弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年4月16日
立ち退かされるのは誰か?
イギリス
(霧山昴)
著者 山本 薫子 、 出版 慶応義塾大学出版会
ジェントリフィケーションと脅かされるコミュニティ、こんなサブタイトルのついた本です。いったい、ジェントリフィケーションって何...。
ジェントリフィケーションとは、市中心部の労働者住宅地域・低所得地域が再開発され、高級住宅や中流層(ミドルクラス)以上の人々を対象とする商業施設が新たに開業することで、住民の入れ替わりが起き、より高所得の住民が増加する現象のこと。
1980年以降、都市のグローバル化、経済のサービス化、情報化が進んだことで、都市の社会構造に変化が生じた。再開発されたインナーエリアで何が起きたかというと、地価の上昇に加えて、老朽化した建物の取り壊しや改装、新しい商業施設やマンション(集合住宅)の建設、中流層向けの小売店や飲食店が増加した。地域が「高級化」したのだ。
ジェントリフィケーションについて当初は好意的に評価された。それが2010年代半ばに一変した。ジェントリフィケーションの負の側面に警鐘が鳴らされた。
2018年、ジェントリフィケーションについて、地域にマイナスの影響を及ぼしかねない「高級化」であり、地域の特性や文化が失われる、時代遅れの開発主義・拡張主義として批判されるようになった。
ジェントリフィケーションという語を創出したのは、ドイツ生まれのルース・グラスという女性学者。イギリスに渡って、イギリス人と結婚し、社会学者として、活動した。
グラスは、第二次大戦後のロンドンの都市化を調査・研究し、人々にとって住宅の持つ意味の変化に気がついた。ロンドン市内の老朽化した民間賃貸住宅(下宿)の住人を追い出すために法外な家賃を要求し、追い出しに成功すると、より不安定的な立場に置かれているアフリカや西インド諸島出身の移民に部屋を貸し、彼らがほかに行き場がないことを承知の上で高額の家賃を徴収するという悪質な家主がいた。すなわち、高額な家賃と、それに見合わない不十分な住環境にある民間賃貸住宅の存在が明るみに出た。
グラスは、人種問題(非白人問題)というのは、実は「白人問題」なのだと看破した。
イギリス人は国内に差別も偏見もないというが、それは、イギリス人が自らのもつ偏見や外国人嫌いにまったく気がついていない、自覚がないというだけのこと。
イギリスでは、偏見が必ずしも差別とはみなされないという傾向がある。
当初、ジェントリフィケーションは、地域の中流化を意味していた。しかし、今や、都市が直面しているのは経済的・社会的な衰退。買い物客の減少、店舗の撤退、空き店舗・空き家の増加...。
1990年代以降、横浜の寿町では、高齢者・障がい者・生活保護受給者という福祉ニーズの高い住民の増加が著しい。寿町の高齢化率は52.8%(2023年)で、全国平均(29.1%)を大きく上回っている。寿町は、今ではホームレスが暮らせない町となっている。
寿町では、地域福祉施策が重点化され、福祉機能が拡充されていった裏面として、かつては町内にいるのが当たり前だったホームレスが暮らせない町となった。
日本ではカナダほど住宅価格が高騰しておらず、また住民の階層的な入れ替わりも顕在化していない。
なるほど、そうかもしれないな...。そう思いました。
かつてはホームレスが駅周辺に普通に見かけていましたが、今やほとんど見かけません。それでもホームレスの人々は今もいるとのこと。いったい、どこで、どうやって生活しているのでしょうか...。その人たちの生活実態を知らせる報道や本が少ないという気がしてなりません。
(2024年12月刊。2700円+税)