弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2025年4月 9日

「新しい外交」を切り拓く

社会


(霧山昴)
著者 猿田 佐世、巌谷 陽次郎 、 出版 かもがわ出版

 「手取りを増やす」と称して支持を急増させている政党は、自民党の大軍拡予算にはもろ手をあげて賛成しています。そして、消費税の税率引き下げも要求することはありません。つまり、戦争に備えて軍備を拡張せよ、そのためには生活の切り下げは我慢せよと言っているのです。
 「手取りを増やす」どころではありません。ところが、マスコミ操作がうまいので、若者の支持を集めています。いずれは化けの皮がはがれるでしょうが、怖いのは、こんな与党支持勢力もあって、どんどん戦争が間近に迫っていることです。
 「新しい外交」は外交・安保政策のシンクタンクである「新外交イニシアティブ(ND)」のかかげているものです。
平和と民主主義、そして人々の多様性、人権、人としての尊厳に何の関心も持たないトランプがアメリカ大統領として、我が物顔で振る舞っているなか、戦争には戦争、武力には武力ということではなく、いろんなパイプを通じての外交努力が今、本当に大切だと思います。
トランプ大統領のアメリカは、今、国際秩序を目茶苦茶に破壊しつつある。日本は、そのようなアメリカに対して、これまでのように、ひらすら追従するのではなく、積極的に対話を求め、助言し、説得していかなければならない。
 これが、この本の主張です。まことに、そのとおりです。アメリカの国益と日本の国益は違います。アメリカが日本を守ってくれるなどという幻想を日本人は一刻も早く捨て去るべきです。
「アメリカ・ファースト」にこり固まっているトランプが捨て身になって日本を助けてくれるなんて、そんなことを信じるほうがどうかしています。振り込み詐欺(特殊詐欺)にひっかかって泣いている人が、いやあの人はきっとお金を返してくれるはずだ、信じたいと言っているのと同じです。ありえないことは、ありえないのです。
日本は今や「平和国家」という看板をおろして、「世界3位の軍事大国」になりつつあります。軍事予算が単年度で8兆円をこすなんて、信じられません。少し前まで5兆円をこすかどうかで大騒ぎしていたのがウソのようです。そして、この軍事予算の増大はオスプレイなど、アメリカの軍需産業がうみ出した老朽品、欠陥機をひたすら買い支えるために費消されるのです。嫌になります。
 また、武器輸出を「防衛装備移転」と言い換え、国民の目をごまかしています。
フィリピンにも、かつては広大なアメリカ軍の基地がいくつもありました。しかし、1992年に、すべ手のアメリカ軍基地を撤退させ、そこは民生用の工場とショッピングセンターになって繁栄しています。日本だって、同じことが出来るはずです。
この本でNDは、制度化されたマルチトラック(重層的な)外交を強力に提言しています。
 外交の制度化とは、国と国との関係を継続的に、定例化された関係にするということ。制度化すると、各国が省庁横断的に担当者を置いて、相互にメールなどでの日常的なやりとりをして、顔の見える関係になる。それによって情報公開も進み、危機対応も容易になっていく。そうして深い相互協力が実践されていき、戦争への機会費用が高くなって、国同士の衝突を避けるようになっていく。
 重層的(マルチトラック)な外交は、国の政府に限らず、知識人、議員、地方自治体、市民社会、ビジネス経済界など、各層で定例化され、恒常的で密な関係を構築していくこと。
 なるほど、ですね。弁護士会のレベルでの定期的な交流だって必要というわけです。日本人が弱いところを大胆に課題として提起した本です。広く読まれてほしいと思いました。
(2025年1月刊。1980円)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー