弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法

2020年9月10日

深層、カルロス・ゴーンとの対話


(霧山昴)
著者 郷原 信郎 、 出版 小学館

著者は元特捜検事の弁護士です。その指摘することの多くは納得できるのですが、次の点は、まったく同意できません。
経営者の高額報酬は悪かという点です。日産はその利益が7500億円なので、経営者であるゴーンに支払われた年20億円の報酬は「悪」として非難されるべきことではない。著者は、このように主張します。本当に、そうでしょうか...。従業員、現場で働いている労働者の賃金との対比はまったく考慮の外においていいものなのでしょうか、私にはとうてい承服しがたいところです。
そして、「フリンジ・ベネフィット」というものがあるそうです。
レバノンとブラジルに日産(ないし子会社)所有の住宅があり、ゴーンとその家族が自宅として使用しているものがあった。また、プライベート・ジェットもゴーンの自家用飛行機として使われていた。
これらは、著者の言うとおり刑事責任が生じるものではないかもしれませんが、いずれも、いくらなんでも私物化がひどすぎる気がしてなりません。サラ金最大手の武富士の武井会長の自宅が会社所有で、会社の研修所名目だったことを思い出します。
ニッサンの従業員なら、誰でも使える家であり飛行機であるならともかく、実際にはゴーンとその家族しか使えなかったとしたら、所有名義はともかくとして、民事責任だけではないような気もします...。
ゴーン氏の事件は、特異な経緯で刑事事件化された特異な事件であり、一般的な刑事事件の「犯罪者逃亡」として扱うべきではない。
著者のこの指摘には納得できるところがあります。それにしても、著者がこの本で指摘しているところですが、ゴーンの不正を調査したのが監査役だったというのは、私も腑に落ちません。
監査役が社長(代表取締役)に言わずに巨額の費用をかけて調査できるはずがない。まさしく、そのとおりだと思います。では、いったい、誰が、ゴーンの「不正」を調査したのでしょうか...。いろいろ謎だらけの事件です。もっともっと知りたいところがたくさんあります。
(2020年4月刊。1700円+税)

