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記憶と脳の探究

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 櫻井 芳雄 、 出版 岩波ジュニア新書

このジュニア新書シリーズの本は私の愛読書です。中高生というジュニア向けだからといって、もちろん手抜きなんてありませんし、ともかく分かりやすいので、超シニアの私にとっても大変ありがたいのです。

記憶は刺激や経験のコピーでも痕跡でもない。記憶は、外界の刺激や自身の経験などを情報として脳がつくる。情報は、感覚記憶→短期記憶→長期記憶という三つのプロセスを流れていくが、その間に変換され姿を変えていく。

記憶は概念ネットワークとして存在している。しかも思い出すたびににそこから再構成される。これも、記憶は脳がつくるということ。記憶は思い出すたびに少しずつ変わっていく。

何も思い出せないにもかかわらず、実は覚えているという記憶を潜在記憶という。

AIを人工知能と呼ぶのはふさわしくない。なぜなら、知能と言いながら、AIは演算を繰り返しているだけで、何も考えていないから。

初めは文法を思い出しながら意識して話していた英語が、練習すると、考えなくてもスムーズに口から出るようになる。これは陳述記憶が非陳述記憶に移行した結果のこと。

記憶細胞の存在は否定されている。格子ニューロンがつくる場所(住所)の情報にもとづいて、場所ニューロンが特定の場所を記憶し、認識する。

記憶力そのものに個人差はほとんどない。「記憶できるもの」に個人差がある。つまり、誰にでも得意な記憶と不得意な記憶があり、何が得意で何が不得意かは、一人ひとり違う。

私は記憶力が良いほうだと思ってきました。歴史は日本史も世界史も好きで、得意でしたから、よく覚えられました。ところが、私は歌の歌詞を覚えることが全くできません。何ひとつとして歌詞の全部を覚えているものがありません。これは私が音痴で、歌うのが好きでないことに関係していると思います。人の名前も覚えられません。でも、顔は覚えられます。すると、知っている人なのに、その名前が出てこなくて、本当に困ることがしばしばです。

自閉症というのは、他の人や周囲の状況を正しく認識できないという先天的脳の障害。ほとんど学習障害をともなう。映画「レインマン」は私もみましたが、非常に心うたれる映画でした。

記憶をつくると脳が変わる。しかし、記憶で脳がどのように変わるかも、一人ひとり違う。

脳の大きさや重さや形態と脳の能力は関係がない。能力を決めるのは、外側からは見えない脳の中の神経回路の働き。

年齢(とし)をとっても、記憶は脳を変えていく。新たなニューロンが生じる神経新生(しんせい)は、80歳の脳でも生じる。

紙の本よりもデジタル教材を使うほうが学習の成績が悪くなる。紙の本だと、どこに何が書かれていたかという場所の視覚的イメージを記憶できるのに対して、パソコンの画面は自由に動いてしまうのでそれが出来ない。記憶術の一つに場所記憶法がある。

学業成績には遺伝の影響は大きい。しかし、すべてが遺伝で決まっているわけでもない。育った家庭環境や本人の努力も、けっこう影響する。遺伝だけで脳の神経回路をつくることは、まったく不可能。生後の学習などの経験でつくっていくことが必要。

大変勉強になりました。一読をおすすめします。

(2026年1月刊。968円)

時間とは何か

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 池内了 、 出版 ちくま文庫

時間とは不思議なもの。刻々と過ぎ去っていくのを実感しながら、ときには止まって欲しいと願い、ときに早く過ぎて欲しいと望むことがある。

親から叱られている時間はわずか3分間であっても、30分間にも感じられる。一方、体を動かして遊んだり楽しんでいるときは3時間か30分間としか感じられない。

子供のころは一日が長かったのが、年をとるにつれて一日が短く感じられて仕方がない。

タイムマシンに乗って過去にさかのぼることが出来るとしたら、自分の親たちの出会いと結婚を止められたり、親を殺してしまうことができる。となると、自分は生まれないことになってしまう。それは明らかにおかしい。

