弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年4月13日

黒風白雨

社会


(霧山昴)
著者 宇都宮 健児 、 出版 花伝社

 日弁連会長をつとめ、東京都知事選挙にも3回挑戦した著者が『週刊金曜日』に連載したコラムを収録した本です。2009年1月からスタートしています。
 2010年4月から2年間は日弁連会長をつとめました。2年目になろうとする寸前、3.11の東日本大震災が起きています。早速、被災地へ視察に出かけ、弁護士会としての取り組みを率先して指導したというのは、さすがです。
 著者は理論派というより、行動する弁護士なのです。私は、クレジット・サラ金被害者救済運動を通じて親しくなりました。アメリカへの視察団として少なくとも2回は一緒したと思います。
 日弁連会長を退任したあと、要請を受けて無党派の知事候補として3回もがんばりました。100万票ほどの得票を得たのですが、今の選挙選はマスコミの知名度が圧倒的に有利なのです。猪瀬直樹、舛添要一そして小池百合子、いずれも都民のことより自分とゼネコン優先の都政をすすめましたし、すすめていますが、ともかく知名度では著者を何度も上まわります。
 立会演説会を拒否して争点を知らせない、ビラは枚数制限で全有権者に届けられない、戸別訪問は禁止する。こんな不公平な選挙制度はすぐに是正すべきだと著者は強調していますが、まったく同感です。選挙に立候補するときの供託金が300万円とあまりに高額なのもおかしなことです。世界各国は供託金ゼロも多いのです。日本だけこんなに高額なのは問題です。
 この本の出だしは、サラ金大手の「武富士」との戦いです。サラ金が超高利でボロもうけしていたときのことです。武富士は敵対する人物をひそかに盗聴までしていたのでした。まるで公安警察です。
 都知事選挙に立候補したのは、日弁連会長を無事つとめあげたことに自信をもっていたからだと書かれています。私も著者にぜひ都知事になってほしかったと思います。のちに自死してしまったソウル市長も人権派弁護士の出身でした。ソウル市を大きく変えていったと著者は高く評価しています。本当にそのとおりです。スキャンダルを起こしたのは残念です。
 都の予算は北欧のスウェーデンの国家予算並みというのです。小池百合子知事はカイロ大学を本当に卒業したのか怪しいと私は疑っていますが、関東大震災のときの朝鮮人大虐殺の慰霊祭に追悼文すら寄せないなど、ひどいものです。
 著者は「年越し派遣村」の村長もつとめました(たしか...)。これまで日本社会にないと思われてきた「貧困」を可視化した取り組みです。
 そして生活保護費の取り下げを国がすすめてきたことに対して、著者は果敢に闘ってきました。あくまで弱者目線での取り組みです。すごいものです。
 今、東大ロースクール生の圧倒的多数は年収1000万円以上が約束されている企業法務の弁護士を目ざしているという悲しむべき現実があります。本当に、あなたの人生はそれで充実したものになりますか...、という呼びかけが今の学生の多くに届いていないようで、私はとても残念です。
 選挙の投票率の低さを著者は繰り返し問題にしています。日本の国政選挙の投票率は5割をやっと超えるくらい。北欧では8割があたりまえというのに...。
 つい先日の北九州市議会選挙では、なんと40%しかありませんでした。身近な市会議員選挙であっても6割の有権者が投票所に足を運ばないのです。悲しすぎます。これでは「悪」はますます栄えるばかりです。
5年間で43兆円という大軍拡予算、安保三文書で「戦争する国」づくりをして、福祉・教育をバッサリ切り捨てる政治を許してはいけません。著者の引き続きの活躍を心から祈念します。
(2025年1月刊。2200円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー