弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2025年10月 6日

動物と老いとケアのはなし


(霧山昴)
著者 小菅 正夫 、 出版 中央法規

 旭山動物園には2回行きました。広々とした園内なので、気持ちよく動物たちの生態を観察することができました。オランウータンは16メートルもの高さのロープを軽々と渡っていきます。オランウータンはもともと慎重だし、この高さから落ちたら死ぬと分かっているので、慎重に渡るので事故は起きていないとのこと。それでも、下のほうに、もう一本のロープがあり、まさかの落下のときの安全ネット代わりだそうです。やっぱり、いろいろ考えているのですね。
 動物園では動物たちに退屈させないことを大いに工夫しているそうです。食事の心配をせず、何もやることないのだったら、無関心・無気力になって、繁殖行動もしなくなるのです。
 なので、エサを隠してみたり、ちょっとした工夫をしないと手(鼻)の届かないところに置いてみたり、あの手この手を考えるのだそうです。
 繁殖のために、オスとメスを1対1にしたらうまくいくとは限らないとのこと。
 ゾウとゴリラは、オスとメスが1頭ずつでは、まずうまくいかない。ゴリラはオス1頭と複数のメス。チンパンジーなら、複数のオスと複数のメスを一緒にしないとうまくいかない。ただし、テナガザルは、オス1頭とメス1頭で飼育する。珍しく一夫一婦だから。
 オオカミは、オスもメスも不倫を絶対に許さない。夫に近寄ろうとするメスがいると、妻はそのメスを殺す。また、知らないオスが妻にちょっかいかけたら、夫は、そのオスを殺しに行く。いやあ、オオカミって恐ろしいですね。なので、片方が死ぬと、残ったほうも1年以内には死んでしまう。ひえーっ...。
 ゾウの社会では、長老のメスがもっとも強いリーダー。オスが発情している若いメスに近寄ろうとしても、その群れを仕切るリーダーのメスに認められなければ交尾はできない。
 サルは好きなものから食べる。人間には、好きなものは最後にじっくり味わうという人が少なくありません。私は、サル派で、好きなものを真っ先に食べます。
ゾウは、地下1メートルの深さに埋めたリンゴを見つける。鼻には高性能のセンサーが備わっている。水も察知する。地面の下の水脈ゾウは鼻でを探し当てるのです。
 ゾウのメスが発情しているのはメスを見ていても分からない。ところが、オスの態度が変わる。それでメスの発情を知る。
 チンパンジーは政治をすることで有名です。ところが、サルも嘘をつけるのです。アルファオスに見つからないようにして、自分だけが発見したものを食べます。
 動物園でヒグマを飼うとき、繁殖行動をなかなかしなかったので、考えた。四季の変化を動物園でもつくる必要がある。冬眠するのは食べ物がないため。でも動物園には年中、飼料があるので冬眠の必要はない。すると、冬眠中に出産するというリズムをつくらないといけない。やっぱり、日本人に四季は必要です。ところが、これほどの暑さが続くと秋は短く、あっという間に冬になりそうです。
 動物の生きる最大の目的は「命をつなぐこと」にある。
 動物は傷ついていたとしても痛がる様子は見せない。自然界では弱い様子を見せたら、真っ先に攻撃対象として狙われるから。
 野生動物は認知症になる前に寿命を終えてしまう。ところが、動物園では、高齢化が進んでいるため、がんになる動物が増えている。
 動物は絶対に自殺しない。ついさっきまでピンピンしていたと思わせて、急に死んでしまう。最後の最後まで、「100%健康です」という顔をして、みんな黙って、ひっそりと死んでいく。
著者は旭山動物園をたて直した園長として有名ですが、もともとは獣医師です。今は札幌にある円山動物園のアドバイザーです。大変考えさせられる本でもありました。
(2025年5月刊。1870円)

2025年9月29日

読んで楽しむ野鳥の事典


(霧山昴)
著者 上田 恵介・ねもと きょうこ 、 出版 成美堂出版

 以前は、わが家には2ヶ所にスズメの巣がありました。トイレのすぐそばにもあって、ヒナが育つときには、朝早くからにぎやかでした。すぐ下の1反ほどもある田で米作りをやめてから、スズメはいなくなりました。カラスは団地を徘徊していて、路上のゴミ袋を破って、生ゴミをまき散らします。カササギは団地内の電柱につい最近まで巣をつくっていました。九電か九電工が定期的に年1回は撤去しています。
 庭に来るのは、まずヒヨドリです。娘が植えたホーレン草を、そろそろ収穫できるころと思っていると、その直前に見事に食べられてしまいました。一度だけヒヨドリがスモークツリーに巣をつくりました。ある朝、ヒヨドリが2羽うるさく鳴いているので何事かと思うと、ヘビが木を登っているのです。地上から3メートル以上もある高さの巣にヒナがいるのを地面を這うヘビがどうやって探知するのか不思議です。いったんヘビは木から叩き落としましたが、2羽のヒナは、結局、ヘビに食べられてしまいました。以来、ヒヨドリを含めて、わが家の木に野鳥が巣をつくることはまったくありません。
可愛らしいのは春のメジロと秋から冬のジョウビタキです。ウグイスもたまに来てくれますが、その姿を拝むことはめったにありません。ツバメは団地内には見かけますが、わが家には来ません。駅舎に巣をかけるのも少なくなりました。
この本によると、「けんもほろろ」というのは、キジの声だそうです。鋭いキジの鳴き声がつっけんどんに聞こえることから来ているそうです。
「鷹は飢えても穂を摘まず」というのは、タカは肉食なので、飢えても穀物を食べないことから来ているそうです。
ときどき庭に来て、地面をはねるようにしてピョンピョンと移動する小鳥がいます。ツグミかなと思いますが、この本に描かれている姿とは少し違います。
ムクドリは、たまに下の休耕地に集団でやってきます。
たしかに読んで楽しい小鳥の事典です。
山に近い、田んぼがすぐ近くにある田舎に住んでいると、たくさんの野鳥を身近に観察して楽しめる良さがあります。田舎暮らしの良さをアピールするのも、年齢(とし)をとったからなのでしょうね。
(2025年6月刊。1540円)

2025年9月23日

ジャングル・チンパンジー


(霧山昴)
著者 前川 貴行 、 出版 新日本出版社

 表紙の堂々たるチンパンジーの顔写真に圧倒されます。まさしく気高い至高の存在と言えます。ただ、人間と違うのは、眼に白い部分がないので、どこを見ているのか、分かりません。
 著者は、「天を見つめる赤みをおびた瞳だけが、爛らんと輝きを放ってい」ると描いています。
 著者は、アフリカのウガンダのジャングルに単身乗り込み、チンパンジーの集団の真近でカメラを構えるのです。怖くないのでしょうか...。
ウガンダの首都カンパラからランドクルーザーで5時間も走って、キバレの森に着く。
 大人の雄(おす。チンパンジー)は著者を気にせず放っておいてくれる。でも、機嫌が悪いときは、怒って威嚇してくることもある。木を激しくゆすったり、枝をパキパキと折ったり、木の根をボコンボコンと叩いたりする。そんなときは、そっと離れて、遠くから静かに見守る。
 母子にはあまり近づけない。子どもは好奇心旺盛だけど、母親が心配するからだ。
 先日、北海道でヒグマに若者が襲われて亡くなりましたが、あのときも子連れのヒグマでしたよね...。母は強し、なんです。
 チンパンジーは、ゴリラやオランウータンと違って、植物だけではなくサルを捕まえてその肉を食べる。
 チンパンジーの雄は体が大きく、力も強い。牙だって鋭い。襲う気になれば若者なんて、ひとたまりもない。
 気まぐれで破天荒なチンパンジーは、ヒト(人間)とそっくり。チンパンジーは、ヒトの思いが分かる。著者が怖がっていると、その気持ちが伝わってしまうかもしれない。なので、「決して敵じゃないよ」という心構えを強くする。なにしろ、カメラだけもってジャングルの中に1人だけで、チンパンジーの集団の真近にいるのです。すごい胆力です。
母親チンパンジーが赤ん坊チンパンジーと、森の中、枯葉の積もった上で、のんびりしている様子の写真があります。穏やかな表情で、こちらをみつめています。
 チンパンジーについての本をたくさん読みました。ゴリラやオランウータンより、人間社会によく似ていると私も思います。まず、何より競争と駆け引きが激しい社会なのです。政治をするのです。一位のチンパンジーを二位と三位のチンパンジーが共同戦線を組んで打倒する。自分の地位が危ないとみると、一位と三位が連合して二位を倒す。地位に安住するなんて決して許されない社会なのです。チンパンジーに生まれなくて良かったと思ったほどです。
 ところで、かつてチンパンジーは200万頭もいたのが、今や、その1割の20万頭もいないそうです。その原因はやっぱり人間です。ジャングルを開墾して消滅させ、チンパンジーの肉を食べ、また子どもを捕まえて高く売る、そして、人間からの感染症...。
 人間同士の共生、そして人間とチンパンジーの共生、みんな大切にしたいものです。
 すばらしく鮮明なチンパンジーの大型写真集です。ほれぼれします。
(2025年4月刊。2090円)

