弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2025年8月22日

3つの戦争


(霧山昴)
著者 ボブ・ウッドワード 、 出版 日本経済新聞出版

 トランプは絶え間なく演技をしている。トランプは勇ましくて、強い人間に見られることだけを気にしている。トランプは、自分がつきあうのは、ビジネス関連の人たちだけと高言する。トランプは忠誠心をものすごく重んじる。
 トランプの性格は、勝つこと、戦うこと、生き延びることに集中している。弱そうだと見られたら、付け狙われる。すべてがプレゼンテーションなのだ。自分の見せ方になる。
トランプが大統領選挙に敗北した2021年1月6日に、アメリカの国会議事堂に突入した人間は2千人を超える。そのうち5人が亡くなり、警官172人が負傷し、500人以上が逮捕された。トランプが支持者に対して「うちに帰れ」とツイートしたのは、3時間たってから。
 ロシアのプーチン大統領の主な性格は、怒りっぽい、不安感が極めて強い、サディスティックであること。
ロシアは4400発以上の核弾頭を備えている、世界最大の核兵器保有国。
 トランプはプーチンを偶像視していて、そのせいで、プーチンから極度に操られやすくなっている。アメリカの大統領として、これは致命的な欠陥だ。
 2020年のアメリカの大統領選挙において、トランプは7400万票を得た。これに対してバイデンは8100万票を獲得して当選した。
 プーチンのロシアがウクライナに侵攻したとき、ウクライナ全土を支配下に置き、ゼレンスキー大統領を抹殺し、首都キーウを占領するというのが、ロシアの戦争計画だった。
 ウクライナはアメリカのテキサス州とほぼ同じ面積で、ヨーロッパではロシアに次ぐ広さの国。人口は4400万人で、テキサスより1400万人も多い。
 プーチンは不安感と自信とが、コインの表と裏の関係にある。
 トランプは記者に対して、「プーチンは私を尊敬している。私もプーチンを尊敬している。プーチンは私を好きだと思う。私もたぶんプーチンが好きだ」。
 ロシア軍の部隊は、ベラルーシの国境地帯をまっすぐ通過してキーウの奪取を図り、ゼレンスキー大統領の政権を打ち倒して、親ロシア政府を樹立するだろう。
 ウクライナに侵攻してきたロシア軍の車輌部隊は食料と飲料水を3日分しか積んでいなかった。しかも、勝利を祝うパレード用の軍服を持参していた。
 ロシア軍将兵は、ウクライナに侵攻したら、すぐに勝敗がついて、勝利のパレードをする計画だったというのです。ええっ、ま、まさか...。
 ロシア軍はトップダウンで、動く仕組みになっている。佐官級の現場指揮官には自発的に行動する権限がない。ロシア軍は、戦場に順応して即興で行動することはなかった。
2022年当時、ロシアは戦術核兵器をアメリカの10倍、2000発も保有していた。現在の核兵器には、ひとりで使用できるような小型の弾頭もあれば、潜水艦、爆撃機、ICBMで投入しなければならないような大型のものまできわめて種類が多い。
 ウクライナは、1ヶ月間に10万発前後の砲弾を消費した。1日3000発になる。それをまかなうだけの在庫は、さすがのアメリカでも持っていない。2023年6月、ウクライナ軍は、1日に最大1万発の155ミリ砲弾をつかっていた。
 トランプほど、どこの国にとっても危険な人物は、いまだかつていなかった。ホント、まったくそのとおりです。
 10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃は驚きだった。
 アメリカはイスラエルに対して、毎年30億ドル以上の軍事支援をし、国防総省はイスラエルの周辺5.6ヶ所に兵器と弾薬を備蓄している。
 ハマスは概念だ。概念を滅ぼすことはできない。
 トランプは、アメリカを何度も戦争の瀬戸際に押しやった。トランプの主張は、例によってとんでもない誇張、誤った考え、ウソを混ぜあわせたものだった。さかんに相手方を攻撃したが、それは活気があり、堂々としているという印象(イメージ)を与えた。トランプは大統領として不適切な人物であるだけでなく、国を率いるのに適していない。トランプは犯罪者だったニクソン大統領よりもずっとひどい。
 トランプは恐怖と怒りによって統治する。そのうえ、大衆と国益に無関心。トランプはアメリカ史上最悪の無謀で衝撃的な大統領である。
 ああ、それなのに、トランプはアメリカの大統領なんですよね...。
(2025年2月刊。2750円)

