弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
社会
2025年6月 5日
軍拡国家
(霧山昴)
著者 望月 衣塑子 、 出版 角川新書
トランプ大統領の言動を見ていると、アメリカの「国益」が何より最優先ですから、日本を本気になってアメリカが守ってくれるなんて、誰も思わないでしょう。なんとなく、アメリカはいざというとき日本を守ってくれると信じこんでいる人が少なくありませんが、ようやく目が覚めた(つつある)というのが今日の日本の状況ではないでしょうか...。
今では、日本は殺傷能力のある武器(完成品を含む)を輸出することが出来ます。まさしく「武器輸出」三原則に違反するものです。ところが、日本政府は少しでも国民をどうにかごまかそうとして、「武器輸出」と言わないで、まず「防衛装備」といい、しかも「輸出」ではなく「移転」だとするのです。下手な詐欺師です。騙されてはいけませんし、慣れさせられてもいけません。
自衛隊幹部の汚職が相次いで暴露されています。「死の商人」のトップである川崎重工業は、6年間で17億円もの架空取引をしていたというのです。まったくデタラメな軍需産業です。
この本には、宮沢吉一元首相が、こんなことを言ったことが紹介されています。
「たとえ何かしらの外貨の黒字をかせげるとしても、わが国は兵器の輸出をして金をかせぐほど落ちぶれてはいない」(1976年5月の国会答弁)
安保三文書は抑止力になったと言えるのか、中国との緊張関係を高めただけなのではないか...。日本が持とうとしている長距離ミサイルは飛距離が千キロ以上なので、「専守防衛」のルールから大きく逸脱してしまう。本当にそのとおりです。
日本の軍需予算は、5年間で43兆円、実に1.6倍も増えている。そして、その財源確保のため、3.11福島第一原発の震災復興のための予算の一部を軍事費増につなげようとしている。こんなの許されますか...。
これまで、日本の防衛産業は、企業にとって大崩れもなければ大きく儲(もう)かることもない。ある意味で力を入れにくい分野だった。それが今、大きく変わったわけです。
慎重ムードが一転(一変)し、今や岸田・石破特需に沸いているのが防衛産業。そりゃあ、そうでしょう。何のためかというのは置いておいて、ともかく見たこともない巨額の大金が軍需産業にころがり込んでくることになったのですから...。まさしく、日本も「死の商人」を肥え太らせる道を驀進中なのです。
共産党の山添拓議員の国会質問が本書でたびたび紹介されています。弁護士として鍛えられた質問力もあって、鋭い切れ味の質問が展開されていますので、私も何度か視聴しましたが、胸がすっとするものがありました。
防衛(軍事)予算は国債でまかなわないという不文律まで完全に崩されています。本当にとんでもないことです。まったく、戦前の失敗を繰り返そうとしています。
日本が今、大軍拡につき進んでいるのに、その危険性をマスコミがなぜ大々的に取りあげて問題にしないのか、同じ記者として著者は厳しく弾劾しています。その原因の一つに、マスコミ大幹部が政権中枢とべったりになっていることを指摘しています。本当に呆れるほどのひどさです。
でも、私たちはあきらめるわけにはいきません。流れに掉さして声を上げましょう。
(2025年2月刊。900円+税)
2025年6月 4日
被爆80年にあたっての提言
(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 日本評論社
私たちは今、大分分岐点に立っている。原爆を開発したオッペンハイマーは、「我は死神なり。世界の破壊者なり」と言っていた。
いま、日本の政府は、核兵器に依存して「希望の世界」に進もうという。いったい、政府のいう「希望の世界」って、何なのでしょうか。どんな世界を指しているのでしょうか。フツー「希望の世界」っていったら、戦争のない、その心配も不安もない満ち足りた世界をイメージしますよね。でも、核兵器に依存して迎えるというのですから、お隣には核兵器が厳然として存在するわけです。すると、そこは「敵」に狙われるかもしれません。危険地帯に隣りあわせに生活していることになります。そんなのが「希望の世界」と言えるものでしょうか...。