2025年9月22日

農作物のひみつ


(霧山昴)
著者 日本作物学会 、 出版 化学同人

 そもそも、「のうさくもつ」と読むのか、それとも「のうさくぶつ」なのか?多くの国語辞典やNHKは「ぶつ」だそうです。でも、私は断乎として「もつ」派です。だいたい「作物」は「さくもつ」ですよね...。ところが、「工作物」「著作物」は、「ぶつ」と読むじゃないか、この反撃は手強いですね。まあ、どちらでもいいですけどね...。園芸作物、エネルギー作物、食用作物はみんな「もつ」です。いやあ、日本語って難しいものなんですね。
 この本で初めて知ったのは「キノア」です。今や空前のキノアブームだというのですが、まったく知りませんでした。葉酸をたくさん含み、栄養学的価値が高いそうです。
 カリフラワーとブロッコリーは、どちらも「青汁」の元、ケールが先祖。カリフラワーはブロッコリーの変異したもの。
コーヒーのブルーマウンテンは、ジャマイカの地名による。モカは、アラビア半島イエメンの港町の名前。インスタントコーヒーの原料のロブスタ種はインドネシア産。
 濃いお茶にはカフェインが多く含まれ、玉露は0.16g(コーヒー0.06g、煎茶0.02g、紅茶0.03g)。
 イネ(稲)は1年生植物とは限らず、多年生植物でもある。日本の水田では、1ヘクタールで6000kgの米がとれる。タイでは、その半分の3000kg。
日本の小麦粉はタンパク質含有率が低いので、パン用ではなく、うどんや菓子の原料として使われる。
 じゃがいもは茎(くき)。「塊茎(かいけい)」と呼ばれる。サツマイモは根の一部が肥大したもので、「塊根(かいこん)」と呼ぶ。ジャガイモはナス科で、サツマイモはヒルガオ科。
 レンコンの穴は10個が基本で、左右対称。
 私は、ながいあいだ、竹の子は裏山から自然に生えてくるのを探して採ってくるものとばかり思っていました。しかし、美味しい竹の子をつくり育てるには、古い竹を切って竹林をいつも若返らせたり、竹の間隔をあけたり、発生する前に肥料を与えたり、稲わらを敷いた上に土をかぶせて土壌の環境を良くするなどの作業をしているのです。なーるほど、と思いました。 
サツマイモの焼きいもは、東日本ではほくほく感が、西日本ではしっとり感が好まれる。
 安納(あんのう)芋の甘さは格別です。いま、わが家のサツマイモは地上部は大いに茂っていますが、果たして地中でも大いに成長しているでしょうか...。
地球の温暖化で、フランスのワイン土壌が変化してワインがとれなくなる心配があるそうです。それは大変です...。
 農作物について深く楽しく知ることができる本でした。
(2025年3月刊。1980円)

