弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2019年8月22日

9条を活かす日本

(霧山昴)
著者 伊藤 千尋 、 出版  新日本出版社

最近、鹿児島で著者の話を聞く機会がありました。たくさんの映像をつかって、世界と日本で憲法9条にはどんな意義があるのか、視覚的にもよく分かる熱弁に接し、聞いている私も元気になりました。
著者は今ではフリーの国際ジャーナリストです。なんと9ヶ国語が話せるのだそうです。英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語そしてジプシー語です。あれ、2つ足りませんね。何でしたっけ・・・、忘れました。ジプシー語は自分で手製の辞書までつくったとのこと、すごいです。
著者は大学生のときキューバに渡り、サトウキビ畑で作業をしながらスペイン語を身につけたといいます。耳から入ったコトバは身につくとのこと。うらやましい限りです。
少なくない日本人が憲法9条をありがたく思っていないなかで、世界的には日本の憲法9条こそ今もっとも世界平和のために必要だと考える人が増えているといいます。ありがたいことです。
著者の話のなかで、コスタリカの話は圧巻でした。コスタリカは日本と同じように平和憲法があり、本当に軍隊をもたない国になっています。外国の侵略には警察と国際世論に頼って我が身を守るという覚悟をもっています。
なによりすばらしいのは、軍備予算を全廃して、その分をすべて教育予算にふり向けていることです。日本だってやれないはずはありません。
ところが、「中国の脅威」とか「北朝鮮の脅威」なるものをことさらあおりたてている社会風潮の強い日本では、まるで夢物語になってしまいます。
軍隊がなく、子どもたちが学校で、子どもには愛されて育つ権利があると教えられると、どうなるか・・・。すばらしいことが現実化します。子どもたちが自分の頭で考えて、行動するのです。もちろん、大人になっても投票率は8割をこす。日本のように投票率が半分にも達しないなんて情けない状況ではありません。
そして著者は「15%の法則」なるものを提唱します。社会を変えるには、15%の人が行動に立ち上がればいいのです。「15%の人」が街頭に出たら「すべての人」が立ち上がったと見える。これが社会を動かしている現実の法則なのだと著者は繰り返し強調しました。
あきらめない、あせらない。しかし、着実に行動する。このことを励ましてくれる元気の出る本です。ぜひ、あなたも手にとってお読みください。おすすめします。
(2018年5月刊。1600円+税)

2019年8月16日

東京は遠かった、改めて読む松本清張


(霧山昴)
著者 川本 三郎 、 出版  毎日新聞出版

松本清張の本は、それなりに読みました。読み終えたとき、心の底に黒々としたオリのようなものがたまっているのを感じる本が多かったという印象です。
小倉にいた松本清張は東京(中央)の文壇から認められたいという思いを強くもっていました。東京と地方の格差の問題が松本清張の本に通底しています。
『Dの複合』を読むときには、かたわらに日本地図を置き、しばしばそれを開いて、地名、場所を確認しながら読むことになる。それは主人公たちと一緒に旅することでもある。旅といっても、にぎやかな観光地を訪ねる旅ではなく、旅先は、一般に広くは知られていない、地方の小さな町や村である。
松本清張にとって、東京は遠かった。東京は、いつかそこで作家として成功する約束の地。晴れ舞台であり、同時に地方在住者からみて、強者の威圧的な中央だった。
松本清張は、東京をつねに地方からの視線で描く。弱者が強者を見る目で東京をとらえる。中央の権威、権力によって低く見られている地方の悲しみ、憎しみ、怒り、そして他方での憧れといった感情が複雑に交差しあう。
東京(中央)に出たい。東京の人間に認められたい。それによって地元の人間たちを見返してやりたい。松本清張の作品には、しばしば東京への強い思いをもった人間が登場する。ときに、その思いは、歪んで異様なものになることもある。
男の趣味がカメラと旅行。写真帖を見せてもらうと、東尋坊、永平寺、下呂、蒲郡、城崎、琵琶湖、奈良、串本など・・・、名勝地ばかり。普通、孤独好きで一人旅する人間は、こんな観光地には行かない。これらの旅は、女が連れ添っていたに違いない・・・。なるほど、ですね。
松本清張は、酒をたしまなかった。それでも、文壇バーには通っていたようです。作家仲間との交際は続けていたのでした。
松本清張には、「追いつめられた作家もの」と呼びたい作品がいくつかある。原稿が書けなくなった作家が盗作する。代作を頼む。かつては人気のあった作家が零落して殺人を犯す・・・。
松本清張にしても、
「アイデアが浮かばない」
「書けない」
などの悩みは決して他人事ではなかっただろう。
松本清張は古本屋をよく利用した。歴史小説を書く人間として当然のこと・・・。
松本清張の本をもう一度読んでみたいと思ったことでした。
(2019年3月刊。1800円+税)

2019年8月11日

老人ホーム、リアルな暮らし


(霧山昴)
著者 小嶋 勝利 、 出版  祥伝社新書

現在、老人ホーム業界は、M&A真っ盛り。売りたい老人ホームがたくさんあり、それと同じくらい買いたい老人ホームがある。売りたい老人ホームの経営者は、今なら、まだ価値があるので、今のうちに売りたいと考えている。
買いたい老人ホームの経営者は、とにかく規模を大きくしないと利益が出ないので、お金のある限り買いまくり、規模を大きくしていくことを最優先にしている。
介護職員の不足は深刻な問題になっている。介護職員が足りない根本的な理由は、割にあわない仕事だということ。
老人ホームの朝食時間は、8時ころから9時ころまでに設定されている。それは、早番の職員の勤務シフトにもとづく。
老人ホームの食堂での席は、あらかじめ決められている。老人ホームの職員にとって、食事時間は戦争だ。
15時からはレクレーションの時間となるが、多くの職員はレクレーションが苦手。それは、盛り上がらないから。
夕食は午後6時から、入浴は週2回。お風呂が週2回というのは警察の留置所や拘置所と同じです。そして、共通しているのは、どちらも夜ではなく、昼間ということです。
老人ホームは、「動物園」と同じようなものだと著者は言い切ります。
生活への安全と安心が保証されていて、日々の食事について心配することもない。
ただし、何も考えずに老人ホームのなかで生活していると、「喜怒哀楽」から遠ざかる環境で暮らしていることになるので、認知症になりやすい・・・。
介護施設で働いている職員は、みな「負け組」。
いずれ私もお世話になるかもしれない老人ホームの寒々とした実情に心が震え、おののいてしましました。せめて、当面、介護職員の待遇改善、そして老健施設への手厚い保護が必要だと思ったことでした。
(2019年3月刊。820円+税)

2019年8月10日

地銀衰退の真実

(霧山昴)
著者 浪川 攻 、 出版  PHPビジネス新書

銀行、とりわけ地方銀行や信用金庫の経営はかなり厳しいようですね。
人口も事業所数も減っていますので、地方経済はピンチですし、銀行の伝統的収益と言える利ざや(運用利回りと資金調達利回りの金利格差)は悪化するばかり、だからです。
広島市信用組合は預金残高に貸出金残高が占める比率である預貸率が85%もある。これは、営業現場が徹底的に営業エリアを訪問し続け、取引先企業の相談に乗り、悩みを聞くことをやっているからだ。なるほど、必要なことですよね。
スルガ銀行では、組織ぐるみの不正行為が蔓延していた。ディベロッパーと銀行とが結託し、砂上の楼閣のようなインチキビジネスを繰り広げていた。
同じことは、アパマンローンを活用して建設したアパート・賃貸マンションが当初の想定どおり高い入居率を維持し、事業者に期待どおりの賃料収入が続くと言えるのか・・・。
1989年に全国で454の信用金庫、信組の415組合があった。ところが、30年たった2018年には261の信金と146の信組のみとなった。半分ほどに減ったわけである。それでも危機の噂は止まらない・・・。
地方銀行や信用金庫の実情と、少しだけ明るい展望を見つけたところを対比させて書いてあり、大変面白く、一気に読みました。
(2019年5月刊。870円+税)

2019年8月 7日

日本の異国

(霧山昴)
著者 室橋 裕和 、 出版  晶文社

日本は今や移民大国になっているのですよね。日頃、あまり自覚していませんが・・・。
その現実を、日本全国を歩いてレポートしている本です。
東京の高田馬場にはミャンマー人が多く、インドのIT技術者は西葛西(かさい)にたくさん暮らしている。大和市(神奈川県)には、ベトナム・カンボジア・ラオスの人々が寄り集まっている。西川口(埼玉県)は新しいチャイナタウンとして注目されている。
これをもっと詳しく、現地に足を運んで取材し、写真とともに実情を教えてくれます。
足立区竹ノ塚にはフィリピンパブが集まっている。早朝5時から営業しているパブがある。飲み放題、歌い放題、そして和定食がついて3時間で、2000円。これは、とてつもなく安い。そこに、トラック運転手や年暮らしのおじいちゃんたちが早朝から詰めかける。お客の多くは性的サービスではなく、フィリピーナの大らかさと、ホスピタリティに甘えと癒しを求めてやってきます。すごいですね、朝5時からやってるパブに行く人がいるなんて信じられません。
埼玉県八潮(やしお)市には、パキスタン人の中古車関連業者が集中している。だから、ここは「ヤシオスタン」とも呼ばれる。
代々木上原には、日本最大のイスラム寺院(モスク)がある。
東京メトロ・西葛西駅周辺には4千人をこえるインド人が住んでいる。東京都全体で1万2千人なので、その3分の1が江戸川区に住んでいる。
高田馬場は、「リトル・ヤンゴン」と呼ばれるほどミャンマー人が多く、集中している。
日本に暮らしているモンゴル人は1万人。そのうち3分の1の3500人が留学生。技能実習生は1000人のみ。モンゴル人留学生がコミュニティの中心としているのは、街ではなく、フェイスブック。
いちょう団地(神奈川県大和市)は全体の2割以上が外国人。10ヶ国の人々が住んでいて、もっとも多いのはベトナム人。
いま日本にやって来るインドシナの人々に難民はいない。いまでは技能実習生が中心になっている。彼らは東京の新大久保に集中している。
御殿場市(静岡県)には日本最大のアウトレット・モール「プレミアム・アウトレット」がある。年間売上が900億円をこえる。中国人観光客による爆買いの総本山だ。
多民族共生に向けた地道な取り組みが各地で持たれている。そのことを実感させてくれる本でもありました。
(2019年5月刊。1800円+税)

2019年7月31日

奮闘!クレサラ問題に取り組む

(霧山昴)
著者 永尾 広久 、 出版  大牟田しらぬひの会

福岡県大牟田市で42年間、弁護士活動していた著者は、そのうち37年間、大牟田しらぬひの会というクレサラ被害者の会と一緒に活動してきました。クレサラ問題は今や完全に下火になっていますが、クレジット・サラ金問題とは何だったのか、被害者運動は何を目ざしたのかを振り返った貴重な労作です。
サラ金三悪というのがありました。超高金利(日歩30銭というのもありました。年10割を越します)、無選別過剰融資(収入のない主婦や学生にまで貸し付けます。申し込み額以上の金額を押し付け貸します)、そして強硬取立(多くの自殺者を生みました)です。
サラ金会社は急成長し、オーナーたちは日本の長者番付けの上位を占めました。そして、自民党や公明党の政治家が莫大な政治献金をもらいながら超高金利を支えました。
被害者運動は全国的に取り組みをすすめました。借りた奴が悪い、借金返済しない奴が取立にあって苦しむのは自業自得だ。こんな借主責任論、自己責任論を打破するのは容易ではありませんでした。
被害者運動のなかに極論が生まれました。借金の原因はすべて生活苦、苦しんでいる多重債務者は一刻も早く免責して救済すべきだ。しかし、しらぬひの会の26年間の相談件数1万4千件を分析すると、借金の原因が生活苦であることもたしかに多いけれど、決してそれだけではない。ギャンブルや買い物しすぎも多い。なんでも免責は、根本的な解決にならないことが少なくない。そのように指摘し、多重債務者が本当に立ち直るためには、励ましの場、支えあう被害者の会が必要だということを大牟田しらぬひの会は主張し、実践してきました。相談活動だけでなく、学習会・勉強会そして花見や望年会、ときには焼肉パーティーという懇親の場をもちました。
そのことを多角的に明らかにした座談会は読みごたえがあります。なかでもギャンブル依存症の体験談、そしてホームレス体験談は心を打つものがあり、考えさせられます。同時に、果たして、クレサラ被害者を被害者と呼ぶことができるのか、という根本的な問いかけに対する回答にもなっています。
全国クレサラ対協内では、なんでも一律・無条件に免責して救済すべきだという意見が主流を占め、それに異を唱える人は排除されたりしました。その典型がクレジットカウンセリング協会に対する誤った見方です。カウンセリングの効用を認めないという考え方から、大阪には、最近まで、カウンセリング協会の相談窓口がありませんでした。
九州では被害者の会が毎年1回集まって交流集会を開いてきました。7月に福岡で第32回の交流集会が開かれたばかりです。
裁判所の破産手続の変遷もたどっています。集団面接という手法もありました。そして、破産・免責手続については、江戸時代にも破産・免責手続があったことが紹介され、興味をひきます。
著者は、クレサラ問題解決の手引書を発刊し続けました。類書が少ないときには、1回の全国集会で30万円以上もの本の売上があったといいます。
歴史に残るべき取り組みとして紹介させていただきました。
(2019年6月刊。2000円(悪税込み))