著者は、政府のいう「希望の世界」は、「壊滅的な人道上の結末の世界」だと考えています。まったくそのとおりです。「希望」どころではありません。
今年(2025年)2月、日本の外務大臣(岩屋毅)は3月からニューヨークで開かれた核兵器禁止条約締結国会議への参加をふくめて、しないと表明した。
これまた信じられませんよね。核兵器なんて、あんな危険なものを、この地球上から一掃しよう。こんな呼びかけがあったら真っ先に駆けつけなければいけないはずの戦争被爆国ニッポンは、この会議に代表団もオブザーバーも送らなかったのです。情けない話です。
石破首相は、「すべての人が安心と安全を感じ」ることができるようになる(美しい日本)になるために、全力を尽くすと表明しました。しかし、実際は真逆の動きを、石破首相は首相になる前とうって変わって、加速化させています。「美しい日本」にするためには、日米同盟を更なる高みに引き上げる必要があるというのです。
石破首相はワシントンに飛んでいって、トランプ大統領と固い握手をして日本に帰ってきました。いったい何を約束させられたのでしょうか...。中国敵視をあらわにし共同声明では中国を名指しで批判しています。
最近の中国の行動は以前に比べて、いかにも乱暴です。でもでも、中国を名指しで非難したというのは、日本とアメリカは、中国を挑発したも同然です。
日米両国は、着々と日米同盟の軍事力を強化している。
2015年の「平和安全法制」とは、日本が攻撃されていなくても、場合によっては自衛隊を派遣できるという制度。
核兵器にしがみつきながら、「楽しい国」や「希望の世界」を語るというのは、デマをまき散らすのと同じことだ。まったく、そのとおりです。
現在、地球上に1万2千発もの核弾頭が存在し、そのうち4千発は即座に発射可能な状態で配備されている。
ロシアは核超大国であり、ウクライナ戦争で核攻撃の可能性に言及すると威嚇している。そして、イスラエルがガザ地区に執拗な攻撃を続けるなかで、核兵器の使用を口にするイスラエル政府の閣僚がいる。
核を使ってはいけないという「核のタブー」が壊されようとしていることに、田中熙巳さんは限りない悔しさと憤りを覚えています。
日本被団協がノーベル平和賞を受賞したときの記念スピーチにおいて、代表委員の田中熙巳氏は、原爆の犠牲者に対する日本政府による保証が不十分なことを二度くり返しました。これは予定原稿にはなかったことなので、大いに注目されました。田中氏は、「国家補償の問題が他の国にも共通の課題になっているから」と説明しました。本当に、そのとおりです。
今や、人類滅亡の終末時計は残り89秒とされています。安穏(あんのん)と浮かれてメタンガスをかかえ、カジノの露払いのための関西万博を見物に行く余裕はないのです。
3.11で「フクイチ」(福島第一原発)が大爆発したとき、東日本一帯は放射線で汚染される危機一発でした。原発は「パーフェクトな危険」なのです。
ウクライナにあるザボリージャ原発はロシア軍によって制圧された。原発への攻撃は禁止されていない。いやはや、これって本当に恐ろしいことですよね。原発にミサイルが打ち込まれたら、3.11と違って、補修班が原子炉に近づけるはずもありません。
今、私たちは、原発と核兵器という、二つの核エネルギーを利用する道具によって、生存を脅かされている。核兵器は、人類が自滅する手段である。
日本の投票率の低さは、思わず恥ずかしさで顔を覆いたくなるほどひどい。有権者は政治への関心を弱めている。そして、政治なんか、どうしたって変わらないと絶望している。あきらめてしまったら、それこそ支配層の思うがままなのですけどね...。
私はあきらめません。なんといったって、国も地方も変革できるし、変革しなければいけません。嘆いているヒマなんて、ないのです。
1980年代のピーク時には、7万発の核弾頭があったのが、今では1万2千発にまで減っている。やれば出来るのです。あきらめて死を待つわけにはいきません。
なにより、この80年間近く、核兵器が実戦で使用されたことはない。これを単に運が良かったと考えることなく、意識的な核廃絶の取り組みにしなければいけません。
「日本は正しいことを、ほかの国より先に行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません」(文部省「憲法のはなし」)
