていますからよく分かりますよね。ところが肉ぶとん係というのがいるっていうんです。いったい何のことかと不思議に思いますよね。
 ハダカデバネズミとは、文字通り体毛がなく、前歯が出っ張っていて、そしてネズミである。彼らは、東アフリカのケニアあたりの大草原の地下にトンネルを掘って集団で暮らしている。ネズミなのに、ハチやアリと同じように女王がいて、働きデバや兵隊デバがいる。女王はトンネルを定期的に巡回し、さぼっている個体を見つけると、どやしてまわる。どやされた個体は、服従のポーズをとり、反省の意を示す。
 ハダカデバネズミは、17種類もの鳴き声を持ち、状況に応じてこれらを使い分けている。 女王は王様に交尾を要求する鳴き声をもっている。これを聞いた王様は、女王にマウントして交尾しなければならない。ところが、王さまは交尾すればするほど、やせ衰えていく。
 なぜ体毛がないのか?地下トンネル内の、1年中30度前後に安定した環境のなかで暮らし、しかも、ノミやダニの温床となりうる毛皮を自ら捨てたのだ。
 哺乳類であるけれど、自分で体温調節が出来ない。いや、する必要がない。
 いま飼っている女王の推定年齢は37歳。その身体サイズから予測される寿命の10倍以上は長生きだ。
 デバたちは、80~300匹の群れで暮らす。繁殖に関わるのはメス一匹と、1~3匹のオスのみ。そして、役割分担のある社会で生活する。
 デバの女王は、生れながらの女王ではない。厳しい戦いを勝ち抜き、ようやく女王の座を得る。女王は、常に巣穴をパトロールして、ライバルたちを威嚇してまわる。そやって自分以外の繁殖能力を抑制している。
 女王の在任期間は20年以上に及ぶ。女王は群れの中で一番体が大きく、強くて、偉い。狭いトンネルですれ違うとき、他のデバは女王のために道を譲らないといけない。
 女王への反逆を決意した第二位メスは、最初に女王を襲うのではなく、まずは王様を歯にかける。
 兵隊デバは、トンネルにヘビが侵入してきたとき、闘うというより、まっさきにヘビに食べられてしまうのが仕事。
 ハダカデバネズミの役割は、成長にともなって変化する。生まれつき固定されたものではない。働きデバの一部は、女王に子が生まれると、床に寝そべって、ひたすら子どもたちのふとん係に徹する。もぞもぞ動きながら、子どもたちを保温する役目を果たす。肉ぶとん階級である。ただし、一生この仕事をしているのではない。
ハダカデバネズミの巣穴の全長は、最大3キロメートルにも及ぶ。食べるのは植物の根。ただし、飼育するときは、リンゴが一番の好物。うむむ、なんだか変ですね、これって……。
 大変飼育の難しいハダカデバネズミだということですが、上野動物園のほか、埼玉県こども動物自然公園そして千葉大学サイエンスプロムナードで見れるそうです。私も、この珍妙な生き物を実物で見たいと思いました。やっぱり学者って、すごいですよ。感心・感嘆・感謝です。

(2008年1月刊。1500円+税)