2019年7月26日

奴隷労働、ベトナム人技能実習生の実態

(霧山昴)
著者 巣内 尚子 、 出版  花伝社

私の身近な人が2人、ベトナム人技能実習生にかかわっています。1人は、土木建設業の社長で、何年も前からベトナム人を10人ほど雇っています。ベトナム人は頭がいいし、よく働くので、とても助かっていると言って、ベタ褒めです。会社の寮に入っていて、月10万円はベトナムの家族に仕送りしているといいます。
もう一人は、ベトナム人技能実習生の受け入れ機構を主宰しています。こちらはまだ始めてから日が浅いようですが、ベトナムに頻繁に通っています。
この本はベトナム語の出来る著者がベトナムと日本で技能実習生に直接あたって話を聞いたことをもとにしています。また、もと技能実習生として働いていたベトナム人が送り出す側で働いているのに取材もしています。
ベトナムから日本へ働きに来る人たちは、平均して100万円以上を負担(借金)している。
技能実習生の資格で日本にいる外国人は28万5千人をこえ、やがて30万人になろうとしている。中国出身者が減った分をベトナム人6万7千人が埋めている。
ベトナムは、「労働力輸出」と呼んで、日本への出稼ぎを奨励している。ベトナムにある労働輸出会社はあくまでも営利目的のビジネスをする会社の組織だ。ところが、技能実習生は3年で本国へ帰国するのが原則。なので、日本人は技術をまともに教えたがらない。
ベトナム人技能実習生が40平方メートルの室内に6人が暮らしていて、1人あたり月2万円を「家賃」として支払わされている。すると、日本に来る前には好印象だったのが、来てみたら悪印象のまま帰国するベトナム人が37%もいる。大変残念な現実です。
ベトナムの経済は海外から送金される巨額のお金が下支えしている。推定で123億米ドル(2015年)だ。
ベトナムで働くと月2万5千円ほどの収入。ところが、日本だと10万円は軽くこえる。しかし、日本側の監理団体があり、技能実習生1人あたり月に3~5万円を徴収している。
日本にいるベトナム人技能実習生が残業すると、時給400円の計算というのが多いとのこと。なんということでしょう。まったく違法です。
そして、職場では上司や同僚から「ベトナムへ帰れ」と怒鳴られたり(パワハラ)、お尻をさわられたり(セクハラ)という被害もあっているのです。
ベトナム人実習生の「逃走」が目立つ。ベトナム人は中国人の1500人に次いで多く、1000人をこえる(2015年)。
海外からの技能実習生を安くこきつかうのが許されている限り、日本人の労働条件が向上するはずもありません。ベトナム人技能実習生の実態を刻明にレポートしていて、大変勉強になりました。
(2019年5月刊。2000円+税)

