弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年9月13日

マンガ脚本概論

人間


(霧山昴)
著者 さそう あきら 、 出版 双葉社

 いやあ、とても勉強になりました。漫画家を志す人のための本だというのですが、私のようなモノカキ志向の人間にも大いに役に立つ実践的な本です。
 かのマンガ学を教えることで有名な京都精華大学で長くマンガ学を教えていたというだけあって、話が具体的ですし、何よりマンガの流れで紹介されていますので、抜群に読みやすいのです。
 「面白い」って、何だ...。人が面白いと思うのは、新しさと共感。たしかに、そうなんですよね。ありきたりの誰でも知ってることが「展開」されても、何の面白味もありません。とりわけ、私は「共感」という点に心が惹かれました。
 次に、アイデアです。いったいどうやって面白いアイデアを生み出すのか...。アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせにほかならない。
 この前提として、人間にはもともとアイデアを結びつけずにはいられないという、独自の能力が備わっているというのです。類化性能というそうです。知りませんでした。
アイデアの出ない人は、インプットを増やす必要がある。つまり、「ひきだしの多い人」にならなくてはいけない。よいアイデアは、自分で成功する力を持っている。
ブレインストーミングには、4つのルールがある。①判断の遅延、②突飛なアイデア歓迎、③質より量、④アイデアの便乗歓迎。これはダメなアイデアから出していく。大事なことは、どんどんアウトプットして、忘れること。そして、書き出す。たとえば、中央にテーマを書いて、周囲の8つの空欄を埋めていく。このとき、「自由に楽しく」、これが大事。
 物語の推進力は、どうやって生まれるのか...。読者に最後まで読んでもらうためには、どうしたらよいか...。ストーリーの最初に立てられた問題を読者に忘れられないようにする。しかし、これは簡単なことではない。問題提起があって、解決はあるけれど、途中にハードルのないストーリーでは読者はついていかない。ハードルには質と量が必要。予定調和は、リアルではない。
 初めに問題提起がされた瞬間、読者はそのストーリーの粗筋を予想できる。
 あれも描きたい、これも入れたいという欲張りな作品は、たいてい駄作になってしまう。
 一言で面白さが伝わる話は、読者の心をつかみやすい。
「主人公に残酷な物語は面白い」(大沢在昌)。
 読者が食べたいのは、骨ではなく、肉だ。ストーリーにどう肉付するのか、ということ。
 読者をストーリーに引き込むには説得力が必要だ。
 主人公を見守る大人を描くことは、主人公の情報を分厚くし、主人公への読者の感情移入を強くする。
 作家になれるかどうかのポイントの一つは、他者の経験と知識を自分のものにし、違う価値観を描けるかどうかということ。うむむ、これでは私はいったい作家になれるのでしょうか...。
 リアリティとは、読者を作品に引き込む力。それは、この作品の世界が本当に存在と読者に信じ込ませる説得力のこと。つまり、具体的な描写で噓をつくこと。
 よいマンガは、それを読んだ人のものの見方を変える。
 読者はこのように断言しています。なーるほど、そうなんですか...。とてもいい本に出会いました。ありがとうございました。これまで、まったく知らなかった著者に対して、心よりお礼を言いたい気分です。
(2024年6月刊。2420円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー