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カテゴリー: 生物

カムイのフクロウ

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 早矢仕 有子 、 出版 東京大学出版会

北海道のシマフクロウは個体数を回復させつつある。それは地道に継続してきた保護活動の成果だが、特にシマフクロウ自身の強い生命力と適応力の賜物(たまもの)。

世界には、240〜260種のフクロウ類がいる。すべての種が捕食者(ハンター)。日本のフクロウは9種。

北海道のシマフクロウの記録は江戸時代からある。「北海道」の名付け親として有名な松浦武四郎がアイヌの暮らしを描いたなかに、シマフクロウの幼鳥2羽にエサを与えて育てている様子が紹介されている。フクロウは神聖な鳥として大切にされてきた。

フクロウは、270度以上も首を回すことができる。それは頸椎を構成する骨が、哺乳類の7個に対し、14個あること、首の血管が多いことなどによる。

フクロウの両眼の位置は、捕食者としての生き方を象徴している。

シマフクロウは魚類やエゾアカガエルを捕食する。シマフクロウのあしゆびの内側には、ボコッと盛り上がる突起があり、一度つかんだ魚を逃がさない仕組みだ。

オスとメスの鳴きかわし。オスが「ボーボー」と呼びかけ、メスが「ウーウー」と応える。オスの低い声は1キロメートル先まで響きわたる。

シマフクロウの卵は白色で、鶏卵より一回り大きな球形に近いずんぐり型。

大きな魚を2羽のヒナに与えるとき、交互に分けることができる。大きなエサをちぎってヒナに与えるのは、メスだけの行動。オスはヒナが受けとってくれないと困ってしまう。

巣立ちヒナは、キツネの餌食になることがある。

ヒナは巣立ったあとも1年内は親の行動圏内で過ごす。満1歳になったオスは4月までに出生地を後にする。満2歳になると、子はオスもメスも親元を離れる。ただし、メスの子は、出生地はいつまでも帰れる仕組みになっている。

シマフクロウは、巣づくりをしない。巣材を運び込むこともない。天然樹洞の底敷そのまま産卵する。

個体を保護するには、交通事故や感電事故を防ぐ必要がある。

餌付けは採餌能力の欠如を生む危険がある。なるほど、ですね。安易に人間がエサをあたえるのは良くないのですね…。

シマフクロウは、魚類が豊富な河川とその周辺に広葉樹の大径木を含む天然林を必要とする。つまり、河川と森をつなぐシンボル的生物である。

大変勉強になった本です。

(2026年4月刊。3520円)

家に帰ったらクマがいた

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 米田一彦 、 出版 PHP新書

最近、アーバン・ベアといって、野生のクマが町を歩きまわることが起きています。宇都宮では民家の庭にツキノワグマが、札幌市内をヒグマがうろうろしていました。恐ろしいです。

どうして、こんなことが起きるのか、日本ツキノワグマ研究所の所長のような著者が解説してくれる本です。実際にクマと出あったときはどうしたらよいのかも教えてくれました。なにしろ著者はクマに9回も襲われて、無事に生還した体験 の持主なのです。信じられない体験談です。これまでの50年間にクマに3000回以上は遭遇し、9回も襲われたのです。50年間というので、ひょっとして…(私が生きた50年の)と思うと、やはり私と同じ団塊世代でした。

クマが食事をしているときは興奮しているので、襲われると危険。また、母グマは、子グマが他のオスグマに襲われないように常に警戒しているので、子グマを見たら、近くにいる母グマに警戒されないようにする。

クマと出あったら、なるべく動かない。うひゃあ、こんなこと出来ますかね…。

著者の活動する西中国山地には、クマは800頭(2025年)。これは適正な頭数。

クマは暑いときは(体を動かさず)凶作の年は早々に エサの確保をあきらめ冬眠に入る。寒いほど、深い眠りに入る。

クマの2歳子は、活発で好奇心が強く、向こう見ずで、走り回って移動し、クマの生息域を広げる開拓者。 いやあ、これって人間の2〜3歳児と同じですよね…。

メスグマは、定着性がきわめて強い。

夏になると、クマはブユに悩まされ、とくに肌が露出している耳の縁をかまれ続けるので、耳かきに忙しい。

クマは、山中を歩く際は鼻先を地面に近づけているが、これはマムシ対策のためでもある。

1歳グマは「山に帰る」ことができない。山すそには、2〜4歳の若グマと母グマが占拠していて、弱い1歳グマが入る余裕はない。

クマは7メートルほどが臨界点。クマがいたら、立ち木の陰に隠れてじっとしている。これを「木化け」という。

メスグマは25歳までは出産する。20歳をこえると毛の赤みが強くなる。

クマは弱ると、腰回りに顕著に症状があらわれ、足腰がふらつく。クマは山中で他のクマに食べられるか、里に出るしかない。

クマは実のところ、小心翼々と生きている。クマは昼寝する。

うしろ足を上げて排尿するのは、オスのクマ。腰を下ろすのはメス。

トラクターが走り回る大農場は、大グマが近寄らないので、若いクマにとっては安全な場所。

クマと突然出あったら、正対しながら後ろに下がるのが一番。

たまに山歩きする私ですが、九州にはクマはいませんので、安心しています。でも、イノシシとハチは怖いので、用心しています。大変面白い本でした。

(2026年4月刊。1320円)

鶏まみれ

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 繁延あづさ 、 出版 亜紀書房

食鳥処理工場に働いていた人の話を聞いたことがあります。 毎日毎日、食べるためとはいえ、生きているニワトリの首を包丁でどんどん切っていくのが、どうしても耐えられなかったというのです。 私もその気持ちが分かりました。

目の前のニワトリをさっと殺すことだけに集中し、ただただ左手と右手を動かしつづける。 首を切ったニワトリは右へと流れ視界から外れていくが、左からはまだ生きているニワトリが視界に入ってくる。 血が噴き出す一瞬を見届けたら、目はすぐに左からくる次のニワトリへ向かうようになった。 それが果てしないほどに続く。

ブロイラーを養成する飼育場に入ったこともあります。 全自動です。 エサも水もみんな自分たちで食べて飲めるようになっています。 まさしく工場です。 エサはアメリカから輸入している配合飼料でした。

歯のないニワトリは砂肝の中でモグモグするために小石が必要で、ふだんから小さなものを飲み込む習性がある。 そして、この砂肝は1羽にひとつしかないので、貴重。

ニワトリは夏の暑さに弱い。 

ニワトリの内臓を取り出す工程を中抜きと呼ぶ。 ニワトリの内臓は美しい。 肝臓はワイン色、キンカンはオレンジ、肺はピンク、脂はイエロー、胆のうは濃いグリーン。 ええっ、キンカンって何……。 キンカンは卵の黄身が大きく連なっているもの。 思い出しました。 私が小学生のころ、ニワトリを飼っていました。 ときに父がニワトリをさばくのです。 内臓をさいて開くと、卵が大小つらなっているのでおどろいたものです。 卵のカラはあとになって覆うのです。

ニワトリのオスは向かいあって直接対決する。 メス同士は戦うことはない。 ただし、序列を決めるために、うしろからつつく。 

著者の家で飼っているのは採卵のためのニワトリ。 著者が働いた食鳥処理場は肉用ブロイラー。 なので、鶏種が違うし、育てる環境も違う。

ニワトリの産卵開始は生後半年後。 あたたかい季節に、前もってヒヨコを入れておく必要がある。

オス同士は、戦うときは戦うが、それ以外のときは、別に険悪な関係ではない。 互いに羽づくろいする仲むつまじい光景もある。

ニワトリは春になると卵をよく産むようになる。 つまり、ニワトリの卵にも季節がある。 

親鶏は、肉質は硬くなるけれど旨味は増し、ダシもよく出る。 鶏飯は親鶏を余すところなく使う料理なのだ。 

少し前に、豚を飼って大きく育て、そして食べた経過を紹介した本を読みました。 とても美味しかったそうです。 そして、著者の他の本、『山と獣と肉と皮』、『ニワトリと卵と、ぼくの思春期』も読みました。 いつも考えさせられながら、楽しく読んでいます。

