弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年7月 8日
10年先の憲法へ
社会
(霧山昴)
著者 太田 啓子 、 出版 太郎次郎社エディダス
申し訳ありませんが、私はテレビを見ませんので、NHKの朝ドラ『虎に翼』も『あんぱん』も見ていません。ところが、弁護士である著者は子育てしながらも朝と昼、2回も見ていたそうです。そして、「とても幸福な朝ドラ体験だった」といいます。
朝ドラが終了した翌日、主人公のモデル・三淵嘉子夫妻が過ごしていた小田原市にある別荘・甘柑(かんかん)荘保存会から声がかかって、「憲法カフェ」の講師として話したのでした。この本は、その時の講演をベースにしていますので、とても分かりやすいものになっています。
この本の後半に「ホモソーシャル」という私の知らない用語が登場します。女性を排除した男性どうしの絆(きずな)を指します。女性は、あくまで男性同士の関係性を構築するための「ネタ」であって、その関係性からは排除されてしまっている。そもそもホモソーシャルとは女性軽視(ミソジニー)と同性愛嫌悪(ホモフォビア)をベースにした男性同士の強固な結びつき、および男たちによる社会の占有をいう。つまり、女性を自分たちと同じように社会を担う一員とは考えず、また同じように物事を考え、同じようにさまざまなことを感じながら生きている存在だとは見ない。ふむふむ、そう言われたら、自分のことを棚上げして言うと、そんな男集団ってありますよね...。
男らしさの三つの要素は、優越志向、権力志向、所有志向。
一種の権力志向に「嫌知らず」があるそうです。「嫌知らず」というのは、女性や子どもが「それは嫌だ」「やめてほしい」と言っているのに、それが伝わらず、同じことを繰り返す男性の行動を指す。
『虎に翼』に登場した「優三」について、著者はケア力の高い男性だとみています。他の人のニーズを汲(く)み、理解して、自分ができることで、それに応えようとする、そんな行動をナチュラルに出来る人。
寅子のモデルの三淵嘉子は、家庭裁判所で少年事件を担当するとき、「もっと聞かせて」と少年によく言っていたそうです。長く弁護士をしている私は、この言葉を聞いて、ガーンと頭を一つ殴られてしまった気がしました。
というのも、弁護士として、いかに書面を書いて、主張を展開し、まとめることばかり気をとられ、目の前の依頼者や相談者に対して、「もっと聞かせて」なんて頼むことはほとんどありません。目の前の裁判官が「もっと聞かせて」と言いながら身を乗りてきたとき、少なくない少年たちが心を開いて、自分のみに起きたことを話し始めるのではないでしょうか...。
出涸(でが)らし、という言葉も出てきます。弁護士生活50年以上、パソコンを扱えず、判例献策をインターネット上ですることもできない(なので、すぐ身近な若手弁護士に頼みます)私なんど、この出涸らしの典型でしょう。でも、出涸らしには出涸らしによる良さもあると確信しています。
「おかしい、と声を上げた人の声は決して消えない。その声が、いつか誰かの力になる日が、きっと来る。私の声だって、みんなの声だって、決して消えない」
いやあ、いいセリフですよね。今日の少数意見が明日は多数意見になることを信じて歩いていくのです。
この本のタイトルって、どんな意味なのかな...と思っていると、最後にネタ明かしがありました。『虎に翼』の主題歌の歌詞に「100年先も」というフレーズがあるのですね。
三淵嘉子は日本で初めて司法試験(高等文官司法科試験)に合格した3人の女性のうちの1人です。私の父は、その3年前に同じく司法科試験を受験しましたが、残念ながら不合格。1回であきらめて郷里に戻りました。法政大学出身で、「大学は出たけれど...」という映画がつくられるほど、当時の日本は不景気でした。父は合格したら検察官になるつもりだったと言いました。ええっ。と私は驚きました。
でも、当時は、治安維持法違反で特高警察に捕まった被告人を法廷で弁護したら、それ自体が目的遂行罪なる、訳の分からない罪名で弁護士までも逮捕されて刑務所に追いやられていました。そのうえ、「赤化判事」として、現職の裁判官が自主的に勉強会をしたとか、共産党にカンパしたくらいで逮捕されたのです。このあたりの詳しい状況を知りたい人は、ぜひ、『まだ見たきものあり』(花伝社、1650円)を読んでください。
憲法13条は、「すべて国民は個人として尊重される」と定めています。そして、憲法12条は、国は不断の努力によって、自由と権利を保持しなければならないとしています。このとき、国民とは、日本に住む外国人も当然に含まれます。健康で文化的な生活を営む権利は、日本に住むすべての人のもっとも基本的な権利なのです。いい本でした。
(2025年4月刊。1540円)
日曜日、少し厚さもやわらいだ夕方から庭に出ました。熱中症にならないよう、日陰での作業から始めます。ひんぱんに小休止して水分を補給しました。
今、庭一面に黄色い花(名前が分かりません)が咲き誇っています。3月ころ、白い花を咲かせていました。
ブルーベリーが色づいていましたので、指でもぎりました。小さなカップ一杯とれたので、夕食のデザートにします。
目が覚めるような真紅の朝顔が咲いています。夏に朝顔は欠かせません。
外国人排斥を叫び、明治憲法に戻れという参政党が支持を伸ばしているといいます。信じられません。まるで戦前の亡霊です。
若い人や女性が支持しているというのですが、ヘイトスピーチは、いずれ自分にはね返ってきます。ぜひ考え直してほしいです。みんな同じ人間なんですから...。