弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

生物

2024年3月18日

もしも世界からカラスが消えたら


(霧山昴)
著者 松原 始 、 出版 エクスナレッジ

 毎年、今の時期(2月下旬から3月上旬)、電柱の高いところにカササギが巣をつくります。私の通勤途上に4個、巣を見かけます。本当にうまくつくり上げたものだと毎年感嘆して見上げています。ちょっとの強風ではビクともしません。つがいのカササギが巣を作り上げ、一緒に子育てするのです。とは言っても、子どものカササギを見たことはありません。カラスもよく飛んでいますから、カササギの卵、そして幼鳥をカラスから守るためカササギ夫婦は必死にがんばっているのだと思います。
 南米にはカラス属がいないそうです。カラスがいるのはメキシコまで、とのこと。どうして、こんな不思議なことが起きたのでしょうか・・・。著者はカラスは北回りでユーラシアから入ってきたからだとしています。でも、どうしてメキシコで止(停)まり、それより南下をしなかったのでしょうか。謎は深まります。ただし、南米にはコンドルがいる。とはいっても、北米では、コンドルとカラスは同居しているのだから・・・。
 鳥の先祖が恐竜だというのは、今や定着した学説です。そして、この恐竜とは、二本足で駆け回る活発な肉食恐竜だった。つまり、鳥は肉食だったはずなのに、鳥には種子食や果実食に特化したものが存在する。肉食から草食への転換が起きている。なぜなのか・・・。
 恐竜から鳥が分岐した時点、その時代には、まだ果実そのものがなかった。そして、鳥のほうも甘みを感じる能力をまだ身につけていなかった・・・。そういうことなんですね。
 カラスはオウムのように訓練したら、しゃべれるんだそうです。「オハヨウ」「オカーサン」「カーコチャン」というように。
カササギは、佐賀・福岡・熊本そして北海道の苫小牧・室蘭周辺にいるだけ。
北海道のカササギはロシアと遺伝子が共通している。また、九州のカササギは、秀吉の朝鮮出兵の際に持ち帰ったものとされているが、遺伝子情報によると、もっと古くから日本にいたとのこと。
さてさて、やっと本題に入ります。カラスは、本当に何でも食べる。隠れた主食は果実類。胃の内容物に占める果実種子は、ハシブトガラスで44%、ハシボソガラスで18%。
果実を食べる鳥がいないと、植物はとても困ることになる。鳥に食べられることによって遠くに種子を運んでくれ、生殖範囲が広がっている。
カラスの強みは、人間が近くにいても平気なこと。なるほど、人間を恐れないどころか、子を守るためには人間を襲うのも平気です。
イスラム教では、カラスとフクロウは不吉な存在だとされている。あまりカラスがいないということの反映なのでしょうか・・・。
カラスの生態を一生の研究テーマとしている著者は、カラスがいなくなっても、直ちに生物社会が成り立たないことはないとしています。少しだけ安心しました。それでも、カラスのいない社会なんて考えられませんよね。
同じことはミツバチについても言えます。ミツバチがこの世界からいなくなったとしたら、ハチミツも採れませんし、多くの果実の受粉が出来なくなって、たちまち食糧不足時代に到来することになるでしょう。
カラスと人間の関係について、改めて考えさせられました。それにしても、路上のゴミ出しをカラスが狙って散乱させているのだけは見るに耐えません。もちろん、人間のほうが悪いのです。きっちり締めておかないといけませんよ・・・。
(2024年1月刊。1600円+税)

