弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アフリカ

2018年8月 4日

ピラミッド

(霧山昴)
著者 河江 肖剰 、 出版  新潮文庫

ピラミッドは誰が、何のために、どうやってつくったのか・・・。その知的好奇心をズバリ満足させてくれる文庫本です。
ピラミッドをつくったのは奴隷ではないようです。4000人の労働者が2班に分かれて、その2000人は20人の小隊が10組で中隊をつくり、10の中隊から成っていた。そして、これを支える労働者がいたはず。
労働者は長屋に住み、1日に1回パンが焼かれ、人々は4日に1度、巨大なパン(9494キロカロリー)を1個うけとっていた。パンとビールの他にも、肉やニンニク、玉ネギなどの食料が配給されていた。これでは奴隷とは考えられない。大量生産による大量消費を享受していた労働者たちによってピラミッドは築造された。巨石を運ぶ労働者だけに意欲ある人々をきちんと統率しなければピラミッド築造という成果をあげることは難しいこと。
著者たちは、このような労働者居住区の発掘に成功し、パン焼き工房を探しあて、当時の原材料で出来るパンを再現・復活したのでした。すごいです。
労働者居住区はクフ王やカフラー王のピラミッドの近くに存在していたのでした。彼らは決して奴隷ではなかったし、何十万人という人数でもなかったのです。
では、どうやって巨石をピラミッドの上へ積み上げていったのか・・・。
巨石はすぐ近くから切り出し、人工的につくり出した傾斜路で運びあげていった。労働者をきちんと統率できれば、クレーンなどを使わなくても可能なことが、現代科学で証明されている。要は労働者の統率力があるかどうか、だというのです。
ピラミッドが王の墓であることは、今日では学界の定説になっているようです。
ピラミッドをつくったクフ、カフラー、そしてメンカウラーは、まだファラオと呼ばれていなかった。ファラオと呼ばれ始めたのは、1000年もあとのトトメス3世のころから。
ファラオは、ペルアアというエジプト語から発生している。これは、大きな家、大宮、王家の土地を意味した。それが聖書でパロと訳され、いつしかファラオと発音されるようになった。
ピラミッド周辺の発掘にずっと従事している学者なので、その体験にもとづいて大変わかりやすくピラミッドを解説してくれています。
(2018年4月刊。630円+税)

2018年5月29日

ジハード大陸


(霧山昴)
著者 服部 正法 、 出版  白水社

アルシャバブやボコ・ハラムなど、アフリカのあちこちで凄惨なテロを敢行しているジハーディストに肉迫したルポルタージュです。
イスラム過激派がアフリカ各地で猛威をふるっている背景には、若者たちに職がなく、貧富の格差がますます激しくなっている深刻な現実状況があります。ですから、武力で制圧したり、テロリストのリーダーをドローンで暗殺しても何の解決にもなりません。第二、第三のリーダーが次々に生まれてくるだけなのです。
どの国に行っても、一般のイスラム教徒はテロを支持していないし、共感もしていない。イスラム圏の伝統文化がしっかり根づいている地域のほうが、イスラムの教えにもとづくモラハ社会規範がしっかりしているため、ほかの宗教が多数派の地域と比べても、むしろ治安がいい。
アルシャバブとは、アラビア語で若者を意味する。ふつうのソマリ系住民、ふつうのイスラム教徒は、アルシャバブを支持しておらず、両者は同一視できない。
アルシャバブの活動資金は、砂糖や木炭の密輸である。
アフリカへの進出が著しいのが中国だ。中国はアフリカに積極的に投融資をしている。中国はその見返りとして、アンゴラの石油を得た。アンゴラは、中国への最大の原油供給国となっている。アンゴラの経済成長率は15%にもなり、首都ルアンダのホテルは1泊400ドル(4万円)もする。
ジハーディストというテロ集団は、南アフリカの正規のパスポートを利用・横流ししている。
ジハーディストが若者を勧誘するときの決め手は二つ。一つは、洗脳だ。大義のために死ぬことの崇高さ、そして、死後にはたいへんな幸福が待っていると説教する。そして、もうひとつがカネ。リクルーターには成功すれば10万円がもらえる。新規メンバーは8万円もらえる。
ソマリアへ旅行にやってきた外国人が簡単に殺されるのは、事件が世界各地に放映されて、ソマリアは危険で、まだ安定していないというイメージをつくりたいからだ。
ジハーディストたちの資金源として大きいものに誘拐による身代金というものがある。身代金の総額は累計で1億2100万ドルにもなっている。
ジハーディストたちは、こう叫ぶ。
ヨーロッパは、これまでアフリカから資源などを盗んできた。アフリカ人は、今、それを取り返そうとしているだけなのだ。
これは、まさしく、本当にそのとおりなんですよね。
著者は1989年、大学1年生のとき、19歳のときに、アフリカ各地を一人で旅行してまわったとのことです。今となっては、古き良き時代だったと言うしかありません。現代アフリカでは考えられません。
(2018年2月刊。2200円+税)

