弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年10月 7日
財務省と日銀
社会
(霧山昴)
著者 植草 一秀 、 出版 ビジネス社
消費税を今すぐ5%の税率にせよと著者は提言しています。大賛成です。これが何よりの景気浮揚策です。そもそも消費税は社会保障の財源としてはまったく使われておらず、金持ち優遇の所得税と法人税を減税した分に充てられているだけなのです。
本書を読んで驚き、かつ怒りを覚えたのは、補正予算の使い方がまるでデタラメだということです。まったく認識していませんでした。
補正予算は年平均39兆円。これは、一般会計・特別会計の23兆円より、はるかに大きい。そしてこれは利権補助金ばらまき財政として使われている。これって、許せません。
消費税の税収は、1円たりとも財政再建や社会保障の拡充には使われていない。一般庶民から消費税として509兆円の税収を得たのに、富裕層の所得税と大企業の法人税をそれぞれ減税した合計605兆円に充てている。
財務省は日本財政は深刻な危機にあると強調する。たしかに、日本の国債発行残高は1174兆円。これは日本の名目GDP595兆の2倍。ところが、日本政府は1701兆円もの資産を有している。826兆円の金融資産と875兆円の非金融資産。だから、資産と負債の差はプラス259兆円。資産超過なのだから、日本の財政が破綻するリスクはゼロ。これを隠して、財務省は「財政危機」と言いたてている。そして、マスコミを動かし、国民民主党などを財務省の代弁者としている。
日本経済は成長していないけれど、大企業の利益だけは激増している。大企業の内部留保は600兆円にまで膨れ上がっている。
玉木雄一郎の国民民主党が主張する「103万円の壁」の引き上げは財務省も同じ考え。むしろ財務省の考えを国民民主党が代弁しているだけ。この「103万円の壁」を「取り払っ」ても、それだけで労働者の手取り賃金が増えるわけではない。
財務省が何より嫌っているのは、ともかく消費税の減税。これを阻止するために全力をあげている。
消費税の税率を10%から5%に引き下げることで減る税収は15兆円。しかし、これは、すぐにカバーできるのです。
私は知りませんでしたが、「大蔵省三原則」というのがあったそうです。「場当たり、隠蔽、先送り」です。著者も大蔵省(財務省)に勤めていました。
財務省権力の源泉は予算配分権にある。予算配分を財務省のさじ加減ひとつで決定できる。この裁量権こそ財務省の権力の源泉だ。
著者は、日本政府が保有している1兆ドルもの米国債を全額「売却」することを提案しています。トランプ大統領が真っ青になること必至です。アメリカは、日本の米国債購入を「上納金」と理解している。これをやめて、貸しているお金を返してもらおうというのです。大賛成です。
著者は、日本を支配している日米安保条約、日米行政協定そして日米合同委員会の見直しも提起しています。とても大切な問題です。日々のトランプ大統領の言動から、アメリカが日本を守る意思のないことはますます明らかになっていると思います。日本人も行動に立ち上がるときなのです。
著者は、日本社会を支配している三つの骨格、アメリカによる支配、大資本による支配、そして官僚による支配を考え直すべきときが来たと主張します。まったくもって同感です。
補正予算で利権財政に無駄に費消されているのを止め、社会保障費に充てたら、たちまち日本は世界有数の福祉大国になれる。いやあ、すばらしい提起です。感激しました。元財務官僚だったとは思えない、画期的な本です。東京の小池振一郎弁護士(私の受験仲間。同期です)が勧めてくれた本です。いつもありがとうございます。
(2025年7月刊。1870円)