2024年3月 9日

ともぐい


(霧山昴)
著者 河﨑 秋子 、 出版 新潮社

 ときは明治のころ。ところは北海道の東部。山に犬1頭だけを連れて、愛用の村田銃をひっさげて入っていく猟師の話です。
 出だしの猟は鹿。一発で仕止めると、すぐに鹿の腹を裂き始める。開かれた腹の中には、むき出しの鹿の内臓がつやつやと横たわっている。腸は汗で粘ついた白粉(おしろい)のような白さを晒(さら)している。その白さが肝臓の鮮やかな赤紫色を引き立たせていた。
 赤紫色した肝臓に手を伸ばし、持ち上げると、ずしりと重い。これが綺麗でないと健康な個体とはいえない。胆管の若い汁がつかないように丁寧に切り取ると、朝の日光を反射してつやつやと輝いている。肝臓の端を親指の幅1本分くらいの大きさに切り取る。切った断面がしっかりと形を保ち、内臓に巣食う虫の痕跡がないことを確認して、勢いよく口の中に放り込む。
 鹿の温もりがほのかに残っている。歯を立てると、さくりと心地よい音がしそうなほどに張りがある。そして、甘い。血と肉の旨味を凝縮したような濃厚な味わいがかみしめるごとに口腔に広がり、滋味が鼻から抜けていく。肉ももちろん美味いが、仕留めたばかりの鹿の肝臓は格別なものだ。
 猟師(熊爪)は地面に両膝をついた状態で村田銃を構えた。銃口の先で、赤毛(ヒグマ)が猛烈な勢いで近づく。冷静に、呼吸を止めることなく、銃口を赤毛へと向ける。頭ではない。あれだけ成長した熊ならば、分厚い頭蓋骨が弾をはじく。狙うべきは、地面をかく両前脚の付け根の間。その奥にある心臓だ。万が一、心臓を貫けなくても、肺が損傷すれば勢いは削れる。距離にして、熊の体三つ分、十分に引き付けてから猟師は引き金を引いた。一瞬、赤毛の体が止まって見える。
 赤毛は横に跳んでいた。悪いことに猟師の左側、狙いづらい方へと跳んで、渾身の一発を避けている。遅かった。赤毛は後脚で立ち上がり、前脚を大きく振る。
 猟師はかろうじて銃身を盾として爪の直撃を避けたが、とてつもない衝撃に文字どおりぶっ飛ばされた。
 そして、また、もう一歩、赤毛が近づいてくる。猟師の全身の毛が逆立ち、まぶたは見開かれたままで、眼球の表面が乾く。村田銃の引き金にかけた指の感覚がない。
 緊張から呼吸が止まっている。あと5歩ほどまで赤毛が迫ったとき、引き金を引いた。
 銃口からの距離、当たった場所、熊の反応。経験から、猟師は赤毛の心臓をとらえたと確信した。
 赤毛は立ち上がったまま、左の前脚を上げた。そして前脚を空振りさせて自らの体に巻き付かせ、その勢いのまま横向きに倒れた。
いやあ、すごいものです。北海道の別海町生まれの著者による描写ではありますが、まさしく熊(ヒグマ)撃ちの実際をド迫力をもって再現しています(しているのだと思います)。
 直木賞を受賞した作品ですが、その発表前から読みたいと思っていた本でした。人間関係のところは、いささかひっかかりましたが、狩りの場合はすごい描写です。
(2024年1月刊。1750円+税)

2024年3月 4日

ゴキブリマイウェイ


(霧山昴)
著者 大崎 遥花 、 出版 山と渓谷社

 この出版社がなぜ、ゴキブリを扱った本を出すのかな...。そんな疑問に引きずられながら読み進めました。
 ゴキブリをめぐる、とても面白い本です。ホッコリしながら、学者の厳しさと楽しさが伝わってくる本でもあります。
 ゴキブリといっても、わが家に出てくるような、憎き「敵」のゴキブリではありません。森の中の朽ち木に潜んでいて、「害虫」とは無縁です。それどころか、森の中の第一次清掃人の仕事をしている、いわば益虫です。
 私は著者をてっきり男性と思って読んでいたのですが、途中で女性だと知りました。若い女性が沖縄の森の中で、ハブを心配しながらゴキブリを採集し、リュック一杯にゴキブリを入れて飛行機に乗せて運び、研究室で大量に飼育・繁殖させ、その生態をビデオ撮影しながら観察し、分析するというのです。
 もちろん、学者に性差はありえません。でも、うちの女性陣はゴキブリを見たら、まずは何よりキャーッと叫び、次には「叩き殺せ!」という大合唱です。どこも同じではないでしょうか。
 著者の研究の対象は、クチキゴキブリ。森林の奥でひっそりと暮らす、害虫ではないゴキブリ。クチキゴキブリは、朽木(くちき)を食べながらトンネルを作り、そこで家族生活を営んでいる。父と母は生涯つがいを形成し、一切浮気をしない。
 これって本当でしょうか...、信じられません。かの有名なオシドリが、実は浮気する鳥だということは既に実証されています。
 クチキゴキブリは「卵胎生」。卵は母親の体内で孵化(ふか)して子が直接母体(腹)から出てくる。
 クチキゴキブリは、交尾後2ヶ月ほどすると子が生まれ、両親ともに口移しでエサを与えて、子育てする。この両親そろっての子育てというのは、とても珍しいこと。そうですよね。
 ゴキブリ研究の第一人者である著者は、実はゴキブリアレルギーの持ち主。クチキゴキブリを素手で触ると、無数の水ぶくれが出来てしまう。
 著者は、九州大学理学部を卒業し、クチキゴキブリ研究を現在進行しているのは全世界広くといえども著者だけ。まさしくあっぱれ、です。今はアメリカの大学で研究を続けています。
 全世界のゴキブリは4500種。日本には64種類いる。そのうち害虫と認識されているのは5種類だけ。1%にも満たない。
 クチキゴキブリは雑食性で朽木、落ち葉のほか、昆虫の死骸や動物のフン・キノコなど、全部、何でも食べる。分解の第一段階、物理的な分解を担っている。クチキゴキブリの寿命は3年ほど。メスは生涯に複数回、子を産む。
卵胎生の長所は、子どもが母親の体内で守られ、天敵の襲撃を避けられるし、メス親とともに逃げることができる。
クチキゴキブリのオスとメスは、配偶時に互いの翅を食べ合う。
いったい、なぜこんなことをしているのか、どんな意味があるのかを著者はじっくり観察し、記録しながら、学者として考察するのです。実にすばらしい。でも、根気がいりますよね。
そして、その行動(生態)を撮影して記録するため、暗室をつくり赤色LEDでクチキゴキブリをじっくり観察し、その成果物を学界(会)で発表したのです。一大センセーションをまき起こしました。
クチキゴキブリのオスとメスは配偶時にお互いの翅を食べあう。翅は付け根付近まできっちり食われている。昆虫の翅は再生しないので、食べられたが最後、一生飛べなくなる。
クチキゴキブリの後尾体勢は、互いに反対方向を向いて、お尻とお尻をくっつけるようなポーズなので、カマキリのように、交尾しながらメスがオスを食べることはできない。
ゴキブリを含め、昆虫の視覚は赤色光は見えず、紫外線は見える。
翅の食い合いは、オスとメスの協力行動。相手個体が嫌がって抵抗したり、逃げ出すことはない。食べるのに時間をかけている。非常に遅い。なぜなのか...。いったい何が起きているのか、互いの翅を食べて、飛べなくすることに、何の意味があるのか...。謎は深まります。
とても読みやすい文章なので、すらすらと読めました。ゴキブリの生態とあわせて学者(研究者)の生態までも深く掘り下げられていますから、とても面白いのです。
ご一読をおすすめします。なお、「関わらず」という、「不拘」と書くべきところの誤字が何回も出てきました。著者だけでなく、出版社(編集者)の責任です。ぜひ訂正してください。
(2023年12月刊。1760円)

2024年2月26日

熊の肉には飴があう


(霧山昴)
著者 小泉 武夫 、 出版 ちくま文庫

 著者の料理本(エッセー)は私の大好物です。いかにもおいしそうで、コピリンココピリンコとアルコールをいただきながら、素材の美味しさをチュルチュルと味わうことができ、心の中までハフハフと熱くなります。
 さて、この本は「ちくま文庫」のための書きおろし。「飛騨匠(ひだのたくみ)」の料理店が主人公となって、90皿もの料理が次から次に紹介され、目がまわりそうです。
食材自在の精神...自然界から調達してきた、さまざまな食材を巧みに利用する。
 粗料細作...自然から調達してきた材料に時間と手間をかけて高級料理に仕立ててしまう。
 就地取材...材料は、いつでもその土地で、自分たちの手で...。
 用具過少...ほとんどの料理は台所にあるさまざまな道具や器具をあまり使わず、数本の包丁と俎板(まないた)、鍋といったものだけでこしらえてしまう。
この店で出す野菜はみな、自家製の完熟堆肥を使って野菜を育てている。その堆肥は、飼っている軍鶏(しゃも)や野飼いの地鶏の糞を集めて、それを厨房から出た食品廃棄物や落葉などと一緒に大きな木枠の中で2年も発酵と熟成を重ねた完熟堆肥、だから、野菜が力強く成長するためのミネラル類が豊富に含まれていて、肥沃な土となっている。それを畑にまいて施耕するのだから、野菜に甘みやうま味が乗るのも当然だ。
 しかも、そのうえさらに秘密がある。冬に雪が積もると、雪洞をつくり、そのなかに野菜を入れて、外気から遮断する。つまり、雪下で野菜を休眠させることによって、野菜に含まれている糖化酵素が低温下で作用して糖をつくるので、甘くなるという仕掛け。そして、同時にうま味の成分のアミノ酸をつくる酵素も働くので、味もぐっと上る。
 いやはや、料理というのは、このように手間とヒマをかけてじっくりつくり上げるものなんですね。
 先日、庭の一隅の野菜畑にジャガイモを植えつけました。そこの土は長年にわたって生ゴミをすき込んできましたので、黒々、フカフカしています。それこそ完熟堆肥です。きっと、今年も美味しいジャガイモがたくさんとれることでしょう。今から楽しみにしています。
(2023年7月刊。880円)

2024年2月11日

クマに遭ったらどうするか


(霧山昴)
著者 姉崎 等 、 出版 筑摩書房

 このところクマに襲われる人のニュースがひんぱんに聞かれます。いったい、山中でクマにばったり会ってしまったら、どうしたらよいのでしょうか...。
 九州に住む私は、山道を一人歩いても、イノシシ母ちゃんに出会わない限り安全だと思って安心して歩いていますが、本州だと山口を含めてクマに遭遇してしまう危険がありますよね。まず、結論から...。
 背中を見せて走って逃げたらいけない。クマとにらめっこしって、根比べする。じっと立っているだけでもよい。動かないこと。クマと対峙したら、クマの「ワウ、ワウ、ワーッ」という、うなり声に負けないだけの声を出す。そして、低い姿勢を構える。
 子連れグマに出会ったら、子グマを見ないで、親グマだけを見ながら、静かに後ずさりする。クマは最初から人を襲う動物ではない。
 ベルトをヘビのように揺らしたり(クマはヘビを怖がる)、釣り竿をヒューヒュー音を立てたり(クマは奇妙な音を嫌う)、柴を振りまわす。予防のためには、空のペットボトルを歩きながら押してペコペコ鳴らす(奇妙な音をクマは嫌う)。
 クマは動くものには、どうしてもかかるという習性がある。クマは平坦なところでは時速60キロくらいのスピードで走る。人間が木に登っても、クマも木登りはうまいので、すぐに引きずりおろされる。
 クマは人間のほうが強いと思っている。クマは人間は苦手。
 クマは臆病だけど、人が好きで、人間の里の近くで暮らす。
人間を殺して食った経験のあるクマに会ったときは、あきらめるしかない。人間を餌としか見ていないので、手の打ちようがない。いやあ、これって怖いですね。
クマは雑食性。どちらかと言うと肉食ではなく、草食のことが多い。
 著者は、単独でクマ40頭、集団で獲ったのをあわせると60頭のクマを仕留めたという、まさにクマ猟のプロ。母親はアイヌ民族で、アイヌ民族最後の狩人でした。
12歳から77歳まで、65年間、北海道で狩人として生きてきた、著者からの貴重な聞き書きの本です。一読をおすすめします。
(2023年7月刊。840円+税)