梅雨入り前の五月晴れの日曜日でした。午後からジャガイモを掘りあげました。少し早いかなと心配しつつ2月に植えました。5月に白い花が咲き、葉や茎が黄色く枯れた状態になりましたので、梅雨入り前に掘りあげることにしたのです。畳2枚分くらいの広さに4つのウネをつくっていました。掘り上げると、ごろごろ大小のジャガイモが姿をあらわしてくれました。
  つるんと細長いメークイン、ごつごつしたジャガイモ顔のダンシャク、ダンシャクに似て丸っこいけれど、ところどころに紅いしみのようなものを身につけているキタアカリの3種類です。
 幸い、これまでジャガイモ栽培で失敗したことはありません。植えたあとは雑草とりをしたくらいで、美しいジャガイモを食べることができました。
 次々に掘り上げ、ザルが足りなくなりました。2人では多すぎるし、かといって配って歩くには少なすぎる量でした。暗室保存がいいとのことですので、ダンボール箱に入れて、階段下の物置きに保管することにしました。
 とりあえず小さいジャガイモをオーブンで焼いて、バターの香りとともに札幌の街角で売られているジャガバタを思い出しながら、食べました。 あとは、コロッケそしてポテトサラダでいただきたいものです。
 夜8時近くになり暗くなってきましたので、恒例のホタル見物に出かけました。歩いて5分のところにある小川にたくさんのホタルが今年も元気よく、フワリフワリと音もなく飛んでいました。
 小川のそばにガードレールがあり、そこで2度も転びそうになったので、今年は十分気をつけました。
 ここのホタルはこぶりです。ゲンジボタルと聞いていますが、ヘイケボタルかもしれません。フワリフワリとすぐ近くも飛んでいますので、手のひらに乗せてみます。あわてる様子もなく、手のひらに乗ってじっとしています。息を吹きかけると、またフワリフワリと飛んでいきます。
 一斉明滅を繰り返す夢幻の里が近くにある暮らしっていいものです。

