弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2021年4月27日

対米従属の構造


(霧山昴)
著者 古関 彰一 、 出版 みすず書房

読みすすめるほどに怒りが湧き立ってくる本です。もちろん、著者に対して、ではありません。日本の為政者と、それを無関心と棄権によって許している多くの国民に対して、です。
有名なアメリカの歴史家ジョン・ダウアーは、日本をアメリカの「属国」とみていた。ワシントンの基本的な戦略および外交政策に反対しないという意味で日本政府は従属的性格を有する。
戦後のアメリカは、植民地主義帝国ではなく、間接支配を特徴とした。親米政権とそれを担うエリート層を大切にする。
日本の領土は、日本政府を通じて、その全土がアメリカの「使用」の対象になっている。
ところが、日本人の多くは、「日本は従属国家だ」と正面切って言われると、抵抗を感じてしまう。そうなんですよね。そして、日頃ブツクサ言うくせに、投票所に足を運ぼうとはしません。
日米安保条約を日本国民の圧倒的多数が支持している。しかし、仮に日米安保がなくなったら、日本はどうなるのだろうと誰も考えない。そもそも、「仮に...」という発想がない。
非常時において、司令官は日本人ではなく、アメリカ人がなる。アメリカ人の司令官が日本軍を指揮するという本質は変わっていない。
朝鮮半島有事の際には、朝鮮戦線での米軍の指揮は米空軍が、日本防衛の指揮は在日アメリカ軍が指揮することになっている。
PKOについて、日本政府は「平和維持活動」と訳している。しかし、本当は「平和維持作戦」とすべきものだ。
平成の30年間は、日本にとって「平成は有事の時代」であった。これは、有事法が雨後の筍(たけのこ)のように誕生した1990年代以降の日本の状況である。
「平成」とは、新自由主義改革のなかで、「公社」の民営化、選挙制度改革、地方自治体の合併、司法制度改革(裁判員裁判、法科大学院)などの大改革がすすんだ時代だ。
そして、1989年に世界トップの座にあった日本の国際競争力は、新自由主義改革と有事法制下の軍事力の強化によって、30年後には30位へと転落した(2019年)。
ここでいう「国際競争力」とは、失業率、社会的結束度合い、腐敗、GDP、教育支出などの指標から算出した結果だ。したがって、平成とは、あらゆる面で「失われた30年」でもあった。
陸上自衛隊には、5方面隊があり、「分割」されていた。ところが、2018年3月に5方面隊すべてを統合する「陸上総隊」が新設され、防衛大臣の直轄となった。そして、この陸上総隊のなかに「日米共同部」が設けられた。それはアメリカ軍のキャンプ座間のなかにある。日米共同部とは対米従属を絵に描いたような組織だ。究極の「従属」形態の一つだ。
ドイツ・イタリアは施設整備費、従業員労務費、光熱水費のすべてをアメリカ軍に負担させている。韓国は光熱水費のみをアメリカ軍に負担させている。ところが、日本は、そのすべてを自らが負担し、アメリカ軍には負担させていない。
そこで、アメリカ軍の駐留経費を負担している額は、ドイツ16億ドル、韓国8億ドル、イタリア4億ドルに対して、日本は44億ドルと突出して高い。日本におけるアメリカ軍の駐留経費の75%は日本が負担している。
教育・福祉予算については、いえ司法予算についても、ひたすら削減を強いている日本政府は、アメリカ軍に対しては、どこまでもゲタの雪で、文句ひとつ言おうともしません。情けないかぎりです。
日本は、他国の追随を許さない、自発的にして傑出した対米従属国家というほかない。ホント、嫌になりますよね...。
日本人の核への無知、無頓着、無関心という指摘がありますが、日本の現実についても同じように言えますよね、残念ながら...。みなさん、ぜひ投票所に足を運んで、きちんと意思表示しましょう。私からの切なるお願いです。
(2020年12月刊。税込3960円)

