弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2022年9月 8日

「検証・統一教会=家庭連合」


(霧山昴)
著者 山口 広 、 出版 緑風出版

 統一協会・原理研・勝共連合問題の第一人者である著者が今から5年前に出版していたものが、先の安倍銃撃事件のあと、増刷されました。なお、この本の元になったのは、1993年春に刊行された『検証・統一協会―霊感商法の実態』です。このときは「統一協会」となっていますが、今回は「統一教会」となっているのは、世間一般の認識にあわせたのでしょう。でも、私はやっぱり「統一協会」と書くべきだと考えています。本人が「協会」としているのに、わざわざキリスト教の教会と混同させる名称を使うべきではないからです。統一協会は、キリスト教とは無縁だし、教会でもなく、要するに宗教に名を借りて「無知」の人々から大金を騙しとる詐欺集団、反社会団体なのです。ですから、統一協会を徹底的に批判するとき、宗教の自由など、まったく問題になりません。「カルト」指定して、活動禁止すべきなのです。
 裁判所は、統一協会のインチキ商法について次のように判決しています。
 「契約締結に至ると、不安感等を抱いた客の心理状態を巧みに利用して、即座に支払えるだけ現金を支払わせたうえ、印鑑を購入したことを他言しないように言って口止めをするというもので、巧妙で悪質である」
 統一協会は勢力減退中であり、若者の入信者が激減し続けているため、信者の高齢化が進行し、平均年齢は55歳。かつて合同結婚式に参加した信者夫婦の多くは50歳をこえ、多くの二世が成人しているが、その7割は統一協会から離れている。現在、統一協会は、既婚女性中心の2万人から3万人ほどの集団とみてよい。年150億円が国内運営費として必要であるが、韓国にある本部から年に300億円を送れと指示されているので、その資金獲得目標の達成を常に目標とする資金集め活動が中心の教団。
 文鮮明は、23歳年下の韓鶴子とのあいだに7男7女をもうけたが、そのうち4人は既に亡くなり、うち5人以上に離婚歴がある。
 韓国の統一協会の信者は、日本のように高額の献金はしない。
 韓国では、文鮮明は教祖というより、統一教グループの総師として、多くの会社を経営し、莫大な財産をもつ大金持ちとして知られている。
 「韓国人が人間なら、日本人は犬ころ以下」
 「韓国人ならこじきでも、日本人の貢献した人より上に立つ」
 こんな主張をしている団体と手を結んだ安倍元首相や高市、稲田らの日本右翼グループの存在意義を疑います。
 統一協会は、70人もの自民党の国会議員の秘書を送り込んだ。これらの「秘書」たちは、国会議員との政策のすりあわせもしていただろう。 国会議員は、統一協会の集会のメッセージやスピーチをする。また、政治献金を税金からもらう。
 1991年12月、文鮮明は突如、北朝鮮を訪問し、金日成とにこやかに握手した。これには驚きました...。反共を看板にしている団体が、最も過激な北朝鮮トップと手を握ったのですから...。
 文鮮明は、アメリカで脱税犯として裁判にかけられ、1年半の実刑判決を受け、実際にも服役した。文鮮明は2012年9月3日、92歳で死んだ。そのあと、後継者となるはずだった七男と四男はアメリカへ放逐されたのでした。莫大な利権のからむ後継者争いは、今、故文鮮明の妻・韓鶴子が握って、一応の決着がついているようです。
 統一協会の問題が明るみになった今、積年のウミにどっぷり浸ってきた自民党の国会議員たちには、いったん全員が辞職し、身体をきれいにして出直してもらいたいものです。
(2022年7月刊。税込2750円)

