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大正天皇

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)

著者 草森紳一、平山周吉 、 出版 コトニ社

明治天皇と昭和天皇にはさまれて、大正天皇の影はかぎりなく薄い。ところが、本書では、大正天皇は自由な精神をもった芸術家肌の君主だとされています。

大正天皇と原敬は特別に親密な関係をもっている。大正天皇は、人一倍、感受性が豊かだった。大正天皇は、幼時より、礼式を嫌い、籠の鳥となるのを嫌い、「操り人形」にしにくい個性だった。伊藤博文は、それを知悉していた。なので、「不運なこと」だと嘆いた。

大正天皇が国会の開院式で、勅語を読み上げたあと、その勅語を遠メガネのようにしてのぞきこんだというエピソードによって、頭の弱い天皇だというイメージがつくり出されたが、これは事実あったことではないらしいのです。

大正天皇は漢詩をよくした。その面倒な決まりである「平仄(ひょうそく)」の合わせかたも自在だった。

大正天皇は書もよくした。その運筆は、天衣無縫と評された。

明治天皇は読書を嫌ったが、大正天皇は、夜12時過ぎまで読書していた。

大正天皇は、まだ皇太子であったとき、全国をはつらつとまわった。神出鬼没、その際には、庶民や子供にも気軽に話しかけた。帝国憲法下の天皇陛下とはおよそ思えない、まさしく「人間天皇」と呼ぶべき、機智に富む、お茶目な「現人神(あらひとがみ)」未満の君主像を体現した。

大正天皇は、副島種臣と書において並んで、別格の存在だった。大正天皇の書は、まるで無規制、おうようで、無心、臆面もない野放図さがあった。

大正天皇は「軍部大臣現役武官制」だったものを「現役」を削除するのに大きな役割を果たした。これによって、予備役の陸海軍大将や中将でも大臣がつとめられるようになった。「現役」の2字があるかぎり、陸海軍が大臣を出さなければ、内閣は成立しない。内閣の生殺与奪を軍部が握る危険があった。これを解決した。

これは大正天皇に政治的なセンスもあったということです。

この本は、大正天皇を見直すという貴重な機会を与えてくれました。

(2026年2月刊。2750円)

1417年、その一冊がすべてを変えた

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)

著者 スティーヴン・グリーンブラット 、 出版 ちくま学芸文庫

今から600年も前、修道院の図書館の棚から非常に古い写本が発見された。古代ローマの哲学者ルクレティウスが書いた哲学叙事詩「物の本質について」という本。

宇宙は神々の助けをなしに動いており、神への恐れは人間の生活を害なものであり、人間を含む万物は絶えず動きまわる極小の粒子でできている、という内容。

ルクレティウスは、紀元前1世紀初めに生まれ、前55年頃に死んだラテン詩人。ギリシアの哲人エピクロスの教えを忠実に伝える。

それは、宇宙に存在するものは、それ以上分割できない原子と、何もない空間から成っており、無限にある原子が無窮の空間を運動しながら互いに衝突・結合することによって物質が構成される。

ルネサンス期の教皇庁には卑劣で、狡猾、無慈悲な教皇がいて、複雑な商取引、異端狩り、脅迫、ペテン、二枚舌、淫乱があふれていた。そこでは、思慮深く学識高い者は冷遇され、他方、無知で無価値な高位聖職者が称賛された。

ローマ・カトリック教会は、ひどい罪人たちの巣窟でありながら、一般の信徒には、キリスト教の教義に抵触する自由な思考は許さず、キリスト自身の教えに忠実な者を異端として容赦なく火あぶりにした。

万物は目に見えない粒子でできている。物質の基本となる粒子は不滅である。すべての粒子は無限の真空の中で動いている。宇宙には創造者も設計者もいない。存在には終わりも目的もない。絶え間ない創造と破壊があるのみで、すべては偶然に支配されている。万物は逸脱の結果として生まれる。自然は、絶えず実験をくり返している。始まりの瞬間とか、神学的な、万物の創造の場所などというものは一切存在しない。

宇宙は人間のために、あるいは人間を中心に創造されたのではない。種としての人類がずっと遠くに続くと信じる理由は何もない。

人間は唯一無二の存在ではない。霊魂は滅びる。人の魂は肉体と同じく、ある物質でできている。死後の世界は存在しない。

人間にとって、死は何ものでもない。

組織化された宗教はすべて迷信的な妄想である。宗教は常に残酷である。人生の最高の目標は喜びを高め、苦しみを減らすことである。

いやあ、よく考えられている指摘のオンパレードです。昔の人が本当にそんなことを考えていたとしたら、それこそ自然の脅威です。

(2025年11月刊。1760円)

