弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

警察

2016年7月29日

ハイエナ

(霧山昴)
著者  吉川 英梨 、 出版  幻冬舎文庫

振り込み詐欺の内幕を生々しく描いた警察小説です。とても勉強になりました。
暴力団をバックにした巧妙な分業体制がとられています。電話で泣きと脅しをする「架け子」グループが主犯だとは思いますが、ターゲットを効率よく落とすための精度の高い名簿屋が欠かせません。
この本によると、名簿屋になっているのは介護サービスを表看板にしたグループ。介護サービスを実施しながら顧客やその家族の内情を徹底的調査して名簿にまとめる。
横浜の名簿は他に比べて2割増しで売れる。詐欺の成功率が高いからだ。世田谷とか三鷹の名簿も高く売れたが、東京西部を食い尽くしたいま、いったん東京から離れる必要があった。
訪問介護の仕事で、ヒマをもてあましている老人たちの世話をする。彼らの口は異様なほど軽い。自宅のセキュリティもゆるゆる。自宅に派遣されてくる訪問介護員は、全員、いい人だと思い込んでいる。家族に相手にされず、ただひたすら時間をもてあましている、さみしい老人たち。愚痴もかねてなんでもかんでも話してしまう。とくに母親は、いとしい、いとしい息子の話をしっかりと・・・。
10人分の名簿をつくってネットの裏サイトで売りに出したら、詐欺グループの番頭クラスが5人も接触してきた。この名簿は高く評価されて、評判になった。成功率が9割だから、なるほど・・・。
番頭は名簿屋から、500万円で100人分の名簿を受けとった。高齢者の住所・氏名・電話番号だけでなく、その家族構成や職に至るまで完備した豪華盛りの情報は、一件あたりの値段が法外に高い。しかし、その分、ヒット率も高い。
被害者(マト)は、架け子のトークに最初こそ怪しんでも、息子の職場や所属、孫の名前や幼稚園の名前まで聞かされるうえ、架け子たちが醸し出す臨場感と切迫感にコロッと騙される。
番頭のケータイは、全部で7台ある。黒が各店舗の架け子リーダーとの専用電話で3台、青が受け子リーダーで2台、白は道具屋。相互連絡の専用ケータイをつかうのは、詐欺組織が芋づる式に検挙されないための防御策である。
受け子は、直接ターゲットと接触する重要な仕事であるにもかかわらず、パクられたって刑務所送りになることはない。刑事には知らぬ存ぜぬを貫き通したらいい。ただ、ネットで見つけた高額バイトに応募しただけだと言う。でも、受け子リーダーの存在を口に出したら、アウト。詐欺組織の一味と見なされ刑務所行き。言わなければ、留置場に1週間ほど放り込まれて終わり・・・。
スリーマンセルとは三人組を指す。横領ネタは息子が会社のお金を横領したというシナリオ。
鉄道警察を名乗り、コトの家族が痴漢行為をしたとして示談金をせしめる詐欺は鉄警という。つかっている名簿は、名簿屋から大金を出して購入した貴重な「道具」だから一度や二度の失敗で捨てることはない。別のシナリオで可能かどうか番頭たちが検討する。
この本は悪徳詐欺商法の内幕を紹介するものとして一読に値する警察小説です。
(2016年6月刊。800円+税)

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2016年5月 3日

白日の鴉

(霧山昴)
著者  福澤 徹三 、 出版  光文社

 電車のなかで痴漢の疑いで捕まったとき、どうするか・・・。一番いいのはそこから逃げ出すことでしょうね。ただし、あとで捕まらないというのが条件です。あとで捕まってしまえば、なんで、あのとき逃げたのかと厳しく追及されるでしょうから・・・。
 弁護士の立場で言えば、逮捕されたら一刻も早く弁護士を呼ぶように警察に求めることです。とはいっても、あたりはずれがあるのは弁護士である私の体験からしても否めません。
 当番弁護士としてやって来た弁護士が、被疑者の言い分をちゃんと聞くことなしに、一般的な弁護士の解説を長々と説明するという弁護士もいるようです。目の前の被疑者の置かれている状況、彼が何を訴えたいのかを聞き出すこと抜きに、抽象的な刑事訴訟手続を解説されるだけでは、弁護人として役に立ちません。
 この本でも、ともかく早く認めて罰金を支払って出たほうがいいと説明する弁護士が登場します。これも、現実をふまえた善意からのアドバイスであることは間違いありません。でも、それでは、一個の人格ある人間として納得できないではありませんか・・・。
苦難な過程を選択してしまった被告人は、ついに「ぬれぎぬ」を着せた男女とその背景にいる黒幕をあばき出すのに成功します。もちろん、いつも、こんなにうまくいくとは限りません。でも、そんなこと、あってほしいなと思わせる、いくばくかの希望をもたせた異色の警察小説なのです。
(2015年11月刊。1800円+税)

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2016年4月 3日

ガラパゴス(上・下)

(霧山昴)
著者  相場 英雄 、 出版  小学館

 これは警察小説です。地道に犯人を追い求めてはいずりまわる警察官がいます。その対極に、利権をあさり、有利な転職先を確保しようとする警察官もいます。そして、キャリア警察官は、政権党の有力議員と談合して事件の幕引きを図ります。
 上下2冊の対策です。「警察小説史上、もっとも残酷で哀しい殺人動機」だとオビに書かれていますが、まことにそのとおりです。
 今日の非正規社員ばかりの、人間使い捨ての企業社会の実態が殺人動機そのものになっています。
 「派遣からやっと正社員になれたんだ。あんたらに分るかよ。その日暮らしの不安と、人として認めてもらえないキツさがよ」
 「今までは『派遣さん』と呼ばれていました。それが正社員になると、名前で呼んでもらえます。これが何よりうれしいのです」
 「派遣をクビになったら、ホームレスに落ちて、そこら辺の公園で野垂れ死にする人間がうじゃうじゃいるじゃないか」
 「そういう状況で、人間らしい心なんて、ここ何年かで、すっかり捨てた。そうやって生きなきゃならなかったんだ」
 「運が悪けりゃ、人間として扱ってもらえない世の中にしたのは、誰なんだよ」
 殺された派遣労働者の被害者は、殺され死んでいく過程で、「貧乏の鎖は、オレで最後にしろ」と叫んだ・・・。
 上下2冊の大作ですが、一気に読みにふさわしい内容です。警察内部の葛藤と現代社会の構造的不正がうまくかみあっていて、読ませます。
 それにしても、人間を金儲けのための手段としてのモノとしか扱わない人材派遣業なんて最悪の存在ですよね。それで金もうけしている竹中ナントカという「学者」の品性下劣さは決して許せません。

(2016年1月刊。1400円+税)

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2016年2月20日

頂上決戦

(霧山昴)
著者  濱 嘉之 、 出版  文春文庫

  大学時代に過激派に所属していて、今では経済ヤクザをしているという人物が登場します。ありうる設定です。
ZⅡとは、元反社会的勢力の構成員を意味する符号。Zは反社会的勢力で、Ⅱがつくと「元」になる。
中国人がもっとも心配する中国国内の三大安全問題の第一が食品、第二が医療、第三が環境。
一般的な秘密文書はマル秘。角秘とは、秘密文書に押印される印の形が丸ではなく、正方形の中に「秘」の字が記されており、マル秘以上に秘密が求められる。
公安部にはキャリアとノンキャリアの二つの参事官がいる。公安部長は警視監、二人の参事官はその下の警視長。
警察庁のチヨダの研修とは、情報専科を意味する。1か月間の専科講習には、全国から30人が選抜され、全員が偽名で受講する。そのなかで行われる行動確認訓練(要するに尾行訓練)は、5人一組で1人のマル対(対象者)に対して行う。このマル対象は、警視庁公安部出身の警部が就くのが慣例。行確時間は6時間。
岡広組(山口組をさす?)は、世界のあらゆる犯罪組織のなかで最大の収益力を有する。麻薬密売や賭博などの非合法ビジネスだけでも、総収入は800億ドル9兆8000億円に達する。
Nシステム対策は進んでいる。レンタカーを一日契約で乗り回す。Nシステムは当日限りになってしまっている。そして、Nシステムのある道路と高速道路はなるべく使わないようにしている。
今や、警察もIT機器をかなり活用しているようです。当然のこととは思いますが、行き過ぎて、プライバシーの保護を侵害しないようにしてもらいたいものです。暴力団(たとえば山口組)が中国での市場開放策の実情を知って、そこに乗り出しているようです。それに反比例して、若者の海外留学が減っています。残念でなりません。山口組の分裂、中国人の爆買いの実態をも生々しく描いた警察小説でした。
(2016年1月刊。660円+税)

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2015年11月15日

マルトク・特別協力者

(霧山昴)
著者  竹内 明 、 出版  講談社

 久しぶりに警察小説を読みました。
 警備公安警察が活躍する話なのですが、首相官邸の思惑とは違ったところで行動するハグレ警察官が登場したりして、読ませます。
 ネタバラシになるようなことは紹介できませんので、専門用語の解説をとりあげてみます。
 マルトクとは、特別協力者のこと。公安組織が獲得し、情報提供者として運用する、外国の諜報員や犯罪組織の構成員のこと。
 リエゾンとは、外遊中の政治家の移動、買い物、食事までのロジステックを組む、いわば御用聞き。もてなす相手によって、大変な気苦労を強いられる。一方で、気の利いた立ち回りができれば、政治家とのパイプができる。若手外交官にとっては貴重な仕事だ。そうやって人脈がつくられていくのです・・・。
 警視庁では、人事異動の直後に新しい上司が部下の自宅を訪れる「家庭訪問」という前近代的な制度がある。配偶者との不和はないか、子どもの非行はないか、怪しげな人物と同居していないか、そういった素行を確認する。
 尾行するときの対象者を客と呼ぶ。客に気づかれないために、尾行班のうち一人だけを客の直近に置き、頻繁に入れて替えていく。これが先頭引きという尾行陣形だ。
 秘匿尾行は狩猟に似ている。背後につける者は客の視線や息づかい、筋肉の緊張から目的地を読みながら追っていく。
訓練された諜報員は尾行者を切るための点検を行う。電車の「飛び降り」や「飛び乗り」逃げ場のない路地で180度方向転換をする「佇立反転」。中には尾行者を捕まえ、逆問(逆尋問)する猛者(もさ)もいる。
 公安総務課機材班。公安部の秘撮・秘聴の機材には、世間に公開できない非合法のものも存在する。こうした特殊機材を一元管理し、開発、設置、運用まで手掛けるのが機材班だ。
 著者はTBSに入社して海外特派員やテレビのキャスターなどで働き、公安警察への取材を続けているとのことです。
 この本を読むと、警察っていったい、何をするところなのか、常識が反転することになると思います。ご一読ください。


(2015年10月刊。1500円+税)

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2014年1月18日

狼の牙を折れ

著者  門田 隆将 、 出版  小学館

 公安捜査の実態が紹介されています。
 捜査対象とする事件は三菱重工爆破事件です。三菱重工は原発そして軍需産業のトップメーカーですから、そのことは厳しく批判されてよいと思いますが、爆弾テロの対象としてはいけません。あくまで言論による批判によって、そのあこぎな死の商人の姿勢をただすべきです。
 事件が起きたのは1974年8月30日の昼のことです。私が弁護士になったのと同じ年です。
 東京駅近くの丸の内仲通りにある三菱重工本社ビルが狙われたのでした。
死者8人、重傷者376人という史上最大の爆弾テロ。4000枚もの窓ガラスが破壊され、その窓ガラスの粒が通りを埋め尽くすダイヤモンドの海のように見えた。
 警視庁公安部には総数2500人もの公安部員がいた。本庁に1500人、そして各署に公安係が合計1000人いた。公安一課の5人の管理官は中核・革マル・革労協・赤軍・共産同(ブント)といったようにセクトを担当した。警察がウォッチしていたセクトは5流22派、8派90などと言われていた。
 セクトの情報をつかむうえでもっとも重要なのは「協力者情報」。要するに、警察のスパイをセクトに侵入させているわけです。
 捜査官の腕とは、どんな「協力者」をもっているかにかかっている。協力者のことを「タマ」と呼ぶ。どれだけ重要なタマをもっているか、すなわちタマをどう「運営」していくかによって、捜査官の真価が問われる。誰がタマなのか、それは当事者である捜査官しか知らず、記録にもタマの「本名」は残さない。もし情報が洩れたら、いつタマが消されるかも分からないから。
 1週間が10日に1度、接触し「捜査協力費」という名目での金銭を渡し、次の情報収集を頼む。活動家には生活に困っている者は多い。公安部から貴重な「捜査協力費」をもらっている活動家は少なからずいた。
 警察内部では激しい派閥抗争が展開中だった。政治派と独立派。あるいは、名門組と平民組。三井脩(当時51歳)は、独立派、平民組のリーダーだった。対抗する政治派、名門組のリーダーは警視庁総務部長の下稲葉耕吉(48歳)。
公安一課は、当時、第一担当から第二、第三担当そして調査第一、調査第二という五つの担当に分けられていた。一担は庶務、二担は中核・革マル、三担はブントと日本赤軍。調一は黒ヘルと諸派、調二は事件担当という役割分担だった。
 公安部は尾行と呼ばず、行確(こうかく)と呼ぶ.行動確認の略。
 行確のターゲットが自宅や会社から出てくることを「吸い出し」といい、逆に会社や自宅など目的の場所に入っていくことを「追い込み」と呼ぶ。
 爆弾を見分けるのに大事なのは、爆破装置と雷管。これに同一性があるかどうかを見る。
 行確(尾行)をするときは靴底がゴム製のものを履く.音をなるべく出さないため。革靴のように見えても、そこだけはゴムのものを履く。
 ゴミを捨てるのは、犯人グループにとって、もっとも注意しなければいけないこと。
 犯人と目される男が置いたゴミ袋を回収し、似たようなゴミ袋を代わりに置いておく。そして、この回収したゴミ袋から証拠となるブツを得たのでした。
 このときの逮捕はサンケイ新聞がスクープしています。サンケイ新聞は公安部に「協力者」がいたのです.そして、逮捕の瞬間をサンケイのカメラマンが撮影したのでした。なるほど、本当によく撮れています。
 1975年5月19日に大道寺将司を逮捕した瞬間の写真が紹介されているのです。なんだか気の弱そうな青年が小雨のなか傘を差したまま屈強な刑事4人に取り囲まれた写真です。
いま、大道寺将司は65歳。死刑判決が確定して26年たった今も、東京拘置所に収監中です。共犯者の佐々木規夫と大道寺あや子が超法規的措置によって国外へ逃亡中のため裁判が終了していないことによります。
40年も前のことなので、当時の関係者が実名で登場しています。大変読みごたえのある本でした。それにしても、この二人は、今どこで何をしているのでしょうか。まだ、本当に生きているのでしょうか・・・。
(2013年10月刊。1700円+税)

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2013年5月19日

警察崩壊

著者  原田 宏二 、 出版  旬報社

北海道警察の幹部だった著者が長年にわたった警察の裏金づくりを内部に告発したのは今から9年前の2004年2月のことでした。この9年間に、警察の体質は改善されたと言えるでしょうか・・・。
 改善されたどころか、警察官の不祥事はこのところ目立っていますよね。どうなっているのかと思うほどです。現職警察官による殺人事件も最近起きています。
警察庁長官という警察トップが内閣官房副長官に就任するコースがあるのですね。いわば、警察官僚が権力中枢に位置するわけです。そして、「自民党に刑事事件が波及しない」なんていう見直しを記者に示したというのです。とんでもない元長官です。警察のおごりを示す発言ですよね。
 公安委員会が中央に県にもありますが、有名無実化しています。著者は、せめて警察から独立した事務局をもてと提言していますが、当然です。
 県の公安委員会には人事権がなく、同意権のみというのも改めるべきだ。まったくそのとおりです。あまりにも中央県権化しすぎています。
 今や警察官の供給源は大学生。女性職員も10%となっている。
 正義感の強い若者が警察にはいって実態を知ると、実際との落差に絶望することになる。裏金づりは本当になくなったのでしょうか・・・。
 若い警察官のなりたくないのは、筆頭が留置場勤務で、その次が交通事故係だ。
最近、私は足しげく警察署に通っています。何ヶ月も行かないこともあるのですが、今はなぜか3人も留置場にいる人の弁護人になっています。留置場に若い警察官がいて、そうか、希望して配属されたのではないのかと、ついつい同情してしまいます。
 警察の最近の実態を知ることのできる本です。
(2013年4月刊。1700円+税)

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