2024年2月 5日

カブトムシの謎をとく


(霧山昴)
著者 小島 渉 、 出版 ちくまプリマー新書

 カブトムシは、私たち日本人には、とても身近な存在です。街の中の公園にフツーに生息していますが、これは世界的には珍しいことだそうです。
カブトムシはペットだが、害虫でも益虫でもない。カブトムシを研究した学術論文は多くない。
 カブトムシは、コガネムシ科。カブトムシ亜科は世界に1500種類。似ているクワガタムシはコガネムシ科ではない。カブトムシのオスの武器である角(つの)は頭部(および胸部)の表皮が変形したもので、クワガタムシのオスの武器は大顎(あご)が発達したもの。
カブトムシは青森県を北限とし、南は沖縄県まで分布している。国外では、台湾、韓国、中国など東アジアに広く分布している。
メスは生涯に100~200個の卵を産む。1年で、ちょうど1世代が回る。成虫は短命で、1~2週間ほどで死ぬ。カブトムシはオスのほうがメスよりも大きな体をもつが、これは昆虫界では例外的。メスは、生涯に1度しか交尾しない。ただし、これは日本のカブトムシだけの例外的なもの。これって、珍しいことですよね、きっと。
カブトムシの天敵はハシブトガラスとタヌキ。それからノネコとハクビシン。
カブトムシは体重の2~4割を脂肪が占めている。そして、動きが鈍いため、捕まえるのに苦労しない。
カブトムシがクヌギの樹皮の樹液をなめているところへオオスズメバチがやって来ると、カブトムシを力ずくで追い出してしまう。著者は、その理由について、クヌギの樹皮を削って樹液を出させているのは、実はオオスズメバチで、せっかく苦労してつくりあげたエサ場(樹液場)をカブトムシが占領しているのを見つけたとき、怒りに燃えて排除しているのではないか、そう考えています。なーるほど、です。  
どこでも同じように見えるカブトムシが、実は、それぞれの他の歴史を背負った固有の存在だということを著者は一つ一つ実証していきました。
それにしても、小学生(柴田亮さん)が、自宅の庭のシマトネリコの木にやって来るカブトムシをじっくり観察して、夜間に行動するはずのカブトムシが昼間もそのまま残っていることを実証したというのです。ものすごく根気のいる作業だったと思います。
その観察をもとに著者は、樹液が少ないからではないかと考えました。このように、推測かもしれないのを科学的に実証していくというのは大変な作業だったと思います。
カブトムシの知らなかった一生を学ぶことが出来る面白い新書です。
(2023年8月刊。880円+税)

2024年1月13日

あなたの知らない昆虫植物の世界


(霧山昴)
著者 野村 康之 、 出版 化学同人

 食虫植物は日本にも生育しているし、熱帯だけでなく、温帯植物もいる。
 ウツボカズラの捕虫器の中にたまっている液体はほとんど水なので、手が触れても何の問題がない。獲物が入る前なら無菌だから、飲料水として飲める。消化酵素が利く前に、虫たちは窒息死か衰弱死している。
食虫植物はすべて緑色植物であり、光合成している。
食虫植物の捕食器は、ほとんど、葉が変化したもの。
 食虫植物は、世界に11科18属800種以上いる。
 食虫植物の捕食方法において罠はじつに巧妙であり、獲物を逃がさない仕掛けがこらさえれている。食虫植物の多くは、明るく、湿った、貧栄養な土地に生育している。
 食虫性は、決して良いことばかりではない。捕食器は普通の葉にはない欠点がいろいろある。捕食器の光合成効率は悪い、風雨や他の生物によって破壊される危険も大きい。
 日本で多くの食虫植物の姿が消えている原因は、水質の悪化や流入水の減少にある。
 食虫植物は、獲物から窒素、リンあるいは炭素を得ることで、大きな利益を受けている。
 食虫植物のことを楽しく学ぶことが出来ました。わが家の庭に以前に咲いていた時計草(トケイソウ)も食虫植物の仲間のようで、驚きました。
(2023年6月刊。2420円)