2022年9月 7日

日米地位協定の現場を行く


(霧山昴)
著者 山本 章子 ・ 宮城 裕也 、 出版 岩波新書

 日本のなかにあるアメリカ軍基地、そしてアメリカ軍の勝手気ままな行動を見るにつけ、日本は本当の意味で独立国家ではないことを痛感させられます。自公政権を支持している人は、アメリカに日本は守られているのだから、少しぐらいのことは辛抱すべきだと考えているようですが、私には、とても「少しぐらいのこと」とは思えません。
 たとえば、アメリカの大統領は日本に入国するのに、羽田空港ではなく横田基地を利用します。羽田空港と違って、横田基地はアメリカ軍人は全員フリーパス。入管の検査を受けることがありません。
 私は、これだけでも、ひどいと思います。コロナ禍の下でもそれは変わりませんでした。アメリカ軍の兵士と家族は、入出国が日本政府のコントロール下には置かれず、まったく自由なのです。信じられません。
 東京の港区六本木というと、東京のなかでも超一等地。そこにアメリカ軍基地があります。横田基地から、この赤坂プレスセンターまでヘリコプターで移動します。赤坂プレスセンターの宿舎は、1泊6千円で、一室に2部屋ある。こんなに安いのは、例の「思いやり予算」でまかなわれているから。
 アメリカ軍の関係者は、日米地位協定9条によって外国人登録が免除されているため、自治体に住民登録する必要がない。すると、住民税などの税金を負担しなくてよい。それでも、市民サービスの恩恵は受けている。住民税の代わりに調整交付金なるものが自治体に支払われるが、その原資は日本国民の税金であって、アメリカ軍は負担していない。ええっ、ウッソー、嘘でしょ、と叫びたくなります。
 2004年8月13日に普天間飛行場に隣接する沖縄国際大学にアメリカ軍の飛行機が墜落したとき、日本の警察すら現場から排除された。50人ものアメリカ兵が大学構内に無断進入し、1週間にわたって大学を占拠・封鎖した。これが日米地位協定の運用の現実です。日本政府は抗議のひとつもしませんでした。情けないというしか言いようがありません。
 沖縄では、アメリカ軍基地から大量の有害物質が流出している疑いがある。なので、付近住民は水道水は、そのまま飲まないほうがいい。泡消火剤に含まれているPFOS・PFOAの流出問題。これは有機フッ素化合物で、これによって子どもが低体重で生まれ、精巣がんや腎細胞がん、甲状腺疾患などに関連している疑いがある。なんと、なんと、ひどいものです。
 沖縄県知事選挙が始まりましたが、自公政権はアメリカべったりの政策をすすめるために、それに少しでも歯向かえば予算を削減するという、露骨なアメとムチ政策を続けています。でも、経済振興策って、平和を前提としていますよね。アメリカ軍の基地・宿舎をなくして、跡地を再開発して莫大な経済効果が生まれましたよね。アメリカ軍の基地を沖縄経済の発展を阻害していることは実証ずみなのです。沖縄県民の良識をひたすら信頼するばかりです。
(2022年5月刊。税込990円)

2022年9月 6日

税財政民主主義の課題


(霧山昴)
著者 浦野 広明 、 出版 学習の友社

 税金は、国民と国家との契約であるという契約思想が日本人になく、支配者が国民から一方的に取り立てるものという考えから日本人は抜けきっていない。
 租税は国家と納税者である国民との契約であり、納税者の支出するお金によって国家の活動が支えられている以上、納税者は自分の出したお金が何のために使われているのかを知る権利があり、自己の支出・負担にふさわしいサービスを国家から受ける権利あるいはそれを国家に求める権利がある。これを納税者の権利という。なーるほど、そうですよねぇ、うん。
 2020年度に納税者が不服申立して、その主張が全部認められたのは審査請求で2.8%(2328件のうち65件)、税金裁判では4.4%(157件のうち7件)だけ。国税不服審判所や裁判所に不服を申立すること自体がごくわずかで、しかもほとんど救済されていない。これではいけませんよね・・・。
飲食料品については消費税率を8%にすえおく措置を「軽減税率」と言うけれど、とんだ茶番劇。なぜなら、この軽減税率は、国民の消費税負担をやわらげることはないから。
 消費税が導入されたのは竹下内閣のときで、1988年12月のこと。3%でスタートしました。もう34年も前のことです。「福祉の充実のため」という口実でしたが、消費税の税率が10%になった今も、福祉のほうは充実したどころか、悪くなる一方です。そして、富裕層の優遇は強まる一方。相続税の最高税率は70%だったのが、今では55%でしかありません。
 日本の超大企業は、ほとんど税金を納めておらず、消費税は戻り税といって、もらう一方になっています。信じられない現実があります。
マイナンバーは、国家がヒト(人間)を名前ではなく動物なみに12ケタの番号で管理し、監視するというもの。個人番号カードは、12ケタの番号が記憶されたICチップ入りのプラスチック製のカード。これは、特定の目的に限定されず運用される。
 税務争訟を選択する納税者はきわめて少なく、裁判はほとんど機能していない。
なぜか・・・。それは、裁判すると、税務署が報復として、反面調査などして納税者に対してあからさまな嫌がらせをすることが常態化しているからです。そして、大企業は税務署を手なずけるために税務署OBを自社の顧問にかかえこんでいます。日本の税務行政は昔ながらの縁故主義がまかりとっているのです。
 著者は以前から「請願権の行使」を提唱してきました。今では、税務署当局も、それを受け入れるようになりました。この点は、税務行政における貴重な一歩前進です。ぜひ、みんなで「請願権の行使」を活用したいものです。
 なお、コロナ給付金は「非課税」の対象というものではなく、そもそも最初から課税されることのない課税対象外だと著者は強調しています。ふむふむ、そうでしたか・・・。
大変勉強になります。著者から贈呈していただきました。ありがとうございます。
(2022年7月刊。税込1936円)

2022年9月 5日

マンガ最強の教科書


(霧山昴)
著者 石井 徹 、 出版 幻冬舎

 今の私はマンガを読むことはほとんどありません。マンガ週刊誌は読みませんし、アニメもみることはありません。それでも大学生のころは、寮でまわってくるマンガ週刊誌を楽しみにして、熱心に読んでいました。この本で、『あしたのジョー』の敵(かたき)役の力石徹のモデルがナポレオンだというのには、あっと驚かされました。
 ちばてつやは、顔に存在感、味をもたせるため、世界史の教科書にあったナポレオンの顔を思い出したというのです。そう言えば、力石徹の顔は、なんだか西洋人みたいですよね。エラが張っていて、やや鷲鼻(わしばな)で、顎(あご)が突き出ている。目が大きく、彫りも深く、髪は巻き髪。私も、なんだか変な日本人だなとは思っていました。でも、まさかまさか、ナポレオンの顔だったとは...。
 マンガを電子(ネット)で読む読者と、紙のマンガ雑誌の読者とは、まったく層が違っている。 ええっ、そ、そうなんですか...。そんな違いがあるのですか。よく分かりませんね、どんな違いがあるのでしょうか...。
 ネット上には、無料で読めるマンガが大量にあるとのこと。これまた、私には無縁の世界がるようです。
 ネットのソフト性能が飛躍的に向上して、斤ペンで描いたのと同じタッチでマンガが描けるようになったとのこと。すごいですね...。ただし、絵が平面的で、奥行きがない。
 マンガは2次元。2次元の一枚絵のなかに、肌の質感や奥行き、そして動きまでださなくてはいけない。この技術は訓練しないとムリ。
 マンガで絵がうまいというのは、デッサン力があるというのではなく、感情表現ができる人のこと。「いい表情」を描ける人が、「うまい人」だ。
 マンガづくりには、根気と情熱がいる。
 日本のマンガは、今や世界中に通用している。
 日本のマンガは、編集者がマンガ家と一緒につくっている、共同作業の産物。
マンガに必要なモチーフとは、素材や題材ではない。それは、作者の感動・情動のこと。
マンガの人気作品は、読者の喜怒哀楽を揺り動かす作品だ。
キャラクターの初期設定はとても大切。顔がいちばん大事。そして、いちばん大事なのは目。目で9割方、決まる。目に力がなければ、その人物を壊してしまう。目には、そのマンガ家の美的センスそのものが表れる。主人公の目は大きい。目が大きいのが二枚目。目がパッチリして白い歯が美しい人の特徴。
イチローとか武豊という天才をドラマの主人公にしたマンガは難しい。あまりに天才すぎると、読者に敬遠される。どこかで失敗や悩みがないと面白みがない。読者が見たいのは、感情であり、心理の動き。
なるほど、なーるほど、売れるマンガの編集者として苦労した人のマンガ必勝法です。売れないモノカキの私にとっても、大切なノウハウがぎっしり詰まった教科書でもありました。
(2022年6月刊。税込1870円)