2020年8月 7日

過労事故死――隠された労災


(霧山昴)
著者 川岸 卓哉・渡辺 淳子 、 出版 旬報社

久しぶりにすばらしい本に出会いました。200頁ほどの本ですが、その圧倒的な迫力に心が震えます。その一は、司法の良心を覚醒させた母親の心底からの叫びです。その二は、母親の訴えを正面から受けとめ、それを文章にあらわし、実に格調高い和解勧告文をつくりあげた裁判官です。その三は、悲惨な労災・事故死の事案であるにもかかわらず、抜けるような青空の下で光輝くヒマワリの花を表紙とした本にまとめあげたことです。
著者の一人である川岸卓哉弁護士は、私もかつて在籍していた川崎合同法律事務所の所属です。こんな素晴らしい成果をあげた後輩を心から讃えたいと思います。
事故は2014年4月24日午前9時ころ、24歳の青年が徹夜勤務から原付バイクで帰宅途中、川崎市内の路上で電柱に衝突して亡くなったというものです。青年は、大手デパートなどの店向けに植物をディスプレイする仕事に従事していました。
残業時間の長さには思わず目を疑ってしまいます。事故前1ヶ月は127時間、2ヶ月は82時間、3ヶ月は43時間、4か月は33時間、5か月は87時間そして、6ヵ月は152時間。ウソでしょ、そう叫びたくなります。発症前1ヶ月に100時間を超える残業労働は過労死認定の関連性が認められているのです。
しかも、単に長時間労働というだけでなく、深夜・不規則労働をしていたのです。というのも、店舗内の観葉植物などの設置・撤去ですから、どうしても営業時間外の深夜・早朝の作業になってしまうのです。仮眠すら、仮眠室ではなく、ソファーや段ボールの上でしかとれなかったのでした。
そして、通勤時間は原付バイクで片道1時間、往復2時間をかけていました。これでは、いくら24歳といっても体力の限界ですよね。脳挫傷で即死という悲惨な事故でした。これは、残念無念ですね...。
そして、母親は裁判に踏み切り、意見陳述しました。驚くべきことに、裁判官が、その意見陳述を聞いて、こう述べたというのです。信じられません。
「失われた命の重みを受けとめ、真摯に審理をします」
弁護士生活も46年になりますが、いまだかつて、こんなあまりにもまともな言葉を裁判官の口から聞いたことがありません。いつだってポーカーフェイス、無表情で、「余計なこと」は一言だって言わないぞ、そんな裁判官がほとんどです。
そして、この橋本英史裁判官(35期)は、和解勧告のときにこう言ったのです。
「同じ年齢(とし)の息子がいます。我がことと考えて、書きました」
いやあ、法廷でこんな言葉を聞いたことなんか一度もありません。こんなセリフを吐かせる母親の迫力には私の心まで震え、おののきます。
そして、和解勧告文の格調高さは圧巻です。ええっ、裁判官ってここまで書いていいの...と、思わず内心どよめきました。
この裁判には、実名を出して立ちあがった母親を国民救援会の川崎南部支部が力強く支え、また川岸弁護士を私と同世代で過労死問題のエキスパートである松丸正弁護士が力強く応援しています。メディアの応援も力強かったようです。地元の神奈川新聞、そして朝日新聞としんぶん赤旗です。
裁判傍聴者についても「もの言わぬ弁護団」として高く評価されています。いやあ、すごい本です。川岸弁護士のすばらしさは、この点を強調しているところにもあります。
裁判が公正にすすめられているか監視すること、傍聴者が事件を知り、当事者(時ではありません)と弁護士を励まし、裁判官に公正な判断を迫るという役割があるのです。
和解勧告文を、公開の法廷で橋本英史裁判長が30分以上もかけて読み上げたというのを読んで、思わず腰を抜かしてしまいました。そんなこと、聞いたこともありません。いえ、裁判長が法廷で和解勧告することは、よくあることなんです。ところが、この本に格調高い和解勧告文の一部が紹介されていますが、こんな長文のものなんて、少なくとも私は聞いたことがありませんし、知りません。
「当裁判所は、本件事故にかかる本件訴訟の解決のありようについて、真摯に、深甚に熟慮すべきであると考えるところである。裁判所とは......、和解による解決として、真の紛争の解決と当事者双方にとってより良い解決をすることをも希求する職責を国民から負託されていると考える。本件における裁判所の判断が公表されることは、今後の同種の交通事故死をふくむ『過労事故死』を防止するための社会的契機となり、また、同種の訴訟における先例となり、これらの価値を効果は、決して低くはないものとみられ、むしろ高いものとみることができる」
和解決定文は15頁もあり、30分かけて橋本英史裁判長が読みあげたのでした。裁判官が、官僚ではなく、一個の人間として、人の心の琴線にふれる文章をつむいだのです。
事件に取り組む姿勢、そして解決した事件を世の中に広く知ってもらうための工夫、いずれもまだ35歳という若き川岸弁護士の力量の素晴らしさに圧倒されました。一人でも多くの弁護士に読まれるべき本として心から強く推薦します。
ちなみに判例時報2369号に9頁あまりの長大な評釈と、13頁にわたる和解勧告決定の全文が載っています。私は知りませんでしたので、あわてて書庫から判例時報をひっぱり出してきました。これもぜひご一読ください。
(2020年5月刊。1500円+税)

2020年7月31日

共にたたかい共に楽しむ


(霧山昴)
著者 小牧 英夫 、 出版 かもがわ出版

86歳になって、これだけの本を書けるというのは実に素晴らしいことです。
弁護士生活60年(司法修習10期です)をふりかえって、10件の裁判闘争を詳しく解説し、また趣味の話も展開されていて、楽しい読みものにもなっています。
私が小牧弁護士の関わった裁判闘争でなにより紹介したいと思うのは、八鹿(ようか)高校事件です。これはマスコミの限界として今も残念ながら横行しているタブーにかかわります。
これは私の認識ですが、部落差別イコール悪、それを糾弾する部落解放同盟イコール正義といわんばかりの短絡的思考が世間にあり、裁判所にもマスコミにも強い影響を及ぼしていたように思います。すると、マスコミは「正義」の部落解放同盟(解同)のやっている現実の暴力には目をふさぎ、タブー扱いし、何も報道しなくなるのでした。その典型が1974年10月に起きた兵庫県立八鹿高校の教師集団に対する監禁・傷害事件です。私はこの年に弁護士になった(神奈川県川崎市で、です)ばかりで、残念ながら八鹿の現地には行ったことがありません。
「解同」は糾弾会と称して教師集団と吊るしあげ、暴行を加えていました。暴力が人心を荒廃させる点で深刻な問題だというのは、私も大学生のころ東大闘争に関わり全共闘の暴力にさらされていた経験があるので、ひしひしと分かります。
一連の暴力による被害者は200人。兵庫県警は5000人の警察官を動員して4人の被疑者を逮捕するなどして、14人の起訴にもちこんだ。
小牧弁護士たちは、被害者から被害状況を刻明にききとり、さらに第三者である目撃者を探し出して確保した。この当時、見た暴力行為を事実ありのままに証言するのは大変勇気のいることだったのです。
刑事裁判では、裁判所は「解同」に甘く、いずれも執行猶予にしてしまいました。「糾弾権の行使」として、傷害罪を宥恕するなんて、信じられません。恐らく裁判官自身も怖かったのでしょう。それほど「解同」タブーは強かったのです。
しかし、小牧弁護士たちは刑事法廷では脇役でしかありませんでしたが、民事の損害賠償請求事件では主人公たる原告側として行動し、「解同」幹部に損害賠償を命じる判決を獲得することができました。「解同」の暴力を批判する宣伝活動が暴力によって妨げられてはいけないというのは当然のことですが、兵庫県では、そのあたりまえのことを現実化するために大変な苦労と労力が求められたのでした。
さらに小牧弁護士たちは行政の誤りを正すべく行政訴訟を提題して成果をあげています。最後に残るのは、「解同」の暴力を黙認した警察の責任です。小牧弁護士は、それを明確にできなかったことから「今後に課題を残した」としています。まったく同感です。
小牧弁護士が弁護士になりたてのころの勤務評定反対闘争(キンピョートーソー)についても、今では考えられない時代の変化を感じます。
高知県には620人の校長がいて、その87%が教員組合の組合員であり、その多くが勤評反対闘争を容認していたとのこと。いま教員の日教組への加入率は8割どころか、半数にも達していないと報じられています。労働組合は自分の権利を守るために必要なものなんだという感覚が、今どきの若者にはないのが、とても残念です。
小牧弁護士が担当していた労働事件で、大阪地裁の網田覚一裁判長は、甲高い声で早口に証言する労働役員に対して、「そんなシャモが焼酎飲んだような言い方せんと、もっとゆっくり分かるようにしゃべってくれ」と注文をつけたり、法廷で居眠りをしている傍聴人を見つけて、「私たちは一生懸命に裁判しとる。眠るんなら、法廷の外で寝てくれ」と注意した。いやあ、すごいこと言う裁判長です。座布団3枚は差し上げます。
先日、福岡地裁で裁判官への忌避申立の現場にいました。一見すると当事者の言い分に耳を傾ける真面目なポーズをとるものの、実は実体的審理に踏み込む勇気のないことを告白するような訴訟指揮でしたので、こんな予断と偏見にみちた裁判官を排除するのは、国民として当然の権利だと思いました。ところが、私がショックだったのは、その裁判長は、ポーカーフェイスだったのかもしれませんが、あくまで平然とした態度で、最後まで自分の訴訟指揮に問題は何もなかったといわんばかりだったのです。裁判官の官僚続制というのは、当の本人はまったく無自覚なのだというのを絵に描いたようにあらわした場面でした。
290頁の本に60年の弁護士生活が濃密に込まれていると思いながら、コロナ禍のもとで読みすすめ読了しました。ちょっぴり難しいところもあるかもしれませんが、ぜひとも、若手の弁護士の多くに読んでほしいものです。
(2020年4刊。1600円+税)

2020年7月29日

響きあう人権


(霧山昴)
著者 大川 真郎 、 出版 日本評論社

私は著者とは弁護士会活動を通じて知己を得たのですが、著者自身は、その前には国際人権活動に活動の軸足を置いていたとのこと。この本を読んで、著者の国際人権分野での交友の広さを知り、とてもうらやましく思いました。
私自身は、アメリカに弁護士有志の視察で行ったとき、ろくに英語を話せず赤恥をかいたこと、弁護士会の役職に就いてベルリンの国際会議に参加したとき、壁の花でしかなく、東澤靖弁護士などの活躍をじっとみているだけだったことを、今さらながら冷や汗とともに思い出します。毎日毎朝フランス語を勉強していますが、これもボケ防止の側面が強くて、とても、まともなフランス語会話ができるわけではありません。今さら謙遜なんてする柄ではありませんので、これは残念ながら本当のことです。
それはともかくとして、本書で登場してくる国際舞台の広さには目をむいてしまいます。
ギリシャのペリアリ村、地中海のマルタ、フランスのノルドマン弁護士と裁判官たち。アメリカの弁護士・裁判官たち。そして、ソビエト(ソ連)の法律家たち。まだまだ、あります。スペインのマドリードのメーデー、キューバのカストロ大統領の大演説をじかに聞いたこと、インドでの国際会議、そしてフィリピン人の人権派弁護士が次々に殺される話、韓国・中国の人権派弁護士の苦難、その延長線上のオウムによる坂本堤弁護士殺害事件...。
国際会議では、カンボジアの大虐殺を免れた唯一の弁護士会と出会います。また、チリのアジェンデ大統領の下で司法大臣だった人たち。彼らは記念の写真をとることも拒絶したのでした。エジプトにも人権派弁護士がいました。モンゴルからも韓国からも、そして遠くトルコからも駆けつけた弁護士がいたのでした。
インドの国際会議の話では、熊本の竹中敏彦弁護士の話も登場します。目に見える形での貧富の差の激しさがありました。日本も、次第にそうなりつつある気がします。
国際会議に参加すると、通訳の日本語がとんでもないレベルのときがあり、まるで意味が分からなくなり、すごくフラストレーションがたまります。かといって自分では話せないのですから、レセプション(懇親会)に出るのは苦痛でしかありませんでした。一緒にアメリカに行ったことのある加島宏弁護士(大阪)の通訳は見事でした。
日弁連で一緒になることの多い上柳敏郎弁護士を尊敬する所以です。
フィリピンの人権派弁護士は今も殺害されているようです。本当にひどい国だと思います。その話を聞くたびに心を痛めます。
韓国の「民弁」の活躍は目を見張るものがあります。長く続いた軍事政権があまりにひどかったことの反動からでもあるのでしょうね。韓国映画『弁護人』は、私もみましたが、あとで大統領になった廬武鉉(ノムヒョン)弁護士がモデルです。そして、今の文在寅(ムンジュイン)大統領も「民弁」出身です。先日セクハラ疑惑の渦中で自殺したソウル市長も「民弁」でしたよね。「民弁」出身の弁護士が2人も大統領になったり、ソウル市長になったり、いったい日本とどこが違うのでしょうか。
枝野幸男・立憲代表や福島みずほ・社民代表も人権派弁護士と言っていいのだと思います(どれほど実績があるのか、残念ながら知りませんが...)。が、国民の人気という点では、韓国に比べて今ひとつですよね。そして、自民党には森まさ子とか稲田朋美という、司法試験の合格レベルを疑われるという、まさかの低レベルのとんでもない弁護士もいますが...。
「シンク・グローバリー、アウト・ローカリー」(世界を視野に、行動は足を地に着けて)をモットーとして生きてきたつもりの私ですが、もっと国際的な交友を深めておくべきだったと反省するばかりでした。そんな反省を迫られる本ではありましたが、読後感はすかっとさわやか、というよりほのぼの感がありました。心優しい著者の人柄のにじみ出た、読みやすく分かりやすい文章にも改めて感銘を受けました。わずか150頁足らずの本でしたので、届いたその日のうちに読了し、その直後に一気に、この書評を書きあげたのでした。ひき続きの健筆を期待します。
(2020年7月刊。1500円+税)

2020年7月28日

逆転勝利を呼ぶ弁護


(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版 学陽書房

勝訴・有利な和解に持ち込む弁護のスキルというのがオビのフレーズですが、まさしくそのとおりの内容が見事に展開されていて、私は大変勉強になりました。
序文に、「まだまだ未熟な弁護士」だと著者は謙遜していますが、どうしてどうして弁護士生活25年というまさに油の乗り切った大ベテランですし、味わい深い文章のオンパレードのため、私などはいたるところに赤エンピツでアンダーラインを引いてしまいました。それほど含蓄深くて、何度も読み返したくなる本です。
負け筋の事件は、どう負けるかが問題で、上手に負けて依頼者の被害を最小限にとどめる必要がある。そして、負け筋事件は、小さな失敗の中で教訓を学んで成長し、大きな失敗を回避する絶好の機会だ。
勝訴判決を得るためには、法的安定性を重視する裁判官がもっとも抵抗なく受け入れやすい論性を組み立てていく必要があり、そこにプロフェッショナルとしての知恵が求められる。
世の中の紛争は、0か100かでは、いかにも妥当性を欠く事案がほとんどだ。なので、和解をうまく利用し、うまく負けて、実質的に勝つという工夫が求められる。
弁護士は依頼者との関係で、勝つことよりも、結論に至るプロセスが決定的に重要だ。訴訟は、当初の予想どおりに進むとは限らないが、そのときどきで依頼者に適切な情報を提供し、共有していくことが、実は「勝つ」ことよりも大切なことだ。
控訴理由書は長ければいいものではない。基本的な観点や事実を、分かりやすい言葉で、また分かりやすい比喩(たとえ)を使って裁判官の心に伝えることが大切だ。
人権弁護士は常に労働者側でなければならないというのは誤解だと著者は主張します。私もまったく同意見です。横領など、労働者側に非がある事件も多々あり、企業がその秩序を守るために適切な防御措置をとるのは組織として当然のこと。そして、それが他の労働者の権利や利益を守ることにもつながる。私も同感です。
事件を通じて自分の仕事ぶりを評価してくれる依頼者を増やすことは、きわめて大切だ。これまた、まったくそのとおりです。
別荘地の管理費訴訟は現在、冬の時代だと著者は言います。どうやら管理会社の管理費用請求が認められることが多いようです。しかし、マンション問題のエキスパートでもある著者は、別荘地の管理も、昔とちがって今ではマンション管理と同じように考えてよいのではないかと主張してよいと言います。このような著者の意見は合理的だと思うのですが、裁判所は別荘地は金持ちの道楽という意識が強いようで、管理会社が苦労して管理しているのだから、その苦労に「タダ乗り」せず、管理料くらい支払えとすることが多いのだそうです。
九州でも別荘地の分譲にともなうトラブルが多発した時期がありましたが、別荘地の管理会社とのトラブルというのは聞いたことがありませんでした。その点でも本書は大いに参考となります。
ヒマな弁護士には大切な事件は頼むなと私は先輩弁護士から叩きこまれました。忙しいからこそ感覚が鋭敏となり、限られた短時間のうちに要点を把握し、主張・反論の骨子を組み立てることができる。まことに、そのとおりです。まさしく運命のいたずらが時に顔を見せるのです。
著者の扱った7つの実例を紹介しながら、そこから教訓を引き出しています。プロフェッショナルとしての弁護士を目ざす人に強くおすすめの一冊です。
佐賀県出身であり、東京で(ときには海外まで)大活躍している著者から贈呈していただきました。いつも、ありがとうございます。
(2020年7月刊。2600円+税)

2020年6月21日

法の雨


(霧山昴)
著者 下村 敦史 、 出版 徳間書店

司法、つまり裁判官と検察官、そして弁護士の三者が登場する推理小説です。ネタバレはしたくありませんが、弁護士一筋の私からすると、高検の検察官がマル暴対策の警察官と組んで暴力団事務所に乗り込むというストーリー展開は、いくらなんでも...、という違和感がありました。
それでも、法曹三者のかかえている問題が市民向けに語られているところは、なるほど、そうも言えますかね...、と思わざるをえませんでした。
まずは裁判官です。たいていの裁判官は検察官の主張に首の下までどっぷり浸っていて有罪判決を連発するばかり。ところが、たまに無罪判決を次々に書く裁判官がいます。この本では、「無罪病判事」として揶揄の対象になっています。1人で15件も無罪判決を書いたから、検察官は「病気」(偏見をもっている)だと決めつけているのです。
有名な木谷元判事は何件の無罪判決を書いたのでしたっけ...。
検察が起訴した事件の有罪率は99.7%。検察庁内では、3回も無罪判決を受けた検察官はクビになると、まことしやかにささやかれている。恐らくそんなことはないと思いますが、無罪判決が検察庁に打撃を与えることは間違いありません。
それにしても、「無罪病判事」は、疑わしきは罰せず、というキレイゴトを馬鹿正直に守ったことの結果だという表現があるのは弁護士の一人として悲しくなります。それは、何も検察側に「完璧で無欠な立証を要求」しているのではありません。有罪立証すべきは検察であり、それに合理的な疑いが存在したら無罪とすべきなのです。
検察官のバッジは秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)と呼ばれている。秋の冷たい霜や夏の激しい日差しのごとき厳しさが職務に求められているということを意味する。
検察官バッジがくすむにつれ、青臭い正義感は経験と引き換えに失ってしまった。
そして、弁護士。成年後見人に弁護士が職業後見人として選任されている。しかし、この成年後見人制度は、高齢者や障害者を苦しめる制度だ。それを知らず、大勢がすがって、被害にあっている。現状は、まともに機能していない。
これは、なんと手厳しい。しかし、この評価は、被後見人の財産を利用したいという立場の親族によるものだと思います。そんなにひどい制度だとは私は考えていません。
国も自治体も銀行も不動産屋も、こぞって成年後見人制度を推進している。しかし、それは現実を何ひとつ知らない人々が安易に申立して、被害にあっているのだ。
さすがに、それは言い過ぎだと、今も成年後見人を何件かつとめている身として、思います。
ストーリー展開には違和感をもちつつ、いったいこの先どうなるのか興味深々で、最後の頁まで一気に読了してしまいました。
(2020年4月刊。1600円+税)

2020年5月22日

国策・不捜査―森友事件の全貌


(霧山昴)
著者 籠池 寿典、赤澤 竜也 、 出版 文芸春秋

森友事件で籠池夫妻のみが強制捜査の対象となり、刑事裁判になっているのは、どう考えても納得できません。巨悪を逃れしてはいけないのです。
森友事件の本質は、9億円の土地が1億円に大幅値引きされたこと、この8億円の値引きは地下3メートルより深い地点に「新たなゴミ」が発見されたからという理由から。しかし、実は、そんな「新たなゴミ」なんてなかったし、8億円もの値引きにつながるものではなかったのです。
では、何があったのか。それこそ、ズバリ安倍首相案件だったからです。昭恵夫人が前面に出てきますが、その裏には首相本人がいたのです。そのことを当事者として関与した近畿財閥局の担当官A氏(赤木氏)は、苦悩したあげく、ついに自死されました。
いったい、誰がそこまで追い込んだのか...。ところが、財務省の上司たちは、その後、実は、順調に昇進していき、現在に至っています。信じられません。昭恵夫人の秘書役だった谷氏もイタリアの駐日大使館へご栄転の身です。
私は、つくづくこんなキャリア官僚のみちに足を踏み入れなくて良かったと思いました(いえ、大蔵省なんて望んでも入れない成績でしたけど...)。
稲田朋美氏は弁護士として古くから籠池氏と関わりがあるのに、国会では、「ここ10年ほど会っていない。かすかに覚えてほどで、はっきりした記憶はない」、「籠池氏の事件を受任したこともなければ裁判をしたことも法律相談を受けたこともない」などと答えていた。
ところが、籠池氏は、この本のなかで稲田朋美・龍示夫妻(いずれも弁護士)に森友学園の顧問弁護士になってもらい、担保権抹消の裁判を依頼したりして、深く関わっていたことを明らかにしています。
ということは、稲田朋美弁護士(議員)は、とんでもないウソをついていたことになります。そんな人物が自民党を代表してテレビ討論会に堂々と登場してくるのです...。
「安倍晋三記念小学校」という名称は、実は、安倍首相の自民党が野党のときのことで、首相になったあと、昭恵夫人が、現役の首相になったので、この名前を辞退したいと申し入れたとのこと。
なーるほど、と思いました。それほど、籠池夫妻は安倍晋三という議員に思い入れがあったわけです。
ところが、安倍首相は、そんな籠池氏を国会という公の場でバッサリ切り捨てたのでした。
「非常にしつこい人物」
「名誉校長になることを頼まれて、妻は、そこで断ったそうです」
「この籠池さん、これは真っ赤なウソ、ウソハ百...」
すべては、安倍首相が「私や妻が関係していたということになれば、間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということをはっきり申し上げておきたい」と、2018年2月17日の国会で答弁したことに端を発している。
これだけ「関係していた」ことが明らかになっているのだから、今なお安倍晋三が首相どころか、国会議員であることが不思議でなりません。世の中、ウソが通れば、マコトがひっこむというのを地で行っています。
しかも、このような人が「道徳教育」に熱心なのだから、世の中はますます狂ってきますよね...。プンプンプン。
堂々480頁もある本です。籠池氏の怒りがびんびんと伝わってきます。保守主義者、天皇主義者そして生長の家信者というところは何ら変わっていないとのこと。それでも安倍首相を支持する側から、反対する側にまわったことは明確です。いわば、日本人として良識を取り戻したということなのでしょう...。
(2020年2月刊。1700円+税)

