弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

アメリカ

2017年10月 4日

危機の現場に立つ

(霧山昴)
著者 中満 泉 、 出版  講談社

いま国連で大活躍している日本人女性です。現在の肩書は国連軍縮担当事務次長・上級代表で、先日の国連総会では核兵器禁止条約の成立を国連の側で支えて活躍しました。スウェーデン人の外交官と結婚し、二人の娘さんは高校生と小学生。日本語、スウェーデン語、そして英語、フランス語ができるようです。頼もしい限りです。
早稲田大学を卒業していますが、途中でアメリカのジョージタウン大学に学び、国連での活動を志したようです。大学生のころから世界に目を向けていたことにも驚かされますが、なによりその行動力には敬服します。
そして、国連に入ってからは国連難民高等弁務官事務所に働くようになり、ユーゴスラビア・サラエボの「民族浄化」作戦の真只中に飛び込み、現地の軍指導者と激しくやりあったのでした。恐るべき土根性です。そして、アフリカに渡ったあと、スウェーデン人外交官と結婚し、出産、子育てし、再び国連へ・・・。その間に、日本では大学教授にもなっています。
これまでに世界115ヶ国に出かけたというのですから、さすがのアベ君も真っ青ですね。
国際的に活躍する日本人女性としては緒方真子さんが有名でしたが、今では著者がバトンを受け継いでいるようです。
私は電車に乗っている1時間で、息もつかさず集中して読了したところで終点到着となりました。叩きのめされて声が出ないほど圧倒されたのです。
いま、世界中で6000万人以上の人々が第二次世界大戦直後と同じように家を追われて避難生活を送っている。これは、世界各地で、今も戦争が絶えないことによる。
国連で仕事を始めるときに重要なことの一つは、良い上司の下につくこと。
仕事をするうえで重要なことは「誠実さ」。正直に努力を重ねて、ときには苦しみ悩みながら、自分のもっているモラル・コンパス(論理基準)を磨き育て、それを使っていろいろなことを判断し、日々、仕事を積み重ねていく。
分からないことは分からないとすぐに正直に言う。軍人に対しても、考え方や仕事のやり方に違いがあることを臆せずはっきり言う。そのうえで歩み寄る方策を考える。
イタリア軍の食事が各国の軍隊と比べると一番おいしい。フランス軍の食事には、ワインだけでなく、食後のコニャックまでついている。
軍隊と人道支援機関が一緒に活動するのは難しいもの。
国連の「中立」とは、紛争のどの当事者にも偏らないという意味の中立性。これって、現地ではなかなか難しいと思います・・・。
国連PKOで重要なのは、現場レベルでの「抑止力」、つまり暴力を起こさせない力。国連PKOは必要最小限の武力しか行使しないが、そのためには、もし必要なら武力行使をためらわないという明確な態度表明が常に必要だ。タマは一発も撃ちませんでは、攻撃してくださいというメッセージを送ることになる。この微妙なバランスが難かしい。たとえば、国連PKO部隊の兵士は反撃するにしても、なるべく下半身を狙う訓練を受けている、とか・・・。
著者は福岡の小学校にも通っていたそうです。
「母ちゃん大好き、愛してる。世界をたのむ」とは、著者への娘さんからのメッセージです。すごくいいメッセージですね。しっかり子育てしていることが伝わってきます。
いやあ、日本女性って、実に勇敢ですね、ほれぼれしてしまいました・・・。ぜひ、多くの日本の若者に世界平和のために続いてほしいものです。
(2017年7月刊。1400円+税)

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2017年9月14日

ボコ・ハラム

(霧山昴)
著者 白戸 圭一 、 出版  新潮社

2014年4月16日、アフリカのナイジェリアの中高一貫制女子高の寄宿舎を武装集団が襲撃し、女子生徒300人近くを連れ去ったというニュースは、私にとっても衝撃的でした。被害者の年齢は16歳から18歳で、今なお、その行方は判明していません。自爆テロ要員になっているのではないかという報道もあり、私も及ばずながら心を痛めています。
犯人とされるボコ・ハラムは、この事件で一躍、全世界に知られるようになりました。
ボコ・ハラムのボコとは、ナイジェリア北部で広く話されているハウサ語で「西洋の知、西洋の教育システム」を意味し、ハラムはアラビア語で禁忌・禁止を意味する。
つまり、西洋に源流をもつ価値・技術を否定し、イスラム国家の樹立を目指す集団だ。
ボコ・ハラムが2014年に殺害した民間人は6644人。これは、ISのテロによる民間人犠牲者6073人を上回る。
この本は、ボコ・ハラムとは何か、なぜ生まれたのかを追跡しています。そのためには、ナイジェリアという国を知る必要があります。
ナイジェリアは、北部アフリカ随一の経済大国。石油産業が支えている。ナイジェリアの石油生産能力は1日最大250万バレルで、アフリカ最大。ナイジェリアは人口大国でもある。日本の2.5倍の国土に、総人口1億8220万人、世界で7番目に多い。ナイジェリアの政情は安定せず、これまで軍事クーデタが7回も起きている。
ボコ・ハラムは、単なる「反キリスト教」の組織ではない。ボコ・ハラムの犠牲者の多くは、同じ北部のイスラム教徒なのだ。
ボコ・ハラムは一枚岩の組織ではなく、2014年4月時点で、6つの派閥があった。ボコ・ハラムは、確たる指揮と統制を有したことがない。
ナイジェリアでは、現場の兵士や警察官の士気は著しく低い。ボコ・ハラムとの戦闘をサボタージュするケースも多発している。
少女による自爆テロが頻発している。これは、ボコ・ハラムから強要されているから殺害されていると言ったほうが実態に即している。
政府と官僚組織がこわれてしまうと、国家の体裁をなさなくなるのですね・・・。
(2017年7月刊。1300円+税)

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2017年9月 3日

猿神のロスト・シティ


(霧山昴)
著者 ダグラス・プレストン 、 出版  NHK出版

中米ホンジュラスに、地上最後の人跡未踏の地があるというのです。そこには、恐ろしい毒ヘビやジャガーがいるので、人間はうかつに近づけません。といっても、現地に人々は住んでいます。
文明国が派遣した調査国は、ベテランであっても、1日10時間はたらいても、1日に3キロとか5キロしか前へ進めないというほど深いジャングル(密林)があります。そのうえ、ホンジュラスは、殺人事件の発生率が世界一。麻薬カルテルが周辺土地の大半を支配している。ホンジュラスのあるところでは、請負殺人の費用は25ドルでしかない。
ジャングルで最大の危険は毒ヘビ。夜行性で、人や動くものに引き寄せられる。攻撃的で、過敏で、敏捷だ。
そして、ジャングルでは道に迷いやすい。迷ったと思ったら、もう動かず、救いを求める笛を吹いて、誰かが迎えに来てくれるのを待つしかない。調査国のメンバーが現地から帰国してしばらくすると、その半数が謎の病気を発病していった。それはリーシュマニア病という熱帯病で、マラリアに次いで世界で2番目に致死性の高い寄生虫病だった。
5世紀ころ、ここに国王が存在していた。国王は16代も続いている。
8世紀ころ、旱魃(かんばつ)による飢饉(ききん)が頻発して、平民を苦しめたことから、王国の存立が危うくなった。
ところで、この古代文明は毒ヘビそして病気から身を守っていたのか・・・。
同じ中米にあるコスタリカという平和な国の話を読んだ直後でしたので、この二つの国の違いはどこにあるのか、不思議でなりませんでした。
私は、もちろんホンジュラスのような物騒な国には住みたくありません。やっぱり住むなら、平和の国ニッポンかコスタリカですよね。そのためにもアベ退陣を一刻も早くして実現してほしいです。
(2017年4月刊。2200円+税)

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2017年8月30日

自発的対米従属

(霧山昴)
著者 猿田 佐世 、 出版  角川新書

核兵器禁止条約に日本政府が反対するなんて、信じられません。
被爆者代表は、安倍首相に対して、「あなたは、いったい、どこの国の首相なんですか?」と尋ねました。公衆の面前で糾弾された安倍首相は顔色を失い、何も返答することができませんでした。
アメリカが反対しているものに日本政府は反対できないということです。なんという情けない首相でしょうか。まさしく、アメリカのポチ的存在です。
美人弁護士として有名な著者は、アメリカで一貫してロビー活動を続けています。アメリカの国会内外で人脈を築いていて、沖縄県の代表がアメリカへ行くときなどには、大いに力を発揮しているようです。
著者が事務局長をつとめるシンクタンク「新外交イニシアティブ」には、私もほんの少しだけカンパしています。
アメリカの対日影響力は常に強力なのに、アメリカの日本に対する関心は低い。
アメリカ国内で対日外交に関心をもち、実際に影響力を有する知日派のメンバーは、せいぜい最大で30人ほどでしかない。中東やヨーロッパは一筋縄ではいかない国が多いけれど、日本はアメリカの言うことに基本的に従うので、新たなる対日政策を打ち出す必要もなく、少数の専門家で足りるから。
限られた日本の情報だけが、限られたアメリカの相手に届いているだけ。日本とアメリカでは、きわめて細いパイプでしかない。
日本の財界のなかには、アメリカに従っているふりをして、逆にアメリカを利用しているという考えもあるようです。しかし、それは結局、アメリカの手のひらの上で踊っているにすぎません。自主独立国家として、あるまじき姿です。
その一例がオスプレイです。また、アメリカ軍人はパスポート提示不要で日本にやってきて、高速道路利用などはタダという特権をもっています。日本の首都圏に広大なアメリカ軍基地があるなんて、まさしく植民地そのものです。
アメリカでは海兵隊廃棄論さえ声高に叫ばれているのに、日本の沖縄では、あたかも海兵隊の存在が日本の防衛に役立っているかのような錯覚が依然としてまかり通っています。アメリカと日本の関係を直視し、本来のあるべき姿に戻すために、著者の果たしている役割はとても大きいと思います。ますますのご活躍を心より祈念します。
(2017年3月刊。860円+税)

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2017年8月10日

超一極集中社会・アメリカの暴走

(霧山昴)
著者 小林 由美 、 出版  新潮社

今の社会は、人々の格差が大きくなる一方です。これが絶望と社会不信を生み出しています。ある高校で、国政選挙で投票に行くかどうかを生徒にたずねたところ、忙しい、分からない、興味がないということで、誰も積極的に投票所に行くとは答えなかったそうです。ええっ、ウソでしょう、と思わず叫びたくなりました。
私はすべての選挙で棄権したことは一度もないことが自慢の一つです。選びたい人がいないときには、×印を書いて無効票を投じることにしています。
世界のビリオネア(1000億円以上の純資産をもつ人)が世界中に1810人いて、その人たちの有する純資産は、合計650兆円にもなる。日本のGDPは500兆円なので、日本の全国民が1年間働いて生み出した総所得を上回る額の純資産を2000人ほどの人々がもっていることになる。日本のビリオネアは27人。これは、世界で17位。
日本はGDPではアメリカ、中国に次いで、世界第3位だ。
アメリカでは、1980年代以降、上位0.1%の所得は増え続け、それ以下の世帯では、所得がほとんど増えていない。
アメリカのエリート大学に入る門は、ますます狭くなっている。エリート大学に入るためには、家族ぐるみの長年の努力が求められる。これは、ユダヤ系と中国系の家庭で顕著だ。
エリート大学に入るには、成績がトップクラスだというだけではなく、スポーツが得意なうえ、課外活動で得意なものがあったり、積極的なリーダーシップを発揮したという実績が求められる。だから、親は子どもが3歳か4歳のときから家庭教師をつけたり、クラブに参加させたりしている。年間300万円以上の授業料を支払って幼稚園から私立学校に通わせるのは、教師や教育内容・同級生そして家族の質に加えて、同窓会活動が活発なため、生徒の進学にも大いに役立つから。
大学4年間の教育費が30万ドル(3000万円)かかる。労働していたら得べかりし給料による所得をあわせると、大学4年間のコストを取り戻すためには10年以上かかる計算だ。アメリカでは、大学に進学する人の60%以上が学生ローンを借りていて、4300万人をこす。
アメリカの経常収支が改善したのは、石油の輸入が量・金額ともに大きく減ったことが最大の理由。
アメリカの上場企業の総数は1996年のピークに8090社だったのが、2015年に4381社と、ほぼ半減した。アメリカでの企業集中は異常に進んでいる。そして、巨大企業が、さらに巨大化している。
アメリカの医療システムは全体として救いがたい泥沼。請求書を受けとるまで、いくらの費用がかかるのか見当がつかない。とんでもない請求書が来ても払う以外に選択肢はない。病院は医療産業のなかで、もっとも立場が強いので、その価格付けは一方的。泥沼に陥らないためには、とにかく健康を維持して近寄らないようにするのが一番。あとは、たたかい、交渉する覚悟でのぞむしかない。
アメリカ国民は、富の集中や金権政治にうんざりしている。
アメリカの権力者もお金も、東海岸と西海岸を飛行機で往復するだけで、その空路の下にある大陸中央部は完全に無視され、馬鹿にされている。
絶望の先に行きのびるために・・・、とありますが、明るい未来はあまり見えてきません。ビッグデータを活用したらいいともありますが、私には無縁な話でしかありません。
アメリカの現状分析の一つとして読んでみました。
(2017年3月刊。1500円+税)

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2017年7月26日

スパイの血脈

(霧山昴)
著者 ブライアン・デンソン 、 出版 早川書房

信じられない実話です。アメリカ軍の兵士がCIAに入り、アメリカという国を守って活動しているうちに、家族(子ども)を守るためと称して、お金のためにソ連(ロシア)にCIAの機密情報を売り渡し、それが発覚して刑務所に入ったあと、今度は、その息子が父親に頼まれて同じようにロシアに父親からの情報を流して大金をもらっていたというのです。この息子もアメリカ軍の兵士でした。いやはや、スパイが父親相伝することもあるのですね。信じがたい実話です。
父親のジム・ニコルソンは1980年にCIAに入ったあと、マニラ、バンコクそして東京で勤務したあと、ブカレスト支局長に昇進した。そして、1994年、クアラルンプール駐在時にロシアの情報部員に接触し、情報を売り渡すようになった。そのあと、CIAの訓練所の教官になり、監視のためCIA本部につとめていたところを1996年に逮捕され、翌1997年に懲役23年7ヶ月の判決を受けて刑務所に収容された。
ここで物語が終わらないところが本書の目新しさです。父親がスパイとして逮捕されたとき12歳だった息子のネイサンを、受刑して7年後に、父親は獄中からロシアに連絡することが出来たのです。それほど、父子の関係は親密でした。ちなみに妻(母)とは離婚して音信不通、他の姉兄は関わってはいません。
いったい、刑務所に入れられた元スパイのもたらす情報がいかほどの価値があるものなのか、門外漢には理解できないところですが、ロシアのほうは気前よく100万円単位で息子に報酬を支払っていました。つまり、スパイを摘発したときのCIAの人事・役割分担などについて知ることはロシアにとっても有益な情報だったということです。
それにしても、CIAにはロシアに情報を売るスパイがいて、ロシアのKGBにもアメリカへ情報を流すスパイがいたというのに改めて驚かされます。いずれも、イデオロギーより、金銭目当てのことが多いようです。
本書の主人公の父親も妻と離婚し、子育てにお金がかかり、新しい女性との交遊のためにもお金がほしかったようです。
父が、子どもたちを養うためにロシアのスパイになったと高言したとき、それを聞かされた当の息子はどのように受けとめるのでしょうか・・・。
息子のネイサンは実刑判決ではなく、5年間の保護観察と退役軍人省での100時間の社会貢献活動が命じられただけだった。
CIAとFBIの関係、そしてKGBとその後身の関係も興味深いものがあります。
スパイする人、その家族、その監視をする人、その家族、いずれもフツーの平凡な家庭生活は保障されていないのですね。大変な職業であり、仕事だと思いました。だって、対象者の会話を24時間ずっと盗聴して異変をつかむのが仕事だというのって、やり甲斐というか、生き甲斐を感じるのでしょうか・・・。私にはとても我慢できませんね・・・。
人間の本質を知ることのできる貴重な本だと私は思いました。
(2017年5月刊。2000円+税)

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2017年6月21日

ヒルビリー・エレジー

(霧山昴)
著者 J・D・ヴァンス 、 出版  光文社

なぜトランプ大統領が誕生したのか。アメリカという国の内実はいったいどうなっているのか・・・。そんな疑問を真正面から解き明かした本です。それも、外から観察したのではなくて、自ら体験した事実をもとにしていますので、説得力があります。
ヒルビリーって、私は何のことやらさっぱり見当もつきませんでした。要するに、田舎者ということのようです。社会の底辺にいる白人労働者のことを、ヒルビリー(田舎者)、レッドネック(首すじが赤く日焼けした白人労働者)、ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)と呼ぶ。貧困は、代々伝わる伝統になっている。
オハイオ州で生まれ育った著者は、ラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる一帯に位置する鉄鋼業の町で、貧しい子ども時代を過ごした。母親は薬物依存症、父親は家を出ていって著者を捨てた。著者を愛情をもって育てた祖父母はどちらも高校も卒業していない。大学を出た親戚は誰もいない。将来に望みをかけない子どもとして、著者も育った。
アメリカでもっとも悲観主義傾向の強い社会集団は、白人労働者階級だ。社会階層間を移動する人は少ない。ここでは貧困、離婚、薬物依存症がはびこっている。
白人労働者の42%が親の世代よりも自分たちのほうが貧しくなっていると考えている。
努力が実を結ぶと分かっていればがんばれるが、やってもいい結果に結びつかいないと思っていたら、誰も努力しない。彼らは、敗者であるのは、自分の責任でなく、政府のせいだと考えている。白人の労働者階層は、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかも、それは日増しに強まっている。
社会制度そのものに根強い不信感をもっている。仕事はない、何も信じられず、社会に貢献することもない。
彼らは報道機関をほとんど信用していない。白人保守層の3分の1は、オバマ前大統領について、イスラム教徒であり、外国生れであり、アメリカ人であることを疑っている。
オバマのようなエリート大学を卒業し、なまりのない美しいアクセントで英語を話す人間とは、共通点がまったくないと感じている。
ヒルビリーの家庭では、ののしりあって叫び散らし、ときに取っ組み合いのけんかをするのは日常茶飯事だった。しかし、それも慣れたら気にならなくなる。
著者にとって、子どものころに辛いことはたくさんあったが、きわめつけは父親役が次々に変わっていったこと。そのため、姉も著者も、男性とはどのように女性に接するべきものなのかを学ぶことが出来なかった。
どこの家庭も混沌をきわめている。子どもは勉強しないし、親も子どもに勉強をさせない。
白人労働者階級の平均寿命は低下している。料理はほとんどしない。朝はシナモンロール、昼はタコベル、夜はマクドナルド。
ミドルタウンではショッピングセンターもさびれている。営業している店はとても少ない。
1970年に白人の子どもの25%が貧困率10%以上の地域に住んでいた。これが2000年には40%に増加した。移動できるだけの経済的余裕のある人々は去っていくので、最貧層の人々だけが取り残される。
ミドルタウンの市街地再生の取り組みは、いつだって失敗した。それは、消費者を雇用するだけの仕事がないからだ。
ミドルタウンでは、公立高校に入学した生徒の20%は中退する。大学を卒業する人はほとんどいない。彼らは将来に対して期待をもてない世界に住んでいる。自分ではどうしようもないという感覚を深く植えつけられてきた。これは学習性無力感と呼ばれている。
著者は優しい祖父母と海兵隊のおかげで、やがて自分に自信をもち、ついにはイエール大学のロースクールに入り、弁護士になりました。そして、そこで、アメリカの上流知識階層と自分の育った階層との違いを深く自覚するのでした。
すさまじい親子の葛藤が詳細に紹介されていて、そこから脱却していく過程にも興味深いものがあります。今日のアメリカ社会の真実を知るために大いに役に立つ本だと思いました。
(2017年5月刊。1800円+税)

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2017年5月10日

新しい日本外交を切り拓く


(霧山昴)
著者 猿田 佐世 、 出版  集英社

著者はアメリカと日本を結ぶ若手の国際弁護士であり、美人弁護士としても有名です。そのバイタリティーあふれる行動力には、驚嘆せざるをえません。アメリカでロビー活動をし、沖縄でシンポジウムを開き、沖縄の翁長知事や稲嶺市長が訪米するときには、アポをとってアメリカの国会議員との面会のセッティングをこなします。そして、著者は日本の新しいシンクタンク「新外交イニシアティブ」を設立し、その事務局長として、運営するのです。
著者は若くして司法試験に合格したあと、アフリカのタンザニアに渡り、難民キャンプでの救援活動に従事した。大学生のときには、「アムネスティ日本」の会員として、10年以上ボランティア活動に従事している。そして、2002年から2007年まで、日本で弁護士をして、2007年にアメリカに渡り、2009年からワシントンに居住した。そして、ワシントンで、日米外交の偏ったシステムに強い疑問を抱き、それを克服することを目ざした。
アメリカの国務省の日本部長だったケビン・メアの言葉は忘れられません。
「沖縄の人は、ゴーヤもつくれない、なまけもの」
「沖縄は、基地をつかって東京からお金をもらう、ゆすりの名人だ」
とんでもない暴言です。日本語ペラペラの人ですが、まったく日本人を馬鹿にしきっています。
訪米団の企画・同行には、考えられる、すべての手段を駆使しながら、数週間、数ケ月間にわたるものなので、体力も精神力も消耗する厳しい作業となる。
日本政府は、アメリカのシンクタンクに対して、1億円をこす大金を提供し続けている。
そもそもは影響力のない存在であったとしても、日本のメディアや政府が繰り返し「アメリカの声」として取りあげることで、日本の国会をふくむ世論に大きな影響を与えるようになる。その結果、「神話」が現実化していく。
アメリカの対日外交に関する発言には、「日本の誰かがアメリカに言わせている」のと、「アメリカ自らが言っている」という両方の構図がある。
そんな状況で、本当の日本の声をアメリカの連邦議会にきちんと反映させようとする著者の努力は大いに評価されるべきものだと思います。
私も、ささやかながらNDI(新外交イニシアティブ)に賛同しています。
(2016年10月刊。1400円+税)

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2017年5月 2日

トランプ

(霧山昴)
著者 ワシントンポスト取材班 、 出版  文芸春秋

アメリカという国は、今では理性で推測することが出来ない危険な国になってしまいました。ベルリンの壁と同じような国境障壁をつくるというのは、まさしくバカげています。そして、北朝鮮への先制攻撃をほのめかすなど、危険きわまりありません。どうして、こんなウソぱっかりの男がアメリカの大統領になれたのか、不思議でなりません。といっても、我が国の首相もアベといって、同じように危険な存在なのですが・・・。
トランプは、プライバシーを重視しない珍しいタイプの億万長者だ。
トランプは、いかに大金持ちかをアピールし、豪勢にお金をつかい、ゴシップ欄やビジネス欄としてスポーツ欄をにぎわせる。雑誌の表紙を飾り、常に自身をメディアにさらしている。
トランプは社会に出てまもないころから、自分をブランド化してきた。ブランド化のカギは、自分について書かれたあらゆる記事をじっくり研究することに始まる。トランプが朝一番にすることは、自分に関する記事の切り抜きを見ること。
トランプは若いころから、噂になるにはどうすればよいかを研究してきた。
トランプは自分の意見が正しいと信じて疑わない。自分の能力に絶対の自信をもつ。しかし、完全な知識があるわけではない。
トランプの娘イヴァンカは、正統派ユダヤ教徒と結婚するにあたって、ユダヤ教に改宗した。
トランプの顧問弁護士をつとめていたコーンは地方検事局時代に、ユダヤ人のローゼンバーグ夫妻をソ連のスパイとして死刑台に送り込んだ。コーンもユダヤ人だった。コーンが検事局に入り出世したのは、マフィアとつながっていたからだと本人が公言していた。コーンはゲイであり、のちにエイズにかかり、59歳の若さで亡くなった。
トランプはコーンを大いに活用した。トランプ・タワーを建設するときには、トランプはマフィアとのつながりを活用し、ボスの愛人のために特注の部屋を用意してやった。
トランプにとって女性は、プロジェクトや資産と同じく、成功の証だった。
トランプがつくりあげたイメージに、控え目なところは皆無だった。トランプは、自分とその暮らしぶりがどう見えるかにこだわり、慎重に「自画像」を組み立て、美しく彩り、その周囲には富の象徴としてデートの相手、愛人妻、子どもたちを配した。
公の場では、隣に必ず豪華な女性がいた。好みタイプは決まっていた。モデル、ミス・コンテストの優勝者、女優の卵。たいては典型的な美人で、脚が長く、グラマーでゴージャスな髪をしている。特権階級に生まれた女性はおらず、相手の女性は公の場では発言しない。トランプにとって、女性は常に狩りの獲物で、追い求める対象でしかない。
トランプは、常に結婚における上下関係をはっきりさせていた。
「結婚は人生で唯一、完璧でないものをオレが受け入れた領域だ」
大荒れの結婚生活にもかかわらず、元妻たちが離婚後に公然とトランプを批判することはなかった。トランプは、そうはさせなかったのだ。元妻たちに秘密保持契約にサインさせた。たとえば年間35万ドルの扶助料が打ち切られることになる。
トランプが32億ドルもの謝金をかかえたとき、銀行家は、トランプを殺すより、生かしておいたほうが良いと決断した。
トランプは、ヒラリー・クリントンへ10年ものあいだ政治献金をしていた。そして、トランプは2001年に民主党員になった。
1999年から2012年までに、トランプは、7回も所属する党を変えている。トランプは、立候補するつもりなら、友人をつくっておく必要があるからだと説明した。なんと節操のない男でしょうか・・・。最低の金持ちです。
トランプという恥知らずな金持ち男が、あたかも庶民の味方であるかのようなポーズで多くのアメリカ人を騙したツケをアメリカ人はこれから払わされることでしょうね。そのトバッチリが日本にまで来そうなのが怖いのですが・・・。
(2016年11月刊。2100円+税)

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2017年4月25日

ルポ・トランプ王国

(霧山昴)
著者 金成 隆一 、 出版  岩波新書

ヒラリー・クリントンが支配階級の一員だとして、アメリカ国民の庶民層からひどく嫌われていたことが、この本を読んでも、よく分かります。社会民主主義者を自称するサンダースが善戦したのも、そのためですよね。
それでも票数ではヒラリー・クリントンのほうがトランプを上回ったわけですが、これまで民主党を応援してきたブルーワーカー(労働者層)がトランプに幻想にとらわれて熱い期待をもっていたこともよく分かる本です。
自分たちはアメリカの特権階級から見捨てられた。ヒラリーは特権階級の一員だ。ところが、トランプは大金持ちだけど、特権階級の一員ではない。自分たちのやってやると言っている。それなら、トランプに賭けてみよう。そんな幻想に飛びついていったアメリカ人(とくに白人層に)が多かったようです。
「トランプを支持するのは、社会保障を削減しないと言ったからだ。選挙の前だけキスして、当選したら大口献金者の言いなりになる政治家(ヒラリーを指す)は信用できない」
「アメリカには不満をためこんだ人が多い。トランプにはカネがあり、普通の政治家と違って、特定の業界団体の献金をアテにせず、言いたいことを自由に言える。しかも、その声がでかい」
「昔は、民主党は勤労者を世話する政党だった。ところが、10年以上前から、民主党は勤労者から集めたカネを、本当は働けるのに働こうとしない連中に配る政党に変わっていった。勘定を労働者階級に払わせる政党になっていった」
「トランプはカネも豪邸も飛行機もゴルフ場も持っている。これ以上稼いでも意味がないから、愛国心からひと仕事をしようとしている」
クリントンは、金持ちの支持者を前にして、トランプの支持者の半数は、みじめな連中の集まりだと言ってしまった。そして、自分が「みじめな」状況にあると思いっている人々を敵にまわした。
クリントンには、エリート、傲慢、カネに汚いとのイメージが定着し、トランプは既得権を無視して庶民を代弁できるという期待が高まった。これこそ、まったくの幻想ですよね・・・。
トランプは、クリントンは「現状維持」、自分は「変化」の象徴だと一貫して主張した。「変化」ってオバマの「チェンジ」ですね。
トランプは選挙中も、そして大統領になってからも、平然とウソを繰り返している。事実が何であるかのこだわりも見せない。
これって怖いですよね。国の指導者が平気でウソを口にして、国内の隅々にまでウソが浸透してしまったら、国の行方を間違えてしまいます。アメリカ国民が一刻も早く間違った大統領を選んでしまったことに気がついて、違う選択をすることを心より願っています。先制攻撃なんて恐ろしすぎます・・・。
(2017年2月刊。860円+税)

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