(霧山昴)
著者 韓 昌道 、 出版 幻冬舎
すごく面白い本でした。北朝鮮で、人々の善意に包まれながら虫捕りをする話です。
著者は、和歌山で生まれた在日朝鮮人3世。朝鮮学校の教育を受けてきた両親のもと、著者も幼稚園から大学まで、朝鮮学校と大学校に学び、大学院生として愛媛大学で学んだあと、朝鮮大学校に戻って生物学の教授をつとめています。なので、朝鮮語はペラペラのバイリンガルです。ちなみに、私の孫2人(小学生)も同じく見事なバイリンガルです。日本語と韓国語をフツーに話せます。私はフランス語オンリーですので、韓国語はいけません。
なお、著者は北朝鮮へ既に14回も行っています。ええっ、そんな「日本人」(日本に住んでいるという意味です)もいたのか…と、驚いてしまいました。門戸は閉ざされているわけではないのですね。
著者が北朝鮮に行くと、必ず案内員が付き添います。この案内員について、著者は、フツーは監視役といわれるけれど、自分にとっては運命をともにする同じ舟の同志と考えています。著者は朝鮮語はペラペラですし、研究対象は昆虫なのです。なので、案内員も必然的に昆虫採集に加わることになります。
ところが、北朝鮮では昆虫採集をする学者がいるなんて想像の枠内には入りません。奇人変人の枠外にあり、理解を超えてしまうのです。売店にいる若い女性好から、冗談がきついと叱られてしまう有り様です。
ところが、著者の熱意に打たれて昆虫捕りに協力してくれる人々があらわれ出します。なかの一人は、なんとゲジゲジを持ってきました。「神様の使い」とか何とかいって……。
わが家の廊下にも大きなゲジゲジが出ることがあります。すると、すぐにスリッパの裏で叩いて殺すのが「家長」たる私の任務です。
北朝鮮の人は、「この世に、お金を出してまで虫を買う人なんているわけがない」と考える。ところが、著者が吸虫管で一生懸命に吸い取る姿を見ているうちに、考え直していくのです。
動物の糞に集まる糞虫類を著者は真剣に集めてまわります。北朝鮮は、地面を不必要にコンクリートで固めておらず、殺虫剤の使用規制も厳しいので、糞虫類はたくさんいるのです。日本とは大違いです。
ところが、糞虫類を集めるのは大変。なんといっても臭いのです。
朝鮮半島は全体的な岩山なので、スコップで簡単に掘れるところは少ない。スコップがこわれてしまうほど。
著者にとって、魅力的で、楽しく、心温まる場所、それが祖国、北朝鮮だと実感したのです。それが実感として理解できるほど、心優しい運転手、案内員のオンパレードです。
そして、厳しい日常生活を送っているはずなのに、人々は楽天的でユーモアがあふれて、楽しいのです。著者は、こんなにも楽しく生きる術(すべ)を知っている人と出会うのは初めてだと思ったのでした。
北朝鮮で著者が出会った昆虫たちの写真がたくさん紹介されていて、それを眺めながら、著者の軽妙な紀行文一気にを読みすすめることができました。虫好きの皆さんには必読の本だと思います。
(2026年3月刊。1760円)