2024年1月 9日

とことんカラス


(霧山昴)
著者 BIRDER編集部 、 出版 文一総合出版

 野島専門誌が本気でつくった最新版のカラス入門書です。いやあ、改めてカラスのことを知ることができました。
 私はブトとボソの違いが何度聞いても(読んでも)覚えきれません。
 ボソ(ハシボソガラス)は、ガア、ガアと鳴く。おじぎするように頭と体を上下させながら。ブト(ハシブトガラス)は、カア、カアと澄んだ声で鳴く。身体を水平にし、尾羽を上下させながら、頭を前方に突き出す。ただし、ブトも、興奮したり威嚇するときには、濁った声で鳴く。
 ボソは地上で行動することが多く、ひょこひょこ歩く。ブトはぴょんぴょん跳ねて歩く。ただし、ボソも急ぐときはホッピングするし、ブトも落ち着いているときは歩く。
 同じカラス仲間のカササギは鏡にうつった姿を自分であると分かる(鏡像認知)。しかし、ブトやボソは鏡像認知ができない。鏡やガラスに自分の姿がうつると、ライバルが接近したと勘違いして追い払おうと攻撃する。カラスが自動車のリアウィンドウに自分の姿を認めると、攻撃しかけるのは、そのせい。
 カラスが公園の水道柱(レバー式)を操作して、水を飲んだり、水浴びをするのは動画でも紹介されている。でも、これは日本のカラス特有の行動。
 カラスは、人の顔を見分けられるし、仲間のカラスの顔も見分けている。
 カラスの巣の材料として、針金ハンガーや洗濯ばさみはよく使われる。
 石鹸泥棒するのは、ブトの好物である油脂が原料だから。
 カラスは風乗り遊びをしたり、ぶら下がり遊びをする。
 カラスが人間の持っている食べ物を奪うとき、女性や子ども、そして老人が多い。
 カラスが人間を襲うとき、真正面から飛来することはなく、必ず背後から。このとき、両手を上げているとカラスは襲ってこない。カラスは臆病な鳥だから。
 カラスの繁殖は1年に1回だけ。
カラスは黄色が見えないとか、嫌いとかいうのは誤った「都市伝説」。
カラスって面白いですね。でも、ごみ収集日に、ごみを散らかしているのを見るのは不快です。
(2023年10月刊。1980円)

2024年1月 1日

世界を翔ける翼  渡り鳥の壮大な旅


(霧山昴)
著者 スコット・ワイデンソール 、 出版 化学同人

 渡りをする鳥は、飛行に先だって筋肉を増やし、多くの脂肪を体に溜め込む。数週間で体重は2倍以上になる。どう考えても行き過ぎた肥満なので、人間なら糖尿病や心筋梗塞の患者になってしまうだろう。でも、鳥たちは、平気で何日も休まず飛び続ける。
 睡眠不足になることもない。夜には、脳の半球のうち片側を2、3秒ずつ休ませ、それを交互に入れ換えながら飛んでいる。昼間は、ほんの数秒の短い睡眠を無数にとる。
 ミズナギドリは年間7万4000キロを飛んでいる。アジサシは少なくとも年に6万キロ移動する。8万2000キロ飛んだものもいる。キャクアジサシが最大で9万1000キロ飛んだことも確認されている。
 渡り鳥は、1時間に数百万羽の割合である地点を通過していく。
 渡り鳥の世界の320種のうち、ほとんどが長距離の渡りをしている。少なくとも19種が4800キロを休みなしで飛ぶ。
 オバシギは、オーストラリア北西部を出発し、5400キロも休むことなく飛んで中国や朝鮮半島に到達する。その間、蓄えた脂肪すべてを燃焼させ、筋肉や器官の組織をそぎ落とすことで、飛行のための筋肉に必要となる膨大な燃料を送り続ける。黄海に着くころには、内臓器官のほとんどが縮んでいる。全身は18センチ、体重30グラムに満たない小鳥だ。
 オオソリハシシギは、アラスカ西部からニュージーランドまで1万2000キロを、8日から9日間、休むことなく飛んでいる。この鳥は、飛行する前、アラスカ半島の肥沃(ひよく)な干潟(ひがた)で、すさまじいエネルギーで食物となる蠕虫(ぜんちゅう)などの無脊椎動物を食べ、分厚い脂肪の層を身にまとう。2週間ほどで体重は2倍以上になり、680グラムのオオソリハシシギは、皮膚の下や体腔に280グラムもの脂肪を蓄える。あまりの肥満に、体を揺らして歩くようになり、その後、体内の構造は急速に変化する。砂のうや腸のような消化器官は不要になって委縮し、細長い翼を動かす胸の筋肉は心筋とともに体積が2倍になり、肺の容積は大きくなる。
 オオソリハシシギは、2万9000キロの旅を生涯に25~30回、繰り返す。
 渡り鳥は、脂質輸送を速めるタンパク質を増やし、細胞機構を促して、脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解することで、素早く資質を処理する方法といった、細胞レベルでの大規模な適応が発見されている。
 渡り鳥は、ミトコンドリアに存在する、脂肪酸を酸化させる酵素も高レベルで持っているうえ、そのレベルは渡りの季節が近づいたり、中継地で休憩しているときには、さらに上がる。
 適切な食物を選ぶことで、鳥は筋肉の効率性と飛行の性能を高めている。
 ドロクダムミは、人間の健康にもよいと広く認められている。オメガ3のような多価不飽和脂肪酸がきわめて豊富であることが分かっている。
 オオソリハシシギは、どんな人間だってしたことがないほど、ひどい肥満から餓死寸前のやせた体という極端のあいだを揺れ動くうえ、頻度は年に数回、しかもそれを数十年にわたって行う。
 チョウゲンボウ類にとって脂肪の豊富な白アリは危険な海をこえるためのものとして最適だ。
渡り鳥が壮大な旅をしていること、その旅を可能にする身体構造そして、エサ、さらにはエサのある場所の確保、また、強力殺虫・除草剤などの問題点まで明らかにされています。
 この本を読んで、こんな素晴らしい能力と努力をしている渡り鳥たちのためにも博多湾の和白(わじろ)干潟や有明海の遠浅の海などを本当に大切にしたいものだとつくづく思ったことです。
(2023年8月刊。4180円)

