弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年8月 7日

防衛省追及

社会


(霧山昴)
著者 石井 暁 、 出版 地平社

 今回の参議院議員選挙では、本当は日本の大軍拡予算を認めてよいのか、日本を守るためには軍事一辺倒でよいのか、真剣に議論すべきでした。ところが、明日の日本にとっての最重要な争点はすっかり置き去りにされて、外国人犯罪は少なく、外国人が日本人より優遇されている事実なんか全然ないのに、「日本人ファースト」と称して、排外主義を唱える政党が莫大な国民の「支持」を得ました。本当に残念な結果でした。
 この本は、今の日本で起きていること。大軍拡が日本を守るものではないことなどを、ズバリ明らかにしています。日本政府はごまかしのネーミングに長(た)けています。武器輸出は長く禁じられてきたのに、今では「防衛装備移転」と言い換えて、本質(実体)から国民の眼をそらそうとしています。航空母艦は「多用途運用護衛艦」と呼んでいます。なにが何だか分からないようにしているのです。航空母艦には、攻撃型も防衛型もないのに「護衛艦」なのです。
沖縄の辺野古周辺に新基地建設が着々と進められています。といっても水深90メートルもあり、しかも豆腐のように柔らかい地盤の上に軍事基地なんか造れるはずもありません。それでもいいのです。「新基地建設」名目でゼネコンなどはウハウハです。巨額の税金がジャブジャブと費消されています。急いで新基地をつくる必要なんてないのです。ゼネコンがもうかり、与党の政治家にバックマージンが入ってくればいいんです。とんでもない「税金泥棒」の面々です。
この本によると、辺野古新基地に陸上自衛隊の「水陸機動団」を常駐させるという日米間の密約(極秘合意)があるというのです。しかも、この密約は防衛省全体の決定を経ていない、つまり、文民統制シビリアンコントロール)を逸脱しているのです。
 水陸機動団は、団全体で2400人、3つの連隊(650人ずつ)を基幹とし、オスプレイや水陸両用車などを有している、アメリカの海兵隊の日本版です。この水陸機動団が、アメリカの海兵隊が沖縄から撤退したあとは、辺野古が陸上自衛隊の基地になるという計画なのです。これでは、日本政府が辺野古新基地建設を簡単に断念するはずがありません。
 「台湾有事」が声高に呼ばれています。もしも、台湾有事が現実に起きたとしたら、安保法制のもとで日本は戦争に巻き込まれるのは必至です。
 それは、こんなカラクリです。中国と台湾とのあいだで戦闘が発生し、アメリカが軍介入を視野に展開を決断した場合は「重要影響事態」に相当する。事態がさらにエスカレートして、中国と台湾の戦闘にアメリカが軍事介入し、アメリカと中国との戦闘が始まれば、「存立危機事態」と認定可能になる。最終段階は、沖縄本島の在日米基地や日米共同作戦計画にもとづいて、南西諸島を臨時拠点化したアメリカ軍部隊に攻撃があれば、「武力攻撃事態」になる。台湾有事のとき、日本が参戦できるように安保法制を安倍政権は制定したということ。  
「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」
 安倍元首相の言明は、まさしく日本を戦争に巻き込もうとするもので、あまりにも危険です。
日本の自衛隊はアメリカ軍との共同演習を重ねています。台湾有事のとき、アメリカ海兵隊は南西諸島に、陸軍をフィリピンに展開させてミサイル網を構築することになっている。南西諸島から住民11万人を九州・山口に避難させる計画はあっても、沖縄本島の住民160万人を避難させる計画はありません。建物内に退避しろというだけです。
 いったい、中国と台湾・アメリカで戦争が勃発したとき、アメリカ軍の基地のある九州そして本土が中国から攻撃されないという保障がどこにありますか。まっ先に、九州そして日本海沿岸にたくさん立地している原子力発電所(原発)がミサイル攻撃されるでしょう。そのとき、日本はたちまち壊滅してしまいます。だって、むき出しの放射能を誰が、どうやって抑えつけるのですか。まったく不可能なことです。福島第一原発のデブリ取り出しは、今から12年先の2037年に始まると報道されています。私は、それすら難しいと思います。
 日本は戦争なんか出来ない国なのです。
 先日、玄海原発の上空を大型ドローンが2機飛んでいたことが後日発覚しました。原発は上空から攻撃されたら防ぎようがないのです。
 「日本も核武装すべきだ」とか、「バリアーを張ったらいい」なんて、参政党の議員たちが能天気なこと、無責任な放言をしていますが、私は絶対に許せません。核兵器をまるでオモチャかのように、もてあそんではいけないのです。
 それはともかく、大変勉強になりました。
(2025年5月刊。1980円)

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