2020年4月28日

平成重大事件の深層


(霧山昴)
著者 熊﨑 勝彦 (鎌田 靖) 、 出版 中公新書ラクレ

東京地検特捜部長として高名な著者をNHK記者だったジャーナリストがインタビューした本です。8日間、のべ25時間に及ぶロングインタビューが読みやすくまとめられています。
「これは墓場までもっていく」といった場面がいくつかあり、いささか物足りなさも感じました。要するに自民党政治家の汚職事件です。
ゼネコンなどが大型公共工事で談合していることは天下周知の事実なわけですが、途中に「仲介人」が入っていたら刑事事件として立件できない、著者はこのように弁解しています。一見もっとものようにみえますが、本当に「仲介者」を攻め落とせないのか、そこに例の忖度(そんたく)が入っていないのか、もどかしい思いがしました。
登場するのは、リクルート事件、共和汚職、金丸巨額脱税事件、大手ゼネコン汚職事件、証券・銀行の総会屋への利益供与事件、大蔵省汚職事件です。
スジの良い情報をとれば、捜査は半分成功。
厳正な捜査を貫くことが捜査の基本だが、そのなかで国民目線でものを見ていくことも重要。国民の視点をつねに留意する。捜査というのは、途中で後戻りする勇気も合わせもたないとダメ。
事件捜査は、離陸がうまくいっても、肝心なことはうまく着陸できるか...。
金丸信副総裁への5億円ヤミ献金事件では、金丸信を実情聴取もせず、上申書のみで、罰金20万円で終わらせた。これに国民は怒った。怒った市民が検察庁の看板をペンキで汚すと、同じ罰金20万円だった。
著者は、この金丸副総裁の件を罰金20万円でよかったと今も考えていると弁明しています。とんでもない感覚です。金丸信は、現金10億円を隠していたのです。いったい何という政治家でしょうか...。これが自民党の本質ですよね。
ゼネコン汚職事件について、談合が過去形であるかのように語られているのも納得できません。
高度成長期に建設業界が長いあいだ公共事業で潤っていたことが明らかになった。その旨味(うまみ)を、談合をとおして特定業者に分配する構造が浸透していた。
さらに、談合は受注側だけじゃなくて、発注者側も加担している。つまり官製談合もはびこっていた。このような隠れた社会システムのなかで、建設族とか運輸族とかの族議員や地方自治体の長らが幅を利かせていた。
これって、今もそのまま生きているように私には思えるのですが...。
レストランの奥の部屋にゼネコン4社の談合担当者が集まり、全部で現金1億円をトランクに入れ、それをまるごと仲介者に手渡した。そして仲介者が仙台市長に渡した。
今も、同じことがされているのじゃないのでしょうか...。
物足りなさもたくさんありましたが、特捜検事の苦労話としては面白く読みました。
(2020年1月刊。980円+税)

2020年4月24日

法医学者が見た再審無罪の真相


(霧山昴)
著者 押田 茂實 、 出版 祥伝社新書

DNA鑑定など、法医学者として多くの刑事事件に関与した体験をもとにしていますので、大変説得力があります。
この本の最後のところに、裁判官が間違った判決を出したことが明らかになっているのに、冤罪として無罪になっているにもかかわらず、有罪判決を書いた最高裁判事が「勲一等」「旭日大綬章」といった勲章を受章したままになっているが、本当にそんなことでいいのかと著者は怒りを込めて疑問を投げかけています。私もまったく同感です。無実の人を十分な審理をせずに誤った判決を下したとき、その裁判官に授与された勲章は国があとで取り上げるべきではないかと私は思うのです。
そこで思い出すのは、最高裁長官だった田中耕太郎です。裁判の当事者の一方と秘密裡に会い、合議の秘密をもらしたうえ、判決内容まで指示され、そのとおりにしたことが明らかになったのです。ひどいものです。砂川事件の最高裁判決は田中耕太郎がアメリカ大使から受けた指示のとおりになったのです。
裁判の独立をふみにじった、こんなひどい男はまさに日本の司法の恥です。ところが、客観的に明らかになっても、今の最高裁は何の措置も講じようとはしません。これでは、要するに同じ穴のムジナだと言うほかありません。司法の堕落です。
著者の鑑定結果と刑事判決が一致しない判決が10件以上もあるということです。これにも驚きます。つまり裁判官は法学者の鑑定を無視した判決をいくつもしているわけで、決して「例外」ではないのです。
先日の大崎事件の最高裁判決にも驚かされました。最高裁の裁判官にはあまりにも謙虚さが欠けていると思います。
弁護士生活46年になる私にとって、裁判不信は刑事裁判に限りませんが、刑事は死刑判決だったり、長期に刑務所に拘留されますので、民事以上に深刻だと思います。
(2014年12月刊。800円+税)

2020年4月 1日

裁判官も人である


(霧山昴)
著者  岩瀬 達哉 、 出版  講談社

 井戸謙一元裁判官は、裁判官には3つのタイプがあるといいます。
一番多い(5~6割)のは一丁あがり方式で処理する。次に多い(3~4割)のが杜撰処理する。そして、1割にも満たないのが真実を見きわめようとして当事者の主張に耳を傾ける裁判官。これは46年間になる私の弁護士生活にぴったりの感覚です。たまに、人格・識見・能力ともに優れた裁判官に出会うことがあり、本当に頭が下がります。でも、普段は信用のおけない裁判官に対処するばかりです。ええっ、と驚く判決を何度もらったことでしょうか...。
青法協の会員だった裁判官が次々にやめていった「ブルーパージ」は、決して「過去の遺物」ではない。その影響は今に引き継がれている。多くの裁判官を心理的に支配してきたし、今も支配している。つまり、既存の枠組みをこえることにためらい、国策の是非が問われる裁判において、公平かつ公正に審理する裁判官が少なくなった。当時も今も、ほどほどのところで妥協すべきという空気が、常に裁判所内にはびこっている。
平賀書簡問題のとき、札幌地裁の臨時裁判官会議は、午後1時に始まって、午前0時ころまで延々12時間にわたって議論された。しかも、平賀所長は当事者だからはずし、所長代行の渡部保夫判事もあまりに平賀所長寄りなので司会からはずされた。そして、裁判官会議は平賀所長を「厳重注意」処分に付すという結論を出した。これはこれは、今では、とても信じられない情景です。
最高裁の判事と最高裁調査官とのたたかいも紹介されています。滝井繁男判事と福田博判事の例が紹介されています。最高裁調査官は最高裁判事をサポートするばっかりだと思っていましたが、実は意見が異なると、最高裁判事を無視したり足をひっぱったりしていたのですね。ひどいものです。
また、矢口洪一最高裁元長官が陪審制の導入に積極的だったのは、長官当時に冤罪事件が次々に発覚したことから、裁判所の責任のがれのための「口実づくり」だったというのも初めて認識しました。それでも私は裁判員裁判の積極面を評価したいと考えています。
「ブルーパージ」のあと、若手裁判官が気概を喪い、中堅裁判官に覇気がなくなった。部総括(部長)に負けないで意見を述べる気概のある裁判官が減り、部総括にしても、部下の意見を虚心に受けとめるキャパに欠ける人が増えている。これまた、私の実感と一致するところです。
こんな裁判所の現状を打開する試みの一つが裁判官評価アンケートです。これはダメな裁判官を追放するというより、ちょっぴりでもいいことをした(している)裁判官を励まし、後押しをしようというものなんです。
ぜひ、あなたもその趣旨を理解して、ご協力ください。
(2020年1月刊。1700円+税)

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