2019年7月24日

東大闘争と原発事故


(霧山昴)
著者 折原 浩、熊本 一規、三宅 弘ほか 、 出版  緑風出版

著者の一人である折原浩助教授(当時)は東大闘争において全共闘支持を公然と表明した数少ない教官の一人です。私もその授業を受けたようには思うのですが、記憶が定かではありません。城塚登教授だったかもしれませんが、マックス・ウェーバーの『プロテスタントの倫理・・・』の授業を受けて、大学ってこんなに深く物事をつき詰めて考えるところなんだな・・・と衝撃を受けたことは今でもよく覚えています。
でも、東大解体を叫び、民青のインテリゲンチャ論を鼻先でせせら笑っていた全共闘の論理に賛同しながら、東大助教授であることをやめないことには、当時も今も理解できなかったし、できません。
全共闘の活動家とシンパ層の多くは東大解体、自己否定を叫びながらも、東大卒として社会に出て行きました。私の知る限り、ごく一部の人が東大を中退したくらいです。
折原浩は、本書においても「実力行使」という言葉しか使っていませんが、東大全共闘は、暴力を賛美し、バリケード封鎖を狙って行動していました。それは暴力支配でしたし、バリケードの先にいる「敵」は「殺せ」と叫んでいたのです。今でも折原浩はそれを認めていないようなのが、残念です。
そして、1969年3月の「授業再開」闘争を非難しています。このころ、多くの(大半の)学生が授業再開を待ち望んでいました。もう暴力の日々にはうんざりしていたのです。大教室でもいい、ゼミ室でもいい、実験室でもいいから授業を受けたい、議論したい、学問の精髄に触れたいと学生が望んだことのどこが悪いというのでしょうか・・・。
全共闘シンパ層も、再開された授業には、なだれを打つように参加し、すぐに授業は軌道に乗りました。それまでつなぎでやられていた自主ゼミは、たちまち雲散霧消してしまいました。
この本には、「日共・民青系の暴力部隊導入(1968年11月12日夜半)という表現が出てきます。あたかも「日共・民青系」が外部から外人部隊(暴力部隊)を導入したため、東大闘争で全共闘が敗退したかのような表現です。しかし、宮崎学の『突破者』に登場してくる「あかつき戦闘隊」というのはたしかに存在していましたが、実際にはきわめて限られた役割しか果たしていないのを針小棒大に誇大宣伝しているだけのことです。実際には、全共闘の暴力に対して多くの東大生が反対して立ち上がり、身をもって全共闘の反対を乗りこえて東大当局と確認書を締結して、学内を正常化し、授業が再開されたのです。
東大闘争を全面的に語るためには、「暴力」(ゲバルト)の行使をどう考えるのか、という考察を抜きにしてはいけないと最近あらためて私は痛感しています。もちろん、暴力賛美ではなく、暴力否定の立場からの反省と総括が必要だという意味です。
それにしても、3.11原発事故のときに果たした東大の原子力学者たちの哀れさは、見るも無残でした。ところが、問題は、当の本人たちがそのような自覚と反省が今もないということです。私は、この点も本当に残念です。
この本は、情報公開分野で第一人者である三宅弘弁護士から贈呈されたものです。三宅弁護士の日頃の活動には大いに敬意を表しているのですが、単なる一学生として東大闘争にかかわった者として、率直に意見を申し述べました。
(2013年8月刊。2500円+税)