2025年9月16日

カエルの見つけ方図鑑


(霧山昴)
著者 松橋 利光 、 出版 山と渓谷社

 わが家の庭には、カエルもいます。モグラがいて、昔からヘビもいるのです。梅雨どきには、門柱あたりに小さな緑色のアマガエルがじっとしています。私は見るだけで、邪魔はしません。庭を耕すと、土色の小さなツチガエルがぴょこぴょこ出てきます。冬に庭を掘り返すと、冬眠中のカエルが出てきますので、そっと土のなかに戻してやります。
 すぐ下の田んぼが水田だったときにはウシガエルが鳴いて、うるさいほどでした。
 小学生のころは、カエルのお尻にストローを差し込んで、お腹をふくらませて、池の中にポーンと放り込んで、カエルがあたふたするのを見て面白がっていました。子どもは残酷です。
 ザリガニ釣りをするときは、そこらのカエルを捕まえて、地面に叩きつけたあと、カエルを股さきして、カエルのももに糸をつけてエサにしてザリガニを釣り上げていました。カエルをエサにするとよく釣れるのです。カエルを手にとって叩きつけて殺すことなんて、子どもはみんなまるで平気でした。
 この本によると、カエルは体を乾燥から守るための分泌物に毒性があり、手に傷があると、分泌物が染みて、ピリピリと痛みを感じたり、分泌物に触れた手で目を触ってしまうと目が開けられないほどの痛さを感じることがあるそうです。なので、カエルをさわったら、必ず手を洗うように、とされています。
 ヒキガエルは、耳線や皮膚から、白い粘性のある毒を出すことがあるので、親指と人差し指を輪にして、後ろ足のつけ根を持つとよいとのこと。
久しく森のなかの小川近くに行っていませんが、鳴き声に惹かれるのは、なんといってもカジカガエルですよね。
 オスはメスに気づいてもらうために必死で鳴いている。カエルを飼うときの注意として、カエルはよく食べるので、エサを十分に与えないと、やせてしまう、とあります。
 とくにヒキガエルは大食漢だそうです。ダンゴムシやワラジムシを好んで食べるとのこと。我が家には、ダンゴムシが、それこそウジャウジャいます。庭のカエルが何を食べているのか、気になっていましたが、謎の一つが解けました。
 コオロギも食べるそうですが、こちらは捕まえるのが難しいですよね。
 それにしても、池がなく、水気の乏しい我が家の庭のどこでオタマジャクシが育つのか、不思議でなりません。
 たくさんの身近なカエルの写真を眺められる、楽しい図鑑です。
(2025年4月刊。1760円)

2025年9月 8日

まじめに動物の言語を考えてみた


(霧山昴)
著者 アリク・カーシェンバウム 、 出版 柏書房

 軽井沢の林に籠って鳥(シジュウカラ)の鳴き声に意味があることを解明した本を読みましたので、その関連で読んでみた本です。
 人間だけが唯一無二の存在で、動物たちは、ただ無意味な雑音を立てているだけなのか...。深く研究していくと、決してそうではないことが分かってきます。先ほどのシジュウカラの鳴き声がそうです。ヘビが来た、危ない、逃げろと言っているのです。
 今では動物たちの鳴き声をただ耳で聴いているだけではありません。スペクトログラムという、音を視覚的に表現したものを駆使します。音を時間と音高に分解して表示します。つまりは楽譜のようなものです。
まずは、オオカミの遠吠え。ヒトは、これに本能的に反応する。昔、オオカミから襲われていたからでしょうね、きっと...。
 オオカミは警戒心の塊。その生活は常に、生きのびるか餓死するかの瀬戸際にある。
 オオカミは、社会関係の調整のため、懇原、おだて、脅しなど、さまざまな手管を用いる。
オオカミの狩りは4頭もいれば十分に成功する。しかし、成功したあと、近づいてくる邪魔者を遠ざけるには数の力が不可欠。そのため、オオカミの群れ(パック)は10頭ほどいることが多い。
 オオカミの遠吠えは、10キロ離れていても聞こえる。長距離コミュニケーションの手段だ。
 イルカは、口を開けることなく、噴気孔の奥深くで音を出す。イルカは、やたらと遊んでばかりいる。イルカは何でも調べつくさないと気がすまない。
 イルカは音声を主要なコミュニティの手段としている。イルカは人間と違って口で呼吸しない。イルカの音声は、すべて噴気孔、つまり鼻から発せられる。
 イルカは、自分自身の名前を表わす、ひとつの特別なホイッスルを発している。
 ヨウムは中型で寿命の長いインコだ。飼育下では60歳、野生でも25歳まで生きる。
 ヨウムはずいぶんのんびりしたコミュニティで過ごす。ヨウムの日常は、リラックスしている。
 ヨウム同士は、声で勝負して、上下関係を確立する。
 中東と東アフリカにいるハイラックスの外見はモルモットとウサギの雑種のようだ。
 ハイラックスの歌が興味深いのは、そこに統語があるらしいこと。優位オスは、1日のうち、過剰なほど長い時間を歌っている。それによって群れのメスを守っている。複雑な歌で他のオスに差をつける。
すべてのテナガザルは歌う。それはつがいのオスとメスの絆を強めるためのもの。テナガザルの歌が複雑なのは、歌い手が健康であり、ペアの絆が強いことを知らせている。
 テナガザルの母親は、積極的に歌を変化させて娘の学習を手助けする。娘が正確に復唱できるように、ピッチとテンポを調整する。
 テナガザルと人間は歌う。でも、チンパンジーもゴリラもボノボもオランウータンも歌わない。なぜなのか...。
チンパンジーは集団で生きている。しかし、チンパンジーは安心しきって平和な眠りにつくことはない。いつだって片目を開けてトラブルを警戒している。チンパンジーは、音声によって複雑な情報を伝達しているのだろう。チンパンジーは、適切な発生装置を身体に備えていない。チンパンジーは嘘をつける。
 サハラ以南のアフリカに広く分布するミツオシエは人間を利用し、人間もミツオシエを利用している。蜂蜜を探し当てる。人間は蜂蜜を、ミツオシエは、幼虫と蜜蝋を保つ。人間は、ミツオシエを呼ぶため、トリルとグラントを組み合わせた特別な音声を出す。
 そのうち、AIを使って翻訳機を通して動物たちの叫びをストレートに理解できるようになるのでしょうね、きっと...。でも、それは少し怖い気もします。
(2025年5月刊。2860円)

2025年9月 7日

土佐湾のカツオクジラ


(霧山昴)
著者 中西 和夫 、 出版 大空出版

 高知には何回も行きました。高知城の下の露天市で食べたカツオのたたきの美味しかったことは忘れられません。部厚いニンニク片と一緒に食べますので、それだからこそ美味しいのですが、他人(ひと)様には口害(公害)の源(もと)になってしまうのが難点です。あるとき、高知からの帰りに満員バスに乗って、周囲の乗客に迷惑をかけてしまいました。露骨に顔をしかめ、鼻をつまんでいました。申し訳ないと思っても、今さらどうすることも出来ません。途中下車するわけにもいかず、ただ黙ってひたすら下を向いていました。
 カツオクジラという存在を初めて知りました。ナガスクジラ科のヒゲクジラ類の一種です。イワシを好んで食べるようです。体長は4メートルにもなる、細長い体型のクジラです。
 土佐湾には昔からたくさんのカツオクジラがいて、そのそばにカツオがついて泳いでいます。どちらもイワシが好物なのです。
 イワシがカツオに追われて丸く固まりを逃げまどうのを見て、カツオクジラは突進し、丸ごとイワシ集団をひとのみします。豪快な狩りです。
人間はカツオクジラを見つけると、餌のイワシを海に投げ込み、集まってくるカツオを釣り上げます。神社に奉納した絵馬は、その状況を描いていて、翌年もカツオ漁が豊漁であることを願うのです。
 カツオクジラは私たち人間と同じ哺乳類で、肺呼吸する。10分くらい海中に潜ると、息継ぎのため浮かんできて、大きく開いた2つの噴気孔から空気を思いきり吸い込み、再び海中に潜っていく。
 母クジラは2年に1度、体長4メートルほどの赤ちゃんを産み、母乳で半年ほど育てる。
 体長4メートルもある赤ちゃんて、信じられない大きさです。いくら親の体長が14メートルあるといっても、大きすぎませんかね。よほど細いのでしょうね。子クジラは母クジラと半年ほど一緒に暮らすなかで、餌(えさ。イワシ)の獲(と)り方、そして漁師(漁船)とのつきあい方などを学ぶ。なーるほど、ですね。
 見事な写真集です。カツオのたたきを高知で食べたくなりました。
(2024年9月刊。1320円)

