弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2019年8月 3日

蠅たちの隠された生活

(霧山昴)
著者 エリカ・マカリスター 、 出版  エクスナレッジ

ハエやカを殺すときには、良心の呵責(かしゃく)を覚えません。バイキン、毒、痛痒い、それらが私をハエタタキに駆り立てるのです。
ハエは、人間1人につき1700万匹もの数で存在するとのこと・・・。圧倒されます。
キイロショウジョウバエは遺伝子研究には欠かせない存在です。なぜなら、ショウジョウバエは、繁殖力が旺盛で、遺伝子操作がしやすいため、研究に適している。そこで、遺伝子疾患や薬物、遺伝子操作、環境的なストレスが遺伝子にどのような影響を及ぼすかを知るうえで、理想的な実験対象である。
ヨーロッパの戦場で、負傷者にウジ虫がわいていると、傷の治り方が良好だという経験則がありました。そこで、壊疽(えそ)を患う患者にウジ虫をつかうと、わずか1日で、傷口がきれいになった。敗血症を防いで、迅速に回復した。
ウジ虫は、アラントインという消毒薬のような働きをする物質を分泌している。このアラントインは、傷を治癒し、細胞の再生を促す作用がある。
ウジ虫が負傷者の治療に役立っているなんて、予想できませんよね・・・。
ハエはまた、授粉者でもある。チョコレートの原料となるカカオの木の唯一の授粉者は、ハエ目の昆虫。カカオの花粉を運べるのは、ヌカカと呼ばれる、非常に小さな虫だけ。
映画『ジュラシック・パーク』に登場してくる琥珀のなかに入っているのはカではなく、ガガンボ、しかもオスのガガンボだった。
ちっとも知りませんでした・・・。ハエの生活なるものを少し知ることができました。
(2019年5月刊。1800円+税)

2019年7月 1日

先生、アオダイショウがモモンガが家族に迫っています!

(霧山昴)
著者 小林 朋道 、 出版  築地書館

この先生シリーズも、ついに13冊。1年に1冊ですから、なんと13年もおつきあいしていることになります。いえいえ、実は番外編もあったりして、本書は15冊目になります。
鳥取環境大学に学ぶ学生は幸福です。とはいっても、学生のときにはそうは思わないかもしれません。大学生であることのありがたさは、社会の荒波にもまれて初めて実感できるものです。少なくとも、私は、そうでした。早く、この中途半端な大学生を卒業したいものだと焦っていました。いま思うと、とんでもない間違いです。
さて、この本には、ヘビを部屋のなかで放し飼いをしている学生、河原でカエル捕りに熱中している学生など、いろいろ登場します。
カエルにそっと近づき、素手で押さえこむ。そして、ピンセットでカエルに強制嘔吐させる。有害なものを誤食したときに、カエルは自ら胃を反転させて口から外に出し、有害物を吐き出す。この習性を利用してカエルが何を食べているのかを調べる。
ヘビ専用のヘビ部屋には幅7メートル、長さ1.5メートル、高さ4メートル、そこに4匹のアオダイショウと4匹のシマヘビを放し飼いにしている。エサとして与えるのはニワトリの骨つき肉。
先生は、アオダイショウを手で自由にあやつれるようです。モモンガ母子のヘビに対する反応を実験するため。アオダイショウの「アオ」に協力してもらっています。
アオダイショウは木登りが上手。気の幹にある小さな取っかかりを巧みに利用して、効率的に登っていく。幹にまったく基点となるようなものなければ、幹に体をぐるぐる巻きつけて締めつけ、締めつけた部分を基点として、そこから体を垂直上方へ伸長させて登っていく。
わが庭でも、スモークツリーの上のほうにヒヨドリがいつのまにか巣をつくって子育てしていましたが、それをアオダイショウが見事に登ってヒナを全滅させてしまったことがあります。地面を這っているアオダイショウが地上2メートル以上の高さにある巣と、そこにいるヒナの存在をどうやって知ったのか、今でも不思議でなりません。
先生シリーズの続編を期待しています。
(2019年4月刊。1600円+税)

