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半うつ

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 平 光源 、 出版 サンマーク

 読みやすいし、とても分かりやすい、うつ病に関する本です。すでに、6万部も売られているというのも、十分理解できます。それだけ、現代日本社会にうつ病の患者が多いということです。 

弁護士にもうつ病の人は多いのです。私のごく親しい弁護士がうつ病で2年ほど治療を受けていたと聞いていましたが、先日、久しぶりに会ったら、なんとか元気を取り戻したとのことで、ひと安心しました。

 うつ病の人が、「自分は、うつかもしれない」と思って精神科に行くのは、わずか6%だけ。65%の人は内科に行く。胸がつかえ、食欲が減り、動悸やめまい、頭痛がしたり、体調不良になって、本人が悩んでいても、家族は、「気にしすぎだよ」「ちょっと疲れているだけじゃないの」という反応…。ところが、夜に眠れなくなり、風呂に入るのも、歯をみがくのもなんだか億劫(おっくう)になってくる……。

なぜ、うつ病と気がつかないのか…?①自分では気づけない。②家族も少しずつの変化に気がつかない。③医師も専門分野が異なると気がつかない。

「半うつ」とは何か……?

憂うつ以上で、うつ未満の状態にあること。本格的なうつ病になってから治療するより、半うつの段階で適切にケアするほうが何十倍も簡単で、何千倍も多くの人を元気な状態に導くことが出来る。

重要な役割をもつ精神伝達物質は次の3つ。その1は、セロトニン。心のブレーキの役割。その2は、ノルアドレナリン。心のアクセル。その3は、ドーパミン。心のエンジン。

うつ病は、この3つの神経伝達物質の全部が大幅に減ってしまった状態。半うつは、どれか1つ、あるいは2つが不足している状態。つまり、れっきとして生理的な変化によって起きている。これらの神経伝達物質は、ストレス、睡眠不足、栄養の偏(かたよ)り、運動不足などによって過度に消費され、必要以上に減少していく。つまり、現代社会に生きている以上、誰にでも起こりうること。

タンパク質をとらないと、アミノ酸が体に入ってこない。アミノ酸から神経伝達物質への合成は、ほとんど休息や睡眠しているときに行われる。セロトニンが減ると、メラトニンも減り、睡眠がうまくとれなくなる。

現代人の5人に1人は「半うつ」の状態にある。「半うつ」の人は、一見、健康そうなので、日常生活は送れる。

「半うつ」の状態は、まだ選択肢がたくさんある場所にいる。半うつから回復するには、決まった順番があり、一気に回復するものではない。第一段階は、食事と睡眠で、回復の土台をつくる。第二段階は、イライラが減って、不安がやわらぎ、憂うつが改善する。第三段階は、根気が出て、何かに興味がもてる。第四段階は、人生に喜びが感じられ、生きがいを実感するというもの。

毎日のなかの「何の役にも立たない」時間こそ、私たちの心を豊かにしてくれるもの。「ただ心地良い」というだけの時間でいいのです。ムダとか非効率とかいって切り捨ててはいけません。

現代社会において、「本当に強い人」は、自分の限界を正直に認められる、助けが必要なときに、「助けて」と言える、完璧でなくてもそれを受け入れられる、ときには立ち止まる勇気がある人をいう。食事と睡眠は、心にとってのガソリンの役割を持っている。

パチンコや競馬で、本人は「ストレス発散」をしているつもりでも、実際にはギャンブルの興奮や緊張のため、脳はフル回転していて、休んではいない。

著者は、次のように言っています。「死にたいと思うとき、あなたの心は、『生きよう』とする機能を取り戻しはじめている。回復に向かっているからこそ、死にたくなってしまう」

私は、週1回は、仕事から離れて、自分の時間としています。この割り切りが大切だと、この本にも書かれています。わが意を得たり、です。あなたに強くご一読をおすすめします。

(2025年12月刊。1650円)

普通の組織・ホコローストの社会学

カテゴリー:ドイツ

(霧山昴)

著者 シュテファン・キュール 、 出版 人文書院

 ヒトラー・ナチス体制下で、普通の人々がユダヤ人の大量虐殺に進んで参加していた。それは、なぜなのか…。この問いかけを、実行していた殺戮(さつりく)部隊をさまざまな角度から分析した400頁もの大作です。

 ハンブルグの第101警察予備大隊は、そのナチ国家の「殺戮部隊」だった。この大隊が注目されているのは、その隊員が明らかに「普通の人々」だったから。

 ハンブルクで警察官として採用された人々は、港湾労働者、美容師、職人、商人であった。そして家族もちの男性だった。500人ほどの大隊員のうち積極的なナチ党員や親衛隊員はごく少数だった。

第101警察大隊は2年以上にわたり、ゲットー解体、強制移住、大量射殺に何度も参加した。大隊の指揮官は、村の集合場所で隊員たちに任務を説明した。村を包囲し、ユダヤ人を武力で家から連行し、広場に集めた。労働可能な男性を選別したあと、残り全員を森で射殺せよ。捜索隊が家屋を捜索中に、老人・病人・乳幼児のような移送不可能な者、抵抗する者を見つけたら、その場で殺害せよ。

 第101警察大隊の隊員の平均年齢は40歳弱で、他の国防軍の部隊よりもかなり高い。ほぼ全員が家族もちで、労働者階級か中度階級の出身者が多い。

隊員の動機づけのために、隊は魅力的な目的を提供した。また、組織から離脱することは不可能という強制が働いていた。隊員を拘束する第三の方法は同僚関係にある。第四は、金銭であり、第五は行為の魅力にあった。

 隊員が大量射殺に関与したくない場合には、重篤な体調不良や精神的な過負荷を申告すれば免除された。神経衰弱を装ったら、大量射殺に参加しないことは可能だった。ただし、あからさまにユダヤ人への同情を表明したり、ナチ親衛隊への敵意を示せば、自らが射殺されることになる。

 多くの隊員は、「臆病者と思われたくなかった」し、隊員の前で「恥をさらしたくはなかった」ので、大量射殺に参加した。

 昼間は数千人の殺害を命じた父親が、夜は自分の子どもにおやすみの物語を読み聞かせていた。

隊員は、ユダヤ人資産の収用から利益が得られることを知っていた。10万人以上のハンブルク市民が、ユダヤ人から没収された家具、食器、衣類、玩具を叩き売り価格で手に入れていた。占領地でのユダヤ人資産の私的横領は、ほとんど野放しだった。

ナチ国家では、法律とは総統(ヒットラー)の命令以外の何者でもない、という一般的は合意が成立していた。1933年3月の全権委任法によって、帝国首相(ヒットラー)は、帝国議会にはかることなく法律を制することができ、その法律は帝国憲法に違反することをできた。

  ちなみに、ドイツ帝国の国民の過半数がナチスの政策に肯定的な態度をとっていた。ナチ体制は「合意独裁」だった。 「当惑、無関心、鈍感な従属」の混じりあう「無言の多数派」が市のなかでに支配的だった。

第101警察大隊のほとんどの隊員はドイツ敗戦後、再び「普通の生活」を送った。大隊の幹部たちはハンブルグの警察に復帰した。

 著者は、本書の結論として、ナチ国家が近代社会の産物である「普通の組織」に頼ることが出来たからこそホロコーストは実行可能だったという、きわめて挑発的な問題提起をしています。大量殺戮の実行を専門とする組織のメンバーが普通の人々であるというだけでなく、大量殺戮を計画し実行する組織もまた普通の組織としての特徴を示しているというわけです。

 アンナ・ハーレントがアイヒマンについて「凡庸な人物だ」と拝したのと相通じる指摘なのでしょうか……。ずっしり重たい指摘に満ちた本です。

(2025年4月刊。6600円)

ニッポン華僑100万人時代

カテゴリー:社会

日経新聞社取材班(KADOKAWA)

今や日本にいる中国人は100万人になろうとしてます(2024年、現在87万人)。これは、在日朝鮮・韓国人の43万人よりも多いのです。

そして、中国の富裕層だけでなく、中流層も日本に流入しているとのこと。その思いは、さまざまのようです。たとえば、最近久しく行っていませんが、アメ横もアキハバラも中国人の街と化しているとのこと。驚きました。アメ横といえば、シャケやイクラなど海産物を師走に売っていますよね。ところが、それは年末だけで、あとは中国系の飲食店ばかりになっているそうです。観光客が生魚を買うはずはありません。

そして、アキバも、かつてのような電気製品の部品を売るような店はほとんどなくなっているとのこと。私は50年以上前の司法試験受験生のころ、友人と一緒にアキバに出かけ、オーディオ製品を安く買いそろえてもらったことがあります。

 世の中は、ものすごい勢いで変化しつつあるのですね…。

 韓国でも尹元大統領を支持する若者たちが嫌中デモをしているそうですが、日本でも同じようなヘイトデモが横行しているのが残念でなりません。自分が大切にされていないことへの不満がヘイト・スピーチでうっぷん晴らしにつながっていると見られています。

この本を読むと、日本は、今や中国人を含めて外国人がいないとまわらない環境にあることがよく分かります。熱海などの温泉地のホテルも中国資本から次々に買収されているそうです。日本人経営者が逃げ出したようなホテルなので、中国資本が買収して、ホテルとして再建してくれるのだったら、何も文句が言えません。

 山梨県の石和(いさわ)温泉のホテル40軒のうち、4分の1の10軒が中国資本になっています。

 北海道のニセコは海外資本が大挙出動していますが、富良野(ふらの)も同じように中国資本の投資が目立っています。京都の民泊の3割800軒が外国人によって経営されているとのこと。その主力は中国人です。

 この本を読んで驚いたのは、東京23区の火葬場と葬儀場まで中国資本が担っているということ。東京博善は中国資本で、7割のシェアを誇っています。

 中国人留学生がどんどん増えていて、東大の学生の1割、大学院生の4分の1が中国人になっている。うひゃあ、こ、これにも驚きました。

中国人の留学生は平均して毎月15万円の仕送りを受けているそうです。それでも、日本は欧米に留学するより安いので、人気があるそうです。いやあ、中国と日本って、こんなに深い関係があるのですね…。本当に仲良く共生していきたいものです。

025年10月刊。1980円)

ユダヤ人の歴史

カテゴリー:ヨーロッパ

鶴見太郎(中公新書)

驚くほど読みやすく、さくさくと一気に読了してしまいました。ユダヤ教とキリスト教の違いの一つがメシヤ(救世主)の扱い。ユダヤ教では、メシヤは今日まで出現していないし、いつ現れるのかは不明のまま。ところが、キリスト教では、メシヤはイエスなのです。

そもそも、メシヤをギリシャ語では「クリストス」と呼び、キリストは日本語慣用表現。イエス・キリストというのは、イエスがメシアであるという信仰をあらわしたもの。しかし、ユダヤ教では、イエスをメシアと認めません。

キリスト教では新約聖書を主たる聖典とするけれど、旧約聖書も聖典の一つとしている。それは、ゼロからキリスト教が生まれたのではなく、神との旧契約が更新された先にキリスト教があるとするから。ユダヤ教のラビはカトリックの司祭のような聖職者ではない。ラビは、いってみれば法曹。ラビは聖者やミシャナー、タルムードに精通している。ラビは法的助言や判断を行う。ユダヤ人なら勉強して認定されたら誰でもラビになれる。世襲されることの無い祭司とは違う。ラビは徹底に議論して、多数決で決定する。

ユダヤ教徒に知識人が多いのは、そもそも教育を重視しているから。教育には、時間とお金がかかる。シナゴーグでは、ユダヤ教の律法を信徒の前で朗読する議会がある。自分の息子がそれをうまくこなすのを見る(同胞に見せつける)ためなら、教育コストは惜しくないのだ。ユダヤ教は、イスラム教と類似(共通)するところが多々あるということも初めて自覚しました。

ユダヤ教で、ラビ(律法学者)がもっとも偉いように、イスラム教でもウラマ(イスラム法学者)がもっとも偉いとされている。ウラマーはラビと同じく聖職者ではない。宗教施設についても、シナゴーグもモスクも、偶像禁止が徹底している。人間の姿やそれを想起させる絵や詩は、一切見られない。

ユダヤ教は権力者と癒着していた。これは、ユダヤ人が庶民から得た儲けを税金として吸い上げる。なので、協力者にとって、ユダヤ共同体は守るべき財産(権益)なのだ。

ユダヤ人を金づるとして利用する権力者、それを腐敗ととらえる庶民のあいだにユダヤ人がはさまれた。

女性の相続に関して、イスラム法のほうが女性に有利。

ユダヤ人の言語である「イディッシュ」とは、ユダヤのこと。

「人種」という概念は、あまりに杜撰なものなので、今ではほとんど使用されない。かのヒトラー・ナチスは精神障害者の人たちを送別して死に至らせました。その愚を再び犯さないようにしましょう。

ユダヤ人は、ヒトラー・ナチスによるホロコーストで600万人が死亡した。このころ、世界にユダヤ人は1700万人いた(1939年)ので、その3分の1が死亡したのです。アメリカには、450万人いました(同)。

ユダヤ人といえば、アインシュタインが有名ですが、ウクライナのゼレンスキーもユダヤ人です。

アメリカの連邦最高裁の判事にルイス・ギンズバーグがいましたが、今もエレナ・ケイガンという女性の判事がいるそうです。

それにしても、イスラエルのネタニヤフ首相のガザ侵攻はひどいですよね。もう2年になりますし、6万人以上が殺害されているなんて、許せません。自らの汚職事件を先送りするためにガザ作戦をネタニヤフは利用しているとも言われています。そうであるなら、ますます許せません。

宗教を含めて、平和共存できる世界をお互い、目ざしていきたいものです。1月に刊行されて、11月に15版というのはすごい売れ行きです…。

025年11月刊。1080円+税)

ひまわりと羊

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 内河惠一 、 出版 中日新聞社

 名古屋の内河惠一弁護士の自伝です。私より10歳だけ年長です。戦前に生まれ、空襲で家を焼かれました。両親が病弱のため、戦後は生活保護を受ける家庭でした。

 家庭が貧困のため中学校で生徒会長をつとめるほどの成績だったのに、普通高校には進学できず、高校は定時制に進学したのでした。働きながら高校を卒業したあと、中央大学法学部(夜間部)を受験して合格します。それでも入学するには4万円という大金が必要です。お金の貯えは本人にも家にもありません。両親は病気をかかえていて、あてに出来ません。そんなとき、相談すると中学校の校長が2万円を貸してくれました。ほかにも、友人やら親戚、そして働いていた書店主など40人ほどからカンパが集まりました。なんと借金2万円を含めて6万円になったのです。それで、母親の治療費未納分1万円を完済したうえで上京し、仕事をしながら中央大学で学んだのでした。

 盲腸炎にかかって苦しんだときも、治療費がないため手術は出来なかったといいます。注射だけしてもらって絶対安静で寝ていて助かったとのこと。

 1967年9月に司法試験に合格します。そして、内河弁護士はいくつもの集団訴訟に関わります。まず初めは、四日市大気汚染公害訴訟です。1972年7月24日に勝訴判決が出ました。次は、東海道新幹線走行差止訴訟。1986年4月28日に国鉄と和解が成立し、原告らの居住区間ではスピードを落として騒音を75デシベル以下にすることになりました。引き続き今もリニア中央新幹線の工事計画認可取り消し訴訟を担っています。

 名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟は裁判では敗訴が確定したが、裁判外での運動が続いています。

 名古屋高裁(青山邦夫裁判長)は2008年4月17日、自衛隊のイラク派遣は憲法9条1項に違反するという画期的な判決を下しました。このときの訴状は「ですます調」で書かれているそうです。私は長く弁護士をしていますが、訴状を「ですます調」で作成したという記憶はありません。市民に分かりやすい訴訟にしようとした工夫の一環でした。

 生活保護の基準額を国が強引に引き下げたのは違法だという訴訟で、2023年11月、名古屋高裁は、違法を認めて、国に対して1人1万円を支払うよう命じる判決を出しました。

 このとき、弁護団は「司法は生きていた」という垂れ幕を掲げたのです。ところが、国は自らの非を認めず、改めて減額しようとしています。あまりにもひどい冷たい仕打ちです。

 軍事産業ばかりを肥え太らせ、庶民生活を切り捨てている行政は根本的に改めさせる必要があります。

 85歳になっても現役の弁護士として活動している著者に対して、心より敬意を表します。

 

(2025年6月刊。1320円+税)

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