弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年10月 3日

なぜ倒産、運命の分かれ道

社会


(霧山昴)
著者 帝国データバンク情報統括部 、 出版 講談社の新書

 私はずっと個人破産を主として扱ってきましたが、ときには中小企業、零細商店の倒産も扱います。
この本で紹介されている企業倒産は、私の日頃扱うケースより断然規模が大きいものです。
でも倒産の原因は規模の大小とはあまり関係なく、似たりよったりです。
この本を読んで改めて驚いたのは、企業が作成する決算書がいくつもあったという話です。かの有名な「百均」のダイソーの親密な取引先の企業では、決算書を粉飾していたけれど、金融機関向け、税務署向け、ダイソー向けという3種類があった。
税務署向けにはあまり利益が出ていないことにして税金を安くしてもらう、銀行向けには儲かっているけど、つなぎ融資が必要、ダイソー向けにはこんなに経営は安定していますから、どんどん発注してください。そんな使い分けをしていたのでしょう。
私が疑問を感じたのは、決算書を作成したのは税理士または公認会計士事務所ではないかと思いますが、そこの責任はないのか、ということです。それとも自社経理部内で3種類の決算書を作っていたのでしょうか。
粉飾決済を続けていて倒産したというのはこの企業だけではありません。まさか会計士、税理士事務所を関与させなかったとは思えないレベルの企業です。いったい、税理士や公認会計士の企業倫理はどうなっているのでしょうか・・・。
もう一つ不思議に感じたのは、東京の医療機器メーカーの倒産事件において、今なお手形取引をしていたということです。私はこの30年ほど、手形取引の相談を受けたことがありません。もちろん、手形訴訟なんてしたこともありません。今では裁判所の司法統計でも手形訴訟という項目はないと思います。それほど激減したというか、存在しないのです。ところが、この本では手形取引の話が出てきてびっくりしました。
事業承継の難しさから、企業倒産に至るというのは私の身近にもありました。親がこの商売はもうからないので、子どもには引き継がない(げない)というので、倒産させてしまうのです。
いろんな倒産のパターンが参考になりました。
(2025年2月刊。1100円+税)

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