2025年8月14日

カナダ


(霧山昴)
著者 山野内 勘二 、 出版 中公新書

 カナダには、かなり前のことですが、2回行っています。2回とも、ナイアガラの滝を見物しました。滝の内側にも見学路があって、レインコートを着ての見物でした。
トランプ大統領がカナダを見下した態度をとっていますが、カナダはアメリカと違って、とても治安が良く、安心して暮らせる街だと実感しました。
カナダは現代AI開発では世界最先端を行っている。
 カナダは移民・難民に対して寛容で、人口増加率はG7の国では最大。カナダの人口4100万人(2024年)だが、今世紀末には1億人を突破する見込み。
カナダの食料自給率は230%。フライドポテト生産で世界最大は、カナダのマッケイン・フーズ社。世界の4分の1のシェアを誇っている。カナダは、キャノーラ(採種。なたね)油の生産量で世界最大。日本もカナダからナタネの80%を輸入している。
 カナダは豚肉と豚肉製品を輸出する世界第3位の国。日本は輸出額で、トップ。
カナダの、とりわけアルバータ州は恐竜の化石の最大の発見(発掘)地。私も、ぜひ行ってみたいところです。
カナダは、ソ連、アメリカに次いで世界で3番目に人工衛星を設計・製造して、軌道に乗せた。
 カナダは、AI開発でトップを行き、この分野でノーベル賞も受賞している。
 カナダは量子技術の分野でも世界の最先進地。同じく光量子コンピューターも世界最先端にある。先に冷却は不要。光の周波数は高いので大量の情報を乗せて、高速処理ができる。
 糖尿病治療薬のインスリンを発見したのは、トロント大学医学部の教授。
 カナダのサーカス「シルク・ドゥ・ソレイユ」(太陽のサーカス)は世界的に有名だ。
 カナダ人の4人に1人は、外国生まれ。カナダにいる留学生は105万人(2023年)。日本にいる留学生は、その4分の1の24万人。カナダ国内には、インド系カナダ人が180万人もいる。
 日本とカナダは、もっと親密な関係になっていいものだと強く思いました。著者は、元駐カナダ大使です。
(2024年12月刊。960円+税)

2025年7月30日

世界最凶のスパイウェア・ペガサス


(霧山昴)
著者 ローラン・リシャール、サンドリーヌ・リゴー 、 出版 早川書房

 イスラエルのNSOが誇るサイバー監視ソフトウェア・ペガサスは、暗号化を含むセキュリティを破って相手のスマートフォンに不正侵入し、スパイウェアの存在を知られることなく、端末をほぼ意のままにできる。スマートフォンを使って送受信したあらゆるテキスト、通話内容、位置情報、写真、動画、メモ、閲覧履歴だけではない。ユーザーに感づかれることなく、カメラとマイクロフォンも起動できる。ボタンを押すだけで、遠隔操作による完璧な個人監視が可能になる。
 これは、顧客にとって危険な魅力を放ち、NSOには莫大な利益、2020年の売上げは2億5千万ドルをもたらした。
 今やスマートフォンは、地図、郵便局、電話、メモ帳、カメラとして、秘密を打ち明けられる親しい友人として機能している。そのすべてが知らないうちに盗みとられているとしたら...。
ペガサスは政府機関としかライセンスを結ばず、相手の運用状況には決して関与しない。
 NSOの最初の大口クライアントは、メキシコの国防省だった。メキシコ国防省は、NSOに1500万ドル以上を支払ったが、ペガサスは高価な欠陥品に終わった。2013年8月、ペガサスは、潤沢なオイルマネーを抱えるアラブ首長国連邦政府と契約した。
 ペガサスのシステムはエンドユーザーを追跡不可能にする。メッセージは世界中のサーバーをいくつも経由して送られる。たとえば、まず中国へ、そして中国からオーストラリア、オーストラリアからアムステルダム、アムステルダムからパナマへ、そしてパナマを経由して、標的に届く。
 2021年当時、世界中で2億人をこえるユーザーがいたトゥルーコーラーは国際的なデジタル電話帳に相当する。人権活動家。反体制派、ジャーナリストが自分のデバイスがスパイウェアに感染していないかどうかをみずから確かめられるツールを2014年にクラウディオが開発し、公開した。
 イスラエルの若者から、17歳か18歳で選出され、イスラエル国防軍のサイバー諜報部隊に送り込まれる。この、精鋭中の精鋭は、ヘブライ語で、ロシュ・ガドル(大きな頭脳)と呼ばれる。彼らは、この部隊で兵役義務を果たす。戦闘の危険はない分野だ。
 毎年1000人のロシュ・ガドルが兵役を終えて、民間部門に就職する。すぐに高額の給与が保証され、ハイテクの仕事につくことになる。イスラエルのサイバー・スペシャリストは、国家の誇りだ。
 イスラエル国防軍は、国家精鋭の頭脳を8200部隊と呼ばれるエリート諜報部隊に投入してきた。この極秘部隊では、メンバーは、その名前を外部に話してはならず、自分の任務を家族にも漏らしてはいけない。8200部隊で、とりわけ重視されるのはイノベーション。アイデアは階級に優先する。
 2013年から2017年に、イスラエル国内のサイバーセキュリティ企業の数は171社から420社に急増し、民間投資は6倍にはね上がり、8億ドルを突破した。
 ペガサス・システムはスマートフォンに不正侵入して乗っ取り、端末の所有者を監視するために設計された。これは軍用グレードの攻撃型兵器である。
イスラエル軍は、テクノロジーを誰とも共有しない。だが、モサドは次善のテクノロジーを提供できた。それがペガサスだ。NSOの経営幹部は非常に秘密主義だ。
世界にはスパイウェアの民間企業が多数存在する。
 サイバー監視業界は、実質的にガードレールなしの運営を続けている。
 アップルは、そのスマートフォンの防衛対策のための研究開発部門の施設をイスラエルに建設した。しかし、イスラエル軍の8200部隊出身のNSOのエンジニアたちはアップルのスマートフォンの脆弱性を研究していた。
 いやはや、スマートフォンの情報がスパイウェアによってつつ抜け、つまり私たちは丸裸の状態で生きているというわけです。怖いですね。ちなみに私はガラケー派です。スマートフォンを持っていませんが、何も不便は感じていません。
(2025年1月刊。3300円)