あきらめることなく、核廃絶に向かって声をあげましょう。
核兵器と原発をめぐる問題点を考えるときに、頭を整理し、資料として活用できる本です。著者の一層のご活躍を祈念します。いつも本を贈っていただき、ありがとうございます。
(2025年5月刊。1870円)
2025年5月28日
潤日(ルンリィー)
(霧山昴)
著者 舛友 雄大 、 出版 東洋経済新報社
「潤」(ルン)は最近、中国で流行っている言葉。より良い暮らしを求めて中国を脱出する人々のこと。2018年に初めてあらわれ、2022年から本格的に流行っている。もとは、激化する競争や就職戦線などで不安に駆られた若者が局面打開を目指して海外を志向する動きだった。
15億人いる中国人のうち、年収12万人民元超の人が1億人いて、その中でも1000万人が情報封鎖を突破して外部ネットワークにアクセスする条件を備えている。さらに、そこから特権階級200万人を除いた800万人が潜在的な「潤」。ともかく、中国の話はスケールが大きくて、圧倒されてしまいます。
中国の資産家階級の中国脱出は加速している。最近の5年間だけで6万人近くの中国人富裕層が海外に流出したとみられる。
潤日は、1980年代から日本にやってきた新華僑とは少し異なる。新華僑はサバイバルだった。潤日は、自由で豊かな生活を享受しにきた人々。新華僑は政治に無関心だけど、潤日は、今の中国政府に対して多少ないとも不満をもっている。
日本(東京)の千代田区、江東区あたりのタワマン(タワーマンション)は3億円で買えるけれど、北京ではそれではマンションは買えない。タワマンによっては、中国人の比率が2割から3割になっている。タワマンは投資目的でも買われている。そのときは、10~20戸のマンションを3~5億円で買う。
大阪のタワマンのほうが1億5千万円で買えたり、東京より安いので人気がある。
潤日の人々の目的の一つは、子どもに対する良質な教育環境。日本のインタースクールに中国人の子どもがどんどん増えている。中国の学費は高くて(500万円ほど)、日本はそれよりも安い(230万円ほど)。半額以下。北京大学のような中国の難関大学よりも日本の東大に入るほうがずっと簡単。
中国から日本に現金をもち込むのは規制があるので、地下銀行が活躍している。年間数百億円規模と見られている。
経営・管理ビザを持って来日する中国人が増加している。3千人だったのが今や1万人をこす。永住者として日本に滞在する中国人は24万人(2017年)から32万人(2023年)に増えた。ビザの更新が不要で、就労上の制限がなく、住宅ローンの仮入が容易になる。
ニセコの物件も番港人名義で買っているけれど、その裏に大陸の中国人がいるケースが多い。世の中がどんどん動いていっているようです。ついていくのも大変ですね...。
(2025年4月刊。1800円+税)
2025年5月25日
国税一家
(霧山昴)
著者 吉岡 正範 、 出版 中央公論事業出版
47年間、税務署で働き、また労働組合(全国労働組合)で活動してきた体験を踏まえて税務署の実態を歴史の返還とともに明らかにしています。サブタイトルにはノンキャリア集団の希望と葛藤です。
ひと握りのキャリア組はまったく違ったコースを歩みます。たとえば、キャリア組は、20代で税務署長になります。普通科採用だと1級からスタートするのに、キャリアは3級から始まり、税務署長は8級以上にならないと就けません。なので、普通科だと署長になるのは同期のうち1割ほど。ところが、キャリアは経験5年3ヶ月ほどで税務署長になれる。なぜなのか...。まだ、4級か5級のはずなのに...。全国税が追及すると、署長に欠員があれば補充できるから、という驚くべき回答を当局はした。どう考えてもおかしいですよね、これって...。そんなに都合よく「欠員」が出るものでしょうか。
私の住む町にも40年ほど前のことですが、キャリア組の20代の署長が赴任したことがあります。私の記憶では1人ではなかったと思います。そのころは、まだ、天下の「三井」が君臨していたことに関係しています。署長は上流社会との交際そして人脈づくりを学ぶのです。東京でも、有力な上流階級の住む地域の署長にキャリア組は就任していました。
まだ、ろくに仕事も出来ない「若造」が署長になるというのは、「他の仕事は大変すぎてうまくいかないので、署長ならメリットは多いけれど実害は少ないからだ」という当局側の本音が紹介されています。なるほど、と思いました。
警察署長もそうですが、税務署長は辞めるとき、常識をはるかに超える餞別をもらうようです。狙撃されて瀕死の重傷を負った國松考二警察庁長官は、何億円もする超高級マンションに住んでいましたよね。これも、正規の給料だけではとても買えないものだと私は勘繰っています。
この本には東京で今も元気に活躍している金井清吉弁護士が登場します。私と同期で、一緒に青法協の活動もしていた仲間です。税務大学校普通科卒業のようです。金井弁護士は若いときに最高裁の刑事事件を国選弁護人として担当し、破棄差戻し・無罪判決を獲得しました。これは高く評価されています。
1970年代ころの税務署は、昼休みにはキャッチボールしたりコーラスしたり、生け花サークルがあったり、また、みんなで楽しむレクレーション活動があったりした。飲み会もひんぱんだった。それは1980年代まであったが、そのあとはなくなった。そして世代交代して若い人がどっと入署し、また、署内の処理システムが変わった。
署内のノルマ達成のための尻叩きは前からあり、そのため納税者の知らないうちの修正申告書の偽造も頻発した。また、税務署OB税理士による巨額の脱税事件も発生した。
現場で苦労していても、上部への報告は「万事順調」という内容のものが横行し、上部は真相を見誤ることがあった。
現場の署員にメンタルを病み、長期の病気休職も増えている。
晴れ晴れとした気持ちで退職の日を迎える者ばかりではない。
実は、私は40歳になる前、アパート住まいから一戸建ての広い庭つきのマイホームを建てて生活をはじめたとたんに税務調査を受けたことがあります。弁護士生活50年になりますが、調査を受けたのはこの1回のみです。このときの顛末を刻明に記録して小説風の本に仕立てあげました(『税務署なんか怖くない』花伝社)。私の本のなかで最高8千部を完売しました。
このとき私は、つくづく税務署とはえげつないことを平気でする役所だと実感しました。まず超大企業の脱税は見逃します。ボロもうけしていたサラ金大手会社には税務署OBが顧問で入って、税務署と裏取引します。
税務署の総務課の仕事の一つが、退職者を中小企業に顧問税理士として斡旋することなのです。それも1人や2人ではないこともあります。これを2階建て、3階建てというのです。
ついつい昔の税務署の理不尽な仕打ちへの怒りがムラムラとよみがえってきました。
(2024年11月刊。1540円)
2025年5月24日
透析を止めた日
(霧山昴)
著者 堀川 惠子 、 出版 講談社
私の身近にも透析を受けている人は多いです。週に3日、1回に何時間も透析を受け、終ったときはぐったり...と聞くと、本当に大変なことだと思います。これだけ医療技術が進んでいるのだから、もっと回数・時間が短縮できないものなのか、不思議で仕方がありません。
日本は今35万人が透析を受けている。人口比では台湾、韓国に次いで世界第3位。
ええっ、なぜアジアばかり多いのでしょうか...。
透析の医療費の総額は年間1兆6千億円。日本の全医療費の4%。透析は巨大な医療ビジネス市場を形成している。透析患者の4割が80歳以上と、高齢化している。
透析するときは、腕にシャントという人口の血管をつくり出す。シャントによって、500~1000mlの激しい血流を人工的につくり出す。透析患者にとって、シャントは、文字どおり命綱だ。
透析患者には厳しい水分制限がある。除水量が増えると、透析は辛い。身体に水分を呼びこむ塩分の摂取も1日6グラム以内が理想。4時間の透析は、フルマラソンを走るくらいの負担がある。透析中に低血圧になると命を失う恐れもあり、怖い。透析患者はふだんから水分摂取を控える必要がある。たとえば1日500ml。何を飲むにしても、チビチビと喉をうるおす程度にしておく。飲みたいのに、飲めない。夏場だけは汗をかくので、少し多めに水分がとれる。
透析患者にとって、バナナはカリウムを象徴する食べ物。透析患者は尿が出ないので、カリウムが必要以上に体内にたまる。カリウム過多は、透析患者の突然死の理由になる。
良質のタンパク質と密接に関わるリンの管理をやりすぎると、大事な筋肉を失い、フレイル(心身の衰え)の原因になる。
