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人間の心が分からなかった俺が動物心理学者になるまで

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 岡ノ谷 一夫 、 出版 新潮社

 著者は47歳で結婚したので、小学校高学年から47歳までが青春だとしています。初めて私は知りました。結婚するまでが青春だなんて……。しかも、そのうえ、小学1、2年生のころも十分青春だった気がする。そのころから好きな子がいたし……。というのです。驚きました。

 我が身を振り返ってみると、幼稚園に通っていたころ、朝は泣きながら通園していたのに、帰りは好きな女の子が園にいるので、いつもニコニコ手をつないで帰ってきていた。親から、何度も冷やかされました。その女の子の名前が「宮本さん」というのは、今でもはっきり覚えています。小学生のころには気になる女の子はいませんでした……。

 著者は小学3年生の夏休みに「巌窟王(がんくつおう)」を読み、10歳のとき、漱石の「草枕」を読んだそうです。早すぎますよね。そもそも、小学3年生のときに何を読んだか、よく覚えているものです。私は小学生のころは図書室で偉人伝を借りて読んでいました。それは覚えています。リンカーンやナポレオンなどです。

 著者は運動(スポーツ)が出来なかったとのこと。中学、高校時代に、スポーツができない男子には青春がないと書かれています。バレンタインのチョコレートが全然もらえなかったのです。私の中学・高校時代は、もっと前の時代ですから、そんなバレンタインなんてなくて幸せでした。私はスポーツでは困りませんでしたが、音楽は不得手でした。歌えないし、楽器は何も出来ません。せめてハーモニカぐらい吹けたらいいと思うのですが……。著者はギターが出来るというのですから、私はうらやましいです。

大学に入ったら、酒(アルコール)を飲めずに苦労したとのこと。私は、大学1年生のころ、寮でみんなで飲んでいて、ウィスキーを半分以上飲み、寮の廊下を「宇宙歩行」したことを今も覚えています。もちろん、翌日は二日酔いで、頭が痛くなりました。私の小学1年生のときから父が小売酒屋を始めていましたから、酔っ払いの醜態を散々見て、嫌だなと思っていましたので、その後は深酒することはなく、今日に至っています。酔っぱらうより、覚めた頭で本を読んでいるほうが、よほど私の性にあっています。

  1983年、著者は24歳のとき、アメリカに渡り、大学院生として勉強を始めます。たいした勇気です。TOEFLは515点でした(550点が最低ラインなのに…)。アメリカまでの片道航空券が54万円もしたそうです。今なら100万円以上という感覚です。講義は録音して、何度も聞き返して猛勉強。

 チャレンジャー号が打ち上げに失敗して、乗組員7人全員が死亡したとき、「アメリカは負けない。またやるんだ」という周囲の唱和に違和感を抱き、著者は日本に戻ることにした。なーるほど、ですね。

 日本のキンカチョウ(小鳥)は、ジュウシマツに子育てを委託して育っている。なので、親の声を聞かないで育っている。これは大きな影響を子に与える。子はオスの親鳥から隔離声を学ぶ必要がある。隔離声とは、鳥が仲間とはぐれてしまったときに出す、お互いを呼びあう声のこと。

 わが家でも、私が小学生のころ、ジュウシマツを飼っていました。店先に鳥カゴを置いていて、エサをやり、水を取り換えました。当時、よく見かける、あたりまえの光景です。そして、犬はスピッツがありふれていました。

 小鳥は、生後2ヶ月以内に父親の歌を音として記憶し、生後3~4か月のあいだに、いろいろな歌い方をためして、それが記憶された父親の歌と十分に似るまで練習を続ける。自分の歌を耳から聴いて、記憶と照合していく。そういうことなんですね。

 ジュウシマツでは、歌をうたう能力も歌を聴き分ける能力も、どちらも左脳に集まっている。これを実験で確かめるのです。すごいことですよね……。ジュウシマツの成鳥は、耳が聴こえなくなると、歌が劣化してくる。

小鳥そして動物たちの心を研究している学者の面白い青春記でした。

(2025年9月刊。1980円)

啾々吟

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)

著者 松本 清張 、 出版 東都書房

 松本清張の時代小説を読んでみました。タイトルは「しゅうしゅうぎん」と読みます。

 主人公は幕末に肥前佐賀において、鍋島藩家老の倅(せがれ)として出生。この同じ日に藩主の嫡男、そして御徒(おかち)衆の息子が生まれている。

 御徒衆の子として生まれた嘉門は人並み以上に優れているが、世間のつきあいが苦手で、他人から何となく疎(うと)まれる存在。それに対して、主人公は順調に出世していく。

 佐賀藩の藩主直正は隠居して閑叟と称して、佐賀藩の近代化を進める。その嫡男が藩主となり、直大(なおひろ)と名を改めた。そして明治となり、藩主は知事に、主人公は権(ごん)大参事となった。知事となった直大は英国に留学し、主人公も直大とは入れ違いに英国留学した。

