弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生き物

2010年7月12日

先生、カエルが脱皮して、その皮を食べています

 著者 小林 朋道、 築地書館 出版 

 絶好調、先生シリーズの第4弾です。ますます生き物たち観察と文章力にみがきがかかっていて、一気に読ませます。まずは、タイトルになった話です。これって、本当の話なんですね。
 ヒキガエルは、脱皮した自分の皮を自分で食べていた。著者は、これを目撃したのでした。
 ヒキガエルは、分厚い皮膚をシャツを裏返しに脱ぐように脱皮しながら、その古くなって脱皮した皮を食べた。そして、皮を脱いであらわれた新しい皮膚には、パンパンに張りつめたイボと、それからしたたり落ちる毒液が見えたのだった・・・・。脱皮に長時間かかるため、そのあいだに身を守るため毒液の詰まったイボを備えていたというわけなのです。
 ヘビに出会ったヒキガエルは、体(とくに腹部)を、ぷくっとふくらまし、四股を伸ばし、相撲の立会い前のような姿勢を見せる。ところが、そのヘビは、単にヘビそっくりのオモチャであってはならない。あくまで、先がかぎづめのように曲がったタテ棒の格好をしていなければ、ヒキガエルは対ヘビ防衛姿勢はとらない。この「かぎづめのように曲がったタテ棒」とは、ヘビがかま首を持ち上げて捕食しようとする姿勢を示すものと考えられる。なーるほど、ですね・・・・。
 動けない植物は、草食動物がある程度の葉や枝や実を食べたら体調に異常をきたすような物質を体内(の細胞内)で生産している。だから、ミズナラのドングリばかり食べているネズミは死んでしまう。そこで、草食動物は、野生では、同じ種類の植物を食べ続けるのではなく、種類を変えながら採食している。
 うへーっ、そういうことなんですか・・・・。食べる方も、食べられるほうも、相互に自らの身体の防衛を工夫しているのですね。
 生命・生き物たちの神秘を身近に感じさせてくれる良書シリーズです。コバヤシ先生、引き続き、がんばってください。続刊を楽しみにしています。
 
(2010年4月刊。1600円+税)
 いよいよセミが鳴き出しましたね。10日に天神で、11日に自宅でまだ頼りなさげな鳴き声ではありましたが……。梅雨は明けませんが、本格的な夏到来ですね。
 庭のキュウリが何日かおきに見事に太くなってくれます。ミソと一緒に食べると美味しくいただけますが、ミソの代わりに五木村の山うに豆腐をのっけて食べています。ちょっと甘味がありますが、モロキュウの食感で、初夏を食べている幸せ感が味わえます。
 私のハゼマケは皮膚科で貰った軟膏をつけたらひどくなることもなくあっという間に直ってしまいました。ちょこさん、ご心配ありがとうございました。

2010年6月27日

究極の田んぼ

著者、岩澤 信夫、日本経済新聞出版社

 田んぼを耕さず、肥料も農薬もつかわないで、立派なお米がとれるというのです。まさに、奇跡としか言いようがありません。
 冷害にも強いのです。農薬をつかいませんから、鳥たちの楽園にもなります。かといって、例のアイガモ農法には批判的です。
 イネを狩り取ったあとのイネ株はそのまま残し、そのイネ株とイネ株の間に今年の新しい苗を植える。苗は稚苗ではなく、成苗にしてから移植する。
 冬には田んぼに水を張っておく。これによって田んぼのなかの光合成を促し、植物プランクトンやそれを餌にする動物プランクトンの発生を助け、イネの生長に必要な栄養分が供給されることを狙う。その結果として、無肥料栽培になる。また、雑草の発生も抑えられるので、無農薬栽培となる。このようにイネ本来のもつ力を生かす自然農法である。
 イネは耕さない硬い土の中に根を伸ばそう、張ろうとする。そのときの強いストレスのため、エチレンという成長ホルモンを分泌する。このホルモンがイネを丈夫にして立派に育ててくれるばかりでなく、病気、虫害、冷害にも強くしてくれる。
 冬に田んぼに水を張っていると、イトミミズが10アールあたり1500万匹もいる田んぼになる。イトミミズの排泄物がトロトロ層になって、5センチメートルの層をつくる。
不耕起の田んぼでは、昨年のイネの株は残っているが、田植え後は水の中で分解を始める。
 不耕起の田んぼは殺卵しないことになるので、6月末にはトンボが孵化してトンボの楽園になる。
耕さない田んぼのコメは、3年継続して栽培すると、間違いなく美味しくなる。イネの根が根穴を残し、田んぼの土は根穴だらけになり、それがコメの味をよくする。
 なるほどなるほど、よく考えられた科学的な農法だと感心してしまいました。

