弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年9月25日
内調
社会
(霧山昴)
著者 岸 俊光 、 出版 ちくま新書
内調といっても、一般には知られていない役所だと思います。内閣調査室のことです。1952年4月に設立されて70年以上たっていますし、戦前の情報委員会が前身ですから、その1936年7月からすると、もはや90年超の歴史があります。
内調について書いた作家に吉原公一郎と松本清張がいる。
戦前、電通は陸軍と結び、聯合(れんごう)は外務省と結びついていた。戦後の今日、政治部記者が政治家に、社会部記者が検察に「飼い犬」化されて批判されているのと同じようなことが、戦前にも起きていた。
私が高校生のころ、NHKの朝の連続テレビ小説「おはなはん」の元になった随筆を書いた林謙一は、内閣情報部に勤務していた。樫山文枝が主人公の「おはなはん」は、そのタイトルソングの軽快なメロディーが流れてくると、心が浮き浮きはずんでいたことを思い出します。
戦前、そして戦中には「思想戦」という言葉が流行っていました。国民を国家総力戦に駆り立てようとするものです。ですから、それに逆らう共産主義者も民主主義者も、みんな「敵」として殲滅(せんめつ)の対象だったのです。小林多喜二の虐殺は「思想戦」のなかに位置づけられます。思想戦講習会では、菊池實も講師になっています。
戦後、戦犯指定を受けながら返り咲いた岸信介は、商工次官として、国民服制定にもっとも熱心だった。昔から骨の骨髄まで右翼反動だったのです。
朝鮮戦争のとき、中共軍が介入してくるという極秘情報を入手したのに、米軍上層部は、これを無視した。これって、スターリンがヒトラー・ドイツ軍の侵攻を知らされても、そんなはずはないとして、ついに不意打ちをくらったのとまるで同じですよね。
参政党の公約の一つに、公務員の思想調査をするというのがあります。大阪で維新がやって世間の顰蹙を買ったことを、参政党は国政でやろうというのです。とんでもありません。誰にだって内心の自由はあるのです。その基本的人権を踏みにじろうとする参政党に、これ以上の議席を与えたら、日本はとんでもなく暗闇の世界になってしまいます。やめさせましょうよ、そんな思想調査なんて...。
本書は内調の歩みについて書かれた貴重な文献です。
(2025年4月刊。1540円)