2009年2月 2日

昆虫、4億年の旅

著者:今森 光彦、 発行:新潮社

 うひゃあ、すごい、すごーい。昆虫って、こんなにきれいだったのか、えーっ、こんな不気味な色と形をしていたの・・・。身近な昆虫たちを間近で見ると、まったく驚きと発見にみちみちています。くっきり鮮明なカラー写真が200点もあって3600円とは、なんと安いこと。写真を撮る苦労を考えたら、本当に申し訳ない気持ちになります。
 虫にとりつかれた子どもたちのことを、昆虫少年という。昆虫少年という言葉があるのは、おそらく世界中探しても日本だけではないだろうか。かけ事ではない、カブトムシを喧嘩させて遊ぶ純粋な子どもたち。こんな国は、世界広しと言え、いちども見たことがない。「ファーブル昆虫記」のファンの数も日本が世界一だというのも十分納得できる。日本の子どもたちは、美意識と科学心にあふれる好奇な目で、昆虫たちを見ている
 頁をめくって一番始めに登場するのが南米(ブラジル)に棲むヨツコブツノゼミの顔です。頭の上のほう(オプションには胸部とあります)に、たしかに4つのコブがついているのです。その奇妙さといったら、思わず噴き出してしまいそうです。そして、このヨツコブツノゼミから、「おまえ、今、なんか笑ったか?」と重々しい声で問いを投げかけられたら、あわてて口に手をあてて、「いえ、別に・・・」と返事して、ごまかすことでしょう。世にも珍妙なるセミです。ぜひ、実物を写真でご覧ください。
 インドネシアに、ホタルのとまる木があるというのは聞いていました。幾万とも知れないホタルが高さ20メートルの木に集まり、集団発光するのです。いやあ、一度ぜひ見てみたいですね。こればっかりは、写真では実感できません。我が家から歩いて5分のところにも初夏(梅雨前)になるとホタルが飛びかう小川があります。最近、そのすぐ近くで道路工事をしていますので、今年もホタルがちゃんと見れるのか、今から心配しています。
 著者は、プロの写真家になる夢を捨てず、大学を卒業してコマーシャルスタジオに2年間勤め、ファッションや料理など、あらゆるコマーシャル撮影の技術を習得した。そして、著者は29歳のときから、毎年3ヶ月間、のべ2年4ヶ月の歳月をエジプトでのスカラベ撮影に費やした。2年目から昆虫学者(佐藤宏明)がアシスタントとして同行し、著者が写真をとり、助手は生態に関する論文を執筆した。いやあ、すごい執念です。大したものです。
 取材ノートが公開されていますが、手書きの絵もまた実に精妙です。細かいところまでよく観察していることが実感できます。
 虫の卵というのが、こんなに個性的なものであって、虫によって色も形もまるで異なるものだということも知りました。まるでケーキ屋さんの店頭にたくさんの新作ケーキが並べられている感じです。いかにも美味しそうな色をして輝いています。これって、きっとケーキ職人の新作づくりの参考になるんじゃないかと思います。
 昆虫ではありませんが、オーストリアにいるメリディオナリスシロアリのつくった塚が大平原に立ち並んでいる写真は不気味です。西洋の墓地、今でいうと、イラクで戦死したアメリカ兵の墓地を連想させます。
 よくぞ、これだけの写真を撮って公開していただきました。感謝感激です。ありがとうございました。これからも身の危険には十分用心して、頑張っていい写真を撮って公表してくださいね。
 久しぶりに湯布院の温泉につかってきました。初日は小雨模様のなか、夕方、金鱗湖あたりを歩いたのですが、観光客の中にハングルや中国語を話している人の多さに驚きました。
 2日目は雨も上がって、青空の見えるなかを歩きました。小さな美術館がいくつもあるのは湯布院の良さですね。依然として変に俗化していないので、とてもいい雰囲気です。お昼を金鱗湖に面したレストランで、湖の先の山々を見ながら、美味しくいただきました。由布岳の頂上は、白く霧氷で覆われていて、浩然の気を大いに養うことができました。

(2008年7月刊。3600円+税)

2009年1月31日

魔法のどうぶつえん

著者:岩合 光昭、 発行:阪急コミュニケーションズ

 高名な動物写真家による旭山動物園のどうぶつたちの傑作写真集です。どうぶつが実に生き生きしていて、目の前で挨拶してくれているかのようです。私も一度だけ噂に名高い旭山動物園を見ておこうと思い、北海道に出張したとき、札幌からJRに乗って出かけました。札幌駅でJRの切符とのセット券を売っていました。
旭川駅からはバスに乗ります。市内から20分以上も離れた高い丘に動物園はあります。行った日はよく晴れていましたが、観光バスから続々とお客さんが降りてきました。
どうぶつの生態を間近でよく観察できる仕掛けがあちこちにあり、さすがに工夫が行き届いていると感心したことでした。
 ホッキョクグマの巨体が水中を軽やかに泳ぐ姿には圧倒されました。最近、新しくオオカミの森が出来たそうですが、私が行った時にはありませんでした。オオカミのいかにも野性的な目つきに、目が合うとたじたじとなりそうです。また、オランウータンの空中散歩も残念ながら見ることはできませんでした。これも運不運があるようです。
それでも、アザラシが円筒形の水槽を上から下から通過していくのは幸いにも見ることができました。アザラシの方でも見物している人間を意識しているとのことです。
 もちろんペンギンたちにもお目にかかりました。でも、冬ではありませんでしたので、あの有名なペンギンのお散歩というのは、見ることができずに残念でした。
 今や日本一有名な動物園です。今度は映画にもなりましたよね。また行ってみたい動物園です。この写真集は、行く前に見ておいたら良いと思いますよ。