(2010年4月刊。1500円+税)

2010年6月14日

微生物の不思議な力

小幡 斎・加藤 順子 著 、関西大学出版部 出版
 まことに生き物というのは不思議なものです。信じられない悪条件の下で、綿々と生き延びている生き物がいるのに驚きというより、圧倒されてしまいます。
 たとえば、フィリピン海溝の深度1万メートル、1000気圧の水圧のかかっている堆積物に細菌が棲んでいます。1000気圧で増殖する好圧性の細菌がいるのです。
 そして上空です。ジェット機の飛んでいる10キロメートルほどの上空にも、1立方メートルあたり1~2個の密度で、微生物が生息している。
 地球上の微生物として32億年前の化石が見つかっている。そして、この微生物は、他の惑星から飛来したのではないかと考えられている。うへーっ、こ、これではUFOではありませんか。宇宙には地球上のほかにも生物がいるのは間違いないようです。でも、やたらと接触したら、きっとお互いに生命の危機なのでしょうね・・・・。
 地球上で、カビは微生物の36%を占めていて、その種類は少なくとも10万種類になる。ふむふむ、じとーっとして気持ちの悪い梅雨も、もうすぐやってきます。そのとき、カビが大活躍して困るのです。
 草食動物は、草ばかり食べて、タンパク質はほとんど取っていない。しかし、牛の胃袋の中には、多くの微生物が棲んでいて、その微生物が草を分解消化し、必要なアミノ酸を得ている。
天然ガスを栄養源として微生物を増殖し、その微生物タンパク質を食料に転換できたら、食糧不足の心配は解消される。
 生物の多様性を認識できる本です。
 
(2010年3月刊。2400円+税)

2010年6月 7日

昆虫科学が拓く未来

著者:藤崎憲治・西田律夫・佐々間正幸、出版社:京都大学学術出版会

 いやあ、学者ってすごいですよね、ほとほと感心します。
 植物は害虫にかじられると、警戒信号を発します。他の植物仲間に注意を呼びかけるのです。それを化学的変化が起きると見抜き、害虫であるシロイチモジヨトウ幼虫の唾液を大量に集め、その唾液からトウモロコシに揮発成分を放出させる物質(エリシター)を単離した。
 昆虫の唾液に注目した点がユニークである。
 それはそうでしょう。チョウの幼虫の唾液なんて、ごくごくわずかなものでしかないでしょうに、それを大量に集めて化学的変化を引き起こす物質を取り出して、それが何であるか解明したというのです。たいしたものですよね。
 昆虫の食害の刺激を受けて放出される揮発成分は、事前に蓄えられていたのではなく、食害の刺激によって生合成遺伝子が活発化され、一酸化炭素から新たに合成された揮発成分が放出されたものである。動かない植物ではあるが、その細胞内では昆虫の食害により何かを感じとり、驚くべき生理的変化が起きているのである。
 うひゃあー、すごいですね・・・。
 平安時代の『堤中納言物語』には「虫めずる姫君」というのがあり、必ずしも女性一般が毛虫やイモ虫を毛嫌いしているわけではないが、勇気をもって退治してくれる男性を女性は頼もしく思うという関係はあるようだ。なーるほど、ですね・・・。
 昆虫少年を大切に育てたいという提言と実践が紹介されていますが、大賛成です。ともかく、人間より前に地球上に現れて、超能力とでもいうべき無限の能力をもつ昆虫から人間はたくさんの学ぶべきものがあります。
 昆虫は人間の100万分の1の脳細胞しか持たないが、それでも10万個の脳細胞をもっていて、飛行や餌の探知などにすばらしい知的活動を発揮している。
 昆虫は地球上で最も繁栄している動物ともいえる。アメンボがなぜ水面をすいすいと歩いていけるのかをふくめて、昆虫にまつわる秘密が次々に科学的かつ化学的に解明されています。化学式のところは飛ばし読みしましたが、それでも楽しく読めました。
 もと昆虫少年だった皆さんに一読をおすすめします。
(2009年4月刊。4800円+税)
 日曜日の夜、歩いてほたる祭りを見に行きました。ホタルより人間のほうが多いかもしれないと思うほどの混雑ぶりでした。竹を切ってロウソクをなかで灯したものを道の両側にズラリと並べてあります。フワリフワリと飛びながら明滅するホタルは、人工的な照明とあまり合いません。夢幻の境地がいささか壊された気になりました。それで、ホタルまつりとは別の場所で、じっくりホタルを見物しました。飛んできたホタルを手のひらにのせて、ふっと息を吹きかけます。

2010年5月31日

我が家にミツバチがやって来た

著者  久志 富士男   、 高文研 出版 
 
 とても面白くて、次の裁判を待つあいだに読みはじめたのですが、その裁判を延期にしてもらって読みふけりたい気分になったほどでした。
 なぜって、たとえばミツバチたちがヒマになったら、押しくらまんじゅうをしたり、隠れんぼをして遊ぶというんですよ。これにはさすがの私も驚きましたね。カラスがすべり台ですべって遊ぶというのは知っていましたが、ミツバチも遊ぶんですよ・・・・。
ニホンミツバチは不快なことがあると近くの人間に当たり散らす。たとえば、顔に体当たりする。また、砂糖水はまずいので、最後の非常食としてしか利用しない。なんていう話が満載なんです。セイヨウミツバチではなく、ニホンミツバチの話です。野生のミツバチたちのたくましさには、感嘆してしまいます。
これまでの蜂の巣からさる(分蜂)かどうかは、外勤蜂の過半数の意向で決まる。女王蜂が決めるわけではない。そして、個々のハチは行くのか残るのか、自分の意思で決めている。一度は出ると決めても、あとでやっぱり残ると思い直して戻ってくるハチもいる。うへーっ、これって、いかにも人間的ですね・・・・。
 最近では、田園地帯ではハチは生息できなくなっている。農薬のせいである。稲田や果樹園、それにゴルフ場の近くは避けなければいけない。大規模農場だと、100メートルくらい離れていても、ハチは1年以内に死滅する。
 風下で突然に農薬に襲われると、ハチたちは巣門に出て必死に扇いで農薬を押し返そうとがんばるが、力尽き、巣箱の内外でもがきながら次々に死んでいく。
巣の中にいる雄バチを居候として捕まえて殺すと、働き蜂の機嫌が悪くなり、そのあと人を警戒するようになる。ニホンミツバチは全体の繁殖を考えると、オス蜂も大事にすべきだ。
セイタカアワダチソウは年に2回、花を咲かせ、ミツバチに多大の貢献をしている。
 ミツバチはミツを取られても怒らないが、子どもを傷められると怒る。
人に慣れていても怒る。ミツは切り傷や火傷にすごく効く。外勤ハチは仕事がなくなると、お互いにダニ取りの羽づくろいをしたり、昆虫のくせに押しくらまんじゅうや隠れん坊をして遊ぶようになる。
 近くに強い勢力のハチ集団がいると、力の弱いハチ集団は、そのうちに戦い疲れて防戦しなくなり、女王蜂が殺され、自分たちは相手方に合流してしまう。
 雑木がなくなるとニホンミツバチは死滅し、ニホンミツバチが消滅すると農業は衰退する。この連鎖が見えないまま針葉樹の造林がすすめられてきた。
 ニホンミツバチは力ずくで従わせることはできない。本来は臆病な生き物である。とくに人が近くにいると、警戒を怠らない。ニホンミツバチと付き合うには、優しく接することである。そうすると、必ず信頼関係が生まれてくる。ニホンミツバチに近づくときには、挨拶を忘れてはいけない。
人間が巣箱の存在を忘れていても、ハチはいつも人間の存在を意識している。ときどき、指を番兵ハチに近づけたり、番兵ハチの脇腹をくすぐったりのスキンシップをしてやる。
ハチの羽音は、常に、そのときの気持ちを表現している。羽音が聞こえるときは、ハチは何かを言っている。繁殖期は、うれしいのか、羽音は朗らかで、温和だ。花蜜が豊富なとき、ミツが十分に貯まっているときも同じだ。
女王蜂が老齢で産卵が停止されると、王国に存亡の危機が迫り、どんな群れも荒くなる。これは女王が3年目に入る前後に起こりがちである。
ニホンミツバチは、オオスズメバチに襲われると、人に助けを求める。子どもがシクシク泣くような、か細い羽音で人の胸元をジグザグに飛んだり、人に止まったりする。「あいつらを追っ払ってください」と言っているようである。ま、まさか・・・・と思いました。
ニホンミツバチは、ミツの味がセイヨウミツバチと比べものにならないほど良い。ニホンミツバチは病気にかからず、ダニにもやられない。放任しても
元気に育つ。
 いやはや、もとは高校で英語の教師だった人のニホンミツバチを飼った体験にもとづく面白い本です。一読をおすすめします。
(2010年4月刊。2000円+税)

