弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年9月24日
パラレル
社会
(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版 地平社
私の住む町の上空をオスプレイが飛びはじめました。いつ故障して落ちるか分からない札つきの欠陥機です。いったい何の役に立つのか十分な説明もないまま、日本政府はアメリカから17機も大量購入して佐賀空港を拠点とするというのです。
そして、大分には今の弾薬庫を大増強して、中国本土まで飛んでいけるミサイルを備えおくといいます。ところが、地元の大分県弁護士会では、政治には関わらない(関わりたくない)と、沈黙を決めこんでいるようです。いいんでしょうか、そんなことで...。弁護士法で、「社会正義の実現と基本的人権の擁護」を使命とする弁護士が政府にタテつくようなことは恐れおおいといって何も言わないなんて、許されないことでしょう。
イラクのサマーワに自衛隊を派遣したとき、自衛隊が「戦死」したらどうするか、政府部内では真剣に議論し、備えていました。
まず、政府を代表して官房長官がクウェートまで遺体を迎えに行き、政府専用機で遺体とともに帰国する。そして、葬儀は防衛庁(まだ省になる前です)を開放し、一般国民が弔意を表せるように記帳所をつくる。そのための棺桶と遺体収納袋は、派遣部隊のコンテナに潜ませた。
実際には、幸いにも一人の戦死者も出ませんでした。しかし、サマーワの基地は危ないところだったのです。ロケット弾攻撃は13回22発あり、うち4発は敷地内に落下しました。
そして、直接の戦死者こそ出なかったが、実は、のべ5600人の派遣隊員のうち21人が日本に帰国したあと、自殺した。また、クウェートを拠点にしていた航空自衛隊員3600人のうち、8人が在職中、同じく自殺した。このほか、PTSDなど心の病は1000人以上と推測されている。
話は変わって、台湾有事。日本は台湾と正式国交していない。
ところが、自衛隊OB(将官クラス)が台湾に招待され、「自衛隊は台湾軍と共に戦う」と勇ましい発言を繰り返している。いやあ、これには驚きました。日本では、まったく報道されていないことです。
著者は陸上自衛隊がサマワに駐屯しているときの2004年2月、現地で取材しています。このとき、自衛隊は、「全員とにかく無事に帰ってくること」が最大のミッションだったのでした。そりゃあそうですよね。あのとき一人でも戦死者が出たら、日本の世論は大変だったことでしょう。まあ、世論がどちらに向くか(向いたか)は誰も予測できない(かった)ことでしょうが...。
航空自衛隊の輸送機はアメリカ兵の「アッシー君」だったのです。そんなこと、おかしいでしょ。そこで、名古屋高裁(青山邦夫裁判長)は、航空自衛隊の武装兵員をバグダットへの空輸活動は憲法違反だと明快に断じたのでした。
ところが、今や、自衛隊の米軍との共同訓練は、3.4倍にもなっている。「共同」と言いながら、その実質は、アメリカ軍の統制下の訓練でしかない。
川口創弁護士が鋭く指摘しています。
「日本は、世界一のアメリカに従属し、しかもアメリカ軍の手先となって戦争の前線を担う『世界一のポチ軍事大国』になっている」
「日本人ファースト」という参政党は、アメリカ軍人の犯罪の「野放し」を許す日米地位協定には絶対に触れようとはしません。トランプにポチのように尾をふってついていくだけ。そして、無用どころか危険きわまりないオスプレイの飛行も問題とすることなく、トランプ礼賛です。やめて下さい。それでは本当に日本人を大切にしていることにならないでしょ。
今、多くの人に読まれてほしい本です。
(2025年4月刊。1980円)