(2008年12月刊。1500円+税)

2009年1月28日

骨から見る生物の進化

著者:ジャン・バティスト・ド・パナフィユー、 発行:河出書房新社

 フランス国立自然史博物館にある骨格標本を見事な写真で紹介した大判の写真集です。生物の身体のあまりに精巧な出来栄えをしっかり堪能することが出来ます。いやあ、これの全部を神様がつくったのだとしたら、全知全能という以上のものです。なにしろ、時代とともに少しずつ形を変え、性能を変えていくというわけなのですからね。なんで、神様がそんな面倒なことをしたのでしょうか・・・。
 ダーウィンの進化論を、現代アメリカでは、今も学校できちんと教えない州があるそうです。信じられませんよね。
 種が変化するという考えそのものが、動物と人間はすべて神が創造したとする創世記の記述に反するからだ。アメリカのキリスト教原理主義者たちは、宇宙の年齢を6000年とし、すべての動物と人間は創造されたときのままの姿であり、化石はノアの洪水でおぼれた動物の名残であるとする。うへーっ、たまりませんね。ありえませんよ、そんなことって……。
 魚とは、ひれと内骨格をもち、水中で生きる動物である。陸生の魚はいない。魚の種類は2万5000種以上いる。
 シーラカンスは、本物の脊柱ではなく、軟骨のチューブである脊索をもつ。このチューブの中は液体で満たされていて、かなりの柔軟性がある。シーラカンスの泳ぐときの動きは、魚より四肢動物の歩き方に近い。生態学的に見て、シーラカンスとサメはまぎれもなく魚であるが、動物学的に見ると魚類ではない。
 生物の世界は、昔からずっと今のように多様だったわけではない。8億年ほど前に登場してきたときは、ほとんど違いがなかった。ところが、5億4000万年前ころに、突然、種類が増加した。
鳥では、スズメのグループ(スズメ目)が5300種もいて、世界の鳥類全体の半数以上を占める。スズメ類は、ひとつの祖先から多数の種が生まれる「進化的放散」の実例を示している。
人の骨格を見て男女の性を決めるのに役立つのは、頭骨と骨盤である。頭骨については、男の下顎骨(かがくこつ)はより頑丈で、より突き出ていて、角張ったあごになる。骨盤については、出産のため女の骨盤腔は男より広い。
  7500万年前、鳥は恐竜と共存していた。現代の鳥の祖先は、強力な武器を備えた顎を持つ、肉食の小型恐竜だった。初期の鳥は歯をもっていた。しかし、歯は密度が高くて重いため、飛行するには邪魔だった。歯をなくすことによって、体重をかなり節約できた。
 哺乳類が現れたのは2億2000万年前。このころ、まだ恐竜がいた。恐竜がいなくなるまで1億5000万年以上も待たなければならなかった。哺乳類は、体の小さい地味な動物であり、夜行性であって、昼は地下のトンネルに潜み、夜になると植物の種や昆虫を探しに外へ出た。
 鳥とコウモリと人間は、実際に空の世界を征服した唯一の脊椎動物である。
ヘビは全世界のあらゆる大陸の、あらゆる環境に2500種もいて、その形態は進化の成功の例なのである。ヘビの祖先は、小さい肢を持つ地中生の爬虫類であった。人間がヘビを見て感じるのは恐怖心だけではない。四肢を完全に失ってしまうことは想像するのも難しいことだ。
 アリやシロアリを食べるアリクイやアルマジロなどは、尽きることのない食糧資源をターゲットに出来る。というのも、地球上には1億の1000万倍ものアリがいる。一つのアリのコロニーに2000万匹のアリがいるのだ。
 こんにち、5000種の脊椎動物が絶滅の危機にさらされている。両生類の3分の1、カメ類の半数、哺乳類の4分の1、鳥類の8分の1。うひゃあ、これは大変なことです。
人間が自分だけが地球上の絶対至高の存在とうそぶいているとき、足下の土台が揺らいでいるわけです。人間が自分だけで生きのびることが出来ると考えてはいけません。すべての生物は相互に連関し、関係し、依存しあっているのですから・・・。
 名実ともに、ずっしり重たい大判の写真集です。一見の価値があります。
我が家の近くの電柱にカササギの巣が作られています。せっせと小枝を口にくわえて運んでいます。少し離れた電柱に2個の巣が同時に建設中なのです。うまいこと組み合わせて巣が出来上がっていくのを見るのは楽しいものです。でも、九電が邪魔だといっていずれ取り払ってしまうと思います。
(2008年2月刊。8800円+税)

2009年1月16日

働きアリの2割はサボっている

著者:稲垣 栄洋、 発行:家の光協会

 春になると、我が家の庭にも丸っこい可愛らしいマルハナバチがやってきます。ところが、大きな体をちっぽけな羽で飛びながら支えられるはずがない、という航空力学の難問とされていた。しかし、そのマルハナバチの飛翔能力は空気の粘り気をも計算に入れた高度で複雑な飛行原理によるものであって、その解明がいま進められている。
 コウモリは日本では昔から良いイメージの生き物だった。コウモリは発した超音波が反射して戻ってくるエコーをキャッチして物の位置を判断している。
 ガの体が毛でおおわれているのは、コウモリの音波を吸収してエコーを出さないようにするため。ガの体のフワフワに、そんな意味があったのですね。
 カタツムリはブロック塀を食べる。殻の材料になるカルシウムをブロック塀から摂取している。カタツムリは海の中に住んでいた巻貝の仲間が地上生活に適応して進化した貝。海の中の貝は海水に含まれるカルシウムを摂取できるが、陸上にすむカタツムリは石灰岩などから摂取するしかない。カタツムリは水中にすむ貝と違って肺呼吸をし、生まれたときに殻を背負って、大人と同じ形をしている。
 ナメクジは、さらに乾燥から身を守る殻をなくした地上生活の最新進化モデルだ。
 ウンカはセミの仲間。イネの汁を吸う。ウンカははるか中国大陸からジェット気流に乗って飛んでくる。
 秋の野山に目立つのは、大型のジョロウグモの巣。黄色と黒色のカラフルなジョロウグモは、秋の女王とも呼ばれる美しいクモだ。その規模は、おなか側から見ると怒った人の顔のように見える。ハハーン、そうなんですか、今度、よーく見てみましょう。といっても、寒くなったら姿を消してしまいました。いずれまた姿を現すでしょう。
 ジョロウグモの巣をよく見ると、ごく小さなクモが数匹、居候している。実は、この小さなクモはジョロウグモのオス。巣の真ん中でよく目立つクモは、すべてジョロウグモのメス。成体になったオスは、メスの巣にやってきて、メスのクモが成体になるのを待つ。メスが成体になるとすぐに交尾をする。
 えっ、まさか、交尾をしたあと、オスはメスに食べられてしまうのではないでしょうね……?
 身近な生き物たちにまつわる知らない話が満載の面白い本です。

(2008年11月刊。1300円+税)

2009年1月11日

先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!

著者:小林 明道、 発行:築地書館

『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます』に次ぐ第二弾です。面白いです。
自然に恵まれた鳥取環境大学とその周辺で起こる、動物や学生を巻き込んだ事件がいくつも紹介され、なるほど、人間動物行動学というのはこういうものをいうのかと、悟らされます。
タヌキは哺乳類の中では大変珍しい「一夫一妻制」の動物である。父親が母親と同じくらい子どもに密着して世話をするのも珍しい。出産直後から、父タヌキは母タヌキと交代で生まれた赤ん坊を抱いて体で温める。うひょお、こんなことって、ちっとも知りませんでした。我が家のすぐ近くにある草ぼうぼうの荒れ地にタヌキ一家が昔から住んでいるのは間違いないようですが、まだお目にかかったことはありません。
シマリスがヘビに出会うと、自分の方からヘビに近づいていき、毛を立てて膨張した尾を大きく揺らしたり、人が地団駄を踏むように足で地面を踏み鳴らしたり、ときどきヘビの方を向いてピチッと鳴いたりする。うむむ、怖がって逃げ出すばかりではないようです。
ヘビを麻酔注射して動かないようにしておくと、シマリスはヘビの頭をかじり始めた。そして、かじりとった皮膚の一片を口のなかでかみほぐしたあと、自分の体に塗りつけはじめた。別の機会にはシマリスがヘビの尿(ヘビの尿は練り歯磨きのような白い半固体状になっている)をかじって、身にぬりつけていた。シマリスは自分の体にヘビのニオイをつけることによって、ヘビの補食から逃れやすくなるのだ。な、なーるほどです。そういうことなんですか・・・。
身近な動物たちの意外な生態が解明されていくのを知るのは楽しいものです。いやあ、世の中って、知らないことばかりですよね。

(2008年10月刊。1600円+税)

2009年1月 7日

ネコはどうしてわがままか

著者:日高 敏隆、 発行:新潮文庫

ウグイスが、なぜ、あんなによくさえずるのか?それはウグイスが、なわばり制の鳥だから。ホーホケキョという声は、オスのなわばり宣言なのだ。オスは、こうして守っている自分のなわばりの中に入ってきたメスとつがうのだ。
ドジョウはひげで水底に触りながら、あちらこちらと探ってまわる。食べものは水底で半ば腐った、分化した有機物を食べる。もともと溶けたようなものだから、効率よく腸に吸収され、かすなど残らない。だから、ドジョウの糞は、一緒に吸い込まれた土砂の粒だけ。つまり、ドジョウは糞を出さない。うへーっ、そ、そうなんですか。知りませんでした。
水上のミズスマシは、空中からの敵と水中からの敵と、両方に備える必要がある。だから、もともと左右一つずつある目が、それぞれ上下2つに分かれた。だからミズスマシには目が4つある。うひょーっ、目が4つもあるんですか・・・。
では、ミズスマシは前方をどうやって見るのか?それは波で見る。つまり、水面の波を触角でとらえ、前方の様子を知る。ミズスマシは水面の波にひかれ、その波の源へ近寄っていこうとする。これを走波性という。近寄ってみて異性と分かったら、すぐさま生殖行為に移る。同性だったら、離れようとしてはまた戻るのを何回か繰り返して、ようやく離れていく。
アメンボは、6本ある肢のうち4本の肢の先が油気があるので、水の表面張力で浮かんでいられる。残る2本の肢は油気がないので水にぬれる。この2本の肢を水につっこみ、オールのようにして水をこぐ。だからアメンボは、右にも左にも自由自在に水上をすいすい走ることができる。アメンボは異性に対しては、前肢で水をたたいて波の信号を送る。お互いに前肢で波の信号を送りかわして思いを遂げる。モグラは土の中にトンネルをはりめぐらす。ミミズがそのトンネルに落ちて驚きばたばた音を立てると、その音を聞きつけてモグラが走ってきてミミズを食べる。モグラは目が見えないから、明るくした金鋼パイプの中を走り回る。
 カラスは直径10メートルもあるという大目玉の気球を怖がる。
 カタツムリのセックスは大変だ。ともかく、お互いが男であり、女であるわけだから、一匹の中の男と女が両方とも、その気にならなければならない。出会った2匹は角でなであい、体を触れてくねらし、頭のこぶをふくらませてこすり合って、何時間もかけて口説きあう。ときには半日も一日もかけてやっと機が熟するとお互いに長いペニスを伸ばし、それを互いのメスの部分に挿入する。そして、また長い時間をかけて精子を出す。
タイトルは忘れましたが、このカタツムリのセックスを映像にしたフランスのドキュメント映画があります。いやあ、まるでポルノ映画を見ているような錯覚に陥り、体中ぞくぞくするほど、なまめかしい映像でした。
トンボは、4枚の「はね」を全部別々に動かすことができる。トンボは、独立して羽ばたく4枚の「はね」で「はね」の角度を変えたりできるので、翼が回転するだけのヘリコプターである一般の昆虫より、もっとデリケートな飛行を楽しんでいる。
夕方になると、スズメたちは街路樹に集まって、大変な騒ぎをかき立てる。だけど、なぜ、こんなに騒ぐのか、人間は解明できていない。
ツバメが家の出入り口に巣をかけるのはスズメのため。ツバメはスズメを嫌っている。スズメからヒナがいじめられたりするからだ。それでスズメがやってこないところに巣を作ろうとする。スズメは人間を大変に警戒している。人が絶えず出入りする家の入り口には絶対に巣を作らない。だから、ツバメは、この性質の裏をかいて、できるだけ人の出入りの多い家の軒先に巣を作る。
一匹でじっと獲物を待ち伏せるネコと違い、イヌは歩き回って獲物を探し、見つけたら、追いかけていって狩りとる動物だ。イヌは歩き回ることは、全く苦にならない。それどころか、それが楽しみだ。
イヌをあまり大事にしすぎると、イヌは勘違いする。自分こそがリーダーだと思って、飼い主の言うことを聞かず、勝手気ままに振る舞う。そこで、訓練所では、トレーナーがイヌに鎖をつけて引きまわす。イヌに、リーダーは、自分ではないことを思い知らせるのだ。なーるほど、ですね。
本来は単独生活しているネコたちで親密なのは、親子関係だけ。親子といっても、父親との関係は全くない。子どもは自分の父親を知らない。子どもが知っているのは、授乳して世話をし、育ててくれる母親だけ。子猫が鳴けば、母ネコは飛んでくる。しかし、母ネコが鳴いて子ネコを呼んだからといって、子猫は母ネコのところに飛んでくるわけではない。
ネコたちの「わがまま」は、これで理解できる。
生き物について、さらに理解することができました。とても面白い本です。

 あけましておめでとうございます。今年もぜひご愛読ください。
 お正月は、朝起きて雨戸をあけると薄暗く、雨でも降りそうな気配でした。お節料理をいただいていると、やがて音もなく雪が降ってきました。綿をちぎったようなボタン雪です。地表に落ちた雪は積もる感じではありません。やがて雪は一段と激しく降り、多難な幕開けを予感させました。ところが、ひとしきり降ったかと思うと、そのうちに雪は止み、薄日が差し始めました。午後からはすっかり晴れ上がり、今年の景気も、これほど早く回復してくれたらいいなと思わせます。年賀状を読み終え、ポカポカ容器に誘われて庭に出て、クワをふるって畑仕事を始めました。これが何よりのストレス解消です。畳一枚分の土地を掘り起こすと、ふーっ、と、ため息をもらし、腰に手を当ててしまいます。球根を植えかえてやるのです。球根はどんどん分球していきますので、それをうまく分けて植え付けます。娘から、「それは何という花なの?」と訊かれますが、悲しいことに球根を見て分かるのは、チューリップのほかはダリヤくらいです。花が咲いたら、もう少し花の名前を言うこともできるのですが・・・。
 庭を掘り起こしていると、いつもの愛嬌いいジョービタキがやってきます。やあ、がんばっているね。そんな感じで、声をかけてくれます。これは本当のことです。スズメより一回り大きい名を知らない灰茶色の小鳥もやってきました。掘り起こしたあとの虫を狙っているようです。黄色いロウバイの花が盛りです。においロウバイと言って、通りかかった近所の人がロウバイの匂いですねと声をかけるのですが、残念なことに鼻の悪い私はロウバイの匂いはかすか過ぎて、よく分かりません。
 正月を過ぎて、少しだけ陽の落ちるのが遅くなった気がします。1月3日は、夕方5時10分に日が沈みました。それから30分間、5時40分ころまでは夕方の明るさです。春が待ち遠しいです。
(2008年6月刊。400円+税)

