弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年8月10日

不便なコンビニ②

韓国


(霧山昴)
著者 キム・ホヨン 、 出版 小学館

 私の事務所のすぐ前にコンビニがあります。事務所の場所を電話で教えるときにも、「分からないときはコンビニの広い駐車場に車をいったん停めてから電話して下さい」と説明することがあります(事務所専用の駐車場もありますが、コンビニのほうが目立っているし、分かりやすいのです)。
 私も昔はコンビニなんか利用しないと高言していたのですが、今は愛用しています。だって、他に選択肢はないのです。小売商店はすっかり消え去ってしまいました。商店街のほとんどはシャッター通りになっています。
 この本の舞台は大手コンビニのチェーン店ではなく、中小系列のようです。日本では大手コンビニのチェーン店ばかりになってしまいましたが、韓国では、まだ中小系列のコンビニが生き残っているようです。そして、日本の都会のコンビニの定員の多くは東南アジア系です。「日本人ファースト」を唱えて「躍進」した参政党は外国人排斥の差別主義を広めていますが、現実を無視していますし、怖いです。900万人以上の日本人が参政党に投票したという現実に身の震える思いです。
 この本のコンビニには外国人労働者は登場しません。しかし、韓国内で、差別され、落ちこぼれた人たちの救いの場にコンビニという職場がなっていますし、客層も、家庭と職場に安住できる居所のない人たちが寄り集まってきます。ここらの社会の現実と登場人物の心理描写が見事で、いかにもありそうな展開です。
 韓国式の表現に驚かされます。お尻の穴が裂ける。貧しいとき、代用植物として木の皮を食べていると便秘に苦しまされることから来たもの。カラスの肉でも食べたの?忘れっぽい人を皮肉る慣用句。韓国式の語感が似ているコトバによるもの。
コンビニという場所は、店長のような人だけでなく、何か訳ありな人が出入りするところ。
 彼らは皆、不愉快な顔で、むっつりと何かに耐えているようだったが、クンベ(店員)が一言かけると、風船が割れたように口から言葉が飛び出してきた。
 本書は『不便なコンビニ』の続編です。前書は120万部も売れる超ベストセラーになりましたが、続編も初版だけで10万部で、たちまち重版となり、正続あわせて170万部といいます。いずれ劣らぬ個性的なキャラクターが章ごとに登場するのですが、彼らがうまい調子に結びついていく趣向は前作と同じで、ともかく読ませます。
 人生につまづいた人たちへの温かい眼差(まなざ)しと激励は、著者自身の苦労を反映したものだという訳者の解説があります。だからこそ人々に広く読まれるのだと思います。
(2025年3月刊。1980円)

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