2025年9月 1日

北の森に舞うモモンガ


(霧山昴)
著者 柳川 久 、 出版 東京大学出版会

 この本は、エゾモモンガ(モモンガ)に関する、日本で初めてのモノグラフだそうです。驚きました。モモンガって、なんとなくなじみのある生き物なのに、これまで、まとまった研究の本がなかったというのです。
 著者がモモンガの研究を始めたのは今から37年も前の1988(昭和63)年のこと。まだ20歳台でした。
 冒頭にモモンガの団子三兄弟の写真があります。血のつながっていないモモンガが3頭、背中の上に乗って、じっと動かなかったそうです。
 モモンガは夜行性ですから、昼間はじっとしていて、夜、遅くなってから活動しはじめます。モモンガを追跡するために使った発信機の重さは2グラム。1円硬貨2枚分です。
 モモンガは滑空する。といってもコウモリのように飛翔するのではなく、高いところから斜めに落ちることで、距離を稼いで離れた場所にたどり着く。とてもエコ(経済的・省エネ的)な移動方法。
 モモンガはやせっぽちで筋肉量が少ない。これは翼面荷重を少しでも減らすためのもの。
 モモンガは若葉や花序(花穂)を好んで食べる。セミなどの昆虫を食べる個体もいるが、地域差もあるらしい。
モモンガにも右利きと左利きがいる。人間と同じく右利きが多い。
 モモンガは利用する樹洞の条件にあまりうるさくなく、あるものを選り好みしないで使う。
 モモンガにとって林がなくなるのは生存の危機につながる。
モモンガの子は、出生時は赤裸で、体重は3~4グラム。巣から顔を出して出始めるのは40日ころ、50日ころから滑空を始め、60日ころに巣立ちする。
 モモンガの母親は、自分のこと他者の子を区別できない。自分が何匹の子を育てているのかの認識は出来ていない。それで、巣のひっこしをするときには、「子の数プラス1回」、古い巣と新しい巣を往復し、古巣に赤ちゃんが残っていないか確認する。日本での観察では「プラス1回」以上となっている。
 モモンガの天敵はフクロウとクロテン。
 モモンガは、おもに音声によって天敵のフクロウを認識している。
北海道のモモンガは、アイヌからは好意的に見られていた。
食性の違いからか、北海道のモモンガは植物食中心でのんびりしていて積極的。これに対して、アメリカのモモンガは肉食性が強く、活発で積極的。
 可愛らしい写真とスケッチもたくさんある、貴重なモモンガ研究書です。
(2025年6月刊。2800円+税)

2025年8月25日

昆虫はもっとすごい


(霧山昴)
著者 丸山 宗利・養老 孟司・中瀬 悠太 、 出版 光文社未来ライブラリー

 ミツバチの大量死の有力な原因は、農薬、ネオニコチノイド。EUでは使用禁止になったのに、日本ではまだ。カメムシ対策だったはずが、ミツバチの大量死をもたらしている。
 同じくアキアカネ、いわゆる赤トンボも激減している。たしかにお盆過ぎると、どこからともなくやってきて、我が家の庭をよく飛んでいましたが、すっかり姿を消してしまいました。
 モンシロチョウも減りましたね。三浦半島のキャベツ畑と大根畑でも見ないのは、農薬を徹底させているからだろうとあります。
 失って初めて、その価値に気がつくのが人間。たとえばミツバチは、はちミツをとるだけの存在ではなくて、いろんな農作物の受(送)粉業者なので、いないとたくさんの人が困る。受粉するのをいちいち人の手でやっていたら、とてもじゃないけど、間尺にあわない。
 鳥と同じように、魚もあっという間に性転換する。
 アリは生まれてから時間のたっているアリは、危ない仕事を担う。後世を育てる仕事は、若い衆が担う。スズメバチも同じで、若いうちは巣の中で幼虫の育成などを担って働いているか、年歳(とし)をとるとだんだん外に出ていき、攻撃性も強くなっていく。
 鳥は死んだ昆虫を食べない。だから昆虫はじっと動かず、死んだふりをする。スズメは、冬、越冬するため、日本からインドネシアまで飛んでいって、越冬する。
 同じく、アサギマダラ(蝶)も、日本から台湾まで飛んで往復している。
アフリカのある地域では、プライド保持のために牛を飼っていて、牛は食べない。実用を求めて「ウシを何頭持っているか」こそが、人間の存在価値の何よりの証明。なので、飢饉になっても、決して牛を殺すことはない。食用にするために飼っているのではない。
 森の中にすむヨロイモグラゴキブリは、地中にトンネルをつくって、夫婦で生活している。子どもが生まれたら、自分たちでエサをあげて育てる。地上から落ち葉を引きずってきて、巣穴で一緒に食べる。10年ほど生きる個体もいる。
 集団で暮らすゴキブリが進化したのが、集団で巣をつくるシロアリ。オーストラリアには、マルゴキブリの一種に、子どもにお乳を飲ませるものがいる。
 シロアリの女王には、20年とか30年も生きるのがいる。そして何十年ものあいだ生殖のみに精を出す。
トンボの翅(はね)は、100分の3ミリの薄さなので、どんなに弱い風でもとらえて静止するように飛ぶことができる。
ハネカクシの翅は、何十回も細かく折りたたんだものを一瞬でパッと開くことが出来る。その収納効率は昆虫界でもっとも高く、仕組はもっとも精微。これを人工衛星のソーラー電池パネルのような、宇宙工学や機械工学の展開構造のデザインに生かしている。
小さな昆虫、果たして脳があるのかと思える昆虫なのに、こんなにしっかり生きているのですよね...。
(2023年8月刊。1100円)