2025年7月27日

ヒトラーのオリンピックに挑め(上)


(霧山昴)
著者 ダニエル・ジェイムズ・ブラウン 、 出版 早川書房

 アメリカで220万部を売り上げたベストセラーだそうです。大学のボート部が、ヒトラー・ナチスの主宰したオリンピック競技に出場するという話です。この上巻では、まだオリンピック競技にまではたどり着きません。ボート部の訓練の様子、そして、ボート競争では何が求められるかというのが、選手たちの心理に至るまで刻明に明らかにされていきます。
戦前のアメリカではボート競技というのはハイクラスの学生が関わるものだったようです。それでも、民衆の関心を惹く競技でもありました。
 ボートは、筋力だけの勝負ではない。筋力の勝負であると同時に、それは一種の芸術であり、肉体的な強さと同じほど、鋭い知性が必要になる。
ボートは、恐らく、どんなスポーツよりも苛酷な競技だ。ひとたびレースが始まったら、タイムアウトも選手交代もない。漕手には、限界まで耐え抜く力が必要だ。
コーチは教え子に、心と頭、そして体で苦難を耐え抜く秘密を伝授しなければならない。
 ボート競技の根本的な難しさのひとつは、漕手がひとりでもスランプになると、クルー全体がスランプに陥ってしまうこと。ボートは、シェル艇に乗ったすべての漕手が完璧にオールをひと漕ぎひと漕ぎしなければ、勝利をおさめられないスポーツだ。すべての漕手の動きは、密に連携しあい、ぴったりシンクロしなくてはならない。メンバーが、ひとりでもミスをしたり、不完全な動きをしたりすれば、リズムが断たれ、ボートはバランスを崩す。漕手は自分の前にいる漕手の動きと、指示を出すコックスの声に全神経を集中させなければならない。
 ボート競争において、こちらにまだ力が残っていることを相手がまだ知らなければ、その力を見せたとき、相手は必ず動揺する。そして、動揺した相手は、ここ一番でミスを犯すはずだ。ボート競技で勝利をおさめるには、自信も必要だが、自分の心を把握するのも、また重要だ。
まず、長さ18メートル以上ある真っ直ぐなI型鋼をビームとして使って、トウヒやトネリコ材で精密な骨組みをつくる。それから骨組の肋材(ろくざい)にスペインスギを長く挽(ひ)いた外板を何千もの真ちゅう釘やネジで注意深くとめつけていく。釘やネジの出っ張りには、ひとつひとつ根気良くヤスリをかけ、それが終わったら、船舶用のワンスをかけてコーティングする。板を釘で骨組みに固定するこの作業は、全体のなかでもことに難しく、神経を使う。ほんのすこしノミがすべったり、槌(つち)を不注意に振りおろしたりすれば、何日分もの仕事が台無しになってしまう。
 ボートは手づくりしていた時代なんですね...。
 ベイスギは、驚きの樹木だ。内部の密度が低いため、ノミでもカンナでも手鋸でも楽に形づくることができる。連続気泡構造のせいで、軽くて浮力がある。
 8本のオールがぴったり同じタイミングで水に入ったり、出たりするというだけの話ではない。8人の漕手の16本の腕はいっせいにオールを引き、16の膝はいっせいに曲がったり伸びたりしなくてはならない。8つの胴体は、いっせいに同じタイミングで前へ後ろへと傾き、8つの背中は同じタイミングで曲がったり、伸びたりしなくてはならない。
ほんのわずかな動作、たとえば手首の微妙な返しに至るまで、漕手全員が互いを鏡にうつしたように完全に同調し、端から端まで一糸乱れぬ動きが出来たとき、ボートはまるで解き放たれたように、優美に、すべるように進む。その瞬間、初めてボートは漕手たちの一部となり、それ自体が意思をもつかのように動きはじめる。苦痛は歓喜に変わり、オールのひと漕ぎひと漕ぎは、一連の完璧な言語になる。すばらしいウィングは、詩のようにさえ感じられる。
 スピードは漕手にとって究極の目的であると同時に、最大の敵でもある。美しくて効果的なストロークは過酷なストロークなのだ。
 すぐれた漕手には、巨大な自信や強烈な自我、すさまじい意志の力、そしてフラストレーションをものともしない強い力がなくてはいけない。自分の力を深く信じることのできない者、困難に耐え苦境を乗りこえる能力が己にあると信じられない者は、ボート競技の最高峰を目ざすことすらできまい。
 ボートという競技は、選手の体をさんざんに痛めつける苦しいスポーツであると同時に容易には栄光をもたらさないスポーツだ。栄光を手にできるのは、何があっても自己をたのむ気持ちを失わず、目標に向かい続けることのできる一握りの選手だけ。
ボート選手には、自我を捨てることも必要になる。並み外れた才能と力の持ち主だが、そこにはスターはいない。重要なのはチームワーク。個々人や自我ではない。筋肉とオールとボートと水が織りなす動きがメンバー同士、一分の狂いもなく同調し、個々のクルーがひとつに結ばれ、全体が美しいシンフォニーのようになることが何より重要だ。
 つまり漕手は、自立心や自己をたのむ気持ちを人一倍強く持つと同時に、自身の漕手としての個性や能力を、そして人間性を正しく把握しなければいけない。
 レースに勝つのは、クローンではない。肉体的な能力と精神的な資質の両面が全体として絶妙にバランスのとれたクルーが勝負に勝つ。クルーの利益のために、自分の漕ぎ方をうまく調節する準備がなくてはいけないのだ。
ボートのクルーの話ではありますが、ここまで極端でなくとも、仕事を立派にやり遂げるにはチームワークこそ必要なことだと思いました。それを文章化していて、すごいすごいと驚嘆しながら読み進めていった文庫本です。あなたにも一読をおすすめします。
(2016年7月刊。980円+税)

2025年6月24日

ジャニー・オブ・ホープ


(霧山昴)
著者 坂上 香 、 出版 岩波現代文庫

 1999年1月に刊行された本を、新たに最新の状況を紹介する末尾の文章を付加して出来ている本です。
 世界では死刑廃止が圧倒的で、EU加盟の条件にもなっています。アメリカですら死刑廃止へ動きつつあります。日本は完全に遅れています。そのなかで弁護士会は死刑廃止を求める声を上げています。
 アメリカでは年間100人近くが処刑されていましたが、今では激減しています。既に死刑廃止を決めた州は11州から23州へと増え、さらに6州では知事が執行を停止しています。これに対して日本では今も100人近い死刑囚がいて、処刑の日を日々、恐れながら過ごしています。
私は長い弁護士生活のなかで1回だけ死刑判決を受けた事件の弁護人だったことがあります。まったく気持ちのいい判決ではありません。そして、死刑(処刑)に従事する拘置所の職員や立会検察官の心労はすさまじいものがあると考えています。私は国家が人を殺していいとは考えられません。
 アメリカでは、死刑囚は黒人に偏っている。そして、死刑囚の多くは、幼少期に深刻かつ複数の虐待を常態的に体験している。学校でも深刻な問題行動を起こしていた。
 カリフォルニア州では、州知事が死刑の刑場そして死刑囚監房を閉鎖して、一般受刑者と同様に処遇されることになったようです。私も、これはいいことだと思います。生きてる限りは、人間ですから、なるべく平等に、差別なく処遇したいものです。
 日本の無期懲役は、建て前では刑務所から出て祝い事に参加できたりはしませんが、実際には満期になる前に出獄できることがありました。でも、今ではかなり難しくなっていて、平均の拘禁日数は30年以上になっています。
 犯罪を犯す人は、人生のある時点では、みな、被害者だった。
 アメリカの「ジャーニー・オブ・ホープ」は死刑囚の家族と被害者の遺族が一緒になって、50人前後の参加者が全米各地を車で移動しながら、一般市民に向けて、自らの体験を語って歩くという運動。日本では、とても考えられない運動です。
 アメリカでは、1973年から1997年までの24年間に、6000人に死刑判決が下されたが、そのうち69人が、あとで「無罪」になって釈放された。死刑と無罪とでは、天と地ほどの違いがありますよね。死刑判決が出て、処刑されたあと、形だけ無罪になっても、「時、すでに遅し」です。死んだ(殺された)人がこの世に戻ってくることはありません。
アメリカの死刑執行は電気椅子によるのではなく、致死薬注射によるもの。まず硝酸ナトリウムで眠らせ、そのあと臭化パンクロニウムによって息を止め、さらに塩化カリウムで心臓を停止させるというもの。
あらかじめ処刑の日時は公表され、被害者の家族(遺族)は希望すると身近に立会ことができる。また、このとき、死刑支持者は、刑務所の外で「お祭り騒ぎ」を起こす。
 2000年ころ、アメリカでは年間2万件ほどの殺人事件が発生していた。いやあ、怖い国ですね。なので、護身用ピストルを持つという人がインテリ層にもいるわけです。
遺族が死刑執行に立ち会って満足するかというと、必ずしもそうではない。むしろ、「加害者は苦しまずにいとも簡単に死んでしまった」と不満を募らせたりもする。そして、その後は生きる目的を見失ってしまう人が出てくる。うむむ、なるほど、難しいのですね...。
 アメリカでは胎児性アルコール症候群(FAS)というのが問題になっているそうです。毎年5千人をこえる乳児がFASをもって生まれている。そして、それは知能障害・発育障害などとしてあらわれ、思春期になると問題行動を起こし始めるのです。母親がアルコール依存症で、妊娠中に大量のアルコールを摂取していたことによる病気です。日本でも同様なことが起きているのでしょうか...。
 なんでも死刑にしろと簡単に叫ぶ人がいますが、世の中はそんなに簡単なものではないと50年以上も弁護士をしている私は思います。幼少期に人間として大切に育てられた体験のない人は社会に対して復讐を始めるのです。もっと優しい社会にしないと、結局は、みんなが安心して生活できる社会にはなりません。大いに目を開かせてくれる本でした。
(2024年12月刊。1430円+税)

2025年6月 6日

遥かなる山に向かって


(霧山昴)
著者 ダニエル・ジェイムズ・ブラウン 、 出版 みすず書房

 日米開戦によってアメリカ在住の日本人と日系人(2世)は強制収容所に入れられてしまいました。ドイツ人はそんなことはなく、ドイツ兵の捕虜もきちんとした処遇を受けました。日系人は「ジャップ」として、いわば「猿」扱いされたのです。
アメリカに生まれ育った2世(ニセイ)たちは、日本人というよりアメリカ人。日本の天皇に対する崇拝の気持ちなど持っているはずもありません。
 アメリカ軍はやがて日系2世の青年たちを兵士として、ヨーロッパ戦線そして太平洋戦争のなかで使う方針を打ち出しました。子どもたち(日系2世)が従軍したからといって、親たち(1世)が収容所から出られることはありません。だから、兵役に応じないという声もありましたが、多くの青年がアメリカ軍兵士になりました。
ヨーロッパ戦線に送られるときには日系2世のみの部隊がつくられ、白人が指揮官となりました。果たして、アメリカ軍の期待に応える兵士なのか、疑問(不安)も当局にはあったようです。しかし、日系2世の部隊はヨーロッパ戦線では大活躍したのです。
 前に「ゴー・フォー・ブローク」という本(渡辺正清・光人社)を読んでいましたので、およそのことは承知していましたが、前の本は250頁、今回は600頁というボリュームからも分かるとおり、圧倒的な詳しさです。なにより、2世を含む日系人が強制収容所に入れられる状況、そしてヨーロッパ戦線で大活躍したにもかかわらず、アメリカでは「大歓迎」どころではなく礼遇されたままだった状況を知り、心が痛みました。
戦争に行ったアメリカ人は1600万人のうち、名誉勲章を授与されたのは473人。うちの21人が日系2世の442連隊の兵士。442連隊は1万8000人いたのでアメリカ軍の0.11%にすぎない442連隊が名誉勲章の4.4%を受章したということ。このほか、殊勲十字章29、銀星章を560もらっている。
 1946年7月、トルーマン大統領はホワイトハウス近くの広場で442連隊を閲兵し、次のように演説した。
 「君たちは敵と戦ったのみならず、偏見とも闘い、そして勝利した。これからも闘い続けてほしい。そうすれば、我々は勝利するだろう」
 トルーマン大統領の言葉は気高く、誠実だったが、アメリカ人の人種差別は根強かった。
 1941年ころ、ハワイの人口42万3千人のうち、日系人は3分の1近く13万人近くいた。そしてハワイ準州警備隊員の4分の3以上日系アメリカ人だった。
 真珠湾攻撃があったあと、アメリカ人の多くは、国内にいるスパイの手引があったはずだと信じた。実際、日本人がハワイの真珠湾の状況を調べていたようですね。でも、それは日系人を組織的に使ったものではなかったと思います。日系人の家への嫌がらせも起きています。
日系人を収容した強制収容所は、1日1人あたり食費はわずか33セントでしかなかった。米かジャガイモだけ、肉は出ることはほぼなかった。
 ゴー・フォー・ブロークは「当たって砕けろ」と訳されています。日系人兵士たちがサイコロを振って遊んでいるときにも使っていたコトバのようです。
日系2世兵士の442連隊は、まずはイタリアのトスカーナ西部の戦線に送られます。ドイツ軍は88ミリ砲を搭載したティーガー戦車で対峙します。また、ドイツのMG42機関銃は「ヒトラーの電動のこぎり」と呼ばれ、切り裂くような長い音を立てながら、1分間に1200発もの弾丸を吐き出すのです。アメリカ軍のトムソン短機関銃より強力でした。そのなかで死闘を展開して注目されたのです。
 次は、フランスのブリュイエールに行き、ドイツ軍に包囲されたテキサス大隊の救出作戦。この本の著者は、これはダールキスト少将の誤った作戦指揮のためにテキサス大隊200人が包囲されたものと強く非難しています。そして、日系2世部隊(442連隊)は、このダールキスト少将によって、ともかし一刻も早くテキサス大隊を救出しろと厳命されたというのです。ともかく、ドイツ軍が厳重な包囲網を敷いているなか、無謀な空撃を余儀なくされました。その結果、テキサス大隊の救出は出来ましたが、442連隊も大打撃を受けています。180人いたK歩兵中隊で無事に生きていたのは17人だったというのです。士官は全員が戦死か負傷したので、軍曹が指揮をとりました。そして、戦闘後、ダールキスト少将が閲兵したとき、あまりに兵士が少ないので、「全員を整列させろと言ったはずだ」と怒り出したのでした。
 それに対して、「これが連隊全員です。残ったのはこれだけです」と実情をよく知っているミラー中佐が答えた。いやはや、なんということでしょうか...。200人のテキサス大隊を救出するために、442連隊は790人におよぶ死傷者を出したのでした。
 そして、最後に、再びイタリア戦線です。アプアン・アルプスの山頂にドイツ軍が堅固な陣地を構えているのを、442連隊が攻め落としたのです。このときには日系2世の兵士32人が亡くなり、負傷者も数十人出しています。
 この山を著者は2019年春にジープでのぼったそうです。とんでもなく高い山でした。
これもまた忘れてはいけない戦争体験の発掘と思いながら、ゴールデンウィークの1日に読了しました。
(2025年2月刊。4800円+税)