2019年7月23日

消費者教育学の地平


(霧山昴)
著者 西村 隆男ほか 、 出版  慶應義塾大学出版会

これまで長年にわたって消費者教育の研究や実践にかかわってきた著者の到達点を集成した本です。著者は高校教育の現場に15年いたあと、大学教育の現場で25年間つとめています。私も監事として関わっている熊本の「お金の学校」にも、著者は創立以来、深く関与しています。
消費者教育推進法が議員立法として提案され、2012年8月に成立し、12月から施行されていますが、著者はこの立法過程にも深く関わりました。
この推進法では、消費者教育の推進を国の責任によって行うと明示されています。地方の消費者教育、消費者センターは、予算、人員ともに削減されてきたという現実がありますが、国はもっと予算措置を講じるべきです。有害無益なイージス・アショアやF35につかうお金の、ほんの一部をこちらにまわせばいいのです。
ところが、現実には、例の「なんでも自己責任論」という風潮が強まるなかで、消費者責任論、買い手注意論が今もってはばをきかしています。本当に残念です。
消費者教育は、もちろん子どもを対象とする学校教育だけでなく、社会人への生涯教育です。それにしても、インターネットの発達のなかで子どもたちは、いかにも保護されていない存在になっています。
子どもは不完全な判断能力をもつ消費弱者であるにもかかわらず、保護されていない存在となっている。子どもをターゲットとして発達した音楽、ファッション、ゲーム、漫画、アニメに関する情報はインターネットによって瞬時に提供されている。
子どもは、自らの生活を主体的に運営する能力を身につける前に、経済活動に参加する消費者となる。生きるための消費よりも先に、娯楽としての消費に直面する。その傾向をインターネットが加速させた。
金額によって勝敗が決まる、結果や見た目がすぐに反映され、相手に伝わるサービスとの接触が、お金を過剰に重視する拝金主義的な価値観の形成につながっているのではないか・・・。拝金主義的で、自分自身の生活や意思決定をかえりみる余裕のない子どもたちに消費者として現代のサービスにいかに関わるのかを考えさせる機会を与える必要がある。
クレサラ多重債務者に長らく関わってきた者として、「家計管理支援論」(石橋愛架・鹿児島大学准教授)に注目しました。最近、自己破産申立がじんわり増加傾向にあります。かつてのようなサラ金会社の過剰貸し付けは激減していますが、その穴を埋めるように銀行が貸し付けをすすめていますし、生活基盤がいかにも危ない人々が増えるなか、自らの家計状況や感情をコントロールできない人々が増え、結局高リスク、高コストの借入れに頼るというパターンだと分析されています。大いに説得力のある分析だと思いました。
350頁もの貴重な労作です。著者より贈呈されましたので、私の理解できた限りで紹介させていただきました。少々高価な本ではありますので、全国の図書館にせめて一冊は備えてほしい本だと思います。
(2017年3月刊。4500円+税)

2019年7月19日

黒いカネを貪(むさぼ)る面々

(霧山昴)
著者 一ノ宮 美成 、 出版  さくら舎

私も弁護士の一人として、ときに社会のドス黒い裏面の一端に接することがあります(といっても、ほんの少しだけで、全貌はとても見えてきません)が、この本を読むと、世の中には、ドス黒いお金が、何億円という大金のレベルで黒社会を漂流していることを感じさせます。まったく嫌になります。
最近、法科大学院で教えている大学教員の話を聞く機会がありました。以前は、社会的弱者のために何か役に立つ弁護士になりたいという学生がいたけれど、今では稼げる弁護士になりたいとか、大きなローファームに入って大企業の力になりたいという学生ばかりになっている・・・、とのことでした。残念です。とんでもない自己責任論が横行して、お金がない者は切り捨てられて当然だという社会風潮が強まるなかで、頼れるものはカネ、おカネを稼ぐしかないという拝金主義の発想に少なくない学生がとらわれているようです。本当に残念です。
福岡で起きた金塊160キロの強奪事件は、私も目を見張りました。7億6千万円もの金塊が白昼、博多駅前のビル正面で警察官を装った男たちから強奪されたのでした(2016年7月)。
2017年4月には、福岡空港から、現金7億3500万円を香港に持ち出そうとした韓国人4人が逮捕されました。この日は、天神で2億円近い現金の強奪事件が起きていましたから、その関係かと思っていると、無関係だったとのこと。
金地金の密輸が2017年には、6トン、280億円も税関によって摘発されているそうです。今の世のなかでは、とんでもない金額の現金や金塊が人知れず動いているようで、恐ろしいばかりです。
ヤミ金については、ビジネスとしてのヤミ金はすたれていて、素人のような個人のやる「見えない貧困ビジネス」になっているとのことです。フツーの市民がサイドビジネスとしてヤミ金融をやっているのだそうです。これもネット社会の怖さでしょうか。
積水ハウスが地面師グループから63億円も騙しとられた裏話も紹介されています。
要するに、土地所有者になりすます人間を用意し、本人確認のために必要なパスポートや運転免許証などを精巧に偽造するグループが存在するのです。弁護士も巻き込まれていて、その騙しに一役買ったりしています。それが金に困っての犯行であれば当然に責任をとってもらわなければいけませんが、騙しを見破れなかったとしたら哀れです。
まったく楽しくなく暗い気持ちになるばかりの本なのですが、ときに現代日本社会の現実を知るために必要な本だと思って速やかに読了しました。
(2019年10月刊。1600円+税)

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