2008年8月29日

クマのすむ山

著者:宮崎 学、出版社:偕成社
 表紙の写真が圧巻です。ええーっ、クマが写真家になったの・・・?ついそう思わせます。クマが3脚のついたカメラをかかえて立っているのです。でも、よく見ると変です。写真をうつすのなら、カメラのファインダーをのぞかないといけません。ところが、このクマは、なんとカメラを口にくわえているようなのです・・・。
 動物写真家の著者は、長野県の中央アルプス、標高750メートルの村のなかの遊歩道に、無人で撮影できるロボットカメラを設置しました。無人カメラですから、クマたちは人間を気にすることもなく、実に伸び伸びとしています。
 この定点カメラが、たくさんのクマ、そしてキツネやイノシシ、テンをとらえました。それにしても、たくさんのクマが登場します。親子グマも少なくありません。定点カメラがいたずらされるので、近くに別のカメラをセットしました。そのとき撮れたのが表紙にもなっているクマの写真です。大きなクマが、まるで写真屋になって記念撮影でもしているかのような姿で写っているというより、好奇心まるだしで、夢中になっていじっているうちに、力が強いので、カメラをキズつけたり倒したりしてしまったのです。
 クマが木登りが上手なことは写真で証明されています。あの重たい身体をものともせずに、するすると木登りしていくのです。その身軽さは不思議なほどです。ツキノワグマは、木のぼりがとても上手なのです。そして、木の上にのぼると、枝を折ってお尻の下に敷きつめ、クマ棚をつくって、その上で食事するのです。よく見ると、山のあちこちに、このクマ棚があります。うへーっ、驚きます。
 結局、ツキノワグマは本州各地に確実に増えているようです。クマは、えさ不足でやせているどころか、みんなまるまると太っているのです。
 クマにも、積極的に人里に出て人を恐れない新世代タイプと、里には近寄らず、昔ながらの生活を好む旧世代タイプがいるようです。そうなんですか、ちっとも知りませんでした。ツキノワグマに少しでも関心のある人には絶好の写真集です。
 トールーズから電車に乗って1時間かけてカオールという町へ行きました。ここは黒っぽいこくのある赤ワインで有名です。私は実は大好きなのです。最近は好みが変わって、ボージョレーのような軽いものより、少し重味を感じる赤ワインがいいと思うようになりました。
 カオールは小さな町でした。川に歴史を感じさせる古い橋がかかっています。町の中心部の広場に面したカフェーで昼食をとり、カオール(赤ワイン)を少々のんでいい気分になりました。
(2008年5月刊。2000円+税)

2008年8月22日

I lovu you,MOM

著者:シルミニ・ステファンデス、出版社:ぶんか社
 心あたたまる写真オンパレードの小さな写真集です。動物親子(母と子)の愛らしい写真と、それにぴったりの優しい詩句から成る本です。
 どこまでも白い大雪原に、母なる白クマと2頭の子ども白クマが寄りそっています。
 わが子のためなら、何だってできてしまう、それがお母さんの愛。
 これにかなう愛はない。
 強い心と優しい心で、子どもが自立できるように育てていく。それが本当の親の姿。
 母ザルの腕のなかで、安心しきって甘えている子ザルがいます。
 母親とは、頼るための人ではなく、他人に頼らなくてもいい子どもを育てる人。
 いやあ、実に、これが難しいのですよね。自分が親になってみると、よくよく分かります。
 夕方、お互いの鼻をからませながら帰っていく母ゾウと子ゾウのシルエット写真もあります。切り絵のような感動的写真です。
 すごい人はたくさんいるけれど、ほんとにすごいのはお母さん。お母さんがいなければ、どんなすごい人だって、そうはなれなかったかもしれない。
 お母さんって、ほんとうにすごい。
 最近、ちょっぴり疲れてしまったな。そんな気がしたときに読むと(いえ、手にとって眺めると)、きっと元気を取り戻してくれると思います。
 フランスに行ってきました。今年12月に還暦を迎えますので、その前祝いと称してのバカンスです。南フランスをまわってきたのですが、思った以上に涼しくて、むしろ朝などは肌寒さを感じるほどでした。ニースからバスで30分ほどのところにあるエズ村に滞在しました。鷲の巣村と呼ばれるところですが、地中海に面した絶壁にそそりたった小さな村があるのです。天気は毎日晴れ。直射日光こそ酷いものの、木陰に入ると暑さは感じません。夜9時までは真昼の明るさで、大勢の観光客がやってきます。日本人も何組もいました。人々は、ここで景色を眺め、たっぷり時間をかけて食事を楽しみます。立派なレストランもあるのです。
(2008年6月刊。925円+税)

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