2025年6月 1日

南北戦争英雄伝


(霧山昴)
著者 小川 寛大 、 出版 中公新書ラクレ

 アメリカの南北戦争は1861年から1865年までの4年間です。日本では明治維新のころになります。明治10年に起きた西郷隆盛の起こした西南戦争のときにも、南北戦争が終わって不用となった銃砲が大量に日本に入ってきたとされています。
南北戦争は、アメリカ史上、事実上唯一の内乱で、当時34あった州が、北部に23州、南部に11州に分かれて4年間争い、60万人近い戦死者を出すという非常に大きな戦いだった。
当初は、なぜか南北双方とも、「この内乱は、ほんの数ヶ月ほどで終わる」とみていた。
 開戦後初の本格的開戦(1861年7月21日の第一次ブルランの戦い)は、お互いが急ごしらえでつくり上げた素人同然の軍隊で、まともな統制もなく、戦場で支離滅裂な衝突をくり返し、北軍は敗北して潰走し、勝った南軍も極度の混乱状態に陥り、敵の追撃など不可能だった。
 当時のアメリカに存在した黒人奴隷制度がなければ、この巨大な内乱は決して起きなかった。トラクターなどの農業機械のない時代なので、黒人奴隷なくしてプランテーションは維持できなかった。
 アメリカ北部は寒冷なので、綿花の栽培には向いていなかった。だから、北部にはそもそも黒人奴隷を必要とする産業が存在していなかった。
南部連合の指導者たちは貴族的な上流階級であるので、協調性に欠け、他者とじっくり話し合うのを苦手とした。
 南部連合の政府は、何かを誰かに強制できる権限をほとんど持っていなかった。
 アメリカ建国の父の大半は、社会の上流階級であり、ジョージ・ワシントンやトマス・ジェファーソンは富裕な農園経営者であり、黒人奴隷の所有者でもあった。
南北戦争の前半期では、南軍は北軍よりも強かった。南部は人材の力で支えられていた。
南部は遅れた農村社会だったので、人々は、自然に射撃や乗馬に親しんでいた。つまり、軍人として高い適性をもつ人々の割合が南部では高かった。
 北軍が、経済力や兵力で南軍に勝っていながら、戦争の主導権を握れなかった原因は、国家指導者であるリンカーン大統領と軍上層部の意思疎通があまりうまくいってなかったことにある。リンカーンを田舎者だと馬鹿にしていたようです。
丸4年も続いた南北戦争で北軍に35万、南軍に20万の戦死者を出した。ベトナム戦争で死んだアメリカ人は5万人だった。
北軍の多くの一般兵には、黒人のために自分の命を投げ出すことへの違和感があった。独立戦争後、アメリカ人はイギリスのような強力な常備軍をもつことを選択しなかった。
リンカーンの共和党は、北部のみを基盤とする地域政党でしかなかった。それでも民主党の候補に勝てたのは、1828年に設立された全国政党である民主党が、このとき分裂していたから。
北軍が海上封鎖に成功したことから、南部は綿花をヨーロッパに輸出できなくなり、経済が大打撃を受け、南部の経済は滅茶苦茶なインフレに襲われ、市民生活はほとんど破綻していた。
 南部連合のジェファーソン大統領は、お山の大将気どりの気難しい人物で、閣僚や将軍たちと口論ばかりしていた。それで、南軍には、総司令官職がおかれていなかった。
 このころ、アメリカの白人たちは、インディアン(先住民)について、「なぜか人の言葉を理解できる害獣」くらいにしか思っていなかった。
 なーるほど、同じ人間だと思わないどころか、「害獣」だとみていたのですね。そうだとすると、インディアンをだまし討ちして皆殺しするのに、何のためらいもなかったのも、よく理解できます。
 少し前の映画「ダンス・ウィズ・ウルブズ」は本当によく出来た映画でしたね。「狼とともに踊る男」という意味でしたか...。インディアンを人間として交わった白人の話でした。
アメリカのシヴィル・ウォー(南北戦争)について少し勉強することができました。
(2024年11月刊。1100円)

