弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2025年4月17日
ロシアから見える世界
ロシア
(霧山昴)
著者 駒木 明義 、 出版 朝日新書
ロシアがウクライナに侵攻して始めた戦争が、3年たっても終わりません。
プーチン大統領は2000年からなので、首相の4年間も含めると、あのスターリンも超えている。そして5期目の今の任期は2030年まで。
プーチンは大統領選挙ではいつも圧勝しているが、テレビの候補者討論会に常に欠席していて、1回も参加したことがない。よほど自信がないのでしょうね...。
プーチンは、ピョートル大帝を崇拝してやまない。プーチンは若いころからピョートル大帝を崇拝していた。ウラジミール大帝と呼ばれることを夢想しているのではないか...。
プーチンを好きなのは年寄りばかり。若者、とくに20代は誰もプーチンを支持していない。でも、みんな自分の人生で手いっぱい。抵抗したら危険。牢屋に入れられ、すべてを失ってしまう。誰もそんな危険を冒したくはない。
プーチンはウクライナを「非ナチ化」すると高言している。「非ナチ化」とは、ロシアに刃向かうことは許さないという意味。
プーチンは、レーニンをきわめて否定的に評価している。ウクライナはレーニンがつくり出した人工的な国家であり、レーニンが革命によって政権を奪取したから。
国際刑事裁判所(ICC)はプーチンに対して逮捕状を出している。ロシアがウクライナから子どもたちを連れ去ったことが戦争犯罪だと断罪した。このICCの所長は、日本人女性の赤根智子裁判官。ロシア側は報復措置として、主任検察官と赤根所長を指名手配した。なので、赤根裁判官はロシアには入れません。
ロシアの教育現場は、戦時体制に組み込まれている。「欧米の軍事支援が戦闘を長引かせ、犠牲者を増やしている」と、学校で子どもたちは教えられているのです。
ソ連時代の11月7日の革命記念日は廃止した。街頭に出る市民の抗議活動によって政権が倒れるというシナリオはプーチンは忌み嫌っている。
これって、アメリカのトランプと同じですよね。トランプは自分の選挙もプーチンの助けを借りたという疑惑がありますが、まさしくアメリカの王様気取りです。この2人とも、つくづく嫌になってしまいます。
この本を読んで怖いと思ったのは、ロシア市民の29%が核兵器が使われる可能性を現実のものとして受けとめていること、そして、核を使おうとしているのは、ロシアではなく、ウクライナだというロシア政府のクロロパガンダがロシア市民にしっかり浸透しているという事実です。
「日本に原発を落としたのはアメリカではなく、連合国だと日本の教科書に書かれている。教科書に事実を書けないほど、日本は抑えつけられている」
こんなことをプーチンは高言したそうです。いやはや信じられません。そして、日本人は原爆を落としたのがアメリカだとは知らない。こんな俗説がロシアで広く信じられている。とんでもないデマがロシアに広がり、定着しているようです。
「ロシア人を獣にしたのはテレビだ。テレビはウクライナを敵として描き、人々を、ウクライナを憎む獣にするために働きかけた」
これは、ノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家の言葉。ところが、わが日本もロシアの現況を笑うわけにはいきませんよね。大軍拡予算が着々と進行していって、全国各地に弾薬庫が大拡充されるなかで、その問題点を具体的に報道することもなく、ただ目先の「手取りをふやす」ことにだけ焦点をあてて報道するという、目くらまし戦法を日本の主要マスメディアはとっています。プーチンの威光にひれ伏すロシアのマスメディアと、どれほどの違いがあるのでしょうか...。
でも、まだ日本は、こんなことを書く自由があるだけでいいじゃないか。そんな「反論」も聞こえてきそうです。でも、でも...。
(2024年9月刊。990円)