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人間と昆虫のこれからを考える

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 沼田 英治 、 出版 岩波ジュニア新書

 前にも聞いていましたが、マゴットセラピーという治療法があります。ハエの幼虫(ウジ)を使って、治りにくい潰瘍(かいよう)を治療する方法のこと。

傷の治療にウジが有効なことは古くから知られていました。19世紀のアメリカの南北戦争のとき、負けた南軍の兵士の傷が放置され、傷口にウジがわいていた。ところが、あら不思議、南軍の兵士の傷は治って生存し、消毒してもらっていた北軍の兵士のほうが逆に死亡率が高かったのです。今や日本でも生かされています。ウジが悪化した部分を消化して食べると同時に細菌の繁殖を抑制し、新しい肉が再生するのを促進するのです。

 キイロショウジョウバエという体長3ミリほどの小さなハエは、これまでに5回ものノーベル生理学・医学賞に貢献している。いやあ、これはすごいことです。容易に手に入り、安価なエサで飼育でき、世代時間が短く、体が小さくて場所をとらないので、狭い実験室でどんどん増えることになる。

 法隆寺に王虫厨子がある。このタマムシは色のついた物質によるものではなく、構造色なので、その構造が維持されているかぎり色が保たれる。色落ちというのがないのです。

 イネに害を与えるウンカは、温暖な中国南部やベトナム北部で冬を過ごし、初夏に海上を移動して日本にやってくる。上昇気流に乗って下層ジェット気流という南西の風の吹く高さまで上がり、それに乗って日本にやってくる。すごいですね、こんな遠方から、あんな小さな虫たちが大挙して飛んでくるとは信じられません。

 日本でマラリアの発生は1959年が最後。1935年までは、日本でも年に数万人もの患者が発生していた。この本によると、アレクサンドロス大王も平清盛もマラリアで亡くなったとしています。

 この本では、コオロギを食べることをすすめています。安価なエサで容易に飼育できるからです。でも、まあ、なんとなく、すすんで食べようという気にはなりませんね……。

 次に、すすめているのがアメリカミズアブです。生ごみをエサとして育てて、これをエサとして食用のタイやブリを養殖するというのです。これなら文句ありませんね。ぜひ大いにすすめてほしいものです。

(2025年11月刊。880円+税)

馬と人の古代史

カテゴリー:日本史(古代)

(霧山昴)

著者 若狭 徹 、 出版 角川選書

 父の実家は福岡県大川市にあります。筑後平野の真只中で、私の子どものころ遊びに行くと、見渡すかぎり水田が広がっていました。その実家で戦前、叔父(父の弟)は競争馬(サラブレッド)の育成を副業としていたとのことです。すらっとした体格のうつっている、証拠の写真も残っています。けっこう儲かっていたと叔父は言っていました。戦前も競馬ブームがあったようです。

 一般には馬も牛も農耕馬でした。昭和30年代まで、関東平野でも農耕馬が活躍していました。しかし、やがてトラクターや耕運機がとって代わりました。

古代日本に馬が中国・朝鮮から入ってきたのは、「動力革命」も同然だった。

馬は権威の見せびらかし、敵を圧倒する騎馬軍団、そして農耕・荷役(にやく)への馬の利用は、社会構造を大きく変えた。

 ひところ私も心酔した江上波夫教授の唱えた「騎馬民族征服王朝説」は、今や残念ながら完全に否定されています。それにしても、全国各地に見事な馬形埴輪(はにわ)があるのですね。

 群馬県保渡日八幡塚古墳の馬形埴輪も見事です。「馬引き人」の埴輪もあります。 「踊る埴輪」は、踊っているのではなくて、馬の手綱を引く「馬引き人」なのです。

 馬形埴輪は、鞍を乗せたり飾り馬がすごいです。女性が横座りするための鞍も出土しているとのこと。

 馬は3世紀には倭に入ってきたが定着しなかった。そして、本格的に騎馬文化が日本に入ってきたのは5世紀、古墳時代の中期。

 馬の生産を支えたのは信州(長野県)というのも意外です。日本海ルートを介して、4世紀の長野盆地に朝鮮半島からの渡来人が定着し、古墳を築くほどの地域首長になっていた。

 そして、東北でも馬を生産していた。西国・九州でも名馬を生産していて、蘇我一族を名馬の産地である日向馬にたとえた推古天皇の歌がある。

 5世紀中葉の馬具は、九州全域に存在する。馬を扱う官庁として、左馬寮、右馬寮、兵馬司、主馬寮、内厩寮といろいろある。いずれも兵部省の管轄です。軍馬の確保は大切だったことが分かります。

 馬は国家で管理していたのです。高句麗から招来された技術者集団が波革加工集団として存在していました。

そして、道路に関して駅路と駅家が整備された。駅路は、両側に側溝を備え、幅員9メートルとか12メートルの直線道路だった。両側には柳の木が植えられていた。駅路の16キロごとに駅家が置かれた。ローマ帝国のアッピア街頭を思い出しますね。また、ペルーのインカ帝国も道路網を整備していました。

 飛鳥・奈良時代の馬具はシンプルだったが、その前の古墳時代の馬具は、巻絡豪華だった。豪族たちは持ち馬の見せびらかしに執心していた。

 馬と人との関わりを詳しく知ることが出来る本でした。

(2026年1月刊。2200円)

ラーメン一杯いくらが正解なのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 井手隊長 、 出版 ハヤカワ新書

 私はラーメンを食べるのは年に1回あるかないか、です。メンを食べるなら、野菜たっぷりちゃんぽんにします。もちろん健康を考えてです。60年近く前、高校の修学旅行で東京に行ったとき、渋谷駅近くのラーメン屋に入って東京ラーメンを食べて、注文を間違えたのかと思いました。しょう油味のうどんのようなものが出てきたからです。ラーメンといえば、豚骨味のギドギドした、白濁スープのものだと思い込んでいましたので、びっくりしました。

当時は、百円でカツ丼が食べられましたので、ラーメンも百円前後だったと思います。その後、300円台となり、600円となり、今や1000円前後です。先日、久留米の駅で食べたのは、高菜のせラーメンでしたが1200円しました。喫茶店のランチも今では1200円ですから、仕方ありません。

 この本によると、「1000円の壁」があるということですが、メニューに900円前後のものがあっても、トッピングをしたら、1000円をこえるのが当たり前になっていますよね。

 私は、ラーメンを行列に並んでまで食べようとは思いませんが、福岡・天神でラーメン屋の前に行列が出来ているのは、見慣れた光景です。みんなで待てば会話を楽しめるし、ますますお腹も空いて、いいのかもしれません。なので、私は、この本にも出てくる、有名なジロー系とかイエ系というものは食べたことがありません。いずれもこだわりの味のようですね。

 ラーメンの原価率の適正は35%ほど。博多ラーメンも2021年に690円だったのが2025年に1100円となった。6割の値上げ。食材費も職人の給料も値上がりしているので、やむをえないのでしょうね。

 ラーメン屋の新規開業も多いですが、倒産件数も過去最多。2024年に倒産したラーメン店は57店で、前年比27%増。その原因の一つは、後継者問題をふくむ「人」の問題。

ラーメン専門店ではスープの食材にとことんこだわっている。この食材にかけるコストが昔とはまったく違っている。ダシの旨味(うまみ)の強さが桁違い(けたちがい)だ。

チャーシューには焼豚と煮豚の2種類がある。近年は、低温調理チャーシューが増えている。

スープに旨味や深いコクを与える背脂。かつては捨てる部位だった。今や、供給不足のため値段が上がり、店同士で奪いあいの状態。背脂をさばく人がいなくなったことにもよるという。背脂には等級があり、A脂、B脂、C脂と3種類ある。フランスではジュレと呼んで、高級品。

ラーメンの原価を考えるときは、1日に出る杯数が大事。杯数が多く出れば原価は下がる。1日200杯を売り切る。スタッフは月給35万円、週休2日で確保する。いやあ、これは難しそうですね……。

博多一風堂は、麺が極細のため、ゆで時間が短く、スピード勝負ができるのが強味。1分もかからない。

ラーメン店ではレシピをつくらない。ところが、今ではレシピをつくってマニュアルをつくっているラーメン店のチェーンもある。

 今では、「冷凍ラーメン」もあるそうです。店の味がそっくり再現できていて、1000円台であっても女性に人気だとのこと。そして、それはスーパーだけでなく冷凍自販機まであるそうです。冷凍ギョーザの自販機もありますし(した)が、身近なところは撤収してしまいました。行列にかえて、ネットで500円を余計に払って予約制にしたラーメン屋もあるのですね。たしかに、路上に1時間も待たされるくらいなら、500円を払いますよね。

 日本のラーメン店事情がよく分かる新書でした。

(2025年10月刊。1260円+税)

アフリカから来たランナーたち

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 泉 秀一 、 出版 文春新書

正月の箱根駅伝はテレビの視聴率は30%とのこと。まさに国民的なイベントですね。 もっとも私は全然関心がありませんので、観たことはありませんし、 観ようとも思いません。私は、観るスポーツ全般に関心がなく、 オリンピック競技も観ません。今度の総選挙で高市首相は オリンピック競技の最中にぶつけたという解説を知り、なるほどそういうことだったのか…と思ったことでした。

それはともかく、マラソンで ケニア選手が活躍していることくらいは私も知っています。新聞は丹念に読んでいますし、スポーツ記事も大見出しだけは見逃がさないのです。

大学駅伝だけではなく、高校駅伝でもケニア人が活躍中。そこで、著者はケニアの現地に取材に出かけました。

標高2300メートルにあるイテンは、「ランナーの聖地」。人口4万人のうちの1割の 4千人がランナー。そこにはトレーニング設備つきのホテルが林立している。1泊5千円 から1万円と、ケニアの田舎町としては高額。

完全無料どころか、月2万円 の手当を受けとれるキャンプもある。ケニアが中長距離大国として活躍しはじめたのは1980年ころからで、決して古くはない。キャンプはスポンサーがついていて、 商業化がすすんでいる。