2019年6月29日

虫や鳥が見ている世界

(霧山昴)
著者 浅間 茂 、 出版  中公新書

紫外線写真でみると、虫や鳥の世界がまるで違って見えてきます。
大部分の動物は紫外線を見ることができるのに、哺乳類には見えない。なぜなのか・・・。
恐竜の時代に誕生した私たちの祖先である哺乳類は小さく、恐竜を恐れて夜に活動していた。夜には紫外線を見る必要はなかったので、紫外線を見る能力が退化し、失われてしまった。そして、ヒトは現在の可視光領域に適した視覚をもつようになった。
鳥やチョウなどでは、紫外線反射の違いでオスかメスかを見分けて、求愛活動に役立てているものが多い。紫外線を利用してエサとなる虫を誘引しているクモもいる。
植物も、目の悪い虫に対して、紫外線を利用して蜜のありかを示して魅きつけている。
生命体は、紫外線の届かない青い海のなかで広がった。
法隆寺の玉虫厨子(たまむしのずし)の色が1300年後の今でもあせることなく残っているのは、その色が色素によってではなく、構造色によって発色しているから。構造色は、その構造が壊れない限り発色する。
昔、『モンシロチョウの結婚ゲーム』という本を読みました。モンシロチョウはオスもメスも真っ白なのに、オスはメスを見分けて接近する。なぜか・・・。紫外線があたると、オスは吸収して真っ黒になるが、メスは吸収せず反射して白っぽく見える。なので、モンシロチョウのオスは白く光るメスを目がけて突進していく、そんな話でした・・・。びっくりしてしまいました。学者はすごいです。
生物の世界は不思議に満ち充ちています。
(2019年4月刊。1000円+税)

2019年3月 3日

タコの心身問題

(霧山昴)
著者 ピーター・ゴドフリー・スミス 、 出版  みすず書房

カラスが人間を見分けて、いじわるされたと思ったら執拗に仕返しするという話は聞いたことがあります。本当のようです。ところが、この本によると、タコも人の顔を識別して、たとえ同じ制服を着ていても、特定の人物にだけ水を吹きかけたりするとのこと、不思議な能力をもっています。
タコは人間の顔を一人ずつ記憶しており、嫌いな人が近づくと水をかける。
水槽の中の電球をわざと壊して遊ぶ。ショートして停電が起きるのを楽しんでいる。
実験室でテストを受けさせてみると、タコは総じて良い成績をとる。
タコは新しい環境に適応する能力が高い。研究室に見慣れない訪問者が来ると、必ず水を吹きかける。
タコは逃げるときを選ぶ。注意深く、人間が見ていないときを選んで逃げる。
タコは、目の前のものが食べものかどうかを短時間で見きわめることができる。しかし、食べられないと分かったあとも、興味をもち続け、触ったり動かしたりすることがある。
タコは見慣れないものをただ弄ぶだけでなく、有効にいかすこともある。
タコは好奇心が強い。そして、順応性があり、冒険心がある。他方で、日和見主義なところもある。
タコには、硬い部分というのがほとんどない。タコは、5億個のニューロンがある。タコは方向感覚もすぐれている。
タコの心臓は一つではなく、三つだ。タコの血液は赤くなく、青緑色をしている。酸素を運ぶのは鉄でなく、銅をつかう。
タコの寿命は短く、わずか1年か2年だ。最大のタコであるミズダコでも、野生はせいぜい4年しか生きられない。
ええっー、まるでタコって人間じゃないですか・・・。どうして、こんなに似ているのでしょうかか、謎が深まりました。
(2019年1月刊。3000円+税)