2010年5月10日

ホソカタムシの誘惑

著者 青木 淳一、 出版 東海大学出版会

 70歳で無職となって昆虫少年に戻った著者の、心躍る採集日記です。読んでる方まで楽しくなります。虫とりカゴを持って野山を駆ける昆虫少年を思い浮かべました。
 ホソカタムシは、大きさが5ミリほどしかない小さな昆虫です。しかも、地味な色合いをしていて、動きも緩慢なので、野外で見つけるのは難しい昆虫です。しかし、昆虫少年たちはそれを難なく見つけます。そこはもう、意気込みが違うのですよ……。
 ホソカタムシは生きている樹木にはおらず、枯れ木に住みついている。枯れ木の菌類か甲虫の幼虫を食べる。生きた樹木は食べないので、害虫にはならない。
 身体はガッチリと固く、光沢はなくても複雑な彫刻が施されていて、触角の先が玉になって膨らんでいて、身体は細く、両側が平行な虫である。
 ホソカタムシは、人間に見つかっても、あわてず騒がず、ゆっくりのっそりと落ち着いて、マイペースで歩いていく。その動きは、まことに優雅で気品に満ちている。
 この本には、ホソカタムシの写真と著者自身のペンで描いた精密画の2つで紹介されていますから、その生態がよく分かります。とりわけ、生態画のほうは、いかにも昆虫少年らしく丹念にペンで描かれていて、ほとほと感心・感嘆します。
 著者はホソカタムシを求めて、熊本、徳之島、石垣島、北大東島、種子島、そして小笠原諸島まではるばると出かけます。沖縄ではハブの出現を心配しながら森の中へ分け入っていくのです。いやはや、さすがに昆虫少年の心を持っていないとできませんね、こんなことは……。
ただ、その地で夜は美味しい料理を食べて、お酒を飲むわけですから、本当に豊かな老後を過ごしておられると、羨ましく思ったものでした。
 細密画の中では、ノコギリホソカタムシが印象に残りました。ギザギザ、コブコブの突起物に覆われた姿は、アニメ漫画に出てくる怪獣のようだと紹介されていますが、まったくそのとおりです。
 東北以南の日本全国どこにでもいるホソカタムシです。でも、これも3~5ミリと小さいので、目立たないんですよね。
 大変な貴重な労作だと思いました。

(2009年2月刊。1600円+税)

 いま、我が家の庭はアイリス、ジャーマンアイリス、ショウブ、アヤメの花盛りです。みんな背が高く、姿も形もとりどり艶やかなので、まさに花園です。アイリスは黄色、ショウブはキショウブ、アヤメは薄紫色です。そしてジャーマンアイリスは青紫色が多いのですが、濃茶色の花のほか純白の花もあります。華麗で会って清楚なたたずまいの真っ白さに、えもいわれぬ気高さを感じます。
 私の個人ブログに花園を公開中です。一度ぜひご覧ください。

2010年4月26日

外来生物クライシス

著者:松井正文、出版社:小学館新書

 世界中の生き物たちが、本来の生息地を離れて世界各地に拡散しています。外来生物と呼ばれるこれらの生き物たちは、当然ながら日本にも押し寄せ、私たちを取り囲む環境に入り込んでいるのです。
 日本には、2239種の外来生物が定着している。そのうち動物については633の外来種の定着が認められている。
 京都の鴨川にはオオサンショウウオがいるが、チュウゴクオオサンショウウオが入り込んでいる。オオサンショウウオの寿命は長く100歳に達する個体もいる。2008年9月の時点の分析によると、111匹のうち中国型が13%、雑種が44%となっていた。幼生の71%が雑種だった。
 中国ではチュウゴクオオサンショウウオは珍味として異常な高値で取引されている。そこで日本にも食用に輸入された。その子孫が鴨川に存在するらしい。
 外来種のタイワンザルは、姿がニホンザルと見分けにくい。ただ、尻尾が40センチと、ニホンザルの尾が10センチ程度と短いのに比べて、ずっと長い。この2種の交雑が急速に広がっている。
 日本のメダカが減少している。それに似ているのがカダヤシ(蚊絶やし)。いずれも3センチほどで、見分けるのは容易ではない。
 メダカが減っているのをカダヤシのせいにすることはできない。メダカの棲めない環境が急速に増えていること、それによってメダカの繁殖能力が落ちていることが根本的な原因である。日本各地にメダカを戻したいのなら、カダヤシを駆除するだけでなく、田園環境や、小川のあった自然を復元し、メダカの棲みやすい環境を取り戻す必要がある。
 ミツバチを受粉に利用している園芸農家は日本全国で1万ヘクタール。女王蜂の輸入がストップすると、すぐに国内の果物や野菜生産に多大な影響が生じる。国内自給率40%を切っている日本の農業のもう一つの危うい姿である。
 2008年、働き蜂の突然の大量死によって、1割ないし2割もミツバチが減った。
 アメリカでは、2005年ころから、ミツバチの4分の1が死滅した。
 アルゼンチンのミツバチには凶暴なアフリカ系ミツバチの遺伝子が拡散している。欧州系ミツバチに比べて攻撃性が強く、長時間にわたって攻撃するため人や家畜を死に至らしめることがある。
 セイヨウオオマルハナバチは、あまりにも強い繁殖力をもっている。そして、花の外側に穴を開けて吸うため、日本固有の植物の繁殖を妨げる心配がある。
 なるほど、外来種が入りこんできたって、種が多様化するだけじゃないの、なんて気楽なことは言っておれないようです。人間と違って、混血(ハーフ)というのはいいことだけではないのですね・・・。
(2009年12月刊。740円+税)

