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栽培植物と農耕の起源

カテゴリー:生物・植物

(霧山昴)

著者 中尾佐助 、 出版 岩波新書

ムギやイネは、人間の手によって作りだされたもので、野生時代のものとは、まったく異なった存在である。

野生種のスタイルは、一般に細くやせていて、スマートな姿である。決して強壮に大型に生長するものではない。イネやムギでは、8頭身より6頭身のほうが実用的として愛されている。

バナナは全世界的にみると、果物のなかで、一番重要なもの。その生産量は、あらゆる果物のなかで、一番多い。東南アジアや中米、アフリカでは原住民の自給消費が圧倒的な量を占めている。バナナのなかには煮たり焼いたりして食べる種類のものが相当ある。バナナの多様性は広い。現在の栽培バナナの主流はマレー半島付近が起源。 栽培バナナのもう一つの野生の祖先はフィリピンとインド。バナナが栽培化されたのは1万年以上とみる人もいるが、著者は5千年以上昔とみている。

ヤムイモはマレー半島付近から発生し、オセアニア やアフリカに伝播している。

サトウキビは、人類が開発したもっとも価値の高い作物の一つ。カロリー単位に及ぼす量がすばらしく、栽培、収穫、管理が機械化に適している。

熱帯雨林の植物界は、驚くべき豊産性とバラエティに富んだ世界である。熱帯雨林の中では、まったく植物に頼りきった生活法が容易に成りたつ世界である。

東南アジアの熱帯雨林の中で、バナナ、ヤムイモ、タローイモ、サトウキビの4つの栽培植物を開発したことは、人類の生活史上の革命の一つといえる。

ヒンドゥー文化には、がんらい酒類はなかった。ヒンドゥー教徒に酒はない。

アフリカには、古くより純粋な野生のイネ類が多数あり、その穀粒が採集利用されている。イネは湿生の雑穀。アジアでの原産のイネの原産地は、インド東部である。

アジア系のイネには大きな二つのグループがある。それはジャポニカとインディカという二大区分とは違う。アウス群とアマン群だ。アウス群は早生。アマン群は晩秋の11月ころに、出穂する。日本イネはアウス群に入る。

穀類は、みな一年生植物。雑穀も栽培化されたものは、例外なしに一年生としての性質を有している。

栽培植物の世界を知ることができました。

(2024年4月刊。920円+税)

「瞬きすら許さない」

カテゴリー:イギリス

(霧山昴)

著者 ジョー・キャラハン 、 出版 創元推理文庫

イギリス・ミステリー界の新星として注目を集めている著者によるミステリー小説です。

AI捜査官を使って現場の捜査官の人減らしをすすめようとする動きがあります。

捜査にあたって沈黙は武器として使える。ほとんどの人間は沈黙を埋めるために、あせって余計なことを言ってしまう。それが捜査官に有利に働く。

公開されているSNSのサイトや、警察のイントラネットで入手できる経歴、職歴、百科辞典等から得た情報がすべて。それによって、個人は本人も知らないうちに丸裸になる。いやあ、ホント、怖い世の中です。なので、私はコーヒーショップでもどこでも100%現金で支払います。いつ、どこで何をしていたのかを知られたくないからです。それは私がやましいことをしているからというのではありません。誰か、つまり企業と国家に管理されたくないのです。

イギリスにおいては、行方不明者の90%近くは2日以内に見つかっている。しかし、子どもは2%、大人でも4%は1週間以上も行方不明のまま。

捜査にあたって、電話で通じることは無理。やはり、顔を直に見て話すのが一番良い。

誰かがあなたの息子になりすまし、被害者のケータイ電話を扱うことがある。

厳しく辛い知らせでも、直接に会って伝えると、ほんの少しだけでも聞きやすい。そのための時間は、警察官の仕事としてもっとも辛いものだけど、もっとも主要な部分。これはまったくそのとおりです。

AIを使って捜査をすすめる世の中が来るのは間違いないことでしょうが…。

(2026年4月刊。1430円)

植村 直己

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 伊藤 千尋 、 出版 ミネルヴァ書房

ハラハラ、ドキドキしながら、そしてときにワクワクしながら読みすすめていきました。まさしくジュニア向きなのですが、私のような「年寄り」 が読んでも面白いのです。気分が一気に20代に戻りました。若返りさせてくれてありがとう。そんな気分です。

植村直己は、日本人として初めて世界五大陸の最高峰に登った登山家。さらに、アマ ゾン川をイカダで下り、犬ゾリで北極点に到達した冒険家でもある。みんな、ほぼ一人で達成した。

いやはや考えられない偉業です。そんな国民的英雄なのに、若いころは劣等感の塊(かたまり)だった。ええっ、と、信じられません。

「ぼくの原動力は、はっきりいって劣等感です」と、本人が語っています。

子どものころは、ごく普通の目立たない存在だった。勉強でもスポーツでも、ほかの子にかなわなかった。しかし、負けず嫌いで、忍耐強かった。

著者は若い読者に向かって、夢をもち、自分の人生を自分で切り開くことを呼びかけます。そのためには、植村直己の人生を知れば、それをやってみようという気になるというのです。

それでは、読んでみましょう。

北極点に向けて犬ゾリを走らせているとき、定時連絡で植村直己は、「今、シロクマに襲われています」と報告した。テントの中に鉄砲はあるのだが、銃弾は込めていない。動いて音を立てるとシロクマに気づかれる。じっとして運を天にまかせるしかない。生きのびるためには絶対に動かないこと。 そう言えば、写真家の星野道夫さんもシロクマに襲われて、亡くなりましたよね…。

シロクマの足がテントの上から、寝袋に入ったままの身体を押して、一回転する。危機一髪。ついにシロクマは立ち去っていった…。翌日、このシロクマは鉄砲で仕留めた。うひゃあ、肝が冷えますね…。

日大北極遠征隊が1日早く北極点に到達した。植村直己は悔しかった。でも日大の遠征隊は、総員22人、犬ゾリ12台、犬165頭という大がかりなもの。対して、植村直己は、たった一人。犬は17頭。

植村直己はイヌイットとは イヌイットの言葉で話し、イギリス の探検家とは英語で、カナダ 軍のフランス系将校とはフランス 語で会話した。これまた、なんとすごいこと…。

23歳の植村直己は、 1964(昭和39)年5月、横浜港からアメリカに向かった。 まったくお金をもたずに…。働いて なんとかしようと考えたのです。レストランでの皿洗い、農園でのブドウ摘み。

次はヨーロッパへ。フランスでは、 私も行ったことのあるシャモニーに行き、モンブランの氷河を踏みます。ところが、クレバスに落ちて死ぬところでした。そのあとは、スキー場でアルバイトとして働きます。なんでも嫌がらずに働きました。

そして、ヒマラヤ遠征時の声がかかるのです。いろいろなハプニングがあり、頂上に登り立つことが出来ました。ところが、日本に帰らずにフランスに留まったのです。

アフリカで、地元の若者はこう言った。

野牛にあったら木に登れ。ゾウがきたら大きな木の間をジグザグに逃げろ。ヒョウを見たら目を見つめたまま通過すればいい。

いやはや、そんなことが実際に出来るものでしょうか…。

アマゾン川をイカダで下ったあとは、エベレストの頂上に挑むのです。

日本に帰国して、植村直己は、日本列島を歩いて縦断した。北海道の宗谷岬から、鹿児島の南端まで、 約3000キロを52日かけて歩き通したのです。朝食は食べず、昼食はラーメンか、 歩きながらパンと牛乳。1日 300円の予算で、1日に 58キロ歩きました。駅のベンチや道端で寝ることもあったそうです。とてもとても…。

1984(昭和59)年2月12日、アラスカを訪れて、マッキンリーに向かい、 恐らくクレバスに落ちて行方不明となりました。43歳、精一杯、 駆け抜けた人生です。

著者は、本書を読んで、若き冒険家が生まれること、冒険とまでいかなくても自分らしい人生を歩んでいこうと考える若者が育つことを期待しますと最後に書いています。まったくそのとおりです。

コンサルタント会社に入って金もうけしようと考えている若者が増えているようなのが、私は本当に残念です。 金もうけばかりが人間のやることではありません。

年齢にこだわらず、今が青春まっただなかと思っている人に、 強く一読をおすすめします。

(2026年5月刊。2200円)

袴田事件の教訓

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 木谷 明編 、 出版 岩波書店

再審が開始され、無罪となった袴田事件について元裁判官の皆さんが裁判を振り返って議論している本です。

無罪の決め手になったみそタンクで発見された衣類のカラー写真があります。そのとき、カラー写真のネガフィルムも提出されました。もちろん、最初からではありません。ずいぶんあとになってからのことです。弁護団は平成2年1月の段階で写真とネガフィルムの開示を求めましたが、無視されていたのです。

公僕として社会公共のための存在であるはずの検察は、自分に都合の悪いものは、そんなものはないと嘘を言ったりして、とにかく証拠を開示しません。今、問題の再審法改正でも、検察、法務省は現状で十分だとして、証拠開示の拡大を必死に阻止しようとしています。公僕が泣きます。

血痕のついた衣類を1年以上もみそタンクの底に入れておいて赤味がそのまま残っているなんて、素人の私にも考えられないことです。

科学者が実験してみると、メイラード反応によって、褐色、メラノイジンが生成され、褪色が一層進行し、黒茶褐色から黒褐色に変わる。素人の直感するとおり、赤いままというのではなく、黒っぽくなるのです。

アメリカやイギリスでは、警察官が装着カメラを着けて証拠保存するのが当たり前になっているとのこと。すると、警察活動の透明性を高めて信頼性を向上させるとして、高い評価を得ています。

センチネル・イベント・レビューとは、重大な誤りにつながるような出来事(過ちなど)センチネル・イベントから教訓を学ぶシステムのこと。

裁判所村なるものが存在する。弁護人(士)との確執があると弁護士・弁護士会に対して分厚いバリアを形成する。

裁判官による、印象的、直感的な判断は、今なお、有力な判断法として温存されている。

裁判所村においては、住民の共通認識の根底に、警察や検察に対する根強いリスペクトが横たわっている。また、住民の理論や理解と異なるものに対する反発がきわめて強い。それは、きわめて従弟的な教育の結果であって、裁判長や先輩の裁判官のふるまいを真似していくことから始まる。

そうなんです。弁護士も入った事務所に2年は辛抱する必要があります。

検察官には親近感が生まれ、まさか警察や検察が間違ったり、不正を働くことはないだろうという捜査官に対する信頼(リスペクト)が裁判官に共通のものとなっている。

現場の裁判官には、他人(ひと)と違った目立ったことはしたくないという横並びの思考、保守的かつ自己抑制に努める心情が顕著に現われる。

「日本中の国民が有罪と思っているのに、なんで裁判官だけが無罪なんて言えるのか」と高言する裁判官がいる。

合議の結果、右と左が一致して裁判長を負かせた裁判官は、そのあとずっと東京の裁判所には戻ってこれなかった。そんな人事がなされる。

一人の人間が良心をもって対峙するという構造になっているか、一歩踏み出すことが果たして出来るのか…。

裁判官には政治に対する遠慮がある。

悪い裁判長に教育されると、とーんとん悪くなる。無罪判決なんて一枚も書いたことのない裁判官はたくさんいる。フツーにやっていれば無罪だとわかるはずのものに、書いたことがない。そんな上司にあたると悲劇。

検事総長をつとめた人がうそぶく。「法廷では多少の嘘をついてもいい、と指導・教育している。なぜなら、それによって真犯人が罰されたら、正義に適(かな)うからだ」。

裁判所村の残念な事実と司法の現況が紹介された本でもあります。

(2026年5月刊。2860円)

特捜取調室

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 佐藤優・西村尚芳 、 出版 新潮社

ちょっと毛色の変わった本です。というのも、20年前に、「国策捜査」の対象になり、被疑者として取り調べを受けた人と、取り調べにあたった検察官が、再び「対決」したのですから……。

取り調べにあたったほうは、その後、東京地検の特捜部副部長となり、大阪地検の特捜部長になりました(現在は弁護士)。

取り調べを受けた側は、この検察官に「とても感謝しています」とのべています。

この検察官は偉いと私が思ったのは、

「明日の午前中に弁護士と接したとき、弁護士とよく相談してください」「それで納得したら、署名捺印してください」

と言ったというのです。難しい案件でしたので、よほど心に余裕がなければ なかなか言えないコトバだと思います。

「あなたみたいな難しいお客さんは、無理やりに調書をとると、後になってからもめたりする。だから、任意性に関しては、絶対に問題がないだろうというところまでやる。そこは固めて おきたいので、自分のためにやってるんですよ」

このように説明したそうです。

暴言を吐く検察官は、「自分を守るという意識が欠けている」と解説されています。さすがです。見習いたい言葉です。

否認から自白に転じた被疑者は要注意。過剰な迎合をする可能性がある。なるほど、きっとそうでしょう。

特捜は意図的な冤罪はやらない。しかし、事件の読み違いはある。

特捜部長は、部下に「無理するな」と言わないといけない。

検察官は金持ちの怖さを知らない。

検察には大阪人事というものがある。大阪の上司は、大阪の部下のことしか見ない。大阪の部下は大阪のボスほうしか見ない。東京につながるラインは軽視される。

「割り屋」とされる検察官はプレッシャーがかかる。もはや「これ、割れませんでした」とは言えなくなる。上司が気に入るような話をとってしまうようになる。嘘が出てくる。組織のなかではありうる話ですね。

暴力団員がニコニコして「検事さんに会わせてください」と言ってくることはよくある。きちんとしておかないと、トラブルが発生する。

検察官を辞めたあとも、優越感をもっている人がいる。そして、それを利用しようと近づいてくる人間がいる。

大阪地検の検事正(北川健太郎)の準強制性交罪についても語られています。

これは大阪独自の検察文化を背景にして起こった事件。被害者の女性検事が翌日、相談に行ったのは、当の加害者の検事正。これは変な話。

この検事正は、大阪人事の中ではトップ中のトップ。だから、大阪では、こういう人についていくと安泰。

保釈保証金というのは、事実上の弁護士費用。これは、暴力団事件の私選弁護人の感覚です。国選 弁護ではありません。私選弁護人は、だから保釈保証金が低額だと困るという感覚のようです。

ちなみに、国選弁護で、簡単な窃盗事件でも、保釈保証金は150万円があたりまえになっています。昔は、 30万円とか50万円でしたが、今はそんな金額は聞いたことがありません。

司法の運用の現実を改めて認識させられました。

(2026年6月刊。2200円)

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