2019年1月13日

土、地球最後のナゾ

(霧山昴)
著者 藤井 一至 、 出版  光文社新書

土って、生物と切っても切り離せない存在なのだということを、この本を読んで初めて認識しました。
土は地球にしか存在せず、月や火星にはない。
土壌とは、岩の分解したものと死んだ動植物が混ざったものを指す。したがって、動植物の存在を確認できない月や火星に土壌はない。あるのは、岩や砂だけ。
地球の岩石は、水と酸素、そして生物の働きによって分解する。風化という。
粘土は、水の惑星が流した"血と汗"の結晶だ。
月でも岩は風化する。しかし、水や酸素や生物の働きがないと、岩石は粘土にはなれない。月には粘土はない。粘土の有無が地球の土壌と砂を分かつ。
火星には粘土がある。しかし、腐植はない。火星には粘土が存在する点では、月の砂よりも地球の土に近い。しかし、火星には腐植がない。
腐葉土には、高度に発達した現代の科学技術を結集してもなお、複雑すぎて化学構造も部分的にしか分かっていない驚異の物質である。土の機能を工場で再現できない理由もここにある。
500年前、レオナルド・ダ・ヴィンチは次のように言った。
「我々は天体の動きについてのほうが分かっている。足元にある土よりも・・・」
ええっ、本当にそんなことを言ったのでしょうか・・・。
ミミズの粘液のネバネバがバラバラだった土壌粒子を団結させる。これによって、土壌は単なる粉末の堆積物ではなく、無数の生物のすむ、通気性、排水性のよい土となる。これが地球の土だ。
世界の土は、実はたったの12種類しかない。ええっ、ウソでしょ、そんなに少ないはずないでしょ、そう叫びたくなりますよね。
日本中どこを掘っても、土は酸性だ。
泥炭土は、地中深く数千万年も眠れば石炭に化ける。それはジーンズを染めるインディゴの原料にもなっている。
日本では、山の土を通過した水はケイ素を多く含み、稲を病気に強くする。稲だけでなく、ケイ素の有無でニワトリの成長が大きく変わることも報告されている。
ケイ素は必須養分ではないが、骨をつくる活動を促進する働きがある。
インドネシアのボルネオ島ではケイ素がないため稲が実らない。
足元の土というもののありがたさを初めて認識することができました。
(2018年12月刊。920円+税)

2018年12月 2日

愛と分子

(霧山昴)
著者 菊水 健史 、 出版  化学同人

面白い本のつくりです。まずは写真。なかなか見事な、そして意味ありげな写真が続きます。その次に、文章で解説されると、なるほど、そういうことなのか・・・、と。
鳥のウズラの場合。オスは、大きな声でよく鳴き、メスにアピールする。オスの鳴き声にひきつけられたメスが、オスの目の前にひょっこり現れると、オスは瞬時に鳴きやんでメスに近づき、交尾を試みる。このとき、オスは、目の前にあらわれたメスの頭部と首を見て、その見た目の美しさに見ほれ、交尾行動を開始する。
男は目で恋し、女は耳で恋に落ちる。
ショウジョウバエの場合。メスはオスに出会ったときは逃げまわるが、オスの熱心な求愛歌を聞くと、うっとりしたかのようにゆっくり歩く。これはメスがオスを受け入れつつあるサインだ。
ハツカネズミの場合。オスはメスに出会うと、ヒトには聞こえない高い周波数の超音波で、鳥のさえずりのような歌をうたっている。そしてメスは、自分とは遺伝的に異なる系統のオスがうたう音声を好む。
メダカの場合。メスは、長くそばに寄り添ってくれたオスをパートナーとして選ぶ。以前からよく見かけていたオスを記憶し、視覚的に識別して、恋のパートナーとして選んでいる。
プレーリーハタネズミの場合。オスもメスも、親元から離れて巣立つと、一人で草原の探検を始める。そこで、見知らぬ異性と出会い、そこで交尾すると、そのまま妊娠し、夫婦としての絆を形成する。絆をつくった夫婦は、ともに食事に、ともに子育てし、パートナーが死ぬまで添いとげる。オスは、たとえ若いメスが縄張りに入ってきても、求愛するどころか、攻撃して追い払ってしまう。
ええっ、そうなのか、そうなんだ・・・と、思わず納得してしまった小冊子みたいな本でした。
(2018年3月刊。1500円+税)