2021年4月25日

森の記憶


(霧山昴)
著者 柴垣 文子 、 出版 新日本出版社

定年すぎた夫婦。子どもたちは結婚して家を出て、孫たちが遊びに来る。しかし、その両親はどうやら不仲らしい。思春期にかかった孫娘は表情に暗さがあり、屈託なかった小学生の男の子(孫)も口数が少なくなった。親は子どもの夫婦関係に口を出してはいけない。そう思っていても、ついつい口を出してしまう。
教員夫婦だったが、妻のほうは病気がちで早く退職して専業主婦になって、モノカキを始めた。文章を書いて、その状況描写に読者をひきずり込むためには、草花の名前や鳥の名前を知ったうえで、その違いにうんちくを傾ける必要があります。この本にも、たくさんの花、植物そして鳥の名前が登場します。
タラ、コミアブラ、コゴミ、ユキノシタ、ソヨゴそして野甘草。いずれも、タラを除いて、私には分かりません。タラの芽だけは見れば分かります。
ハッチョウトンボ、コゲラ、イカル、カワセミ、ヒヨドリ、ルリビタキ、オオタカ、コガモ、小サギ、カイツブリ、ノスリ、ヒドリガチ。イカルの声は優しい、なんて書かれても具体的なイメージはつかめませんが、ほんわかとした気分にはなります...。
そして、夫がお腹の調子がよくないと言っていたのが、病院に行くと、大腸ガンの末期だと判明する。すると、病院での光景、そして会話が展開していく。
小説というのは、こうやって情景を描写しながら書いていくものなんだね、そう思いながら、モノカキ志向の私は、頁をくっていきました。
自然との関わりあい、そして、社会といかに関わっていくか、病気になっても積極的に生きていこうとする夫のけなげな姿に心が打たれます。
同年輩、そして少し年下の知人にも病気とたたかいつつ亡くなった人が、もう何人もいます。70歳すぎたら、いつ、何が起きても不思議ではありません。いまも突然ギックリ腰のようになってしまいました。昨年は、椎間板ヘルニアで急に歩行困難になりました。
無理なく、でも、自分の思うように生きていきたい。そして孫たちとも一緒に遊んでいたい。そんな思いで毎日を大切にして生きています。しみじみと、そんな気にさせる本でした。
(2020年12月刊。税込2530円)

2021年4月23日

学問の自由が危ない


(霧山昴)
著者 佐藤 学、上野 千鶴子、内田 樹 、 出版 晶文社

菅(スガ)内閣はコロナ禍対策は、いつまでたっても無為・無策、もうどうしようもない無能政権としか言いようがありません。中途半端な経済対策優先で、PCR検査もワクチン確保も不十分なまま。経済的補償もせず、国民に自粛を強制し、首相官邸では酒盛りするだなんて、まるで狂っています。そして、アベのマスクに引き続いて「別人格」の息子を使った接待攻勢で国の政策を歪めても、「民間人」なので、国会への証人喚問なし(ええっ、籠池氏も民間人でしたが...?)。
そして、日本学術会議の任命拒否問題は、そのまま逃げ切ろうとしています。年間10億円も(!)出しているので、政府に任免権があるのは当然...。アベノマスクは400億円ものムダづかいしたのに...、内閣官房機密費は年間12億円が領収書不要で使い放題なのに...。おかしなことが、まるでそのまままかりとおるという変な日本社会です。
日本学術会議会員として推薦された6人の学者の任命を菅首相は拒否した(2020年10月1日)。これは「クーデタ」だ。現代のクーデタでは、軍隊は出動しないし、戒厳令がしかれるわけでもない。奇襲ではあるが、変化は緩やかに進行する。しかし、本質は同じ。秘密のうちに計画して奇襲の対象を1ヶ所に定め、人々は傍観者にされ、事件の真相が分かったときには国家と社会が覆されている。クーデタの成功の可否は、奇襲の対象をどこに設定するかにある。菅首相が対象としたのは日本学術会議だった。
この任命拒否に対しては、800をこえる学会200をこえる団体が抗議声明を公表した。科学者がこれほど大規模に連帯したのは、歴史上初めてのこと。
日本学術会議は、2008年以降、答申を一つも出していない。なぜか...。政府が諮問(しもん)しないから。日本学術会議は、政府からの諮問がなくても自発的に321もの提言・勧告を発出している。つまり、年間10億円の予算以上の働きはしているのです。そして、会員のほとんどは、手弁当で、学問の将来のために献身している。
日本国民の少なからぬ人々が学術会議の任命拒否問題の深刻さを感じていない。
この状況をどうしたら克服できるか...。ただ、警鐘を鳴らすだけではダメ。理由と根拠をあげて納得してもらう。そのとき、譲らない。妥協しないことが肝要。言葉をかみくだいて、広く一般の人に「納得して」もらえるのか...、にかかっている。
この大切な問題を風化させてはいけません。タイムリーな本です。
(2021年1月刊。税込1870円)

