(霧山昴)
著者 佐竹 謙一 、 出版 講談社選書メチエ
17世紀ごろのスペインの階級構成は、ほとんどピラミッド型。王を頂点に、大貴族や高位聖職者が帰属する特権階級と、大半の人々が占める平民に分かれていた。平民は卑しい血筋に帰属すると考えられていた。
三大騎士修道会には合計して1450人もの会員がいて、平民やモーロ人、インディオの入会は許されなかった。
名誉ある人間は、貴族の出自であることに加え、財力や美徳、資質にも恵まれており、その先祖は、王に忠義を尽くしたとか、その報酬として貴族の称号を与えられた者がいた。
貧富の差があっても、当局はそれを是正しようとはせず、そんな意識も心遣いもなく、誰もが目の前の社会の仕組みが不変の生体メカニズムだと信じてやまなかった。
貴族は常に剣を身につけていて、名誉回復のための道具としていた。身分の低い人たちは、剣を持てないため、その代わりに棍棒や拳固で身を守った。
当時の大衆芝居は、作中に因果律を示唆する「天の裁き(詩的正義)」が働くようになっている。
劇世界は、実社会を忠実に写しとったものではなく、現実逃避をするための芸術的空間だった。
劇団の座長は、劇作家と観客の仲介者であると同時に、たいがい名を知られた名役者でもあった。その名声と技量は、芝居が成功するか否かを大きく左右した。
役者は、観客からのいかがわしい罵声にさらされようとも、皆を喜ばせるためには、忍耐強く演じ続けなければならなかった。
劇場の中で、下層階級の人々が占める立見席では、とても役者の台詞が聞こえないほど騒がしく、静かに心ゆくまで演技を堪能できる雰囲気ではなかった。
つまらないと思ったら、間髪を入れずに野次を飛ばし、退屈しのぎに物を投げつけた。ときには客同士での口論となり、喧嘩にまで発展することがあった。そのため、劇場専用の警吏が目を光らせていた。これらの人々を「モスケテーロ」と呼ぶ。
劇作家や座長にとって厄介だったのは、モスケテーロの評価が、芝居が成功するかどうかの鍵を握っていた。まるで手に負えない「凄まじい怪物」のような存在だった。
役者は、基本的に身分の低い者の集まりだった。まれに下級貴族もいた。
楽しみの少ない時代ですので、舞台を見たときの興奮はいかばかりであったことでしょう。
(2026年4月刊。2530円)