1ヶ月の透析費は40万円もかかる。本人負担は月2万円。透析患者1人につき年間500万もの公費が支出されている。
かつては「透析10年」と言われていたが、今では透析歴52年という患者もいる。10年以上は28%、20年以上も9%に近い。
透析は大量の水を必要とする(なぜなのでしょうか?)ので、断水になったら透析ができなくなる。
緩和ケアは、がん患者に限定されている。初めて知りました。
透析を中止したら、尿毒症をはじめとする多岐の症状が出現する。透析を中止したら、死亡まで平均して8~12日、中央値は3日、最頻値は2日。4割近くが、当日が翌日に死亡している。
透析には血液透析のほか、自宅でも可能な腹膜透析もある。腹膜透析PDは、治療効果はゆるやかだけど、身体への負担が小さい。香港では7割、ヨーロッパやカナダでは2~3割、ニュージーランドで3割、アメリカでは1割。日本の3%というのは極端に少ない。
腹膜透析は、かつては腹膜炎をおこしやすいと言われていた。今は変わっている。
そうか、日本でも、もっと腹膜透析が増えたらいいのに...。私は、そう思いました。
大変に目の開かされる思いのした本です。
(2025年4月刊。1800円+税)
2025年5月23日
ブラック郵便局
(霧山昴)
著者 宮崎 拓朗 、 出版 新潮社
小泉純一郎の「郵政改革」って、とんでもないものだったと、私はつくづく思いました。なんで、あのとき多くの国民がやすやすと騙されたのか、不思議でなりません。時の勢いというのは恐ろしいものです。今は、「手取りを増やす」というインチキ宣伝で国民民主党がブームですよね。大軍拡に賛成して、消費税減税に消極的な玉木の党が本気で「手取りを増やす」なんて考えているとは思えません。国民を騙すっていうのは、意外に簡単な人だと呆れてしまいます。
郵政改革の「おかげ」で、郵便局は本当に不便になりました。市内でも普通、郵便だと3日かかることが珍しくありません。そして郵便料金の値上がりは呆れるほど大胆です。郵便局が減らされ、配達員の外注化が進んでいるようです。この本の著者は西日本新聞の記者です。
まずは、郵便局の生命保険。かんぽ生命保険です。この保険事業の収益は全国に張り巡らされた郵便局網を維持するための、欠かせない収入減。そして、この保険のノルマ達成は厳しい。そのため、いろんな「不正」が横行している。その一つが、「不告知教唆」。持病があるのを聞いて知っているのに、正直に書かないでいいと言って加入させる。
必要もないのに判断力の乏しい高齢者に次々に保険契約をさせ、月の保険料が20万円をこえている。ところが、年金は月12万円しかない...。
渉外社員は、契約をとるたびに、給料とは別に営業手当を支給される。成績上位者は、年間1000万円以上にもなる。
既に加入している契約を解約して、新たな契約を結ぶ。乗り換え契約も横行している。
2年分の保険料を支払いさせる。なぜ2年かというと、担当した契約が2年以内に解約されたら、渉外社員は受けとっていた営業手当を返還させられるペナルティがあるため。
成績が上がらないと、懲罰研修を受けさせられる。そこでは、つるし上げの対象になって、心を病んで休職する人が続出する。ところが、上部は現場の実情を知っていても知らぬふり。すべてはお客様のサインをいただいて、了解のうえのことだと開き直る。厳しいノルマを強要された男性局員が九州で自死している。
そして、自民党のための選挙活動。結果としての得票数は局長にとっての通信簿となる。
局長の仕事はソフトボールと選挙。いやはや、こんな違法な活動が汚れた自民党政治を支えているのですね、嫌ですね...。
自民党公認を得た組織内候補の得票数は、だいたい43~60万票ほど。自民党のなかではトップクラス。こうやって日本の政治をけがしている集団の一つになっているわけです。考え直してほしいですよね。
(2025年4月刊。1600円+税)
2025年5月22日
ビジネスと人権
(霧山昴)
著者 伊藤 和子 、 出版 岩波新書
2013年4月24日、バングラディシュのダッカ郊外のビルが崩れ落ち、そこの縫製工場で働いていた労働者1000人以上が亡くなり、1000人以上が負傷した。この縫製工場は、ベネトンなど、国際的に著名なブランド服をつくっていた。
1ヶ月の賃金が4千円という圧倒的に安い人件費がブランド品を支えている。