2018年5月20日

コンゴ共和国、マルミミゾウとホタルのいきかう森から

(霧山昴)
著者  西原 智昭 、 出版  現代書館

ゴリラは平和主義者です。大きな身体だけど静かな気性、不器用だけど、きれい好き。隣のグループとも、いたって平和的。泥沼に肩まで浸かりながら、幸福そうに目を細めて大好物の水草を食べる。
ゴリラは歌をうたう。ハミングで、うまい。ヨーロッパの民謡みたいなメロディーで、人間そっくり。草食性のゴリラの糞は草っぽい匂い。これに対して、肉を食べるチンパンジーの糞は人間と同じで臭い。ゴリラはチンパンジーとちがって肉は食べないが、アリやシロアリは食べる。
アフリカで生活するとき、マラリアには予防接種はない。予防薬をのみ、蚊にむやみに刺されないよう用心するしかない。しかし、村から遠く離れた森のなかで生活していると安全。人が住んでいないので、マラリア蚊がいないから・・・。
アフリカのジャングルにすむ野生動物は一般的に危険がない。基本的におとなしく、想像されるほどの危険はない。こちらがひどく相手を驚かさない、静かにしている、相手に異常に接近しない、武器をもたない、そうすると加害を加えてくることはまずない。危険なのは、視界の悪い森のなかで急に鉢合わせしたときくらいのこと。
あえて危険な動物をあげるとなると、ヘビだろう。
アフリカで何より怖いのは、東京のド真ん中と同じで、人間。内戦があって殺し合いが始まると、その前に逃げ出すしかない。
アフリカの森に無数のホタルが明滅する森があるといいます。ぜひ行ってみたいです。
学者って、森の中でじっとゴリラを観察し続けるのですよね。その忍耐強さに驚嘆します。
(2018年1月刊。2200円+税)

2018年4月11日

避けられたかもしれない戦争

(霧山昴)
著者 ジャン・マリ―・ゲーノ 、 出版  東洋経済新報社

国連PKOの責任者だったフランス人が世界各地の紛争現地の実情をふまえて、国連のなすべきことを提言した貴重なレポートです。
この本を読むと、つくづく日本のなすべきことは、他の国と違って戦争放棄を定めた憲法をもつ平和国家としての提言であり、その立場からの貢献だということです。要するに、アフガニスタンでがんばっている中村哲医師のような地道な活動をこそ日本のなすべきことです。日本が他の国と同じように武力で紛争の現場に出かけたところで、何の力にもならないことは明らかです。
日本は軍事力という現実を認めながらも、対話と外交の価値を推進するという平和の文化を築くことに、国家としても、これから国連で働く日本人職員の手によっても、大きく貢献できる立場にある。著者は、このように強調しています。
アフガニスタンに注ぎ込まれた数十億ドルもの資金は、たいていムダにされた。現実には、その資金のほとんどは、本来の目的のためには使われなかった。たとえば、日本からの資金援助で、莫大な費用をかけて環状道路の一部が敷設された。しかし、その効果的な維持管理対策は講じられなかった。過酷な冬が、この投資をダメにしている。
軍隊だけではアフリカの紛争地帯に平和をもたらすことはできない。
国連にあってほかの国にないものは、自分たちが公明正大であるという信用を築く力である。それは、きわめて厳格で規律ある武力行使が求められる。
国連も高度な訓練を受け、迅速に反応できる部隊をもつ必要性を痛感した。何より肝心な要素は、和平を支える政治基盤なのである。
アフリカの腐敗したエリート層は、自分の財産を先進国の銀行に預け、先進国の法律から恩恵を受けている。自国の無法状態のおかげで、利益を独占し、恩恵を受けている。
脆弱(ぜいじゃく)国家からは優秀な人材が流出していく。欧米で暮らしたら、母国にいるより豊かになり、自分も子弟も高い学歴が得られるからだ。
国連が助けようとしている国に成功をもたらすことが出来るのは、その国の人々だけ。
グローバル化した世界では、愛国心はますます古臭く見えるが、実は愛国心がなければ失敗する可能性は高い。
600頁をこす大著ですが、国連PKO担当事務次長として世界各国の紛争の現場に立った体験をふまえている本なので、説得力があります。著者は私と同じ団塊世代です。1968年に起きたパリのカルチエ・ラタン騒動の世代でもあります。
(2018年1月刊。3400円+税)

2018年2月10日

ヤナマール

(霧山昴)
著者  ヴュー・サヴァネ 、 バイ・マケベ・サル  出版  勁草書房

 セネガルの民衆が立ち上がるとき、というサブタイトルのついた本です。
 2011年6月23日、アフリカ大陸の西端にあるセネガルの首都ダカールに、大規模な民衆騒乱が発生した。市民の広範な抗議行動を主導したのは、社会運動体「ヤナマール」。あくまで非暴力の市民的不服従を訴える社会運動体だ。
 ヤナマールは、フランス語で、もう、うんざりだという意味。
政権は、反対勢力を骨抜きにして服従させ、統制を企ててきた。だから市民側が警戒を怠ってはいけない。ホワイトカラーが処罰されない一方、ちっぽけなこそ泥たちには、異例の厳しさで司法の剣が振りおろされている。庶民がしばしば飢えや必要に迫られて、あわてて仕出かす犯罪に、司法は道理にあわないほど、情け容赦のない態度を示す。ちょっとした窃盗を犯した庶民が刑務所に何年も服役する一方で、数十億CFAを不正に巻き上げる連中には、目を瞑らせるか、無罪になる。これって、まるで今の日本と同じです。「アベ友」はやりたい放題で捕まらず(アベに見捨てられたカゴイケ夫妻は半年も拘置所ですが・・・)、コンビニの万引きは容赦なく逮捕して刑務所へ・・・。
 国家は、金持ちになるためのたんなる手段。支配をめざすエリートたちの賭金になりさがった。カケコータローが記者会見することもなく(奇妙なことに週刊誌の突撃取材もありません)、カゴイケ氏は半年近くも冷たい拘置所のなかに・・・。この差別扱いはひどすぎます。
 ヤナマールは、この人、あの人といった個人のものではない。ケータイとスマホで、呼びかけあう運動体だ。
 ちょっと読みにくい本ですが、アフリカ諸国で民主化運動が始まっている状況が紹介されています。やはり、何事もあきらめてはいけないのですよね。
(2017年8月刊。2500円+税)

2018年1月 9日

ぼくは13歳、任務は自爆テロ

著者 永井 陽右、 出版  合同出版

今どきの若者は、、、たいしたものです。心から応援したくなります。
大学生のころから、アフリカに渡ってテロのない世界を目ざして活動してきたというのです。信じられないほどすごいです。若い男女学生たちがアフリカ現地に出かけてがんばっているのを知ると、日本の若者もまだまだ捨てたものじゃないなと安心してしまいます。
若者に安定志向が強く、自民党の支持率が40%というのを知って、がっかりした矢先にこの本を読んで、大いに救われた気がしました。やはり、何かのきっかけがあれば、若者も必ず立ち上がるのです。私たち団塊世代(今ではみんな70歳前後です)も、学生のころ(20歳前後でした)には、いろんなきっかけから目覚めて、世の中を大いに動かしたのです。これは全共闘の暴力的な街頭行動を意味していませんので、誤解ないようにお願いします。
著者はソマリアに赴きます。ソマリアでは、この20数年間に180万人をこえる難民が生まれ、国民の半数以上が緊急人道援助の必要があるとされている。2012年にソマリアにも正式な政府が誕生したが、内戦は今でも形を変えて続いている。「国境なき医師団」もソマリアは危険すぎるという理由で撤退してしまった。
政府による公共サービスは皆無に近く、政府内では汚職がはびこり、年間700億円にのぼる国連その他からの援助は、必要な人々の手に渡らずにどこかに消えてしまっている。
ソマリアで活動しているアル・シャバブはよく訓練されていて、アフリカではもっともしたたかなテロ組織とされている。このアル・シャバブは、アルカイダに忠誠を誓っている。
著者はソマリアの隣国ケニアの首都ナイロビにあるソマリア人の大勢すむ地区で、ギャング国に入った若者の救援活動もしています。
ソマリアの激しい内戦のため故郷から離れざるをえず、移住してきたケニアの地でも暮らしがきびしく、差別や孤独にさいなまれ、警察の取り締まりを恐れながら生きている。彼らはどうにか生きるためにはギャングになるしかないと考えた。いったんギャングに入ると抜け出すのは大変困難、組織からの復讐もあるし、世間は元ギャングを受け入れようとしない。孤独から逃れるためにギャングになったのに、ギャングになったらさらに孤立してしまう。ギャングを捕まえて刑務所に入れても、刑務所の中で犯罪者がさらに過激化していくことが少なくない。
しかし、元ギャングを排除するのではなく、受け入れ、寄り添う。その孤独や恐怖、世界への怒りを軽減させることが大切。
アル・シャバーブは、盛んに子どもたちを勧誘し、子ども兵として使役している。とくに10歳くらいの子どもに目をつけて、自爆テロ要員にしている。うひゃあ、恐ろしい、悲しいことですね。
地道な活動を粘り強くすすめている若い人たちに心からの声援を送ります。
(2017年8月刊。1400円+税)

2017年12月20日

世界の辺境とハードボイルド室町時代


(霧山昴)
著者 高野秀行・清水克行 、 出版  集英社インターナショナル

 現代ソマリランドと日本の室町時代に共通点が多いだなんて、とんでもないことを言いあう二人のかけあい「漫才」がすばらしい本です。
 アフリカはソマリランドです。あの精強なアメリカ軍だって敬遠している利権の乏しいソマリランドに6回も通っているという著者の一人の話は奇想天外極まりありません。
 そして、それを受けて日本の室町時代も似たようなところがあると学者が応じます。
 何がそんなに似ているというのか・・・。 表向きは西洋式の近代的な法律があるけれど、実際には伝統的、土着的な法や掟が生きている。たとえば、盗みの現行犯は殺してもいい。日本の中世はそうだった。ソマリアでも同じ。なぜ、人を殺してはいけないのか・・・。中世の日本人なら人を殺したら、自分や家族も同じ目に遭うからだとはっきり答えるだろう。
 ソマリ社会は三重構造になっている。ソマリの掟があり、イスラムの法廷があり、国の裁判所がある。
 大都会は危険がいっぱいだけど、辺境の村は安全。ソマリ社会では、自分が招いたわけではない客人であっても徹底して守る。ゲストが家に来たら、その家のルールを曲げてでもゲストに合わせる。
 外国人が狙われるのは、外国人は政府側の客で、客がやられたら政府にとって最大の屈辱になるから狙うのだ。
 ソマリの掟では、女性を襲ってはいけない。女性を意図的に殺すのはよくない。神罰が下るし、男として恥だから。
 ピストルは、どこの軍隊でも将校以上しか持てない。兵隊と下士官は自動小銃をもって戦うか、将校は基本的に戦わない。ピストルと自動小銃では、ピストルは役に立たない。しかし、価値としてはピストルのほうが断然上。
 イスラム教徒は、自分たちはヨーロッパ人より上だって意識がある。欧米人は大便したとき、紙で尻を拭くような野蛮人だと呼んでいる。
 ソマリ人は独裁権力みたいなものをもっていない。権威があまり通用しない平等社会だ。氏族の長だからといって無条件に尊敬されているわけではない。
 タイやミャンマーやインドでは、新米よりも古米のほうが値段が高い。新米は水っぽいとして敬遠される。古米は水を吸って3割増しになるので喜ばれる。
 ソマリランドを走っている自動車の99%は日本の中古車。それも、日本でつくった日本車の中古だけ。クルマの持ち主がかわった瞬間に価格が6割に下落するなんていう国は日本しかない。2、3回転売されたクルマは、ほぼゼロになる。日本人は丁寧にクルマに乗るから質のいい中古車がタダ同然で手に入る。だから中古車を輸出するビジネスも日本でしか成り立たない。
 アフリカを知ることによって日本という国を歴史的にも認識できるというわけです。面白いです。
(2015年9月刊。1600円+税)

2017年12月16日

ソマリランドからアメリカを超える


(霧山昴)
著者 ジョナサン・スター  角川書店

 アフリカは、あのソマリランドにアメリカ人が学校をつくり、運営し、そこの生徒がアメリカの大学に留学していくという実話を、当のアメリカ人が紹介した本です。
 しかも、アメリカの大学というのがハーバードであり、MITだというのですから驚きです。
 少し前まで英語もろくに話せなかったソマリの少年少女が学校に入って才能を爆発的に開花させるのですから、素晴らしいです。アメリカも、こんな援助こそ、もっと大々的にすべきですよ。軍事的な侵略ばっかりしているので、嫌われるばかりなんです。
 私は、アフガニスタン中村哲ドクターをついつい思い出しました。
 アメリカ人である著者が見ず知らずのソマリランドで50万ドルを投入して学校をつくり、運営する苦労の日々が刻銘に紹介されています。
 ソマリの部族社会とのあつれきもありましたし、信頼していた人との仲違いによって深刻な状況に再三おいこまれたのですが、そんななかで多くの留学生を送りだしたといのですから、立派なものです。
 ソマリランドに何度も行ったことのある日本人・高野秀行氏は、この学校の前を通ったことがあるとのこと。クレイジーなアメリカ人として解説を書いています。
 この解説を読んで、なるほどと思ったのは、ソマリア人の若者が「飢え」ているという指摘です。それは、知的な「飢え」です。もっと勉強したいけれど、する環境がない。そんな飢えている若者に適切な食事を与えると驚くほどの勢いで摂取し、爆発的に成長する。それで、わずか数年でハーバードやイエール大学に合格してしまうのだ・・・。
 著者のアメリカ人は27歳のときには、アメリカで投資会社を経営していて、もうかっていたのです。ところが、もうけ仕事を続けるより、何か他に意義ある仕事をしたいと思い、ソマリ人の叔父さんのいたソマリランドに学校をつくるのを思い立ったというわけです。
 学校の試験はカンニングがあたりまえ、入試だって替え玉受験があるようなところで、基礎からの勉強を積み重ねていくような涙ぐましい努力をしていくのです。生徒たちは、やがて教師にこたえてくれます。ところが、妨害者があらわれ、あの手この手で妨害します。デマをまき散らし、著者を国外へ追い出そうとするのです。
 ソマリランドはモガディシオを首都とするソマリ国からは独立した別の国で平和な国なのです。ソマリ国は今もなお内乱状態が続いて危険な国のようでうが・・・。
 アメリカ人だって軍事優生ばかりではないことを知って、少しはほっとする思いもしました。
 中村ドクターのように用水路をつくって農村を復興したり、この著者のように学校をつくって子どもたちにちゃんとした教育を受けさせる。これこそが必要なことだと痛感させられました。ぜひとも、学校を存続させてほしいものです。

(2017年9月刊。1600円+税)

2017年9月19日

ぼくの村がゾウに襲われるわけ

(霧山昴)
著者 岩井 雪乃 、 出版  合同出版

アフリカのセレンゲティ国立公園というと、私が毎週欠かさず楽しみにみているNHK番組「ダーウィンが来た」に舞台としてよく登場して、なじみの場所です。アフリカのタンザニアにあります。ケニアの隣国です。
この近くの村では、野生のゾウに人間が殺され、作物を荒らされているというのです。ところが、ゾウを殺してはいけない。ゾウから殺されても国が補償することはない。
では、なぜ、ゾウが村人を襲うのか・・・。
著者は20年来、このタンザニアの村に出かけ、定点観測を続けています。
今では、早稲田大学の学生も同行しています。私も大学生だったら、連れていってほしいと思いました。
野生のゾウは、「やさしい動物」ではない。村にトウモロコシ畑があれば、巨大なからだで木の柵を押しつぶして入ってきて、根こそぎ食べてしまう。それも、1頭や2頭ではなく、ときには200頭もの大群で村を襲う。畑に入るのを邪魔する村人を踏みつぶし、あの大きくて長い鼻で、ふっ飛ばしてしまう。
ゾウが村に押し寄せてきても、村には銃も車もない。犬が吠えかかると、鼻をブルンと振りおろして、犬をたたき殺してしまう。ここでは犬は単なるペットではなく、野生動物たちからの危険を知らせる重要な役目を果たしている。
ゾウの走る速さは、時速40キロ。ヒトは、平均して時速24キロ(100メートルを15秒)。だから、ゾウから追いかけられると、ヒトは逃げ切れない。
タンザニアの人口は5000万人。日本の半分以下。ところが、年に3%ずつ増えている。ここが日本とは異なる。タンザニアには、130もの民族がいて、スワヒリ語を国語としている。このため国民全員が一体感をもっている。これが民族紛争を防いでいる。
小学校ではスワヒリ語で授業があるが、中学校以上の授業は英語。
小学校の就学率は94%。中学校になると3%に下がる。大学へはわずか3.6%。タンザニアでは、大学生は超エリート。
セレンゲティ国立公園に世界中からやって来る観光客は年間35万人。入園料は大人1日で7800円。タンザニア人だと大人500円。ところが、車のレンタル代やガソリン代が高いので、タンザニア人がセレンゲティ公園に入って観光することはほとんどない。
タンザニアでは、ゾウは200万円、ライオンは80万円でハンティングできる。
タンザニアは、お金は信用されていない。政治が不安定になったりすると、お金の価値が下がってしまう。家畜が食料であるとともに、大切な財産である。
ゾウは、食料を奪うだけでなく、人間の命も奪う。1年間に6人が殺された。ゾウは、怒ると人間を鼻ではたいて投げ飛ばし、とどめに足で踏みつける。ゾウを殺すことは許されていないので、村人はバケツをたたいて大きな音を出す、懐中電灯の光をあてるという、ささやかな抵抗しかない。
いまアフリカゾウは50万頭ほど。その半数がタンザニア、ボツワナ、ジンバブエの3ヶ国にいる。
1980年代の日本こそがゾウ減少の犯人だった。象牙の印鑑が大量につくられた。1984年に象牙が470トンも輸入された。これは、ゾウ1万頭分だった。
野生動物と人間の共存の難しさを考えさせる本でした。それにしても、著者はスワヒリ語が自由に話せるようです。これって、すばらしいことですよね。
(2017年7月刊。1400円+税)

2017年9月 9日

アルカイダから古文書を守った図書館員

(霧山昴)
著者 ジョシュア・ハマー 、 出版  紀伊國屋書店

西アフリカのマリ共和国の都市トンブクトゥは、古くからコーラン学校やモスクが存在する学術都市だ。そこに保存されてきた古文書がアルカイダによって廃棄される危険が迫ったとき、図書館員たちが身を挺して守り抜いたという実話も紹介した本です。なにより、アフリカの古都に大量の古文書が保存されていたというのが驚きです。
本に使われる紙は、ぼろ布を原料としていた。インクと染料は、砂漠の植物や鉱物から抽出された。本の表紙は、山羊や羊などの革からつくられた。当時は製本術が伝わっていなかったので、リボンや紐できつくしばっていた。
先日、太宰府の国立博物館でラスコー展をみてきましたが、2万年も前に、今も鮮やかに残る顔料で色彩豊かに牛などが描かれているのに圧倒されました。やはり、古いものは、きちんと保存すべきですよね・・・。
トンブクトゥの書物のなかには、男女の性の喜びを最大限に高めるための秘訣を伝えているものがあるそうです。驚くほかありません。
トンブクトゥは、からからに乾ききっているから、古文書が残った。ナイジェリアのような蒸し暑い地域だったら、とっくの昔に台無しになっていた。
トンブクトゥは、アラビア語の古文書保存の世界的な中心地のひとつとして復興している。町全体で38万冊もの古文書が収蔵・保存されている。
アルカイダの武装勢力は、貴重な古文書をバーミヤンの仏像と同じく敵視していますから、見つかったらすぐにも破壊されてしまいます。そこで、大量の古文書を避難させる作戦が始まったのでした。
貴重な古文書を後世に伝えるのは、今を生きる私たちの当然の責務だと思います。アフリカの地で大変な苦労があったようですが、とりあえず、めでたしめでたしの結果だったようで、ほっとしています。それにしても、文字の解読には苦労しなかったのでしょうか。
(2017年6月刊。2100円+税)

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