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山の法律相談所

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 安藤雅樹 、 出版 山と溪谷社

 長野県出身で今も松本市に事務所を開設している、山登り・山歩きと温泉めぐりを趣味とする著者による、山をめぐる法律問題に明快な回答があって、大変実務に役立つ本です。

完全予約制の山小屋が増えているようです。でも、天候が急変してそこに泊まりたいのに、泊まれないのか…。でも、緊急避難であり、そこからほかへの移動は困難だし、下手すると遭難しかねないときには、山小屋は満床であっても断ることが許されないことはありうるとしています。そうですよね。営利より人命救助が優先のはずです。

富士山では弾丸登山が規制されているそうです。山頂でご来光を望むための弾丸登山なるものが流行したことから、そして事故が起き救助要請が多発したことによるものです。

登山の自由はもちろんあるわけですが、それにも限度はあるわけなので、最低限の規制は仕方ないことだとも思います。

では、入山料をとるのは合法なのか…。法律によって入山料をとること自体は認められています。でも、任意であって、義務ではありません。ところが、条例で義務化されているところがあります。山梨、静岡の両県では、4000円です。

ツアー登山のとき、「主催者に一切責任を問わない」という誓約書にサインすることが求められますが、果たして有効なものでしょうか…。消費者契約法によって、一切責任を主催者に問えないというのは無効になります。でも、すべての内容が無効になるとは限りません。

岩場にある鎖(くさり)が切れて転落したとき、誰かに責任追及できるのか…。その鎖が地方公共団体などが設置していたら、安全性の確保が足りなかったとして、損害賠償請求が認められます。ただし、登山者にも配慮が足りなかったとして、4~6割の過失相殺が多いようです。

ツアー登山で遭難する事故にあったときは…。主催者の会社に責任追及することができます。主催者が登山サークルのような任意団体だと、責任があったとしても確実に賠償を得られるかどうかは不明です。

遭難して救助のヘリコプターの費用はどれくらいか…。この本によるとヘリコプター利用のときは、1時間で10万円ほどだそうです。

いやあ、山をめぐる法律問題って、思った以上にいろんなことがありうるのですね。大変勉強になりました。山をめぐる法律問題についての絶好の実務的手引書です。

(2026年9月刊。980円)

恋する武士

カテゴリー:日本史(鎌倉)

(霧山昴)

著者 関 幸彦 、 出版 講談社学術文庫

藤原保昌は藤原道長・頼通の二代に仕え、「都の武者」として知られ、丹後国司となった。『和泉式部日記』で名高い和泉式部は、保昌の妻となっている。式部(35歳)が道長の娘彰子のもとに出仕していたころ、保昌(52歳)との出会いがあった。和泉式部は多情多恨の女房歌人として知られる。

あらざらむこの世のほかの思ひ出に、いまひとたびの逢ふこともがな

式部の娘が小式部内侍。

大江山いく野の道の遠ければ、まだふみも見ず天の橋立

保昌は文・武両者の性格を有し、軍記作品で平安武者の原点とされる。

平安武者には、身分上昇をはかるべく摂関家に従属し、ときには政敵の暗殺をもいとわない側面を有するという共通の属性があった。

王朝武者の「兵の道」は、ときとして算術的な・ドライな世界だった。目的のためなら手段を選ばずというのは、生き抜くための「知恵」にほかならなかった。結果がすべてだった。

西行は、頼朝と同じく、武人にして歌人だった。そして、西行は恋する男でもあった。

思ひきや富士の高嶺に一夜寝て雲の上なる月をみんとは

西行が出家した原因について、『源平盛衰記』は、「恋の故」とする。

文覚上人は西行を嫌った。遁世した以上は仏道に専心すべきであって、歌道への執心は許されないと批判した。

文覚上人が出家したのは、恋慕する女性を殺してしまったことから。文覚は、恋に命をかけるほどの激情家だった。

武士出身である滝口入道(斎藤時頼)は、同じく恋ゆえに出家した。

最愛の夫が無常の道におもむいたとき、多くは後世を弔うため、妻妾も出家した。

平氏政権は、鎌倉政権と同じく、中世的な体質を有した武家政権である。

平家一門は、貴族以上に貴族らしくというのを模範とした。

義経は「恋する武士」として20余人の女性とまじわった。

曽我兄弟の仇打ちは、象徴的な事件だった。

有力御家人の安達景盛の恋女房を将軍頼家が横取りし、これを知った景盛が激昂、攻撃しようとした。

中世は自力救済がすべてだった。

北条時政は妻の牧ノ方と夫唱婦随の関係にあったが、これが時政晩年に政子・義時との関係を悪化させ、自身の更迭を招いた。

頼朝が挙兵したとき、時政は43歳。頼朝死後、遠江守に就任したのが63歳、頼家更迭(比企事件)のとき66歳。2年後に時政は退場。

鎌倉武士の世界を、色恋の観点から見るという視点が、とても新鮮で面白く読みました。

(2025年11月刊。1100円)

闇の広告史

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 亀田真澄 、 出版 朝日新書

私はテレビを見ませんのでコマーシャルも、もちろん見ません。それで困ることがあります。依頼者との雑談のとき、「ほら、今テレビで紹介しているあれですよ」と言われたら、どうしようもありません。笑ってごまかして逃げるばかりです。

ところが、ネットは毎日みていますので、そのときコマーシャルが出てきます。もちろん、すぐに消すのですが、それでも消えるまでの一瞬は広告を見せつけられます。

広告は人間の弱さをまた標的にしている、社会的分断をあおりたてている。

広告は、私たちの生き甲斐と生き辛さの両方、そして現代社会のさまざまな問題を生み出している。

この本の前半では、アメリカのエドワード・ルイス・バーネイズというユダヤ人実業家を取り上げています。かの有名な精神分析学のジークムント・フロイトの甥であり、親密に交際していました。

バーネイズは、日常に入り込んで、近さや親しみという温かい感情を与える宣伝を始めた。

バーネイズは、精神分析が広告において「使える」ものだと気がついた。ある商品と無意識的な欲求を結びつけたら、その商品は無意識の欲求の「翻訳」になり得るので、人々は欲求を充足させるために商品を購入すると考えた。

無意識に働きかけて、集団心理をあおることによって世論を操作し、人々の日常生活を変える。

新聞に取り上げさせる。それが批判的であろうと好意的であろうと、大差はない。

「三時のおやつは文明堂」「精工舎の時計が7時をお知らせします」「止められない、止まらない、カッパエビセン」「キンチョーの夏・・・」。いろいろのコマーシャルソングは今もしっかり頭に叩き込まれていて、忘れることなんて出来ません。

プロパガンダは、そもそもは思想宣伝という意味。思想宣伝は洗脳とは違う。

人は信じたいことを信じてしまう。これを「確証バイアス」という。

コカ・コーラは戦争との結びつきの強い飲み物。というのも、コカ・コーラは、南北戦争で傷ついた兵士の鎮痛剤としてつくられた薬をもとにしている。モルヒネの代替品として、コカの葉、コランキの種とワインを混ぜてつくられた薬が出発点。そして戦地の兵士たちに飲ませた。私はコカ・コーラは健康に良くないと考え絶対に飲みません。

フェイスブック(FB)は、私も毎日みています。そこでは、どれくらいのページビュー(PV)があるかというより、「いいね」の数が問題とされているとのこと。オンラインの「口コミ」を利用した広告効果が期待されているということです。

自動再生機能は、人の持っている弱い部分を悪用することで、より長い時間プラットフォームに滞在させるとする仕組み。たしかに、FBをみていて、ユーチューブの映像をみていると、次から次に面白そうな画像が登場してきて、時間があっという間に去ってしまいます。

先日の沖縄県知事選挙では自民党が推した候補が革新の現職知事を圧倒しましたが、X(旧ツイッター)の投稿の9割が沖縄県外からの投稿でした。兵庫県知事選挙の「斉藤現象」が再現したようなものです。

20代の男性が「SNSで発信していたら、アンチコメントが来て、政治は怖いと思っていたが、実際に古謝さんに会ってみると、SNSとは全然違った」と話したとのこと。兵庫県の「斉藤現象」そのものです。

「私のヤナちゃん」と高市首相が持ち上げる農水大臣は、自分の選挙区内の反対派の町長のいる町の予算を大幅カットしましたが、沖縄でも自民党推薦候補が勝ったとたん、沖縄県の特別予算が大幅増となりました。露骨です。要はお金で買うもの、買えるもの、という醜い現実があります。

先ほどの20代の男性に、もう一度よく考えてほしいと思います。本当に、そんな政治でいいのですか・・・・・・。アメリカ軍基地をずっと今のままにしておいてよいのですか・・・・・・。そんな政治は変えましょうよ。

(2026年9月刊。1320円)

キミもワタシも外国人

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 上方平和教育研究所 、 出版 日本機関紙出版センター

排外主義はあかん!まったくそのとおりです。

ところが、参政党の神谷とか日本保守党の百田とか、国会内外でヘイトスピーチをまき散らして恥じるところがありません。

最近の新聞に国会議員を減らすことに7割の国民が賛成しているという解説記事がありました。維新の会の定数削減はそれを背景にしています。しかし、神谷、百田そして吉村など国会議員をすぐに辞めてほしい人はたくさんいます。高市早苗も、その一人です。

でも、少数意見を代表する議員が国会にいなかったら、それこそ軍事産業を代表する議員ばっかりになってしまいかねません。

世の中は、いろんな人がいて、共存しているからこそ発展するのです。

外国人は帰れと叫んでいる人は、きっと毎日、不平不満たらたらの報われない状況に置かれているのでしょう。その八つ当たりのはけ口をヘイトスピーチにすがっているのだと思います。

この本には、戦前の日本人移民の苦難も紹介されています。アメリカでは第二次大戦中は理由なしに強制収容所にいれられ、ジャップとして「猿」扱いされました。

アントニオ猪木はブラジル移民の子です。力道山が見出し、日本に連れてきたそうです。もちろん力道山は在日朝鮮(韓国)人です。美空ひばりだってそうです。この二人は日本人の永遠のアイドルですよね。今のK-POPどころではありません。

参政党、保守党そして維新の「圧力」もあってか、高市政権は目下、ひどい外国人排除策を推進しています。外国人の起業など、在留資格となる資本金を500万円から3000万円に引き上げました。そして在留資格の更新 手数料を1万円から10万円に値上げし、永住権の費用は、1万円だったのを30万円に大幅値上げしてしまいました。高市政権は「外国人はいなくなってほしい」というのです。

でも、現実はどうでしょうか……。 コンビニで働く外国人は、今11万人いて、その多くは学生です。介護施設も外国人労働者がいなければ回らなくなっています。

ブラジルには現在も250万人の日系人がいます。ハワイの住民は5人に1人が日系人。

在日コリアンは今40万人。そのほか、ベトナム人、中国人、フィリピン人、ネパール人が7割を占めている。

日本の入管庁が自ら クルド人を難民として認定したのは、なんとゼロ。裁判で負けて入管庁が難民認定した人が1人いるだけです。ひどい、ひどすぎます。ここにも高市政権への忖度(そんたく)があらわれています。

 川口市とその近郊に住むクルド人は2千人。SNSで攻撃され、「クルド人は怖い」と思わされている日本人が増えている。残念です。

外国人が自分たちより優遇されているという「嫉妬 (しっと)」があり、外国人に自分たちの社会が乗っ取られるのではないかという不安がある。参政党や保守・維新などの政治家が利用し、あおっているのが「日本人ファースト」。自分が「嫉妬」していることを 知られたくないので、過剰に反応する。「嫉妬」は、人間という大切な人間関係を壊してしまう。

「人は苦しいときには、スケープゴートを探す。自分より弱い人々のせいにして踏みにじる。 自分は政府から踏まれっぱなしのドアマットのくせに……」

排除されていい人なんてどこにもいない。連帯を大切にしましょう。

わずか120頁のブックレットです。大切なことが分かりやすく解説されています。

(2026年8月刊。1540円)

「六人部屋の13年」

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 頭木弘樹 、 出版 晶文社

筑波大学の学生のとき、20歳で 難病(潰瘍性大腸炎)となり、著者は13年間も入院していました。そのときの見聞記録がよく描かれていて、まさしく身につまされます。

私は年に2回、人間ドックに行っていますので、病院内の雰囲気はそれなりに分かります。そして、交通事故(信号待ちしているところを追突されました)で10日間だけ入院したこともあります。個室に入って白い壁の病室にいて、誰とも話さない生活が続くと、気が変になりそうでした。

著者によると、2人部屋は息が詰まる思いをさせられそうです。むしろ、6人部屋のほうが逃げ場があってよいとのこと。そして6人部屋にいると、自然にそれぞれの家庭背景が分かっ てくるそうです。

誰も見舞いに来ないという人も少なくないようです。日頃の環境によりますね、きっと…。そして、見舞客が見舞いの言葉に悩むのもよく分かります。なるほど…。好きで病気になったわけでもなければ、好きで闘病しているわけでもない。

ところが、見舞客が「あなたがこうなることを、ずっと願っていました」と、悪意のある言葉を吐く人が少なくないというのには驚きました。わざわざことを言いに病室までやって来るとは、よほどの恨みがあったのでしょう。

宗教の勧誘もよくあるとのこと。統一協会もそうでした。他人の不幸につけ込んで、大金を巻き上げるのが「宗教」です。

著者は、病人に対して見舞いのときに言ってはならない言葉のリストを作るのには賛成しません。著者は、病人を傷つけるかもしれないなんて心配せずに近づいてきて、話しかけてほしいと言います。なるほど、ですね。体験にもとづく言葉だと思いました。

医師や看護師について書いてあるところも、心が惹かれました。本当は、一番すごいのは、目立たなかった人たちだ。目立たなかった人たちというのは、きちんと治療し、きちんと看護した人たちだ。きちんと治療し、きちんと看護する人たちによって、患者は生かされている。なるほど、そうなんですよね。

20歳で難病によって入院生活を余儀なくされた著者は、不公平な世の中だと思っていた。ところが、小児病棟があり、子どもの悲痛な泣き声を聞いて、気がついた。人はもともと不平等なのが当たり前なのだ。それを不平等でなければと思っていた自分が間違っていた。それが転機となって、病室の他の人と話をするようになった。

大変考えさせられる話が盛り沢山でした。

                       (2026年8月刊。1980円)

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