ところが、ケニア人ランナーのドーピング摘発数は世界1位(126人)。ランナービジネスが過熱しているのはドーピングを助長する要因となっている。成績が振るわなければ、容赦なく切り捨てられる。一時的にでも記録が向上したら、お金を稼げるからだ。

キャンプに附属するランナーの背後には、無所属のランナーたちが無数に控えている。

ランナーとして成功したら、1年でケニアの平均所得の5〜10倍もの稼ぎがある。宝くじを買うような、一攫千金を狙う賭けのようなもの。たとえば、400万円即金でケニアの故郷に成功したランナーが建てた家の写真が紹介されています。屋根にはソーラーパネルが設置されている、しゃれた建物です。

現在、日本で走るケニア人ランナーは150人をこえるそうです。 この新書では、ケニア人ランナーを日本に紹介した日本人2人が紹介されています。その一人が小林俊一(故人)。選手1人につき 年150万円の顧問料を設定して、ビジネスとして定着させた。もう一人が丸川正人。紅茶ビジネスの利益をランナー育成にまわした。

ところが、いま外国人排斥の声が高まるなかで、留学生を制限する方向に動いている。これまで、ケニア人留学生は日本人学生にも大きな刺激を与えていたのに、偏狭な排外主義がスポーツの分野にまで拡がっているなんて、とんでもないことだと思います。「日本人ファースト」なんて、狭い考えを捨てて、「人類、みな兄弟」という精神で、共存共学でいきたいものです。

(2026年2月刊。1210円)

南緯69度チーム、南極地域観測隊

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 原田 尚美 、 出版 WAVE出版

 南極に観測隊はずっと行ってるわけでしょうが、初めての女性隊長だというのに、いささか驚きました。これまで、南極での調理スタッフ(女性)の苦労話も読んで、このコーナーでも紹介したことがありますが、女性隊長はずっといなかったというわけなんですね……。

 近年は女性隊員が増えていて、著者が隊長だった第66次隊では114人のうち25人が女性でした。著者は女性初の隊長として、アンコンシャスバイアス、無意識の偏見の克服が重要だと考えました。これは、実のところ、私にも多分にあると思います。

 ある学者によると、人間の脳は、一瞬のうちに1100万ビットもの情報を受信しているが、意識としてはそのうちの40ビットしか処理できていない。残る99.9996%は意識的には処理できず、無意識のうちに処理しているというのです。この数字の真偽のほどは分かりませんが、なんとなく私の実感にもあいます。

 私が大勢の人の前で話すとき、もちろんあらかじめおよその構想は頭の中であらかじめ組み立てておきますが、現場に立って、聴衆の顔ぶれをみているうちに、頭の中のどこからか指令が飛んできて、それに従って話しているのに気がつくというのはよく体験することです。

 同じことが、リーダーは男性がするものという偏見が私のなかにもあるのだと思います。

高市首相が初の女性首相だというのが高い人気の一つだというのには、私はものすごく違和感があります。彼女は夫婦別姓にずっと反対してきましたし、アメリカべったりの大軍拡主義者そのものです。女性である前に、彼女がこれまで政治家として何をしてきたのか、何を言ってきたのか、きちんとみて判断すべきだと私は思います。

 NHKの日曜日朝の討論会をドタキャンしたのも、手指をケガしたんだから仕方のないこと、責めたら可哀想という評価があったとのこと。信じられません。政治家、とりわけ首相として適格なのかどうかの判断をするとき、そんなことを可哀想と思うなんて、ぜひやめてほしいです。彼女は、その足で、地方遊説に出かけているのですから…。

 著者は、この本で、体制づくりの苦労と工夫をかなり具体的に紹介していて、参考になります。観測隊も100人以上となると多様性が高まる。すると、組織には、しなやかさと強靭さ、そして多様性が求められる。

 南極は雪と氷に囲まれていて、水は豊富だというイメージですが、現実には水不足になりかねない環境。なので、風呂が選択もままならないことがある。いやあ、それは大変ですね。私は毎晩、湯舟にゆったり使い、頭髪をせっけんでごしごし洗わないと、一日の疲れがとれません。

 南極大陸を環状に取り巻く南太洋は荒れる海。低気圧の通り道になっている。暴風圏だ。吠える40度、狂う50度、叫ぶ60度と呼ばれるほど、世界でもっとも荒れる海域。いやあ、そうだったんですか、知りませんでした。

隊員の小さい不満が大きなものになる危険がある。それを小さいときに摘み取って、深刻なレベルにまで発展させないことが不可欠。

そして、相手を思いやる気づかいを常にもち続けるためには、疲れをためず、気力を保ち続ける必要がある。ストレスを解消し、リフレッシュする。そのため、汗をかく運動を毎日続けた。

 不満の芽が育ちはじめたら、まずじっくり話を聞く。共感だけにとどめて、気持ちを落ち着けてもらう。

さすが隊長として、まとめ役の苦労を踏まえていて、一般論としても、大いに参考になります。ぜひ、若い人に、男性も女性も読んでほしい本です。

(2025年11月刊。1760円)

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