2010年4月12日

象虫

著者 小檜山 賢二、 出版 出版芸術社

 コクゾウムシ。幼いころはコクンゾムシと呼んでいました。米びつにわく小さな虫です。つまんで外に捨てていました。今は昔の話です。
 ゾウムシは、このコクゾウムシの一つです。すごい写真集です。圧倒されます。体長3~6ミリの小さなゾウムシなのですが、それをくっきり鮮明なまま、超拡大写真で見せてくれます。怪獣です。それも、想像を絶する怪獣たちのオンパレードです。ヘンテコリンな顔や形。鼻も目も不気味な形をしています。色は怪しげに光り輝いています。
ゾウムシは世界に6万種いる。恐らく20万種はいるだろう。日本では1300種が確認されている。日本の蝶が200種なのに比べて、いかにゾウムシの種類が多いか分かる。ゾウムシは生物界でもっとも種数の多いグループなのである。
 ゾウムシは1億年1上の年月にわたって命をつないで進化してきた、進化のトップランナーである。ゾウムシのキーワードは、多様性。色、形、大きさ、ともに多様性に富んでいる。ゾウムシは高度に進化した昆虫なのである。
 この写真集を見れば、まさしくそのことが実感としてよく分かります。
長い鼻を持っているように見えるが、実は鼻ではなく、口。口吻(こうふん)という。
 ゾウムシの仲間は飛ぶことが苦手だ。飛ぶことをあきらめて、身体を鎧で固めたのが、カタゾウムシである。
 大部分のゾウムシは、死んだふりをして敵をやり過ごそうとする。
 擬死は、あくまで死んだふりである。地上に落ち、やがて動き出して逃走する。
 まず、カブトムシとかクワガタムシを想像して下さい。そして、派手な色をその体にペインティングします。さらに鼻(口吻)を長く伸ばします。眼はトンボやハエのような複眼です。背中はカミキリムシのようなスッキリしたものもあれば、毛がふさふさ生えているものもあります。その部分を拡大した写真があります。色つき真珠を背中にちりばめたような情景です。
 いやあ、この世にはこんな生きものが無数にうごめいているのですよね。生命の神秘をひしひしと実感させてくれる、素晴らしい写真集です。
(2009年7月刊。2500円+税)

 玄関脇に赤いチューリップが10本咲いています。一番遅いグループです。夜帰ったときは静かに迎えてくれますし、朝出かける時には元気ハツラツで行ってらっしゃいと見送ってくれます。奥の方には黒いチューリップも咲いています。真っ黒ではありませんが、かなり黒っぽいのです。アレクサンドルの小説「黒いチューリップ」を思い出します。
 昔、オランダというかヨーロッパでチューリップの球根が投機の対象となったことがありました。
 アイリスがたくさん咲いています。甘い芳香を漂わせるフリージアのほか、イキシアやシラーも咲いています。春の花園に入ると、身も心も軽く、浮かれてしまいそうです。

2010年4月 5日

森の奥の動物たち

著者  鈴木 直樹 、 出版 角川学芸出版

 ロボットカメラを日本の森に仕掛けて撮った夜の動物たちの素顔です。よくぞ撮れたと思うほど、くっきり鮮明な写真のオンパレードです。お疲れ様でした。
 自分の匂いを消し、木々のあいだに姿を消すことに関してはジャングルで修練を積んだ。ジャングルに適応すると、人間を遠くからでも感知できるようになる。現代人が近づいてくると、足音がする前に、地面がわずかに振動をはじめる。続いて足音と話し声。そして極めつけは匂いである。姿を見せる前に、猛烈な文明人の匂いが雲のように押し寄せる。シャンプー、香水、ビール、肉の脂などの匂いが合わさって、波のように押し寄せてくる。これでは動物に見つからないわけはない。ましてや、人間より嗅覚も聴覚も鋭い動物たちは、これらが千倍もの強さの五感への雑音として伝わるであろう。
 うへーっ、す、すごいことですね。著者は森の奥へ、それも夜の森の中へ入ろうというのですから、とても私にはできません。そして、雪山用の迷彩服というのはドイツ軍製のものが一番実用的なようですね・・・・。
 ロボットカメラといっても、写真に紹介されているのは、とても小さくて、えええっ、こんなものでちゃんと取れるのかしらん、と思ったほどです。
一日中、森の中をはいまわってロボットカメラを設置した夜、遠くの山並みをみわたしながら、こちらの山脈で一つ、向こう側の森の奥で二つと、ストロボで梢がかすかに光るのを確認するのは、苦労が報われる幸せのひとつでもあった。
 いやはや、お疲れさま、としか言いようがありません。でも、その苦労のおかげで、こんなにくっきり、すっきりと鮮明な写真が拝めるのですから、ありがたいことです。
 登場するのは、テン、タヌキ、リス、ネズミそしてモグラとハクビジンまで姿をあらわします。みんな可愛いです。
 夜の森では何が起きているのか、自分で行く勇気まではないけれど、知りたいという人には、うってつけの写真集です。ぜひ、手にとって見てみてください。でも、同じように夜のゾウを撮影しようと思っても、なかなかうまくはいかなかったようです。それでも成功したと言えるのでしょうか。ゾウが侵入者(ロボットカメラ)に怒って、あの巨体で踏みつぶしてしまったというのですから。
ゾウの怒る気持は分かりますが、人間としては、ぜひ知りたいところではあるんですよね。殺すわけではありませんから・・・。ゾウさん、許してね。