 いま、私は幕末から明治維新の状況を調べています。佐賀藩はフェートン号で大失敗したしたあと、急速に西洋式軍制をすすめます。アームストロング砲という最新式の大砲を自前でつくってもいます。江戸湾の砲台に備える大砲を幕府の求めに応じて提供してもいます。

 明治維新にあたっては、上野寛永寺に立て襲った彰義隊をアームストロング砲で散々に打ち破り、東北地方を転戦して大活躍しました。ただし、江藤新平を巻き込んだ佐賀戦争の敗北により、肥前出身者は明治新政府から排除されてしまいます。薩摩藩の出身者も西南戦争によって多くが放逐されて、山縣有朋のような長州閥ひとりが幅を利かしたのでした。

 そして、久留米藩です。藩内に勤王党と佐幕党の紛争があり、ずっと佐幕党が藩政を握っていました。

 戊辰戦争では、久留米藩からも明治新政府軍を支えて出兵し、東北地方を転戦しています。しかし、政府の要職にのぼりつめることは出来ませんでした。

藩主が朝廷出身であり将軍の養女と結婚しようとすると、お金がかかり過ぎることを理由に反対する藩士たちが公然と声を上げました。絶対封建制ではなかったということです。

 この本に戻ります。明治時が進むにつれ、苦しい生活を営む庶民から反揆が生まれ、国会解放を求める自由民権運動が生まれます。主人公と同年同日に生まれた嘉門はその活動家になり、主人公を舌峰鋭し攻撃するのでした。ところが、その内実は……。

 筑後地方は自由民権運動が盛んなところでした。その伝統が多くの代言人、そして弁護士を生み出していきました。福岡や北九州とほぼ同数の弁護士が久留米にいたのです。

 改めて、いろいろ考えさせてくれる時代小説でした。どうやって、この史実を小説に出来たのか、それが不思議でした。

(1959年5月刊。280円(古本で8千円))

金ピカ時代の日本人

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 須田 慎太郎 、 出版 バジリコ

 写真週刊誌「フォーカス」なるものがありました。毎週のようにスクープ写真を掲載して話題を集めていました。発行部数はなんと200万部までいったというのですから、すごいものです。

 その「フォーカス」の専属カメラマンが日本のバブル時代の狂騒状況を振り返っています。1981年から1991年までの10年間です。この時代がいかに異常だったかは、次の数字が如実に示しています。

 日本は、海外に保有している資産が世界一。貿易黒字もナンバーワンで、東京の地価も世界一。山手線内の土地価格でアメリカ全土の土地が買えるほど。

 地価は、新宿ゴールデン街で1坪1億円、銀座だと1坪1億3千万円。渋谷の駐車場の賃料は1台で月20万円。なので東京では「地上げ」の嵐が吹きまくった。この「地上げ」にまつわるトラブルでそれに関わった東京の弁護士にも目のくらむほどの弁護士報酬が入り、それで「転落」した人も少なくないようです。

 NTTの株が1株で160万円だったのが、2か月後には318万円。ゴッホの「ひまわり」を損保ジャパン(当時は安田火災)が58億円で競落した。このとき、絵画が資産を隠匿する手段になるものだと私は認識しました。残念ながら、私個人はもちろんのこと、依頼者にも、そんな人はいませんでしたが……。

 演歌歌手の千昌夫の離婚で支払った慰謝料は50億円とも200億円とも言われた。その後、千昌夫は借金1030億円をかかえて没落した。不動産投機の先攻のようです。

1989年1月7日、昭和天皇が87歳で死亡した。崩御と本書に書いてありますが、戦争犯罪人にならなかったのはアメリカの政治的思惑でしかありませんので、死去で十分です。

 2月にリクルート事件で江副浩正が逮捕された。そのため竹下内閣が総辞職し、宇野宗佑新首相は、愛人に月30万円を呈示して国民から大笑いされて、2ヶ月で退陣した。

 1990年1月、バブルがはじけた。株価が1年で1万5千円も暴落した。このころ、麻原彰晃のオウム真理教が真理党なるものを結成して、選挙に登場。オウム真理教が坂本弁護士一家を殺害していたことが発覚したのはまだあとのこと。

 1991年1月、アメリカ軍がイラクを攻撃して湾岸戦争が始まった。

「フォーカス」は1981年10月に創刊し、2001年8月に休刊と称して廃刊した。

 忘れてはいけないバブル時代を記録する貴重な本だと思いました。

(2019年7月刊。2200円)

光州事件の記憶

カテゴリー:韓国

(霧山昴)