2022年9月 4日

料理道具屋にようこそ


(霧山昴)
著者 上野 歩 、 出版 小学館文庫

 東京にはアメ屋横丁と同じように有名な、カッパ橋道具街があります。残念ながら、「アメ横」には行ったことがありますが、「かっぱ橋」にはまだ行ったことがありません。巣鴨のおじいさん、おばあさん銀座も、まだ話で聞くだけです。ぜひ一度行ってみようと思います。
 おろし金(がね)もいろいろ。ふわふわとした柔らかい食感が出るおろし金、シャキシャキした粗い食感になるおろし金、少しの力で大根がおろせるおろし金、金属アレルギーの人用のおろし金、一人暮らし用、一度に20人前の大根おろしをつくるための業務用、生姜(しょうが)用、チーズ用、ワサビ用、山芋用、柑橘系の皮用...料理人によって求める味わいも、使い勝手も、用途も違う。全ての人の希望をかなえる道具はない。
 でも、それに応じようとする料理道具屋があってもいい。効率を無視し、在庫回転率も無視する。ええっ、そんなんで商売人として生き残れるのでしょうか...。
 店が繁盛するのは、その店がどれだけ多くの客から愛されているかによる。うーん、分かりますけれど...。インターネット万能時代に、対面営業で、果たして生き残れるのか...。
 時代を変革するのは、いつだって、若者、バカ者、そしてよそ者だ。
 これは、弁護士の世界、そして法曹の世界にもあてはまる法則なのではないかと思います。
 和食の料理人なら、刺身などの切り身を薄く切る柳刃、野菜用薄刀、魚をさばくための出刃、それぞれ大小。こう数えると、少くとも6本の包丁を使い分ける。ともかく、日本料理にとって、包丁は、とても大事なことは明らか。
 ファミリー・レストランのショーウィンドーに飾ってある料理サンプルは日本独特のものだそうです。いかにも美味しそうに、よくできていますよね。一品料理をアラカルトで注文するときには、必須ですが、コースで注文すると不要。だけど、注文するまでのドキドキ感を味わうためには、食品サンプルも必要ですよね。
 そんなドキドキ感が伝わってくる文庫本でもあり、読みながら心の満ち足りた思いを楽しむことができました。
(2022年4月刊。税込814円)

2022年9月 1日

世界パンデミックの記録


(霧山昴)
著者 マリエル・ウード 、 出版 西村書店

 AFP通信(世界三大通信社)が変わりゆく世界をとらえた500点の写真がオールカラー愛蔵版として一冊にまとめられました。貴重な記録写真になっています。
 今、日本はコロナ禍第七波の猛威の下にあります。でも、政府は人々に対して何ら行動制限をしていません。病院はパンク状態になっているというのに、医療面でも何ら特別の手だてを講じていません。政府が今やっているのは、コロナ陽性患者の統計をとらないようにしようということ、そして、GoToトラベルの再開を延期したことくらいです。
 アベノマスクに始まった自公政権の無為・無策はひどすぎます。それでいて、「国土」防衛のための軍事予算は青天井で倍増するというのですから、呆れはてて、怒りの声も出なくなってしまいます。
 世界中、コロナ禍は至るところで無数の死者をうみ出しました。そして、死者との別れさえ困難にしてしまったのです。
ブラジルでは、霊柩車が墓地で渋滞し、墓地はあっというまに満杯になっていく。中国では、たちまちのうちに野戦病院がつくられた。 そして都市が封鎖され、町はすぐにゴーストタウンと化した。 完全防護服に身に固めた人々が町を消毒していく。ソーシャルディスタンスが常識となった。
そして、医療従事者はエッセンシャル・ワーカーとして社会から感謝される存在。しかし、過労のため、医師や看護師のなかにだって倒れる人が相次いだ。
いったい、いつになったら、このコロナ禍は終息するのでしょうか...。
身近な人々が次々に陽性となり、また濃厚接触となって、仕事を休み、自宅に閉じこもる。いやあ、本当に大変な世の中です。ロシアのウクライナへの侵略戦争と同じで、まったく明るい見通しをもてないというのは本当に辛いです。
  (2022年3月刊。税込3850円)

2022年8月24日

聞くだけの総理、言うだけの知事


(霧山昴)
著者 西谷 文和  、 出版 日本機関紙出版センター

 一見ソフトな「聞くだけの岸田」は、選挙前、あたかも新自由主義と決別するかのようなウソをついた。国民に寄りそうフリをして当面の選挙を乗り切り、あとですべてをホゴにする作戦に出たので、自民党は選挙で負けなかった。 
 「言うだけの吉村」は、分かりやすい。コロナ対策に「イソジンがいい」と明らかなウソを言ってのけた。これで塩野義製薬の株価が上がった。松井と吉村をトップとする維新の目玉はカジノと大阪万博。これには吉本興業と維新そして大阪財界がカジノ利権で結託している。吉本興業はカジノに隣接する劇場の運営利権を手に入れる予定。そして万博の大使(アンバサダー)に吉本の会長が、マネージャーのダウンタウンが就任。芸人が権力にすり寄っている。その代表格がダウンタウン。コロナによる死者は大阪が日本中で最悪。
 橋下徹は大手サラ金・アイフルの子会社の弁護士で、吉村知事はサラ金最大手だった武富士の弁護士だった。サラ金の顧問弁護士だから悪いということではありませんが、そんな仕事をしていたことは広く知られていいことです。
 大阪テレビ局の朝・夕のワイドショーに吉村知事がずっと出ている。大阪では「へつらい」がまかりとおっている。
 パソナの竹中平蔵は公共・切り崩し作戦。公務員を削って、パソナがもうかる仕組み。水道も鉄道も民営化して、パソナと竹中平蔵がもうかる仕組みをつくろうとしている。
 橋下徹の1回の講演料は200万円。年に何回もするので数千万円になっている。その原資は維新の会なので、結局のところ、私たちの税金。
維新の汚れた部分は報道されないので、なんとなく維新が改革者だと誤解している人が多い。でも、本当は違う。
 ロシアのウクライナ侵攻戦争で、1日2.5兆円の戦費がかかっている。それでもうけている人たちがいる。そんな人は戦争が早く終わるのを決して望んでいない。
 安倍首相はロシアのプーチン大統領と27回も会って、会食もし、3000億円を渡した。
 「ウラジーミル(プーチン大統領)、キミとボクは同じ未来を見ている。ゴールまで駆けて、駆けて、駆け抜けようではありませんか」。よくもまあ、こんなことを臆面もなく、言い切ったものですよね、聞いているほうが恥ずかしくて思わず赤面します。
 漫然とテレビも新聞も見ずに、好きなネット情報だけに頼っていると、維新を改革政党だなんて、とんでもない誤解をしてしまう。ホント、そうですよね。わずか160頁ほどの小冊子ですが、ぜひ多くの、とくに若い人に呼んでほしいと思いました。
(2022年6月刊。税込1430円)