しかし、人を活用しようとするのなら、人は尊重されなければならない。まことにそのとおりです。2011年、国連人権理事会は、ビジネスと人権に関する指導原則を全会一致で採択した。この指導原則は、国際条約がハードローであるのに対して、ソフトローに位置づけられる。
指導原則は画期的な内容を含んでいるが、限界もある。ソフトローとしての指導原則は強制力がないとしても、行為規範としての影響力を持ちうる。
指導原則は、サプライチェーンの現場でまだまだ実施されていない。
ILO(国際労働機構)は、世界で2090万人が人身取引、強制労働、児童労働といった「現代奴隷」の状態におかれていて、うち550万人が児童労働であるとした(2011年)。これが2016年に4000万人、2021年に5000万人と増加している。うち強制、児童労働は2500万人、2760万人となっている。
日本では、経産省が2022年にガイドラインをつくったまま足踏み状態となっていて、規制に踏み込んでいない。しかし、企業に対する実効性のある人権保障は難しい。
ユニクロの製品をつくっている中国の委託先工場では、月119時間もの長時間残業、エアコンのない工場の室温は37~38度で、「まるで地獄」。
ミャンマーの工場を取引先としているワコール、ミキハウスも同じく、長時間残業、女性労働者の保護の欠如という問題がある。パーム油、カカオ、シーフードなど、いろいろ状況は深刻だ。
イスラエル軍に装備品を提供している日立建機、トヨタ、ソニー、三菱自動車。
ビジネスと人権を考えながら国も企業も進めなければいけない。時代は変わったことを自覚すべきなのだ。一人ひとりが声を上げなければ社会は変えられる。
企業に「責任」ではなく「義務」を課す法律が必要。
未来をつくる主導権は私たち一人ひとりにあることを確信して、声を上げ、行動していこう。こんな呼びかけがなされています。まったく同感です。
(2025年2月刊。1100円)
2025年5月20日
教員不足
(霧山昴)
著者 佐久間 亜紀 、 出版 岩波書店
この本は主として日本の教育の現状と問題点を紹介しています。日本と対比させる意味で、アメリカのシリコンバレーにある私立の中学校を見学したときの様子が紹介されているのが私の目を惹きました。
学校は、資産家の元邸宅が改築されていて、教室もゆったり。そして、国語(英語)の時間には10人ほどの生徒がジェンダーに関する学術論文を読み合っている。天国のような環境だと驚嘆していると、それでも、ここの教員によると、問題を抱えているのは、他の学校と同じだという。生徒同士のトラブルがあり、親の虐待もある。そして、この豊かな教育環境は、特定の人々を排除することで成り立っている。黒人の子どもや身障児はごく少数しかいない。なので、こんな閉ざされた環境で育った子どもたちが、社会に出て、マイノリティの人々の住む現実をどこまで理解できるようになるのか、アメリカ社会の分断を統合へと導く市民に育ってくれるのかどうか...不安がある。
そして、教員自身も不安を抱えている。年収1000万円以上をもらっていても、それは平均年収が3億円というこのシリコン・バレーでは低いほうでしかない。そして、私立学校なので、大口寄付者を確保しなければいけないが、彼らは、教育内容にまで介入しようとしてくる。すると、学校、そして教員との摩擦が生じかねない。要は教員の身分は決して安定したものではないということ。なーるほど、金持ち学校にも、内外ともに難しい問題を抱えていることを初めて知りました。
今の日本の教員不足は深刻。それを実感するのは、とっくに高齢者になっている私の世代でも、まだ嘱託だとか名目はいろいろ違っていても、現役の教員として生徒に接しているという人が少なくないのです。
日本の教員不足は、今に始まったことではない。戦前から断続的に繰り返されている。今では、政府は教員定数を増やすことはないとしている。すると、教員は非正規化するしかない。
教員数について、地域格差が拡大している。自治体の財政力によって少人数学級を推進できる自治体と、推進できない自治体と差が生まれている。
驚くべきことに、教員給与を政府は削減しつつあるのです。これはたまりませんね...。
国は教育費の国庫負担の割合を削減し、今では、教員給与の3分の1しか国は負担せず、残る3分の2は、自治体が負担している。
