弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年8月 3日

私が決める、私の幸せ

フランス


(霧山昴)
著者 大畑 典子 、 出版 ワニブックス

 29歳のとき、一級建築士の女性が思いたって単身フランスに渡り、フランスで「結婚」し、2人の子どもを育てている生活を振り返っています。
結論として、「キラキラしたフランス生活ではないけれど、夢見ていた平凡で温かな暮らし」を実現しているとのこと。写真の笑顔でそれを実感できます。なにより、2人の子と一緒に過ごしているパートナーの写真がホッコリさせてくれます。
 肩の力を抜いて、自分の夢に向かって軽やかに生きていくことを著者は大切にしているのです
 東京では建築士として、がむしゃらに働いていて、ふと思ったのでした。こんな生活をし続けていて、本当に幸せな未来が待っているのか。何か大切なことを見失いかけていないか...。まあ、それにしてもフランス語も話せないのに、よくもフランスに行こうという気になったものですね。いえ、フランスに観光に行くというのではないのです。何日、何ヶ月間の観光旅行なら、フランス語が話せなくてもなんとかなりますよね、きっと。著者は英語は話せるのですが、それではフランスでは生活できません。
 日本の建築士の資格はフランスでは通用しません。そこで、著者はナントにある建築大学の大学院に応募して、無事合格したのです。やはり、ただ者ではありませんね。
そして、フランスでパートナーの男性と出会って、2人の子どもをもうけて、現在も子育て中です。
先ほど「結婚」と書きましたが、正確にはPACSというフランス独特の制度を利用していて、結婚したのではありません。今は、フランス国籍の子どもの母親としてフランスに滞在する権利があります。
著者が住んでいるのは、ナントという地方都市。フランス史では「ナントの勅令」が有名です。私も名前は知っていますが、残念ながら行ったことはありません。
 フランス人の食生活は、ともかく日常的に大量の乳製品を摂取する。それにあわせるのは日本人にはきついので、和食中心に切り替え、子どもが生まれてからも週に半分ほど和食の日にしているそうです。
 著者は自分にとって心地よくないという人間関係は手放すことにしたと思います。大賛成です。先日も、この依頼者とはうまくやれそうもないな、いつ、どうやって縁を切ろうかと思っていると、先方から解任の話が出て、心底からほっとしました。これは、お金には代えられません。
フランスでは、婚姻届出が23万7千に対して、PACSの届出も19万2千あります。結婚よりほんの少しだけ少ないのです。連想ゲーム的にいうと、日本でまだ実現できていない選択的夫婦別姓なんて、なんで反対する人がいるのか、まったく理解できません。頑迷固陋な右翼は、戦前(明治)の家族(江戸時代までは日本も夫婦別姓でした)に無理矢理に戻したいというのです。日本の伝統を無視した、愚かな人たちとしか言いようがありません。
 著者は「国際結婚」をしたことになりますが、その難しさを実感しています。わが家にも国際結婚した娘がいますので、よく分かります。その点からも、参院選のとき、「日本人ファースト」なんて叫んだ政党を許すことができませんでした。
 外国在住経験のない人が国際結婚すると、「モラハラ関係」になりやすい。そうなんですよね。はやり、誰だって自分が体験していないことは、なかなか理解できないのです。それを日頃から口に出してはっきり言える関係をつくり出す必要があるのです。でも、これって、案外むずかしいことなんです。
大切なことは、国際カップルは、お互いに経済的自立しておく必要があるということ。依存関係では、破綻したときにたちまち困るのです。
 フランスには離婚保障手当なるものがあるそうです。初めて知りました。離婚したあと、収入の少ない配偶者の生活レベルが下がってしまわないよう、収入の多い側が少ない側に支払うものです。ただし、ずっとではないようです。
 フランスの家庭に客を招いたとき、靴を脱がせるのは失礼にあたる。これは、まったく生活習慣の違いですね。
フランスには家事代行を利用している家庭が多いが、その費用の半分を国が負担してくれる。それは、共働き夫婦を支援する制度。いやあ、これはいいですね。
 フランスでは在宅保育制度についても、国が費用を半分負担する。これまた、国の少子化対策のひとつだと思います。日本でもやったら、どうでしょうか。
 排外主義がはびこっているのはフランスも同じのようですが、この本を読むと、ますます、みんな同じ人間なんだから、どこかで折りあいをつけて共生していこうという気になります。
(2025年3月刊。1760円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー