弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年7月 7日

老いの思考法

人間


(霧山昴)
著者 山極 寿一 、 出版 文芸春秋

 長くアフリカ現地でゴリラと向きあい探究してきた著者の話は、どの本を読んでも参考になり、考えさせられます。
人間だけが長い時間をかけて老いと向きあう。うへー、そうなんですか...。他の動物には老いて長く過ごすというのがないのでしょうか。
 動物は基本的に繁殖能力がなくなったら死ぬので、長い老年期というのはない。
 人間社会は離乳期と思春期と老年期という三つの固有の要素から成り立っている。
介護はサルや類人猿にはない、人間に特異な行動。
人間の赤ちゃんは、ゴリラの4倍のスピードで脳が成長する。
 ゴリラの赤ちゃんは基本的に泣かない。チンパンジーもそう。というのは、ゴリラの母親は生後1年間は子どもを片時も離さず、一体化しているから。
 ゴリラの世界では、老いたオスもメスも群れを追い出されることなく、若い世代から敬われて暮らす。ゴリラの子育てはオスの役目。思春期を過ぎても、子どもたちはオスのシルバーバックに頼り続ける。この親密な関係が老いたシルバーバックを敬い従うことにつながっている。
 ゴリラのオスは、子育てすると、ものすごく優しくなり、体つきも変わる。優しさと威厳が同居している構えになる。重要なことは子どもに頼られること。子どもに頼られるようになって、ゴリラは初めて父親らしくなる。乳離した子どもたちの安全を守り、子どもたちを仲良くさせて社会勉強させるのは父親の仕事。
 ゴリラのメスは、子どもの世話や保護のできないオスには見向きもしない。オスがメスに気に入られる大きな条件は、子どもを守り、世話をすること。
 父親に育てられた息子たちは、成長して力が強くなっても、決して父親を粗末に邪険に扱うことはなく、見捨てることもしない。なるほど、これは人間の子育てにも言えますよね。
 高齢者が本領を発揮できる美徳は仲裁力にある。
 ゴリラは非常に優しい動物だ。ゴリラは獰猛(どうもう)どころか、戦いを避けようとする。胸を叩くドラミンゴは宣戦布告ではなく、自分は対等な存在だという自己主張。
ゴリラは「負けない」。負けるというポーズがない。双方ともメンツを保ったまま、対等な関係を維持する。
人間は1~2年で離乳するけれど、ゴリラは3~4年、チンパンジーは4~5年、オランウータンは7~8年も授乳する。人間の赤ちゃんが泣くのは、面倒をみてほしいという自己主張。
 ボケには効用がある。自由な遊び心は老人の特権。
進化の過程のうち、ほとんどの時期は言葉を使っていない。言葉は脳を大きくした原因ではなく、結果なのだ。
 動物園のゴリラは、うつになることがある。人目にさらされすぎるからだ。
 サルに猿真似(サルマネ)はできない。学習して真似る、まねぶことが出来るのは人間だけ。
 ゴリラはお腹で笑う。ゲタゲタゲタと豪快に笑う。
 ゴリラは、みんなで分かちあった食べ物を、お互いにちょっと離れて、仲間で一緒に食べているときが一番満足しているとき。このとき、幸せそうに、ハミングを奏(かな)でる。
 人と人との直のつきあいのなかに自ら入っていくことが、人間の根源的な安心感につながる。いくつになっても家にひきこもらず、毎日5人に会うこと。毎週15人に会おう。もちろんスマホ(インターネット)ではなく、対面コミュニケーションで...。そうなんですよね。スマホを持たない私も共感するばかりです。
 後期高齢者の私にも大変勉強になりました。
(2025年3月刊。1650円)

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