終身雇用の公務員は大幅に削減され、伝期付、臨時・非常勤職員が急増している。教員を志望する子どもが減っている。いやあ、これは困ったことです。
教員に憧れる子どもが減っているというのは、忙しそうな教員を見ているからでしょうか。
教職の魅力は、第一に子どもが好き、第二に経済的に安定、第三に家庭生活と両立しやすい、だった。ところが、政府による「教育改革」はこれらを否定してしまった。
教員の労働環境を改善する必要があります。まずは、仕事量を適正化することがあげられます。外部からは余剰にしか見えない人員が、実は必要不可欠な人員であるというのが公務員では多いというのは、私の実感でもあります。
にもかかわらず、世間には公務員叩き(バッシング)して政治家としてデビューして評判を上げるというパターンが、今でも少なくないという悲しむべき現実があります。
アメリカでは、学年別の学校行事というのはない。入学式も卒業式もない。運動会や修学旅行というのもない。また、生活集団としての学級(クラス)自体が存在しない。
私の孫が通っている韓国の小学校では運動会はあるものの、それは担任の手を離れて、イベント業者の手になるもののようです。
私は小中学校が次々に統廃合されているのに反対です。どんなに人数が少なくても、子どもたちが歩いて通えるところに小学校はあるべきです。少人数学級でいいじゃないですか。先生も生徒も、みんな伸び伸びと遊べ、学べる環境が一番です。そこでお金をケチケチすべきではないと思います。要は、なんでも効率化という名目で、大切な子どもたちの伸び伸びした可塑(かそ)性を奪ってはいけません。
いろいろ考えさせられる指摘がたくさんありました。
(2025年2月刊。960円+税)
日曜日に、朝顔のタネを庭のあちこちに植えつけました。夏は朝顔ですよね。いま、庭は黄ショウブが一面に咲いています。アマリリスの白っぽいピンクの花も見事で、心が安まります。クレマチスは終わりました。今年はジャガイモの花に勢いがあります。この調子で地中のジャガイモが大きく育ってくれたらうれしいのですが...。サツマイモは地上部分は元気一杯に生い繁っていても、地中は生育不十分ということが何回もありました。
サボテンの白い花が一斉に咲いてくれました。まるで鉄砲百合のようです。濃い紫色の矢車菊もところどころに咲いています。
ジャーマンアイリスは終わりかけています。もうすぐ近くの小川にホタルが飛びかう時期になります。
2025年5月16日
消された水汚染
(霧山昴)
著者 諸永 裕司 、 出版 平凡社新書
今やPFAS(ピーファス)として有名になった汚染物質を追跡した新書です。
フライパンにテフロン加工すると、サビつかないというので、大流行しました。防水スプレー、泡消火剤そして半導体で使われました。それが、今では発がん性のある有害・有毒物質として、この世の嫌われものなのです。ところが、当局は、その危険性をずっと覆い隠してきました。
アメリカ映画「ブラック・ウォーター」は実話にもとづくアメリカ人弁護士が活躍するストーリー展開です。もう20年も前の話ですから、すっかり解決されているかと思うと、おっとどっこい、日本ではまさに現在進行形の怖い話なのです。
東京は多摩地区で深刻なPFAS濃度が検出され、多くの井戸水が使用禁止とされました。その原因は横田にあるアメリカ軍基地です。大量に使われた泡消火剤にPFASが使用されていたのです。ところが、東京都はそのPFASによる汚染データをもっているのに公表せず、隠していました。著者は、「えげつない」と非難していますが、まったく同感です。汚染データを公表したら人心の動揺(パニック)を生じるからという理由です。とんでもありません。真実はきちんと住民に知らせて、ともに解決法を考えていく必要があります。
横田基地で、大量のジェット燃料が漏れ出たとき、泡消火剤が大量に使用されたのでした。その量はなんと3千リットルというのですから半端な数字ではありません。東京都はそれを知っても公表せず、またアメリカ軍基地への立ち入り調査もしていないのです。
日米地位協定によって、アメリカ軍は日本国内で好き勝手なことをし続けています。日本政府は、いつだってへっぴり腰で、アメリカにモノ申すことが出来ません。
それは沖縄でも同じことです。日本政府は日本国民の生命・健康を守ろうとしていません。そして、アメリカ軍は、日本人のことを何とも思っていません。性犯罪の横行もそれを意味しています。