アインシュタインが発見した法則によると、非常に速く動く物体の時間は遅れる(つまり、ゆっくり進む)。運動によって時間の流れる速さが異なっている。

アサガオは7月になってから、つるをニョキニョキと伸ばし、花を咲かせる。夏至(6月21日ころ)が過ぎて昼間の時間が短くなり、夜の時間が長くなると花が咲きはじめる。アサガオは昼の時間を測っているのではなく、夜の続く時間の長さを測って花を咲かす。夜の時間が長くなるのを知ってから花を咲かせる。

人間のからだのリズムは、多くが25時間の周期。真っ暗闇のなかで人間の体のリズムを調べる実験によって、人体のリズムはほぼ24時間。人による差異は、せいぜい30分ほど。つまり、人間は地球の自転周期、つまり一日の長さにあわせた時計を内部にもっている。

時間って、つくづく不思議なものですね。私も弁護士生活50年以上になりますが、振り返ってみると、まさに、あっと、いう間です。絵入りでもあり、とても面白い本でした。

(2026年1月刊。880円)

拉致(上)

カテゴリー:朝鮮

(霧山昴)

著者 高世仁+NK917 、 出版 旬報社

拉致は北朝鮮という国家が主導した犯罪であり、今なお問題が解決していないのは、ひとえに北朝鮮に責任がある。同時に、日本政府の姿勢にも疑問がある。拉致被害者である2人の日本人男性について生存しているとされているのに、日本政府は2人に面会を求めたりすることもなく、「見殺し」している。いやあ、これは知りませんでした。いかんでしょう、それは…。日本政府には日本人を守るべき義務があるのです。「見殺し」ではいけません。

横田めぐみさん(当時13歳)が拉致されたのは1977(昭和52)年11月15日のこと。私は弁護士になって3年目で、郷里に戻って弁護士を始めた年です。

中学1年生で、バドミントン部の練習を止めて帰宅していた6時30分ごろ、突然、行方不明になりました。海岸まで300メートルという近さですが、その海岸から船で運ばれたというより、車に乗せられてどこかに運ばれたあと、船に乗って北朝鮮に向かったと著者は推測しています。

めぐみさんは、北朝鮮に着いてから、ずっと泣き通しだったようです。そして、指導員から、朝鮮語がうまく出来るようになったら日本に帰れると言われて真面目に勉強に励んでいました。しかし、18歳のころ、日本に戻ることはあり得ないと知らされ、精神状態がおかしくなったのです。いわゆる「気が違った」のでしょうね。よく分かりますよね。13歳の勉強もスポーツもよく出来る女子が突然、見知らぬ国に一人ぼっちにされたのですから、気が狂わないほうが不思議です。

それでもめぐみさんは21歳のとき結婚しました。結婚記念写真が紹介されています。相手の男性は、なんとこれまた韓国から高校生のときに拉致されてきた人でした。めぐみさんは娘を産んだあと、再び病気がひどくなったようです。それでも、娘が1歳になったお祝いの写真も紹介されています。めぐみさんも幸せそうにうつっています。めぐみさんが生存していることが両親に伝えられたのは、失踪してから20年後のことでした。

当時の北朝鮮には日本人を拉致していることに罪の意識はなかったとのこと。これは、あたかも統一協会(文鮮明が教祖)が、日本は悪事ざんまいしてきたから、韓国に賠償するのは当たり前のことという説教をもっともらしく信者に押しつけ、大金を巻き上げてきたのと同じです。「朝鮮の統一事業のために日本人が犠牲になるのは当然のこと」そんな意識でした。

めぐみさんの生存を確信にまで高めたひとつが、めぐみさんにほくろがあるということでした。それは両親も気がついていない娘の顔の特徴だったのです。子どものころと大人になってからのめぐみさんの写真が同時に紹介されています。なるほどと納得できる写真です。それにしても本当に可愛い女の子でしたし、美人です。