2022年8月21日

花散る里の病棟


(霧山昴)
著者 帚木 蓬生 、 出版 新潮社

 九州で四代、百年続く「医者の家」が描かれている本です。
 「町医者」がぼくの家の天職だった。オビにこう書かれています。でも、戦争はそんな「町医者」を戦場にひっぱり出します。
 軍医にもいくつかのコースがあったのですね、知りませんでした。
 赤紙で招集される医師には相当な苦労が待っていた。まず二等兵で入営するから、ビンタなどの苛酷な軍隊生活を覚悟しなければならない。医師だからといって手加減されない。
ところが、軍医補充制度というものがあって、衛生上等兵となり、1ヶ月の軍人教育が終わると、衛生伍長として陸軍病院で軍人医学を学び、修了したら衛生軍曹になる。
 主人公は、再招集されて衛生軍曹から軍医見習士官となった。そして、フィリピンに派遣された。ルソン島の陸軍病院で働いていると、レイテ島への異動命令が出た。ところが、それは困ると上司がかけあってルソン島にとどまった。レイテ島に行った将兵は全滅した。運良く助かったというわけ。
 ルソン島では薬剤もなく、食糧も尽きてしまって、多くの日本軍将兵の患者は栄養失調のなかで死んでいった。運よく日本に帰国できたので、戦病死した上司の軍医中尉の遺族宅へ行き、当時の実情を報告した。
 現代の「町医者」の活動を紹介するところには、ギャンブル依存症を扱う精神科医に講演してもらったという記述もあり、著者が自分のことをさらりと紹介しています。
 また、コロナ禍に「町医者」がふりまわされている状況を描写するなかでは、例の「アベのマスク」に対する批判など、政府の対策の拙劣され対しても厳しく批判しています。
「町医者」を四代も続けるということが、いかに大変なことなのか、少しばかり実感できる本でもありました。
著者は、次はペンネームの由来である「源氏物語」の作者である紫式部の一生に挑戦すると予告しています。楽しみです。
(2022年6月刊。税込1980円)

2022年8月19日

死刑について


(霧山昴)
著者 平野 敬一郎 、 出版 岩波書店

 この著者の、ときどきの社会的発言は、いつも大変鋭く、共感することがほとんどです。
 このタイトルで著者が何を言うのか、恐る恐る読みすすめたのですが、まったく同感するばかりで、改めて著者の見識の深さに心より敬服しました。
 著者も、大学生のころは、なんとなく死刑制度「在置派」だったとのこと。死刑制度があるのも、やむをえないと考えていたのでした。今は「廃止派」です。
 恐怖心による支配の究極が死刑制度だ。
 人間に優しくない社会は、被害者に対しても優しくない。被害者への共感を犯人への憎しみの一点とし、死刑制度の存続だけで被害者支援は事足れりとしてきたことを私たちは反省すべきだ。
 いやあ、本当に、この指摘のとおりだと私も思いました。すごい指摘です。
 著者が死刑制度に反対するようになったきっかけの一つは、警察の捜査の実態を知ったから。この点は、弁護士生活48年になる私の実感にも、ぴったりあいます。
 日本の警察は(恐らく世界中の警察も、そうなんでしょう...)犯人が無実、つまり冤罪だとわかっていても、いったん「犯人」だと決めつけた以上、決して自らの過りを認めようとはせず、むしろ自分たちの正当性を守るため、場合によって証拠を捏造(ねつぞう)してまでする。その結果、死刑判決が下され、執行されても、警察は「自己責任」とウソぶくだけ。これが警察捜査の真実です。私は弁護士として体験的に確信しています。
 警察官にとって、やってもいない犯行を「自白」させるなんて、朝飯(あさめし)前のことでしかありません。窓のない狭い小部屋に押し込められ、一日中、「お前がやっただろ。やってないというのなら証拠を出してみろ」と怒鳴りあげられたら、フツーの人は3日ももたないと私は思います。私だって、2日以上もつ自信はありません。
 劣悪な生育環境に置かれて育っていたり、精神面で問題をかかえていたりして、それが放置されていたのに、重大な犯罪を起こしたら死刑にして、存在自体を決してしまい、何もなかったようにしてしまうって、国や政治、私たちの社会の怠慢なのではないのか...。
 著者の鋭い問題提起は胸に響きます。
 そして、死刑執行。法務大臣と法務官僚たちが、どのタイミングで、いつまでに何人執行しようか、政治状況をにらみながら話し合いをしている。こんな、人間の命を絶つことを同じ人間が話し合いながら決める、なんて、やっていいことなんでしょうか...。人を殺すための計画をたてて、話し合って決めるなんて、そんな話し合いは、根源的に誤っている。たしかに、私もそう思います。
 死刑執行のボタンを押すのは現場の刑務官であって、法務大臣でも法務官僚でもありません。刑務官の精神的負担の重さに、私はひしひしと痛みを感じます。
 自分の人生に絶望している人が「拡大自殺」として殺人行為を敢行する。そんな人たちに死刑という刑罰は、まったく意味がなく、抑止効果もない。本当に、そのとおりです。むしろ、助成効果があるだけでしょう。
 著者は日本の人権教育は失敗している、欠陥があるとします。とても共感できない人の人権をこそ尊重するような教育が子どものころから必要なんだというのです。これにも、まったく同感です。
 犯罪の抑止のためには、共感よりも人権の理解が重要であり、そうである以上、死刑制度は背理だ。
 著者による問題提起の深さに心が震えるほど共鳴しました。わずか120頁の小冊子です。弁護士会での講演会がベースなので、とても読みやすくなっています。あなたも、ぜひ、ご一読ください。
(2022年6月刊。税込1320円)

2022年8月 9日

朝日新聞政治部


(霧山昴)
著者 鮫島 浩 、 出版 講談社

 朝日新聞の実権を握ってきたのは政治部だ。この本に、こう書かれています。なので、著者は39歳で政治部デスクになったときには「異例の抜擢(ばってき)」だと社内で受けとめられたとのこと。
 私の東大駒場時代のクラスメイトの2人が朝日新聞に入りました。どちらも全共闘シンパでした(私は当時も、今も、暴力賛差の全共闘を支持しません)。そして、卒業して30年以上たって開催されたクラス同窓会に参加したら、その一人が朝日新聞の政治部長を務めていたというのを知って驚きました。この本を読むと、政治部長というポストは社長への最短距離にあるようですが、彼は社長にはなりませんでした。
 著者は、3.11の福島第一原発の吉田昌郎調書をスクープ報道したときの責任者です。スクープ当初は称賛の声だったのが、その表現であげ足がとられ、ネットで叩かれ、ついには朝日新聞の社長が手の平を返して記事を取り消して謝罪表明した。
 いま、冷静に考えても、東電の現場とトップの対応がすべて適切だったとはとても思えません。現に、つい先日の東京高裁はトップに13兆円の賠償に命じたことが何よりの証明です。そして、吉田所長以下、現場の東電社員が決死の覚悟で対処していた事実はあるとしても、東電の社員がトップから末端に至るまで何らの非がなかったとは、とても言えないことは明らかなのではないでしょうか・・・。
 それにもかかわらず、朝日新聞のトップはネット右翼に支えられた政府の攻撃に早々に白旗を掲げてしまったのです。これは、やはりひどい、ひどすぎると思います。
 この本には、政治家・古賀誠への手厳しいコメントが載っています。古賀誠ほど、権力闘争に執着し、人間の心理を細かく洞察して情報戦を駆使し、本音を明かさない政治家はいない。古賀誠は、大牟田市内のスナックに夕刻から番記者を集め、記事への引用を一切禁じる「完オフ懇談」する。そして、カラオケを3巡させたあと、夜8時から裏話を語りはじめる。
そこには、偽情報がまじっていて、それは政界を動かすためのもの。そのやり口が、古賀誠は人一倍、巧妙だった。
 遺族会の元会長として、古賀誠は平和憲法9条を守れという点では、全くぶれることがありませんが、いまなお政界ににらみをきかす現役の政治家なんですよね。
 著者は、朝日新聞が東京オリンピックのスポンサーに加わったのは、経営悪化が原因だと指摘しています。なーるほどですね。
 2009年まで、800万部の発行部数が、2014年に700万部、3年間で100万部のペースで激減。2016年には500万部を割り込み、2021年には442億円の赤字に転落した。
 私は紙媒体の新聞を熱烈に愛読していますが、いまどきの若い人は新聞を読まなくて平気というか、読まないのがフツーになっています。そんななかで新聞が、ヨミウリ・サンケイのような政府広報紙に転落しないよう、マスコミを監視し、また励まし、支えたいものです。いや、もうダメなんだと、早々に決めつけないで・・・。
(2022年7月刊。税込1980円)

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