2025年8月18日

虫・全史


(霧山昴)
著者 スティーブ・ニコルズ 、 出版 日経ナショナルジオグラフィック

 昆虫は、種の数と個体数のいずれでも、これまで地球上に存在した動物のなかで、もっとも繁栄しているグループ。今までに110万種が確認されていて、それ以外に未発見の種が世界中には500万種いるとみられている。そして、個体数は1000京匹という。つまり、地球上に生息する動物の4分の1が甲虫で、10分の1がチョウかガという計算になる。
 昆虫は節足動物。つまり、節足動物門に属している。クモやムカデなども節足動物。動物には32の門がある。節足動物門はずば抜けて大きい。
 体長2メートルもの節足動物の化石が発見されている。アノマロカリス類だ。
オルドビス紀の海には、奇妙な生き物の集団であふれていて、その多くが節足動物だった。節足動物は、今から5億年ほど前のカンブリア紀の初期か、その始まる直前の海で進化した。頑丈な外骨格とさまざまな用途をもつ脚のおかげで、節足動物はすぐに優位な立場を確保した。
 昆虫のもっとも古い祖先は海洋生物だったに違いない。オルドビス期(4億8千万年前のころ)の初期に水生の昆虫が陸地に上がって生活するようになった。
 昆虫は、その多様性に対応するために、27の「目(もく)」に分けられている。
昆虫のなかでは、完全変態する種類がもっとも多い。完全変態とは、成虫とは全然異なる幼虫段階のある昆虫のこと。
 ネムリユスリカは、幼虫期が完了するまで、何度でも必要なだけ乾燥と蘇生を繰り返すことができる。ネムリユスリカは、幼虫のときには、身体の水分の95%を失っても死なない。幼虫は、マイナス270度から102度までの温度変化に耐えたあと、水を吸収すると生き返る。
アフリカのウガンダでは、1本のアカシアの木に、37種もの昆虫が共存している。
 もっとも重い昆虫は、ニュージーランドに生息する、飛べないコオロギ、オオウェタで、重さは71グラムもある。もっとも長い昆虫は、ナナフシで、ボルネオ島で発見された個体(メス)は、体長40センチもある。
酸素濃度が節足動物の体の大きさに実際に影響しうることが判明した。酸素がカンブリア爆発の火種(ひだね)になった。
 昆虫は人間の食べ物にもなる。世界中で、2000種の昆虫を人間が食べている。
 昭和天皇は、蜂の子ごはんを大好物にしていた。
 昆虫の脚は、6本。6本もの機態的な脚があることが、昆虫の多様性に役立った。飛翔能力の進化は、昆虫の成功の大きな要因になった。
 チョウの幼虫は、葉をむしゃむしゃ食べるが、成虫は蜜(みつ)を吸う。カマキリは魚を捕らえて食べる。
 シロアリは、世界に2500種いて、生態系は他のほとんどの昆虫よりはるかに大きい。シロアリは土壌に酸素を運び、大量の糞を取り除き、地下深くから無機物を運び上げる。
600頁もの部厚さで、昆虫に関する全容を教えてくれる、百科全書のような本です。
(2024年8月刊。3960円)

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