著者 高 祐二 、 出版 花伝社

 先日の韓国の非常戒厳令の布告には腰を抜かしてしまいました。まさか、まさかです。しかも、その理由が、野党は北朝鮮の主張に従う「従北勢力」だと決めつけ、「国会は犯罪者集団の巣窟になった」というのですから、まさしく開いた口がふさがりません。北の金正恩が韓国の国会を牛耳っているだなんて、まともな頭の人なら、そんなの嘘、ウソときっぱり断言できることです。金正恩にそんな力があるなんて、考えられもしません。金正恩本人も韓国の国会を支配しているなんて思ってもいないことでしょう。

 2024年12月3日夜10時30分ころの尹錫悦大統領の発表は、まさしくクーデターを狙ったものでした。ところが、韓国の軍人たちは尹大統領の必死の督励に対して面従復背で対抗したのです。それが1980年5月の全斗煥たち軍人によるクーデターとの決定的な違いです。

軍人は上司の命令に盲従するはずですし、尹大統領はかなり前から腹心の部下たちと計画を練り上げていました。決して、その場の思いつきでなされた布告ではないのです。この本によると、3月ころから計画され、8月から9月にかけて国防部長官ら軍部のトップと謀議を重ねていて、戒厳令発令のタイミングを探っていたというのです。

 国会議員を逮捕し、メディアへの水道と電気供給を遮断して言論統制を実施する計画でした。社会全体を一挙に掌握しようとしたのです。

 ところが、特殊戦司令官も首都防衛司令官も尹大統領の指示したとおりには動きませんでした。まず、兵士には実弾を携行させず、車両に置いておくよう厳命した。そして、国会議員が国会に入るのを制止しなかった。

 いやあ、これは、光州事件のときの軍人の行動とはまったく異なります。

 2025年1月15日、尹大統領は内乱首謀容疑で身柄を拘束され、1月19日に尹大統領は逮捕された。

 全斗煥も下手すると軍部から逮捕されかねませんでしたが、全斗煥はうまく切り抜けました。作戦勝ちしたのです。その迫真の状況が映画で再現されていました。

 元大統領の逮捕・起訴は韓国では珍しくありませんが、現職大統領の逮捕は韓国の憲政史上初めてです。そして、現在の李在明大統領が誕生したときの選挙(2025年6月30日)において、投票率が8割のなかで歴代最多の1728万票を獲得したのです。

 日本の投票率は6割ほどですから、韓国の人々の政治意識の高さがうらやましいです。

 1980年5月の光州事件の前には、1979年10月26日の朴正煕大統領が側近のKCIA部長(金載圭)による銃撃による死があった。これが1979年12月12日の全斗煥を主体とする軍部クーデターにつながった。

 1980年5月の光州事件については、いくつもの映画が制作され日本でも上映されています。この本を読むと、弾圧した軍部が徹底した証拠隠しをしたことから、今なお被害者の全貌は完全には判明していないとのことです。むごい事件だったし、残念です。

 光州事件と今回の尹元大統領によるクーデター未遂事件を対比させている本書によってことの本質をさらに深く理解することができました。

(2025年12月刊。1980円)

爆心を見つめて

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 鎌田 七男・宮崎 園子 、 出版 朝日新聞出版

 アメリカは、広島・長崎に原爆を投下したあと、戦争終結と同時に調査団を派遣した。

 そして、「残留放射能はない」などという無責任なことを高言した。それは事実にもとづかない、政治的な思惑をもった願望にすぎないのに、今なお根強く生きている。このような間違った考えと闘った医師たちがいたのです。

 アメリカのABCC(原爆傷害調査委員会)は被爆者と被爆2世のあわせて3万人の血液と尿のサンプル計190万本を保存している。

 ABCCは、調査するだけで治療はしなかった。あくまでも軍事研究が目的だった。被爆者は「サンプル」と呼ばれた。生身の人間としてではなく、統計的に処理する数字でしかなかった。

 爆心地から700メートル内にいた被爆者のなかに、なんと生存者がいたのです。それも1975年の時点で69人もいました。それは、遮蔽(しゃへい)その他、何らかの条件によって生存することができたのでした。

被爆生存者30万人といわれる集団の中で69人の生存者はきわめて希少な存在だ。

 投下された原爆による放射線は、誘導放射線や残留放射線というのもある。かつては「入市被爆者」の存在が否定されていた。この「通説」は今では痛烈に批判されている。残留放射線や放射性降下物によって内部被爆した可能性もある。

 福島3.11では、低線量被爆問題が問われている。

 原爆そして原子力発電所は人間の力で制御することのできないもの。どちらも廃絶するしかないことを改めて思い知らされました。

(2025年7月刊。2090円)

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