めぐみさんは精神的に病んだうえ、2度も招待所から思いつきの脱走を図ったようです。もちろん、北朝鮮社会で脱走が成功するはずもありません。入院という名の隔離をされたのでした。めぐみさんが自殺したのは本当のようです。

めぐみさんの「遺骨」と称するものが日本側に渡されたなかに歯がまじっていた。しかし、火葬場で遺体を焼くと、歯は溶けてなくなってしまう。なぜ、歯が残ったというのか…。

北朝鮮は拉致被害者のうち8人が死亡していると発表。死因は、ガス中毒、交通事故、心臓マヒ、自殺とされている。しかし、その証明書は、みな「六九五病院」の発行なもの。

北朝鮮は、拉致した日本人を工作員として養成しようと考えていた。同じく13歳で拉致された日本人男性は今も北朝鮮で家族とともに生活している。北朝鮮で幹部となり、日本にも何回もやってきているが、もはや家族のいる北朝鮮を生活の本拠として定着している。この男性と同じように出来ると北朝鮮は考えていた可能性がある。

いやあ、知らなかったことがいくつも出てきましたので、大変興味深く読み通しました。下巻も楽しみです。

(2026年3月刊。2860円)

将軍の都の客人   

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)

エイミー・スタンリー  みすず書房

これはすごい本です。アメリカ人の学者(女性)が江戸時代末期に生きた名もない庶民の女性の生活を、その書き残した130点ほどの書状をもとに再現していった本です。よくぞこれだけの書状が残されたものだと感嘆しますし、それを学者とはいえ、背景の時代状況を踏まえて再現、解読していくのですから、面白くないわけがありません。それほど書状が残ったのは、実家がお寺だったことも大きいと思います。

越後国石神村のお寺(林泉寺)の住職の娘として常野(つねの)は生まれた(1804(文化1)年春に)。常野は折々に実家へ手紙を送ったが、受け取った父親と兄弟たちは、その手紙を全部、文庫箱に納めて大切に保存した。今は、新潟県立文書館に納められている。

常野は越後の林泉寺を出奔し、江戸で女中奉公を重ね、江戸に定着した。

常野が亡くなったのは1853年5月13日。ペリーが江戸に出現したころのこと。

常野の最後の夫となった博助の主人は江戸町奉行・遠山景元(金四郎)でした。常野はそれまでに三度結婚しているが、申し出を断った相手の男性は5人いる。江戸時代は、結婚も離婚も今よりは簡単だったようですし、再婚も十分可能だったのです。夫に甲斐性がないとみれば、女性はさっさと愛想を尽かして離婚していました。

常野が三度の結婚に失敗したということは、つまるところ従順なタイプではないことを表わす。

越後での結婚にはそれなりにお金がかかっています。婿の実家は、嫁入り支援用に15両を嫁側に渡していますし、結婚式には庶民が23人もやってきて、6斗の酒を空けたようだ。鯨肉1キロ、大きな豆腐8丁、そして漬けたりゆでたりした大根を客たちはたいらげた。

常野の一番初めの結婚は13歳のとき。新郎は大石田にあるお寺だったようです。15年を辛抱して離婚し、いったん実家に戻った。

新潟での江戸時代の農村の生活、そして江戸へ出てからの女中奉公の実情が手紙文の紹介とあわせて詳しく語られています。とても勉強になりました。やはり、日本の女性は江戸時代もたくましく生き抜いていたのです。

この本には、武陽隠士の『世事見聞録』が紹介されていますが、私はあわせて明治時代に熊本の農村に入って実情を紹介した「須恵村の女たち」を思い出しました。

面白い本なので広く読まれてほしいと思います。ご一読ください。

(2026年3月刊、3740円)

塀のむこうには誰がいるのか

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 山岡あゆち 、 出版 旬報社

東京大学での学生向けの講義が再現されている本です。

日本の治安について、多くの日本人が、もちろん学生も、悪化していると考えている。しかし、統計を見ると、明らかに現在の日本は国際的に見て犯罪が少ない国。刑法犯の認知件数は、25年も前の2002年の285万件をピークとして減少している。2021年に底をうち(その後少しだけ上昇)、2024年に73万件となった。人口10万人あたりの殺人発生件数は、アメリカ6.8件、ドイツ0.8件に対して、日本は0.2件でしかない。たしかに、私の住む地方都市では、かつて暴力団同士の抗争事件のときは殺人事件が頻発していましたが、このところ滅多にありません。私が被害者国選事件を担当するのも、年に1件か2件です。被疑者段階の国選事件はそれなりにありますが、スーパーやコンビニでの万引事件(被害額はせいぜい数千円)とか、飲酒運転とかが大半です。

犯罪をおかして刑務所に入るのは、検察が受けつけた事件の2%にも達しない。少年の場合、保護処分を受けるのが全国で年間15万人ほどで、少年院に入るのはこれも、以前に比べて5千人超。激減した。かつてのような大型の集団暴走族事件というのか今は見かけません。

非行に走った少年の心を理解するのは専門職でも困難なこと。なので、話を丁寧に聞いて、できるかぎり想像しようとする姿勢が大切。

少年院の在院期間は1年程度が多い。小さい時の逆境体験を(心理的な虐待とか)もつ少年が多い。また、2割以上は発達障害と診断されている。さらに6割が能力指数「70~89」で、境界知能(70~84)が多く含まれている。IQ69以下(知的)障害をもつ少年も13%いる。

面接する側にとって大切な姿勢は、犯罪・非行という「行動」は許容しないという、法を守る社会の一員としての姿勢をもちつつ、犯罪・非行「行動」の裏にある思いや気持ちに関心を向け続けること。すると、彼は「この目の前の大人は、自分のことを一生懸命に考えようとしている。自分の気持ちを理解しようと努力している。この人の言うことには、自分にとって意味があるかもしれない」という信頼感をかすかに持つようになる。これを治療的信頼と呼ぶ。

少年たちが投げかける問いは、内的不適応に陥るなかで積み重なった悩みや葛藤の地層からにじみ出てきたもの。問いを投げられた人は、すぐに答えの出ないことの、もどかしさや苦しみに耐えながら、考え続け、悩み続ける。この姿勢を示すことが、少年にとってひとつのモデルとなり、自分が即答できない問題に直面したとき、犯罪行動ではない、別のやり方を学ぶことにつながる。なるほど、これって。よく分かります。

少年は「分かった」と言う人は、嫌いだと言うことがある。分かったつもりになっているだけで、少年の思いのすべてを想像することは出来ない。

検察庁が終局処理した79万人のうち、刑務所に服役したのは1万4千人、1.8%でしかない。刑法犯全体の検挙率は38.3%(2024年度)。検挙率は殺人は96%、強盗91%、放火86%、不同意性交等77%。

5年以内の再犯率は仮釈放で28%、満期出所だと45%。入所する受刑者の過半数は、再入所者。その半数は2年以内に戻ってくる。だから最初の2年間をどう切り抜けるかが再犯防止の成否を分ける。

犯罪被害者に対して、「強くなりなさい」とか「早く忘れて」などと安易に励ましの言葉をかけると、傷つけることになるかもしれない。

被害者支援の相談員にとって大切なのは、受容、共感、傾聴。

刑務所の入所者の高齢化が進んでいる。65歳以上が男性で15%、女性は27%。刑務所に複数回出入りしている人は男性で55%、女性でも48%と、半数ほどいる。

刑務所で何も考えずに規則正しい生活を送っては、刑務所には適応するだけで、実社会に適応するのを難にする面がある。

厳罰化では問題は解決しない。実社会に出てきて、隣に住むかもしれない人たちなのです。社会全体がもっと寛容になることが、本当に必要なことではないかと私は考えています。

(2026年3月刊。2200円)

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