2025年5月31日

アンデス文明ガイドブック


(霧山昴)
著者 松本 雄一 、 出版 新泉社

 南アメリカの古代アンデス文明には大いに心が惹かれます。マチュピチュ遺跡を見てきたという人は私の身の回りにも何人かいますし、ナスカの地上絵は今なお新発見が続いています。そして、シカン文化は黄金製品で有名ですよね。
 私は現地に行くことはとっくにあきらめましたので、こうやって本を手にとって写真を眺めて心を踊らせ、解説文を読んで、なるほどそうだったのかと膝を叩いています。
 アンデス山脈は、南アメリカ大陸の西側、南北8千キロに及びます。アンデス文明は、この地域で4000年以上にわたって盛衰した文明です。
アンデス文明の特色は三つ。その一つは、他の文明から何の影響も受けていない、独自のもの。その二は、文字、鉄、車輪がない。それでも、絵文字とキープはありますよね...。その三は、自然環境の多様性。砂漠、山地そして熱帯雨林まで...。
アンデスでは、土器が出現するより前に神殿が出現した。土器がなくて、いったい料理と食事はどうやってしていたのでしょうか...。
 神殿は「王様」が君臨して人々に強制的につくらせたものではなく、小規模な集団で、階層化も進んでいない社会が何百年にもわたって造り続けたもの。「王様」が命令して造らせたのではないなんて、驚きです。「王」はいなくてもリーダーはいたようで、女性のリーダーもいたようです。
 紀元前後ころのモチェというアンデス最初の国家は、北海岸により、1億4千万個の日干しレンガによって神殿をつくった。そして、戦争捕虜を人身供犠していた。
 同じころ、南海岸ではナスカ文化が興隆していた。地上絵だけでなく、地下水路の技術も発達させた。
北海岸で黄金文化を誇ったシカンは単一王朝による国家ではなく、複数の有力な家系に連なる人々が支配階層を構成する連合政体、多民族的な社会だった。黄金の仮面には圧倒されますよね。
インカ帝国を構成するインカ族は80以上もの民族集団を支配下におさめていた。インカ帝国というのは、スペイン人征服者がつけたもので、当時の人々が使っていたのは「タワンティンスーユ」というもので、これは「4つの地方」を意味している。
インカ帝国の王は、誰が次の王になるか決まりがなかったので、継承をめぐる争いが頻発した。新たな王は、大地や建物をはじめとする先代の財産を引き継ぐことはできなかった。インカの王は、それぞれが自分自身を支える「パナカ」という親族集団をつくりあげ、首都クスコに王宮を構えた。新たな王は、自分のパナカを養うための土地を初めとする財を一からつくりあげる必要があった。
 インカ帝国は総延長4万キロという「インカ道」という幹線道路を整備した。宿駅を配置し、飛脚をつかった情報伝達システム、キープ(結縄)という記録手段をもっていた。キープは誰でも解読できるものではなく、キープカマヨックという解読専門家がいた。
マチュピチュは都市ではない。最大でも750人ほどしか居住できない。宗教色の濃い建築物がほとんど。男女比は男3:女2で、さまざまな民族集団に属する人々がいた。
 アンデス文明の解読に日本人が大いに役立っているというのもうれしい話ですね。
(2025年1月刊。1980円)

2025年5月21日

沈没していくアメリカ号を彼岸から見て


(霧山昴)
著者 エマニュエル・パストリッチ 、 出版 論創社

 日米で学び、米韓の大学で教え、アメリカ大統領選挙に立候補したアメリカ人の学者が、アメリカを語り、日本人に訴えています。とても共感できる内容でした。こんなアメリカ人学者がいるのを私は初めて知りました。
 ロバート・キャンベルは私も知っていますが、文学以外の政治について語らないのを著者は不満なようです。それにしても、著者の語学力はすごいです。日本語も韓国語も、そして中国語も話します。どうやらフランス語も話せるようです。それでも、ロバート・キャンベルのように天才的な語学力があるわけではなく、努力したのだといいます。
アメリカの大学は、イエール大学で学び、教え、またハーバード大学で学んでいます。東大では大学院で勉強しています。韓国でもいくつかの大学で教えています。
 日本の平和憲法の意義を高く評価していて、アメリカの憲法を日本国憲法のように変えるべきだと提言しています。そして、日本人とアメリカ人の人的交際が少なすぎる、市民同士のつながりをもっと強める必要があると強調しています。その点、日本(東京)の笹本潤弁護士を高く評価しています。国際法律家協会で世界的に活躍している弁護士です。
 アメリカは日本に企業の支配を押し付け、日本を危険な海外戦争に引きずり込もうとしている。日本とアメリカは、平和を大切にする経済関係に戻るべき。機械やコンピュータではなく、人間性に、コンクリートやプラスチックや鉄鋼ではなく、自然に置かれるべき。人間の心の奥底を探る知的探求にもとづく、新たな強固な関係を目ざすべき。
 今の日米合同委員会は非公開だけど、平和委員会という名称に変え、委員会の透明性を高めて、東アジアの平和体制の構築を目ざすべき。いずれも実にもっともな指摘で、とても共感します。
 日本のテレビニュースの質は著しく低下している。著者は厳しく指摘しています。私はテレビを見ませんが、たまに見ると、くだらないワイドショーやお笑い番組ばかりです。著者は1988年のリクルート・スキャンダルの報道以来、質が劣化しているといいます。NHKをはじめ、いかにも「政府広報」番組ばかりになってしまいました。
 日本人学生は自分の中に閉じこもりがちで、東大生は友だちになるのが一番難しいと言われているが、本当だった。そして、東大でバドミントン部に入ったけれど、厳しい上下関係にはなじめなかったとしています。
今、ハーバード大学はトランプ大統領から目の敵にされ、国の補助金が停止され、ハーバード大学は国を訴えて係争中です。ところが、著者は、このハーバード大学について、厳しい評価をしています。効率性と生産性を追求するあまり、かつてはあった知的自由の多くが破壊されてしまった。この変化は、大学に対する銀行の力が強まった結果であり、ハーバード大学理事会の超富裕層の力が強まった結果である。知的自由の喪失はひどいものだ。 
アメリカでアジアにかかわる政策を立案して推進している人々は、アジアに関する専門知識をもたず、アジアをほとんど理解していない人々でしかない。
 アメリカは、アジアで武器を売る市場を確保することを最優先課題としている。
キッシンジャーは、自分のコンサルティング会社に連邦政府の資金を投入させることを主眼としているビジネスマン。
 韓国社会は深刻な問題をかかえている。高い自殺率、汚染された空気、学校での容赦のない競争、若者たちが感じる疎外感、輸入食品・輸入燃料への過度の依存。そしておびただしい数の貧困な高齢者の存在。
 韓国政治では理想主義的な若い政治家たちも腐敗している。
 韓国では政党の重要性ははるかに低く、個人的な関係、個人の美徳のほうが政治的行動の中心となっている。
 アメリカでは、警察があまりにも残忍になっている。これに対して、日本の警察は国民に対して残忍な弾圧をしていないと評価しています。アメリカでは、警察を呼ぶこと自体が危険、市民にとっても危険だという著者の指摘には驚きました。
 日本人は、多国籍企業や銀行に支配されてはいけない。アメリカが支配権をもっている腐敗した政治・軍事システムから日本は独立すべきだ。まったく同感という思いで230頁の本を読み終えました。
(2025年2月刊。2200円+税)