日本政府が駐留米軍のために「思いやり予算」を支出しているのは、今ではかなり広く知られています。でも、アメリカ軍が個人を含めて日本側に損害を与えて賠償しなければいけないとき、それを実際にしているのは日本政府なのです。アメリカ軍に分担請求もしません。その金額220億円をアメリカに支払うべきなのに、知らん顔をしたままです。情けない話です。
アメリカに日本は守ってもらっていると信じ込んでいる日本人が今なお、なんと多いことでしょうか。当のアメリカ軍人のトップは、日本を守るのは自分たちの仕事(役目)ではないと、何回も高言しているにもかかわらず...。それにしても、飲み水の安全性をもっと重視したいものです。日本政府も自治体も早くなんとかしてください。
(2022年1月刊。980円+税)
2025年5月 8日
地面師たち
(霧山昴)
著者 新庄 耕 、 出版 集英社文庫
毎日毎日、特殊サギにひっかかった、危くひっかかりそうになったというニュースを目にします。そのとき、警察官を名乗り、また弁護士が登場します。弁護士が現金1千万円を受け取りに来るので、玄関のところで渡すように言われたので、郵便局で1千万円を引き出そうとして、危ないところでストップがかかった。こんな記事を読むと、たまりません。
ホンモノの弁護士を長くやっている身として、現金を取りに個人宅にまで出向くなんて、そんなヒマなんかありませんよ、そう叫びたくなります。
なんで、弁護士だとか警察官だとか、会ったこともないのに肩書きだけで信じ込んでしまうのか、不思議でなりません。
地面師というサギ集団になると、欺く方法がより高度です。なりすましなので、みんなの前で、それらしい演技が必要です。舞台度胸のない私なんか、とても出来そうもありません。
なりすましの第一歩は年齢ですが、なにより干支(えと)です。ネズミ年の私は、寅年の奥様に睨まれて、いつも小さくなっています。それはともかく、他人の干支を自分のものかのようにパッと、ためらいなく言うには、練習を重ね、度胸もいります。
生年月日も、西暦とともに和暦も言えないといけません。これも案外に難しいのです。
そして、訊かれてもいないことをペラペラ話してもダメ。余計なことを言うと、すぐにボロが出る。たとえば、どこの町には有名なラーメン屋が向かい合わせにあるなんて、地域の話になったら、話を合わせるのは簡単なことではありません。
そして指紋。指の腹や手のひらに、アメリカの専門業者から取り寄せた超極藩の人工フィルムを貼っておく。海外の諜報機関で採用されているという特殊フィルム。このフィルムに指紋や手のひらの凹凸があるうえ、人間と同じ皮脂成分の油膜が塗られている。いやあ、そんな特殊フィルムもあるのですね...。知りませんでした。
不動産売買には、銀行の応接室などが利用されることが多い。しかし、銀行員から値踏みされたくないし、行内の監視・防犯カメラに自分たちの姿を残したくない。そこで、弁護士事務所を利用する。舞台装置として利用されるなんて、嫌ですよね。
サギ師集団は分業を徹底させている。なりすまし役を手配する係もいる。
免許証の偽造も簡単ではない。透(す)かしの印刷技術ではなく、ICチップのスキミングと複製も必要になる。ICチップ入りの免許証を端までスキミングすると、券面に印刷された生年月日や顔画像などの免許証情報はもちろん、IC化で記載されなくなった本籍や暗証番号などの情報も取得できる。
抜きとった情報をそっくり別のICカードに書き写せるうえ、ICカードを専用の免許証チェッカーで検証しても偽造とは判定されない。顔写真だけを他人のそれに変えて書き写したICカードに透かしと表面の情報を印刷すれば精巧な偽造免許証ができあがる。
東京は五反田の廃旅館を舞台とした地面師たちに手玉にとられて、かの天下の積水ハウスが55億円という巨額のサギ(詐欺)被害にあったのは有名な話です。それをドラマ化したものはテレビ・映画でもヒットしました。そのドラマの土台となった小説です。
事実は小説より奇なり、なんですよね。幸いにも、弁護士生活50年以上のなかで、なりすまし事件の被害にあったことは、まだありません。でも、これから先は分かりませんよね。気をつけましょう。
(2024年12月刊。740円+税)