弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年9月27日
筑前化物絵巻
日本史(江戸)
(霧山昴)
著者 近藤 瑞木 、 出版 河出書房新社
「なんでも鑑定団」で300万円の値がついた絵巻が詳しく紹介されています。
2023年7月、テレビ東京の番組で、福岡県鞍手町の代々続く医家である荒木家に伝わる妖怪絵巻が紹介されました。異本が早稲田大学の図書館にも「化学絵巻」として収蔵されているそうです。
作者は、福岡の黒田藩に仕えていた武士で、二日市に住んでいた役人と推定される。
妖怪を描いているが、作者は妖怪が実在しているとは考えておらず、世の中に化け物はない、空言(そらごと)だとしている。化け物より怖いのは普通の人間だ。まったく、そのとおりです。
この絵巻が成立したのは安政4年から6年ころ(1857~59年)とみられている。まさしく幕末のころです。
オリジナルの絵巻を書き写したわけです。写した人にも絵の素養があったということなのでしょうね。絵自体は見事なものですから。簡単に素人が描けるというレベルではありません。
この絵巻の語りの拠点は、二日市温泉の周辺です。私は、この夏、久しぶりに二日市温泉「大丸別荘」に泊まりましたが、近くに「湯町」というのがあるんだそうです。万葉集にも出てくる古湯だなんて、まったく知りませんでした。
ここには、九州最古とされる天台宗寺院の「武蔵寺」があり、ここは、修験者に宿坊を提供していた。そこで、地域の情報交換の拠点となっていたと考えられる。
そこから、絵巻の作者は、湯町在住の人物と推察できるというのです。実在が他の文献から確認される、湯町の宿屋の亭主「桐屋与平」、「堺屋佐七」も登場する。
湯町に集まる諸国の旅人、湯治客らが披露した奇談や異獣の姿、妖怪国などを作者が記録し、絵画化していったのではないか...。
たとえば、「いやいやどん」という巨大な虫を、見料(見物料)をとって入湯客に見物させていたという記事がある。「いやいやどん」で見物料とおして1人15文(もん)もとるなら、他の化物を生け捕りにして見世物にしたら、もっと金もうけできる、なんて会話がある。この絵本作者の思想には現実的・合理的思考が強い。
つまり、虚構として割り切って化物を創作したと考えられる。このように評されています。
大変面白い、妖怪・化物絵巻でした。これで「300万円」とは、あまりに安すぎると思いましたが...。
(2025年7月刊。3278円)