2025年4月22日

アメリカ・イン・ジャパン


(霧山昴)
著者 吉見 俊哉、 出版 岩波新書

 ハーバード大学にも教養学部があるそうです。その東アジア言語文明学科で著者が2018年に講義した内容が再現されています。この新書のはしがきにおいて、著者は2度目のトランプ大統領について、次のように書いています。
 2024年11月のアメリカ大統領選挙で明らかになったのは、アメリカ人の平衡感覚の喪失が、トランプ自身によるものという以上に、すでにアメリカ社会の内部崩壊が深く進行していることの現れであり、もはやこの内部崩壊は、長期的に回復不可能であろうと思われる。
カマラ・ハリス大統領候補は、彼女なりのベストの戦いぶりを見せていたように思えた。しかし、より多くのアメリカ国民が、おそらくは自己利益だけのためにトランプ大統領の再選を選んだ。
 これは間違いなく、アメリカの「自由」のある本質だ。つまり、アメリカの「自由」の歴史とは、一面で、先住民の徹底した排除と殺戮、所有権の絶対化と金銭万能主義、根本的な人種差別主義と暴力主義と市場主義を「明白なる運命」として、東部諸州から西部へ、さらには太平洋から全世界へと拡張させてきた歴史である。
うむむ、なるほど、なるほど、そうだったんですね。アメリカの「自由」と「民主主義」は、もう一つ別の側面があるというわけです。
 アメリカ人の「西部開拓」は、実は先住民を絶滅に追いやる殺戮の過程だった。それは「開拓」ではなく、まさしく「侵略」だった。しかし、アメリカ人の多くは、今も自分たちの国が「侵略」の産物だということを認めたがらない。
 1848年、カリフォルニアには15万人の先住民が生活していたが、10年後の1860年には3万人にまで減っていた。
 江戸時代の末に日本に来たペリーは、日本について、次のように結論した。
この国では、それぞれの組織が相互監視を徹底させ、失敗を許さない仕組みを発達させており、内部からの変化はきわめて起こりにくい。なーるほど、これって昔も今も変わりませんね。
 日本人はきわめて勤勉かつ器用な民族であり、製造業の中には他国の追随を許さないほど、優れたものがある。
 日本人は外国から持ち込まれた目新しいものを素早く調べて、その製造技術をすぐに自分のものにし、非常に巧みに、また精緻に同じものを作り出す才能を有している。
 いやあ、これまた戦後の日本について語られているかのように感じてしまいます。
 ペリーと交渉した日本側も、いずれも実に大胆な演技を白々と演じていた。すごいですね、見事に日米双方とも演技していたことを見破っています。
当時の日本人の対米認識には、強大な他者に恐れおののく心性と、その他者についてのそれなりに正確な観察が併存していた。
アメリカに留学した内村鑑三が見たものは、アメリカ社会の拝金主義、そして差別だらけの現実と混乱、狂気と刑務所、膨大な貧困層だった。
よくも日本とアメリカの違いを深く掘り下げていると感嘆しながら、ゼミ生になった気分で読みすすめました。
(2025年1月刊。1166円)

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