2021年4月22日

ルポ入管


(霧山昴)
著者 平野 雄吾 、 出版 ちくま新書

埼玉県川口市は、かつて鋳物(いもの)産業で栄え、吉永小百合主演の映画『キューポラのある街』(1962年)の舞台となった。現在は、東京のベッドタウンとして、人口60万人の街。ここに3万9000人の外国人が住む。これは東京都新宿区、江戸川区に続く全国3位の多さだ。そして、2000人ほどのクルド人が住んでいる。
在留資格のない「仮放免」の外国人は、通常、1ヶ月に1回、入管当局に出頭する。そのとき仮放免の許可が延長されたら、そのまま社会生活を送ることができるが、不許可になったら入管施設に収容される。多くの場合、判断の理由は示されない。
入管施設の全収容者数の半分超にあたる680人が半年をこえる長期収容者だ。3年とか4年という収容者もいて、8年も収容されているイラン人がいる。
出口の見えない収容のため精神を病む外国人も多く、2018年4月、インド人男性が自殺した。自傷行為や自殺未遂も相次いでいる。入管当局によると、2017年には、合計44件の自殺未遂が発生した。
東日本センターは茨城県牛久市にある。収容定員は700人。入管庁は、強制退去を命じられた外国人を、東京や大阪の地方入国管理局のほか、東日本センターや大村センターなど、計17ヶ所に一時的に収容する。
入管施設では、通常、集団の居室に入れられ、1日5~6時間の自由時間を除いて、居室内での生活を強いられる。外部との連絡はテレホンカードを利用した電話とアクリル板で分断された部屋での1回30分間の面会のみ。刑務所と違って、作業をさせられることはない。
仮放免許可が取り消され、再収容された外国人は、2017年に537人、その前、2012年に121人。4.4倍に増えている。
収容期間が長期化し、半年以上も収容されている外国人の割合が30%(335人)から50%(713人)に急増した。
入管当局によると、2008年に160人だった強制送還者は、2020年3月には、チャーター機をつかって、たとえばスリランカに44人も強制送還した。入管当局は航空会社と協議(?)したうえで、チャーター機による強制送還をすすめている。数千万円の予算をかける。
入管施設には常勤の医師はいない(2019年12月の時点)、非常勤医師が対応するだけ。
2018年6月、大阪の入管で、最大6人用の居室に収容者17人が入ったまま、職員が24時間以上も施錠を続けた。
大村センターでは、2019年6月ハンストが原因で40代のナイジェリア人男性が一人亡くなった。入管施設内で、タバコを忍び込ませたり、タバコ1本5000円で売買されている。
非正規滞在者の大部分を占める不法残留者は29万800人ほど(1993年)にピークを迎えたあとは減少傾向。2004年には、21万9000人となった。
入管当局は、2009年以降、在特許可の厳格化に方針転換する。2004年に1万3239人だった在特許可人数は、2018年にはわずか137人になった。
コロナ禍の前、2019年の訪日外国人は3188万人だった。在留外国人は283万人。過去最高を記録した。入管当局は、「広範な裁量権」にこだわってきた。強大な権限を手放したくないのだ。
日本の難民認定は1%未満。これは、実際には受け入れたくないというホンネを反映したもの。難民申請者は、2010年の1202人が2015年に7586人となり、2017年には2万人近くへ16倍となった。日本の難民認定率はG7諸国に比べて格段に低い。日本の認定者は42人、人口10万人あたりわずか0.03人。ドイツ68人、カナダ46人、フランス45人、イギリス18人、アメリカとイタリアは11人。
裁判で、裁判所は国の主張を一貫して追認している。全国で926件の提訴があるなかで(1977~2018年)、地裁で勝訴したのが69件、高裁の勝訴は31件。
日本で入管職員は名札をつけていない。番号札をつけている。日本では、名前をなくすことで、組織の一部になって、責任を負う立場だと自覚しなくなる。大変勉強になる本でした。
(2020年10月刊。税込1034円)

2021年4月18日

キネマの神様


(霧山昴)
著者 原田 マハ 、 出版 文春文庫

いやあ、うまいですね、しびれます。著者のストーリー展開の見事さにはまいってしまいます。映画好きの私には、たまらない本でした。
この冬に山田洋次監督によって映画化されるというので、あわてて読みました。なんと、2011年に初版が出ていて、すでに32刷なのですね(2020年2月)。申し訳ないことに、この本の存在自体を知りませんでした。
解説を片桐はいりが書いています。大変失礼ながら、私はその名前を聞いたこともありません。「キネマ旬報」に映画(館)にまつわる話のあれこれを書いている人のようですね。
それはともかく、「三度の飯の次くらいに映画が好きな映画ファン」というほどではありませんが、私も月に一度は映画館で映画を見たいと思って、それを励行しようとがんばっています。なので、映画案内を見逃すことはしません。
この本に出てくる銀座和光ウラの「シネスイッチ銀座」というのは、私も上京したときによく行く、小さな映画館です。「ニュー・シネマ・パラダイス」を単館で公開した映画館だったというのですが、私はこの素晴らしい映画をどこでみたのか、残念なことに覚えていません。
著者の父親が映画をずっとみていて、その短評を自分のノートに書きつづっていた。それをブログにあげ、好評だったので、英語にしたところ、意外な反応があった。しかも、アメリカのプロ級の映画評論家からの反応があり、父親との丁々発止が世界の映画ファンから注視されるまでになった...。
ここでは紹介しませんが、そこに展開される映画評の奥深さは、ひょっとして、これって小説ではなくて、実話なんじゃないの...、そう思わせるほど真に迫っています。著者の作家としての力量のすごさは完全に脱帽です。
それにしても、映画って、いいですよね。私は読書しても本の世界に没入できるのですが、映画は本とは違って、視覚的に、また暗い映画館のなかで明るいスクリーンと一対一で対峙していて、体験として心の中に残っていく深さがあります。
いやあ、いい本でした。ぜひぜひ映画をみてみたいです。山田監督、よろしくお願いします。今から楽しみ、ワクワクしています。
(2020年2月刊。税込748円)

2021年4月15日

ロッキード


(霧山昴)
著者 真山 仁 、 出版 文芸春秋

1976(昭和51)年7月27日、田中角栄は迎えに来た東京地検特捜部の松田昇検事とともに車に乗り込み東京地検に出頭した。午前7時27分のこと。弁護士3年生の私は、この日、たまたま東京地裁に裁判があって行ったところ、東京地検前は黒山の人だかりでした。角栄逮捕後まもなくのタイミングで通りかかったというわけです。田中角栄を連行した松田検事は横浜修習のときの修習指導担当検事でした。
580頁もある部厚い、この本は角栄逮捕に疑問を投げかけています。ロッキード事件において、田中角栄は、本当に有罪だったのだろうか...、という疑問です。
田中角栄がアメリカの事前了解をとらずに日中国交を回復したのがアメリカ政府の逆鱗に触れたからという説が有力ですが、本当にそうなのかということです。
キッシンジャー国務長官が田中角栄を「嘘つき」だとして嫌っていたのは事実のようですが、もともとアメリカ政府の高官は、みんな、日本と日本人を属国、言いなりになる連中だと軽蔑していたわけです(残念ながら、今もです...)ので、本当にそれが理由になるものかというのは、再考の余地がありそうです。
ロッキード事件の丸紅ルートを担当した元最高裁判事(園部逸夫)は、「フワフワと現れて、フワフワと消え去った事件」だったと語った。田中角栄にまつわる被疑(告)事実は、信じられないほど、曖昧だったという。いやあ、本当にそうなんでしょうか...。
アメリカのロッキード社は自社機の売り込みのために総額30億円の賄賂(わいろ)を日本政府高官にばらまいた。そのうちの5億円を田中角栄はロッキード社の代理人である丸紅(商社)から受けとった。賄賂の金額の単位は「ピーナツ」と書かれていて、日本法にない「嘱託尋問」がアメリカで行われて有罪認定の「証拠」になるなど、異例の展開だった。
日本側の捜査に、アメリカは、司法省、SEC、そしてFBIまで、とても協力的だった。これがアメリカ側の意図をいろいろ推認させることにもなったわけです。
キッシンジャーも、田中角栄をはじめから嫌っていたのではなく、当初は、使い勝手が良い人間だとみていた。
田中角栄は日中国交回復を実現したが、熱心な中国シンパだったわけではない。
しかし、日本が独断専行したこと、これがアメリカ、キッシンジャーには許せなかった。日本は、いかなるときでも、アメリカの方針に服従(盲従)すべき存在なのだ...。キッシンジャーは怒った。
この本において、5億円というのは、角栄にとっては「はした金」でしかなかったというのが、大きな意味をもって書かれています。ええっ、5億円が「はした金」なんですか...、声も出ませんよね。
「バカッ!オレがそんなもの(5億円の賄賂)をもらうとでも思うのか。なんで一国の総理大臣が、そんな外国(アメリカ)の一私企業のために、お金をもらわなければいかんのだ」
角栄は本気で怒っていたという。5億円というのは、経団連がもってきた「総理就任祝い」でしかない。
「総理大臣の仕事は、絶対に戦争をしない、国民を飢えさせてはいけない、これに尽きる。それ以外は、些末(さまつ)なこと」
これが角栄の口癖だった。いやあ、これは立派です。アベやらスガに呑み込ませ、言わせてやりたいセリフですよね...。
5億円を角栄は4回に分けて、現金で受けとったというが、それは奇妙だ、信じられないという提起があります。でも、まあ、弁護士である私は、ちょっとおかしいけれど、完全否定の根拠としては乏しいとしか言いようがありません。世の中は不可解なことだらけなのですから...。
この本は、民間機の導入により、軍用機の売り込みのほうが本命だったのではないかと指摘しています。さもありなんですよね。P-3C、F35、ともかく、とんでもない「金喰い虫」を日本はアメリカから次々に買わされているのです。そちらで巨額のお金が動いているのは事実でしょう。そんな軍事予算偏重なので、福祉・教育予算は削られる一方なんです。この軍事予算の黒い疑惑を日本のマスコミは、ほとんどメスを入れ、報道することがありません。残念です。
ロッキード事件の陰にかくれてしまった重大なことがあるという著者の指摘は、今なお莫大な軍事予算がアメリカがらみで増大中でもあり、大いに共感できます。
(2020年2月刊。税込2475円)

