弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年7月 5日

サルとジェンダー

人間


(霧山昴)
著者 フランス・ドゥ・ヴァ―ル 、 出版 紀伊国屋書店

 小学4年生と1年生の孫がいます。どちらも男児です。見るからに元気モリモリで、いつだってエネルギーにみちあふれています。おとなしくお人形さんで遊ぶなんてことはありません。二人での取っ組みがケンカに発展するのはザラです。
類人猿の男の子たちの尽きることのないエネルギーには舌を巻く。はね回り、ものに飛び乗り、飛び降りる。取っ組みあって、顔中で大笑いしながら地面を転げ回り、互いに激しく攻撃を加える。熱狂的なまでに乱暴で騒々しく活力を見せつける。
これに対して、類人猿の女の子たちは、そんな男の子たちを見ても寄りつかないで、他の遊びをする。
 霊長類の女の子は、赤ん坊に心を奪われる。男の子よりもはるかに強い関心を示す。子を産んだばかりの母親を取り囲み、赤ん坊に近づこうとする。子育てのトレーニングをすると、あとで子どもを産んだとき、授乳したり、守ったり、運んだりして育てるのに役立つ。
 チンパンジーは、シロアリの巣に小枝を差し込んでシロアリを釣って食べる。その様子を娘たちは熱心に母親を見守る。女の子は、こうして、どういうものが適切な道具になるかを学ぶ。ところが男の子は自分を頼みにし、母親の手本はそれほど重視しない。息子たちは、母親の手本の影響は受けない。
 男女間の違いは、白か黒かのように、はっきりしているわけではない。他のオスほどオスらしさを示さないオスがいつもいるし、お転婆なメスも必ずいる。
 チンパンジーのなかにも、地位をめぐる駆け引きをしない男が必ずいる。筋骨隆々の巨体をしていても、対決はせず、身を退(ひ)く。トップにのぼり詰めることはないが、最下位に沈むこともない。難なく自分を守ることができるからだ。それでも他の男たちからは無視される。危険を冒す気のない男は、上位者に挑むとき何の助けにもならない。女たちも、こんな男には関心を示さない。男や他の女に嫌な目にあわされたとき、守ってくれそうにないからだ。そのため、支配欲のない男は、比較的おだやかではあるものの、孤立した生活を送ることになる。
 チンパンジーの男社会って、まるで人間社会そのものですよね。著者は、チンパンジーのオスにはなりたくないと言います。
類人猿の女は、セックスに積極的で、さまざまな男と交尾しようとすることが多い。
 チンパンジーとボノボは、ともに気安くセックスする。イルカとボノボは、両方とも、絆(きづな)づくりや平和的共存のために頻繁に生殖器を刺激したり、性的な愛撫をしたり、交尾そのものをする。
 チンパンジーの青年期の女は、オレンジやマンゴーのような色鮮やかな果物を押しつぶし、肩にのせて自体の身体を飾りたてる。
 霊長類の群れは、禁じられた性行動であふれている。密会のとき、チンパンジーの女は、交尾のクライマックスでも声を上げない。
鳥類学者がDNAを調べると、父親の違う卵がたくさん見つかった。鳥のメスたちは積極的に第三者を追い求めている。
チンパンジーの女は、自分の意見に反するセックスはしない。チンパンジーにレイプ(強姦)はありえない。
 チンパンジーでもボノボでも、女たちの集団的な権力は男をはるかに上回る。
 男の子には青、女の子にはピンクというのは、衣料業界とおもちゃ業界によって作り上げられたもの。かつては、逆転していた。1981年の雑誌は次のように書いている。
 「ピンクのほうが、はっきりした強い色で、男の子にふさわしい。ブルーは、繊細で優美であり、かわいらしいから女の子に向いている」
 これが逆転したのは、最近のこと。いやはや、驚きましたよ...。常識って、変わるものなんですね。
 チンパンジーの男たちは、日和見(ひよりみ)主義で、連携の形成と解消を繰り返す。最大ライバルでさえ、将来の盟友になりうるし、盟友が最大のライバルにもなりうる。彼らは、あらゆる選択肢を残しておく。チンパンジーが「政治をする」という事実を、私は著者の本によって知り、大変な衝撃を受けたことを思い出します。
 優しくて平和的な女というのは錯覚であり、崩れつつある。とはいっても、チンパンジーの女たちはみな、自分の家族に尽くすし、忠実な友だちも2、3人はいて、彼女たちは、こうした関係を守り、対立を避けている。
 ボノボの女たちは、連帯して男の過剰な暴力を抑えこむ。女どうしの絆は、彼女たちにとって決定的に重要。なので、彼女たちは、多くの時間をグルーミングに費やす。
 著者は私と同世代(1948年生)ですが、残念なことに2024年3月にガンで亡くなっています。1泊の人間ドックのとき、病室に持ち込んで一生けん命に読みました。大変勉強になりました。
(2025年3月刊。3200円+税)

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