2018年11月26日

トラ学のすすめ


(霧山昴)
著者 関 啓子 、 出版  三冬社

動物園の飼育員がホワイトタイガーにかまれて亡くなるという痛ましい事故が起きました。トラはやっぱり怖いですよね。でも、自然界で、トラが人間を襲うことはありません。人間を警戒して近づかないのです。ただ、お互い不意打ちのように出会ったりしたら不幸な事故は避けられないでしょうね。
ヒョウは人間になつかないが、トラは人間になつく。
動物園で通路に誤ってネコが入っても、トラは何もしない。
アムールトラは、ネコ科で最大の獰猛で優雅な生きもの。体長2メートル、体重250キロ。
アムールトラは、足の裏がやわらかで、音を出さずに歩けるので、獲物になる動物に気づかれずに近づける。川も泳ぎ渡る。
アムールトラの毛色は淡い黄金色で、そこに黒いしまもようが入る。えらく派手で目立ちそうだが、森のなかでは保護色となって見えなくなる。
アムールトラは長距離走は苦手で、瞬時にけりをつけるしかない。
アムールトラが傷ついて、走れなくなると、もう飢え死にするしかない。
メスのトラは、女手ひとつで子どもを3歳まで育てる。
トラの最大の敵はヒグマではなく、人間だ。
アムールトラは、温厚で、おっとりとしていて、うたたねが好きな、怠惰とも思える性格だ。
トラは、孤高の動物であり、強いけれど、孤立無援を生きる生きものだ。
アムールトラは、自然界に500頭、世界中の動物園に500頭、合計して地球上に1000頭しか生きていない。まさしく絶滅危惧種である。
生物多様性は、地球の生命線である。トラは、この生物多様性のバロメーターなのだ。
トラは、餌になる主として中・小の動物、それらの動物たちが食べる木の実やコケ類、それを育む森林などなど、総じて生息地(ロシア極東)の生態系が一定の条件で維持されていないと生きていくことができない。したがって、この生態系の保存は人間にとっても大切なものなのだ。
日本人がトラ好きなのは、トラさん映画をみても分かると指摘され、ああ、そうだったと我が身をふり返りました。読んで楽しいトラ学入門書です。
(2018年6月刊。1800円+税)

2018年11月12日

蜂と蟻に刺されてみた

(霧山昴)
著者 ジャスティン・O・シュミット 、 出版  白揚社

ハチとアリに刺されると、どれくらい痛いのか、その痛さに等級をつけてみた。自分の身体を提供してのこと。いやはや、とんだ商売ですね、学者って・・・。
等級はレベル1からレベル4までの4段階。セイヨウミツバチに1回刺されたときの痛みの強さをレベル2とし、これを評価の基準とする。ミツバチは世界中にいて、ミツバチに刺された人は多いので、評価の基準にしやすい。
ミツバチに鼻や唇を刺されると、本当に痛い。しかも、唇を刺されると、必ず腫れあがる。
ミツバチの毒液は、昆虫の毒液のなかで最高レベルの殺傷力をもっているうえ、分泌される量も多い。コロニーとしての殺傷能力は非常に高く、全体を集めたら、10人あまりの人間の生命を脅かすのに十分だ。
ゾウを追い払うため、アフリカでは畑の周囲にミツバチの巣をかけておく。ミツバチは、ゾウの弱点である眼と胴の腹側を狙って刺針攻撃をしかける。ゾウはたまらず逃げ出し、もう近づいてはこない。
ミツバチはNASAの実験で1982年と1984年の2回、宇宙を旅行している。無重力の環境下でもミツバチは六角柱の並んだ正常な巣をつくった。無重力空間でも、方向や位置をミツバチが間違えることはなかった。
アマゾン川の流域では、アリに刺されて、その痛みを我慢できるのか成人になる通過儀式となっているところがあるそうです。男の子のほうが強い痛みに耐えなければいけませんが、女の子には少しレベルを落として痛みをガマンすることが求められるといいます。いやはや・・・。
日本にもヒアリが侵入しようとしていますが、北米ではヒアリが相当侵食しているようです。
ヒアリ退治のつもりで空から有毒な殺虫剤を大量にまいたところ、逆効果だったそうです。ヒアリ以外のアリが殺虫剤でやられてしまい、肝心なヒアリは生きのび、かえって競争相手のいなくなった草原に展開していった。
ヒアリを殺すには、10リットルの湯を沸かして、蟻塚の真ん中に熱湯をゆっくり流し込む。これで、幼虫だけでなく、女王までも殺すことができる。
庭仕事をしていると、ときに痛い目にあいます。ダニかなと思っていましたが、この本を読んで、ひょっとしてアリだったかもしれないと思い、はっとしました。
ハチとアリと人間の生活との関わりを考えた、とてもユニークな生物の本です。でも、まねして刺されてみようなんては、ちっとも思いませんでした。
(2018年7月刊。2500円+税)

2018年8月27日

先生、オサムシが研究室を掃除しています

(霧山昴)
著者 小林 朋道 、 出版  築地書館

先生シリーズも、ついに第12作です。すごいです。
鳥取環境大学のコバヤシ先生が大学内外での観察日記がオモシロおかしくて、動物行動学の勉強になるものとして展開していくので、ついついひきずり込まれてしまいます。それに、たくさんの写真があるので、コバヤシ先生の話があながち嘘ではないだろうという気にもなってきます。まあ、それほどウソっぽい語りが途中でたくさん入るわけなんですが・・・。
私が唯一みているテレビ番組「ダーウィンが来た」にコバヤシ先生がニホンモモンガとともに登場したときには、ついに我らがコバヤシ先生も全国版の有名教授になったと拍手したものです。
コバヤシ先生は動物行動学を専攻する学者ですから、なんでも実験し、比較・検討しなければ気がすみません。
ヤギは、たとえ大好物の葉であっても、それに自分の唾液にニオイがすると、プイと顔をそむけて食べようとしない。
5頭いるヤギのうち1頭だけ残して4頭をよそへ連れていくと、残った1頭のヤギはたちまち元気をなくしてしまった。そして、10日後に仲間たちが戻ってくると、いつにない再会の挨拶をして、たちまち元気を取り戻した。
このような、嘘のようなホントの話が満載の本なのです。
(2018年5月刊。1600円+税)

2018年7月28日

大根の底ぢから

(霧山昴)
著者 林 望 、 出版  フィルムアート社

われらがリンボー先生は、お酒を飲まない代わりに、美食家、しかも手づくり派なのですね。恐れ入りました。私は、「あなた、つくる人。わたし、食べる人」なのですが、料理できる人はうらやましいとも思っているのです。
「たべる」と「のむ」というのは、古くは違いがなかった。「酒を食べませう」、「水たべむ」と言った。「たふ」とは漢字で「給(た)ふ」と書く。いただく、ちょうだいするという、敬意のふくまれる丁重な言葉なのだ。敬意がないときには、単に、「食う」と言った。ええっ、そ、そうなんですか・・・、ちっとも知りませんでした。リンボー先生の博識には、まさしく脱帽です。
初夏の何よりの楽しみとして、柿の若葉の天ぷらがあげられています。これまた、驚きです。
タケノコは孟宗竹(もうそうちく)と思っていますが、孟宗竹とは、渡来植物で江戸時代に薩摩に中国からもたらされたのが全国に広がったもの。これまた、全国津々浦々でタケノコつまり孟宗竹がとれると思っていた私は、思わずひっくり返りそうなほどの衝撃でした。
しかも、リンボー先生は、旬(しゅん)のタケノコを茹(ゆ)でて、マリネにして食べるんだそうです。なんとも想像を絶します。
関東は柏餅(かしわもち)、関西(とくに京都)は、粽(ちまき)を食べる。九州生まれ育ちの私は、子どものころ、実はどちらも食べた記憶はありません。
リンボー家では、料理は、朝晩ともリンボー先生の担当で、奥様は料理しない。そして、家でつくる料理は飽きがこない。うむむ、これは分かります。
でも、実は、リンボー先生は、月に2回か3回は、なじみの寿司屋で握りをつまんでいるのです。私などは、寿司を食べるのは、それこそ、年に2回か3回もあればいいくらいです。回転寿司など、これまで一度も行ったことはありませんし、これからも行きたいと思いません。
寿司屋に行って、カウンターに座って寿司が差し出されたら、すぐに食べるのが、まず何より大切なこと。職人の手を放れて目前の寿司皿にすっと置かれたその瞬間に、まさしく阿吽(あうん)の呼吸でこちらの口中に運ばなくてはならない。それでこそ、握るほうと食べるほうの気合いが通いあってほんとうの寿司の味が分かるのだ。
リンボー先生が「なまめかしい食欲」なんて書いているので、例の「女体盛り」かと下司(げす)に期待すると、なんと、「なまめかしい」とは「飾り気のない素地としての美しさ」ということで、拍子抜けします。
私と同じ団塊世代(私が一つだけ年長)のリンボー先生は、緑内障になってしまったとのこと。私は、幸い、まだ、そこまでは至っていません。白内障とは言われているのですが・・・。
季節の食材をおいしくいただく喜び。こんな美食こそ人生の最良の楽しみの一つだと痛感させてくれる本でした。リンボー先生、ますます元気に美味しい本を書いてくださいね。
(2018年3月刊。1800円+税)

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