台湾の夜明け

カテゴリー:中国

(霧山昴)

著者 陳耀昌 、 出版 左右

1920年代の台湾は、日本の統治下にあった。そのなかで台湾人の文化啓蒙活動に焦点をあてた歴史小説です。500頁近い大作でもあります。

巻末に当時活躍していた人たちの写真があり、イメージを具体的に掴むことができます。多くは洋装ですが、昔ながらの国民服を着ている人もたくさんあります。

主人公の盧(ろ)丙丁と妻の林氏好が中心になって話は展開していきます。林氏好は日本人の声楽家である関屋敏子に師事して腕をみがきます。林氏好は、幼いころから教会で西洋文化、芸術に触れて育ち、また牧師夫人からピアノや声楽を学びました。そして台湾で歌い、絶賛されます。日本のレコード会社とも手を結んで、喝采をあびるのです。

盧丙丁は台湾民衆党とともに活動していましたが、ハンセン病の患者となり、強制隔離施設に入れられてしまいます。

台湾民衆党が結成されたのは1927年7月のこと。台湾人による最初の政党。

台湾には、日本の政治政策に協力する台湾の実業家がいて、御用紳士と呼ばれた。これに対し、自分たちを漢民族の一員とし、祖国派とされた。

その動きを抑圧、弾圧する日本人の官憲に対して、台湾の人々は「四本足どもめ、あまりにひどい」と反撃した。

台湾人は二つの欠点をかかえている。一つは、団結できないこと。もう一つは、一歩一歩順を追って進んでいけない、なかなか足並みをそろえられないこと。

日本人の圧制に反抗して運動会を襲撃し、日本人多数を殺害するという霧社事件が起きたとき、日本軍部は残虐に弾圧してしまいました。さらに、台湾人を抑圧していた日本軍が敗戦で撤退したあと、中国本土から国民党軍が進駐してきて、再び台湾の人々は弾圧されます。

今の台湾の繫栄は、そのような負の歴史の上に築かれているのだと、しみじみ思いました。

(2026年3月刊。4400円)

新・戦国史

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)

著者 NHKスペシャル取材班 、 出版 NHK出版

私は一般にテレビはまったく見ません。相撲も野球も、そしてサッカーもスケート、ゴルフもまったく関心がありません。好きな人たちがやってることなので、お好きにどうぞ。私は好きにやってますから、どうぞ放っておいてください。こんなスタンスです。

ところが、歴史発掘みたいな番組があると、見ないわけにはいきません。先日は、犬山城を「ぶらタモリ」が紹介していました。熊本城も欠かせません。そして、あの安土城がテーマだと知ると、見逃せません。

つい先日、安土城に久しぶりに登ってきました。まだ発掘途上のようですね。なにしろキリスト教宣教師のルイス・フロイス(「日本史」が有名です)は、信長に18回も会って話したというのです。そのルイス・フロイスも安土城にのぼっているはずなのです。

私は、安土城にのぼるのに「伝大手道」を行きました。幅8メートル、全長約180メートルほどの巨大な道です。ところが、この本によると、一般的に登城するのは「百々橋(どどばし)口道(くちみち)」であって、「伝大手道」は、特別な(天皇のような)貴客が来たときに使う儀礼的性格の道だったとのことです。まあ、私も特別待遇を受けたということにしておきましょう。

安土城の特色はなんといっても、見せるお城だということです。安土城の頂上に天主がありましたが、その屋根には、青色の軒丸瓦がふかれ、その前面部分には、金色に輝く瓦がふかれていたというのです。

安土城天主には、中国に由来する「三皇五帝」という絵や、柱には上り龍・下り龍が描かれていた。そして、屋根瓦も、中国の宮殿と同じく青瓦であった。

織田信長は、安土城の当初から、「見せる」ことを意識して城をつくっている。山の下から見上げると、石垣が一つにつながって、まるで高い石垣がそそり立っているように見える。そんな仕掛けを小牧山城や岐阜城もしたし、安土城はさらにそれを華美にしたということのようです。

信長の「天下布武(てんかふぶ)」という有名な印文(印章に刻まれた文字)にある「天下」とは、日本(戦国)全土を指すのではなく、畿内を指すと理解されている。

安土城の天主跡には大きな礎石が今も残っています。「信長公記」によると、天主は地下1階、地上6階の7階建てだというのです。度肝を抜くとは、このことでしょうね。

安土城はほかより一つ小高い山ですので、その頂上に地上6階建て、屋根瓦は青や赤そして金色に輝いていたというのですから、まさしく神様の御殿ですよね。

私は、安土城駅まで電動自転車をレンタルして行動しました。歩いてまわったら優に半日コースになります。2時間以上の強行軍でした。

安土城に行きましたので、その意義をしっかり勉強することのできた本です。

(2026年3月刊。1078円)

70歳の法学者が、なぜロマンス詐欺に騙されたのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 高倉良一 、 出版 さくら舎

ロマンス詐欺などの特殊詐欺の被害にあった人の相談を受けるのは、しばしばです。残念なことに、手も足も出ません。だって、詐欺集団の素性がまったく分かりませんので、誰を相手に闘ったらいいのか、何の手がかりもないからです。

カンボジアに詐欺集団の拠点となる「町」があるという報道があります。でも、かけ子は国外にいても、受け子と出し子は間違いなく国内にいます。恐らく、その頂上には暴力団のトップが君臨していると思います。それこそ警察はもっと本腰を入れて取り組み、検挙すべきです。

今の警察上層部は、どうせ騙されるのは「欲に目のくらんだ馬鹿な連中」などとしかみていないのではないでしょうか。でも、それは明らかな間違いです。たちの悪い詐欺集団がいて、巨額の不法利得を得ているのですから、それを見逃したら、何のための警察か…ということになると思います。日本の警察は世界一だと自負しているはずなんですが…。

このタイトルで本を書いた著者は勇気があります。大したものです。70歳で一人暮らしのようです。離婚して寂しいところにつけ込まれたのです。

「自分だけは絶対に大丈夫」「騙されることなんて、ありえない」。そんな過信が崩されてしまったのです。

ちなみに、私はスマホは利用していませんし、見知らぬ電話に出ることもありませんので、「大丈夫だ」と確信しています。

詐欺師が狙うのは頭ではなく、心だ。

著者はわずかな期間で、1000万円近い大金を騙しとられてしまいました。

ささやかなプライドがズタズタにされ、人を信じるという当たり前の気持ちを奪った。

「この話は、私たちの未来に関わる大切な話なので、誰にも言わないでください」、そう言うんです。誰にも相談させないように仕向けます。そして、「愛情たっぷり」のささやきに身も心もうっとり、とろけさせられるのです。

フランス人もロマンス詐欺でやられています。騙すのはナイジェリア人の学生たち。格好のアルバイトになっているのだそうです。

大金を巻き上げるのには、投資という舞台がつきものです。どんどんもうけてはふくれ上がっていきます。なんと、著者は1億円ももうかったことになっていました。女性の伯父という人の指南で投資を始めたのです。すると、次々に投資のお金をすすめられます。1億円もあるのなら、それをまわせばいいはずなんですが…。

著者は法学部教授を定年退職し、静かすぎる日々を送っていたのです。女性とのメールの交換のみが生き甲斐になっていました。頼られていることの「心地良さ」に浸り切っていました。著者も、心のどこかで、おかしいんじゃないか、これって…と疑ってはいた。でも、真実から目をそむけ、気づかないふりをした。甘い夢の心地良さに浸り、現実を見ないようにした。

送金先は、見知らぬ男の口座。おかしい。胸騒ぎがする。でも送金した。

「今すぐ決断しないと、このチャンスは二度とありません」、今すぐとせかし、ゆっくり考えるヒマを与えない。これは、昔からの常套的な騙しのテクニックです。

「さすがですね」と、心をくすぐられます。

小さな要求から始め、次第に大きな要求へ導かれていく。最初に、ちょっとした成功体験を味わうことによって、次の大きな「投資」への心理的な抵抗を減らす。

ロマンス詐欺では、可愛らしい女性の写真が送られてくる。実は、男のことが多いのに…。

声を聞いたこともない。彼女の言葉(メールの文章)は暗闇の中の一筋の光。

「君がいないと、彼女は生きていけない」という。自尊心がゆさぶられる。

手持ちのお金がなくなると、友人・知人から借金するようすすめられる。そのときの方便の嘘も教えられます。

友人が騙されているんじゃないの…と言っても、著者はまだ目が覚めない。そして、結局、1000万円もの大金が詐欺集団に渡ってしまいました。

いやはや、本当にこんな詐欺集団を野放しにしてはいけません。「優秀」なはずの日本の警察はいったい何をしているのでしょうか…。

(2026年6月刊。1760円)

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