2021年4月13日

ぼくがアメリカ人をやめたワケ


(霧山昴)
著者 ロジャー・パルバース 、 出版 集英社

著者は1967年9月に日本にやってきました。私が、その年の4月に福岡から上京して大学生としての生活を始めたころになります。私は6人部屋での寮生活をはじめて、人間の社会というのを少しずつ分かっていきました。
著者は1944年生まれですから、私より4歳だけ年長です。21歳のとき、アメリカを離れて自分探しの旅に出たのです。日本で宮沢賢治に出会い、人生における意味と目的を発見したのでした。
著者がこの本で言いたいことは、みんなが自分なりにグレイト(great)な人生を送ることができる。それは、「情け心、ミンナニデクノボートヨバレテモとホメラレナクテモ」という気持ちにあふれた人生をさす。そうなんですよね...。
著者はユダヤ人です。ユダヤ人の天職は三つ。医師、弁護士そして公認会計士。
なるほど、アメリカの有力法曹にはユダヤ人が多いようです。
ところが、著者は、三つのいずれにもなりませんでした。
著者は、謝る理由なんかないと確信していても気前よく謝罪しようとする性格だそうで、それが「根拠のない謝罪」をする国である日本での長年の暮らしで役に立ち、日本文化に同化するための助けとなったのだろうとしています。
うむむ、残念ながらあたっていますよね...、と書いて、いやいや日本の首相は違うぞと、思い直しました。前のアベ首相は妻を「私人」だと言いはり、今のスガ首相は長男について「完全に別人格」と開き直って、苦しい弁解も謝罪もせずに強行突破を図ったのでした(ています)。日本人を代表しているはずの首相がそうだとしたら、ちょっとばかり認識を変える必要がありますよね...。
アメリカでは偽善の上に二つのアメリカが成り立っている。表向きの上品ぶったアメリカと、裏の悪徳だらけのアメリカ。
そうですね、トランプ前大統領はその二つを見事に結合させていましたね。
著者は生前の井上ひさしと親交があり、小沢昭一とも面識がありました。
ソ連の偉大なスパイだったゾルゲを助けた尾崎秀実(ほつみ)について、祖国を愛するあまり、祖国がアジア太平洋地域で無数の人々を犠牲にするのを許せなかった英雄として、現代日本人は大いに讃えるべきだと強調しています。私も大賛成です。
あまりにも多くの罪なき日本人を死に至らしめた人間こそ「売国奴」と言うべきですから、死刑となった東条英機を見直す前に尾崎秀実こそ英雄として見直さなければなりません。売国奴なんて、とんでもありません。
ベアテ・シロタのことも紹介されています。日本国憲法に人権条項を盛り込むことに功績のあるユダヤ系アメリカ人です。この「シロタ」というのは、孤児を意味していて、ユダヤ系の名前としては珍しくないということを始めて知りました。
著者は、日本人と暮らしてみて、度を越した謙遜はうぬぼれの印だということもあることが分かったといいます。ヘイトスピーチに走る日本人は、まさしくうぬぼれに溺れたかっているのでしょうね。日頃、職場で認められていない自分を鼓舞するため、他人をおとしめてヘイトスピーチをして、自分を高くもちあげようというのです。まさしく、さもしい根性です。
日本とは、どんな国なのか、アメリカを対比させながら考えている貴重なヒント満載の本でした。
(2020年11月刊。1800円+税)

2021年4月 8日

にほんでいきる


(霧山昴)
著者 毎日新聞取材班 、 出版 明石書店

外国から来た子どもたちは日本語が話せないまま、放置されているのではないか...。
在留外国人は過去最高の293万人(2019年12月)。
100の地方自治体に住民登録していた義務教育年齢の6~14歳の外国籍の子ども7万7000人のうち、就学不明(学校に通っているかどうか確認できない)子どもが2割、1万6000人。全国には2万2000人。その多くは、日本に「デカセギ」に来た外国人労働者の子どもだ。
久里浜少年院には、「国際科」がある。日本語のほか、ごみ出しなどのルールや日本の習慣・文化を教える。1993年に設置され、2020年までに300人が学んだ。
全国の1100超の自治体は、学校に通っていない子どもがどんな状況に置かれているか、まったく確認していない。
前川喜平・文科省の元事務次官は、外国籍の子どもの保護者にも就学義務があることを適用すべきだとしている。本当にそうですよね。便利な「人材」として受け入れたのは日本なのですから、その子どもに日本は責任をもつのが当然です。
法令に「外国籍を除外する」という文言はないので、当然のこと。まったくそのとおりです。人間を大切にしない政治はダメです。
子どもに通訳をつけてもダメ。通訳は、あくまで言語サービスであり、日本語教育ではない。うむむ、なーるほど、そうですよね...。
日本国内の学校や教室に通う日本語学習者は26万人。1990年度の4倍超。これに対して日本語教師が4万人のみ、しかも、その大半はボランティアと非常勤。
これはいけません。こんなところにお金を使わないなんて、政治が間違っています。人間を大切にするのが政治の役目です。
2019年に公表された日本語指導調査によると、日本語教育が必要な児童・生徒は5万人超(外国籍4万人超、日本籍1万人超)で、2016年の調査より7千人近く増えた。無支援状態の児童・生徒が1万1千人もいる。
15~19歳の不就学・不就労は、フィリピン16%、ペルー11%、ブラジル11%、ベトナム10%。学校に通っているのは、中国と韓国・朝鮮で8割超。ブラジル63%、フィリピン57%、ベトナム53%。
外国籍の生徒の高校中退率は10%近く、全体の7倍にもなる。
コンビニのレジに外国人が立ち、日本語で応対するのはもう日常の風景です。そんな彼ら彼女らが、どうやって日本語を身につけたのか、あまり考えたことがありませんでした。もっと小さい、小学生のときに日本に来たら、どうするのか、どうしたらよいのか、私たち大人はもっと周囲に目を配る必要があります。そして、そこにきちんとお金と人を手当てすべきだと改めて思ったことでした。
(2021年2月刊。税込1760円)

2021年4月 1日

政党助成金、まだ続けますか?


(霧山昴)
著者 上脇 博之 、 出版 日本機関紙出版センター

河井議員夫妻が有罪となり、どちらも議員を辞職しました。当然のことですが、問題は買収資金となった1億5千万円が自民党本部から出ていて、しかも、政党交付金という税金が使われていたのではないか、ということです。その点が解明されずに幕引きするのは許されません。
自民党の二階幹事長が「他山の石」と放言しましたが、まさしく「自民党の石」であって、他人事(ひとごと)ではありません。
河井夫妻も1億5000万円が自民党本部からもらったこと、そのうち1億2000万円が政党交付金だったことを認めています。
政党交付金は1994年の「政治改革」の産物です。政治腐敗を防止するため、政党を助成するという名目でしたが、「政治とカネ」のスキャンダルは今に至るも続いていて、まさしく「泥棒に追い銭」状態。
自民党の元議員たち(金子恵美、豊田真由子)は、選挙のとき実弾(現金)が飛びかっている状況を真のあたりにして驚いたと告白しています。自民党の金権腐敗選挙に私たちの税金が勝手放題に使われているというのですから、許せません。
政党交付金は、政党が消滅したとき、残金があれば国庫に返還すべきは当然です。ところが、この本によると、解散寸前に、あちこち勝手に「寄付」してしまって国庫に返還していないというのです。これまた許せません。プンプンプンです...。
橋下徹の「維新の党」は、解党する寸前に9912万円を寄付した。橋下徹は、国庫へ返還すると約束したのを平然と反故(ほご)にしてしまった。ひどい話です。「日本のこころ」(中山恭子)、「希望の党」(松沢成文)も同じでした。
政党交付金は税金を減資としていますから、説明(報告)義務があります。ところが、その内訳の一つ、「人件費」は、いつ、誰に、いくら支払ったという明細を記載しなくてもよいというのです。信じられません。
総額の8千億円をこえる政党交付の7割、6千億円近くは自民党に交付されます。消費税値上げを推進してきた自民党の活動資金の多くを私たち国民の税金が支えているというわけです。いわば自民党は国営政党なのですが、本当に私たち国民のためになる政治をしているとは、私には、とても思えません。コロナ禍の対策にしても、GoToトラベルとかイートとか、アベノマスクに始まって、一部の大企業などが不当にボロもうけして、肝心のPCR検査やワクチン確保は大幅に遅れ、医療・福祉は切り捨てる一方...、ひどい政治をやりたい放題です。
それもこれも、投票率の低さ、政治不信をあおるばかりの一部マスコミの論調に大きな原因があるとしか思えません。みんなで投票所に足を運んで、ダメなもの、嫌なものにはキッパリ「ノー」という意思表示をしないといけません。
改めて、怒りをフツフツとたぎらせてくれる本でした。あなたもぜひ読んでみてください。
(2021年2月刊。税込1320円)

2021年3月30日

菅義偉の正体


(霧山昴)
著者 森 功 、 出版 小学館新書

「庶民宰相」として高い支持率でスタートしたものも束の間、たちまちメッキがはげて正体があらわになって、支持率は低迷中。GoToトラベル、オリンピックにしがみついて、コロナ対策は国民の自粛まかせで、政府としての無策・無能ぶりには呆れるばかりというか、怒りを覚える毎日です。
前のアベ首相は、ペラペラペラと平然とウソをつきましたが、今度のスガ首相は、「ひたすら、何の問題もない」かのように装い、言葉で国民の前に立ち説明し尽くそうとはしません。
裏でコソコソと黒子役ばかりを演じてきたスガ首相は、表の舞台で語る才能もコトバも持ちあわせていないようです。平時ならともかく、コロナ禍の渦中にあっては、日本人全体の不幸を招く首相としか言いようがありません。
スガは、「秋田の農家の長男として生まれ、集団就職で上京...」と紹介されていたが、「集団就職」とは真っ赤なウソ。スガは、秋田の裕福なイチゴ農家で育ち、父親は町会議員を4期もつとめる町の名士(実力者)。高校を卒業して、集団就職ではなく東京の工場(段ボール会社)に就職したが、2年遅れで法政大学に入学した。
スガの母親も2人の姉も教員。スガ本人も北海道教育大学を受験したが失敗。イチゴ農家を継げという父親に反発して上京して就職した。集団就職とは関係ない。
法政大学法学部を卒業したあと、大学就職課に相談して、横浜選出の小比木(おこのぎ)彦三郎・衆議院議員の書生(秘書)になった。それがスガの政治家人生の始まり。
スガは総務大臣としてNHKの会長人事に口を出し、自民党によるNHK支配を強めていった。
橋下徹の「大阪・維新」と接近した。
沖縄では、翁長(おなが)県知事と対決した。
横浜にカジノを誘致しようとしている。これで横浜港のドン(藤木)とケンカ別れした。
GoToイートのおかげで「ぐるなび」は息を吹き返した。「ぐるなび」の滝はスガの強力な応援団の一人だ。
そして、楽天の三木谷浩史、金権腐敗の学者と目されている竹中平蔵...。また、スガを支える官僚としては不倫騒動で名前を売った和泉洋人、...。ろくな人物は周囲にいませんね。
菅首相の正体を知るには手ごろの新書です。
(2021年2月刊。税込1100円)

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