弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

韓国

2023年10月10日

勉強が面白くなる瞬間

(霧山昴)
著者 パク・ソンヒョク 、 出版 ダイヤモンド社

 韓国で遊び放題、まともに授業を受けていなかった子ども時代...。あるとき、ハッと目が覚めた。それでも、田畑と海に囲まれた自然豊かな片田舎で、塾すらない。どうやって遅れを取り戻すのか...。カッコ悪いなんて思わず、小学5年生から中学2年までの教科書(国語、英語、数学)に戻って集中して勉強する。ひたすら「心」を鍛えて、集中すれば道は開ける。その結果は...。
 なんと、ソウル大学法学部、延世大学経営学部そして東新大学韓医学部に同時合格。その経験をふまえた勉強術を公開した本書は受験大国の韓国でたちまち45万部という大ベストセラーになった。
 いやあ、すごいものです。そして、いまさら私なんかが読んでもどうなるものでもありませんが、何事も道を究めた達人の言うことには道理があります。
 勉強の本質は「競争」ではなく、「成長」にある。なので、偏差値とか順位なんか気にする必要はない。気にすべきは、自分自身の前の成績だけ。
 自分の人生はたった一度きり。だから、自分は自分の人生を世界で一番大事に扱うべきなのだ。他の誰かのためではなく、まさしく、ただ自分のために...。
 勉強とは、人生をより豊かに彩ってくれる「知識」と「知恵」を得る探検なのだ。教科書に書かれている内容は、いろんな人の人生がおさめられたものを5分か10分で簡単に手に入れられるというもの。いいかげんに扱っていいというものは一行だってない。
 勉強の本質は、自分の魂を鍛えあげてくれること。勉強は、自分と一生をともにする「自分自身」をつくる作業。
なぜ英語を学ぶのか。2つ以上の言語を同時に習うと、一つだけ習うときより、脳内で言語を処理する速度がずっと速くなる。これは、速く、かつ正確に思考を整理できること、つまり賢くなるということ。なので、私は、もう50年以上もフランス語をあきることなく勉強しています。残念なことに、ちっとも上達しませんけど...。
 数学は、精神力を磨くもの。数学を直してより賢明になり、賢明な人生を生きる準備ができる。
 人間は勉強すればするほどエネルギーと能力がぐんぐん伸びていき、その結果、頑丈な自分ができあがる。これを「頑丈になる法則」と呼ぶ。
不必要に自分と他人を比べるのは、やめる。自分の心を守るのだ。競争相手は、あくまで「昨日(きのう)の自分」、じっくり振り返ってみる。「昨日の自分」に負けないようにする、すると、自分の「成長」に注目でき、満足感が味わえる。
 私も大学受験のときも、司法試験受験のときも、他の大勢の受験生を「敵」だとか、競争相手だとかは考えませんでした。あくまで自己ベストを発揮することを最大限追求しました。それは、身体的にもベストコンディションである必要がありますので、意識的に心がけました。  
勉強するときは、「いま、ここ」に没頭する。ヘッドホンで音楽を聴きながらの勉強ではダメなのです。
風邪をひかない身体をつくる。私は風邪をひいて仕事を休んだことがありません。
カラオケが苦手な私はストレスになるだけですので、さっさと家(ホテル)に帰って寝ます。睡眠不足は大敵です。二次会には行きませんし、行ってもすぐに失礼します。深酒もしません。すっきりした頭で本を読みたいからです。
 整理整頓は昔から大好きなものの一つです。私がこれまで何十冊と本を書いて刊行できたのは、日頃から、どこに資料があるか分かっているからです。
 300頁の本です。なるほど大ベストセラーになるだけのことはあります。改めて人生を考えさせてくれる本でもありました。思春期の子をもっている場合には、親がまず読むべき本だと私は思います。
(2023年3月刊。1650円)

2023年8月24日

無限発話


(霧山昴)
著者 ムンチ 、 出版 梨の木舎

 著者の正式な名前は「性売買経験当事者ネットワーク・ムンチ」です。そして、タイトルの副題は「買われた私たちが語る性売買の現場」です。
 女性が自分の身体を売る(性売買)というのが、こんなにも苛酷なものなのか、思わず息を呑んでしまいます。
 1日に少なくて6人、最大11人の客を取る。11人の客を取ったときは、シャワー22回、性感マッサージは水台でボディ全面11回、背面11回、肛門もマッサージしてから部屋に戻ってラブジェルなしで前から後ろから11回、本番11回、抜いてあげる(射精)は合計22回。
 夕方6時から朝6時まで休みなく、洗い、くわえ、しゃぶり、体でこすって射精させるのがミッションだ。
 客の支払う料金18万ウォンのうち、「私」の取り分は8万ウォン。11人の客を取ったら88万ウォン。12時間働いて88万ウォンなら、けっこうな額だ。だけど、借金を支払ったら、手元に残るのは5万ウォン。涙が出る。力が抜けて、食欲も出ない。
 部屋の入口上の天井には赤いランプがついている。取り締まりがあると、音はならずに赤く点灯してクルクル回る。ランプがまわると二人とも急いで服を着て、ドアを開けて裏口から逃げる。逃げ出すのに2分以上もかかってはいけない。
 店は、客のタバコ代、カラオケの新曲代、カラオケ機の修理代、おつまみの材料費、水道光熱費、部屋代を徴収する。客がチップをくれても、みな店主が取り上げる。
 買春者(客)がするのは性行為だけとは限らない。お王様のように振る舞いたい、侮辱したい、あらゆるファンタジーを満たされたい、わがまま放題したい、悪態をつきたい、殴りたい...。暴力のバリエーションは無限だ。彼らはエゴイストになりに、性売買の店にやって来る。
 ルームサロンでは、店主は客にばれないよう酒を捨てるよう指示する。売り上げがアップするためだ。そのことが客にバレたときは、店主は女性に全額を借金として押しつける。
 タバンで女性がお金を稼ぐことができない。仕事を休んだら欠勤ペナルティ、遅刻したら遅刻ペナルティが、借金として積もっていく。半休とっても1日分として計算される。
 「セックスワーク」が本当に労働として認められる仕事だと言えるためには、1年も働けば技術が身について待遇もよくなるはずだけど、1年たってみたら稼ぎも待遇も前より悪くなっている。長くいるほど、かえって、お局(つぼね)扱い、くそ客処理係をさせられる。どんな病気になっても自己責任。みんな買春者から病気を移されたのに...。
 買春者は、性欲を解消するため性売買すると思われている。しかし、実際の現場では、それが第一の理由ではない。誰かから疎(うと)まれているとか、日頃感じているストレスの憂さ晴らしをしていく...。自分の中にたまった日常のカスを女性というゴミ箱に捨てていく。身近な人たちには出来ないことを、ここに来て、晴らしている。
 現場の生の声を集めていて、いかにも切実すぎるほどの内容です。韓国の厳しい状況は分かりましたが、ではわが日本の状況はどうなっているのでしょうか...。世の中は知らないことだらけです。人間として生きることの大切さをお互いもっと強調する必要があると痛感しました。
(2023年7月刊。1800円+税)

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