(2009年7月刊。2800円+税)

 阿蘇の猿まわし劇場に久しぶりに立ち寄りました。春休みとはいえ、平日午後だからやってるのかしらん、やってても閑散としているだろうなと心配していましたが、駐車場にはなんと大型の観光バスが何台も停まっています。会場に入ると、そこそこの観客がいました。演じてくれるお猿さんは、2頭です。6歳と9歳のオス猿君たちでした。猿の年齢は3倍すると人間の年齢になるそうですから、青壮年の猿君です。
 2本足ですっくと立ち、ポーズをとる様は、誇りをもって演じていることがうかがえます。
 いろんな芸ができるので、感心、感嘆して見とれていると、40分があっという間にすぎてしまいました。私が何より感心したのは、天井まで届きそうな2本の竹竿を床から一人で立ち上げて。それを竹馬として舞台を上手に歩き回ったことです。すごくバランスを取るのが上手なのに感動してしまいました。
 大勢いた観客は、実は韓国人でした。そのなかの一人が、ビデオ撮影禁止という提示があるのを無視して舞台近くまで迫って撮影していたので、さすがに係員から制止されていました。でも、その後も動きまわることは少なくなりましたが、撮影自体は最後まで止めませんでした。こんなに面白いものなので、家に帰って家族に見せてやりたいと思ったのでしょう。その気持ちは分かりますが、それにしても、ちょっと目ざわりではありました。おばちゃんにはかないません。

2010年3月28日

道具を使うサル

著者 入來 篤史、 出版 医学書院

 ニホンザルも道具を使うことを初めて知りました。宮崎・幸島のサルたちが海辺でイモの泥を洗い落して食べると言うのは知っていましたが、道具も使えるのですね……。
 サルは訓練すると、熊手を使えるようになるし、モニターも使うことができる。しかし、何のしかけもない状態では、それをあえてしようとはしない。
 道具使用を訓練されたサルたちは、実験を心地よく楽しんでいる様子であった。朝、ケージの扉を開けると、自ら進んで飛び出してきて、モンキーチェアに座りこみ、実験を催促するかのように手でテーブルをたたいた。速く実験が終わると、もう戻らなければいけないのかという態度で、戻るのを嫌がることさえあった。
 サルは、比較的容易に、まず短い道具を使って長い道具を取り、次に長い道具に持ち替えて餌をとると言う二段階の道具使用行動を行うことができた。
 子どものサルは好奇心が強くて、珍しいことによく興味を示して試みてくれる。
 仔ザルには、もうひとつ、よく「鳴く」というきわだった特徴がある。仔ザルは、とにかくよく声を出している。鳴くと言うより、そばにいる人間がしゃべっているのといっしょになって、自分もしゃべっているつもりになっていると思えることがある。ところが、大人のサルになると、威嚇するときやおびえたとき以外は、ほとんど声を出すことがない。
 サルが餌を要求しているときと、道具を要求しているときのソナグラム(音声)が異なっている。
 サルも人間も、かなり共通するところが大きいことが良く分かります。サルまねなんて、バカにしてはいけませんね。
 
(2004年7月刊。3000円+税)

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