2023年12月29日

ニワシドリのひみつをもとめて


(霧山昴)
著者 鈴木 まもる 、 出版 理論社

 日曜日の夜、録画したNHK『ダーウィンが来た』をみるのが私の楽しみの一つです。そのなかでニワシドリの立派な「アズマヤ」も見ました。驚きの光景です。
 たとえば、チャイロニワシドリのアズマヤは、まるで小人の家の前にカラフルな花や木の実、虫の羽、キノコなどが、きれいに見事に並べられています。ジャングルの森の中ですが、わざわざ太陽の光の当たる場所につくられています。
こんなニワシドリはパプアニューギニアにしかいません。ですから、このアズマヤの実物をみたかったら、とんでいって、ジャングルの中にわけ入るしかありません。危険がいっぱいのジャングルです。そして、飛行機だって、どこまでたどり着けるのか・・・。でも、単独で決行したのです。いやはや勇気があります。ありすぎます。でも、おかげで、勇気の乏しい私だって、こうやってニワシドリの生態を文章と写真、そして著者の見事なスケッチで読んで見ることができるのです。ありがとうございます。
 そして、著者がすごいのは、なぜニワシドリのオスが巣ではなく、アズマヤづくりに精を出すのかという謎解きをしているところです。
 巣づくりをするのはメス。オスはアズマヤをつくってメスを誘引するだけ。
「ぼくは元気だよ」「ぼくとなら安心して子育てできるよ」「ぼくのテリトリーは、安全で、エサが多くとれるよ」「ものを見つけられる力があるよ」
 こんなメッセージをオスはメスに送っている。メスはそれを受けとめ、アズマヤをよく観察してオスを選んで、受け入れている。
 ここらには地上に肉食獣がいないので、オスはアズマヤをコツコツつくり続けられる環境にある。巣づくりはメスだけで出来る。オスは巣づくりする必要がなくなったけれど、巣をつくりたい、物を運びたいという本能残っているので、そのエネルギーをアズマヤづくりにあてて、メスへのプロポーズ作戦に活用している。これが著者の推測です。
 現地にまで足を運んだ著者の推測は恐らくあたっていると私も思います。見事なものです。それにしてもニワシドリのアズマヤの多様さ、見事さには思わず息を呑みます。
 海底にもミステリーサークルをつくりあげる魚がいますよね。これも『ダーウィンが来た』でみました。生物界の謎は、まさしく奥深いと思います。
(2023年7月刊。1650円)

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