弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年9月19日

「稼ぐ小国」の戦略

ヨーロッパ


(霧山昴)
著者 関山 健 、 出版 光文社新書

 デンマークの人口は590万人。九州よりやや大きい国土に福岡・佐賀県民が暮らすというイメージ。その平均年収は日本の1.5倍で、1人あたりGDPは6万8600ドル。日本の倍以上。所得税は平均で4割、高所得者だと6割弱。消費税は25%。そのかわり、医療費は手術をふくめて無料。教育費も大学院まで無料のうえ、学資絵には生活費として毎月の給付金を受けとれる。子どもは必ず保育園に入れる。老後の生活を心配する必要がない。
 国連による世界幸福度ランキングで、いつもトップ3位以内に入っている。
 デンマークの国際的に有名な企業として、玩具の「レゴ」、製薬会社の「ノボノルディスク」がある。デンマークを豊かな国にした5つのポイント。
①できるだけ多くの人を働かせる。働ける人は実際に働いているし、女性は男性と同じように稼いでいる。
②人材の質を高める。学生は国から15万円近くの給付金をもらっている。博士課程になると70万円もの高給取りだ。デンマークでは、25歳から64歳までの3人に1人が大学の何かのコースで学んでいる。生涯学習だ。
③質の高い人材に、競争力ある企業で力を発揮してもらう。
④生産性の高さやイノベーションにつながりやすい組織文化や仕組み。ミスを高いレベルで許容する文化がある。「さっさと失敗する」ことが奨励されている。
⑤長期的視点と「一歩先」を行くための先見性。
デンマークでは、自転車のほうが車より多い。デンマークは国をあげて風力発電に取り組んでいる。
デンマークでは、中学、高校、大学そして就職とストレートに進んでいくことはまずない。そのどこかで、数年間のギャップイヤーを経験するのが一般的。なので、初めての就職が20代後半というのが珍しくない。学校では、正解が一つの問題を解かせることは少ない。
 日本でも、正解がよく分からないことが多い社会の現実のなかで、なんとかして価値を生み出していく努力が学校にも企業にも求めれている(と思われます)。
 スイスは、九州と同じくらいの国土に900万人の人口が住んでいる。外国人移民の比率は25%。農業の労働生産性はスイスの38ドルに対して日本は25ドル。製造業だとスイス170ドル、日本101ドル。サービス業ではスイス127ドル、日本79ドル。スイスは日本の1.5~1.7倍の高さにある。
 スイスは、人材の競争率が高い。スイスには、国際的に高く評価されている大学も多い。
 スイスの就業教育訓練制度は世界最高レベル。
 スイス人の考える「クオリティ」と日本人の「品質」は、少し異なる。スイス人にとってのクオリティとは、ベスト、秀逸であること。これを強引に進めてきた。日本の品質は「百均」にあるように、「100円にしては品質が高い」というもので、コストパフォーマンス的な要素が入っている。
 日本の大学の学費の高さは異常です。奨学金制度も弱いので、学生は勉強そっちのけでアルバイトせざるを得ません。欠陥機のオスプレイやらF35のようなステルス型の戦闘機なんかアメリカから買わず。教育予算にその分をどーんと注ぎこめば、たちどころに解決し、みんなが喜ぶ制度になっているのですけど...。政府は学術会議を解体することばかりに奔走しているのが残念至極です。もっと教育予算を増やしてほしいものです。
(2025年5月刊。1100円)

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