(2026年7月刊。2420円)

地球内生命

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 カレン・G・ロイド 、 出版 みすず書房 

深海まで潜っていく潜水艇に乗ると、地球の表面とは違った世界に遭遇するはずだ。深海底は思ったより、にぎやかなのだ。

海中では、人間が溺れるくらいあっという間に衛星の信号が 減衰するため、GPSは使えない。潜水艇の投光器では、深海の暗闇に太刀打ちはできないので、周囲数mを照らせるのみ。

地下深部には、すきまからのメタンがプレート運動や侵食によって生じた亀裂を通じて、ぷくぷくと湧き出ている。メタンは、この不毛の地で唯一の高エネルギー食なので、生物が群がっている。

地下生物のほとんどは、地上に見られるいかなる生物とも、まったく異なる。地球の地下は、生物が多細胞であることや、酸素を利用することに固執しなければ、すみやすい場所なのだ。

地球上のあらゆる堆積物は、常に微量の放射性を放っている。微量なので人体に害はないが、水を分解して微生物を養うほどにはある。

一部の地球内生命は、少しずつ酸素を生成している。

地球の生命は、38億年を無為に過ごしていたわけではない。せわしなく進化し続けていた。

地球の生物多様性の大部分は、微生物が担っている。

PHがゼロに近い環境下でも微生物は生きられる。地下については、高PH環境はありふれている。初期の地球では、特にそうだった。

地球最古の同位体化石は38億5千万年前のもの。生命誕生後の数十億年間、地上には微生物しかいなかった。地球が誕生してから、最古の同位体化石が出現するまで、7億年近くたっている。地球は45億年前に誕生したが、岩石の年代は38.5億年前までしかさかのぼれない。

地球の表面は、プレート運動によって、絶えず造り変えられている。

永久凍土にも微生物はいる。地表の炭素の多くは、永久凍土に貯蔵されている。永久凍土が融解したら、地下の微生物が代謝を活発化させ、この土壌中の炭素を気候変動を悪化させるメタンや二酸化炭素に変えてしまうかもしれない。現在、永久凍土に1600ペタグラムの炭素が隔離されている。この数値は大気に含まれる炭素量の2倍に相当し、もしすべてが気体になれば、破滅的な影響が出る恐れがある。

炭素を地下に戻すと共に炭素を掘り出すのをやめる必要がある。

海底にある多金属団塊の採掘が大規模な産業に発展したら、海底の莫大な量の泥が海面に漂い、表層から暗くなり、光合成プランクトンが死滅し、海洋生物に害が及ぶ。すると、海の豊かな生命は生きられないし、人間の生活も成り立たない。結局、地球と人間の生存に破滅制的な影響が及ぶことになる。

恐ろしいことです。しっかり危険性も認識することができました。

(2026年4月刊。3700円+税)

善良なウィルス

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 トム・アイルランド 、 出版 文藝春秋 

本書の主役はファージ。細菌に感染して自己複製するウィルス。正式には、バクテリオファージ、細菌を食べるもの、と呼ばれる。

ウィルスは、実に多様で、その大半は人間に無害。それどころか、ファージは、細菌に自らのDNAを注入し、その細菌細胞内で無限に潜伏するか、激しく増殖して細菌を破壊させ、そして人間を助けてくれる。

以上は、末尾の「訳者あとがき」を抜き書きしたものです。

ファージの大半は、尾を持つファージだ。カプシドと呼ばれる正20面体の不気味な頭部とタンパク質の管(テール)を持ち、それを小さな注射器のようにして、不運な宿主に自らの遺伝子を注入する。

ヒトが呼吸する空気中の酸素の20%は細菌が生成したもの。

地球上には、10の31乗もファージが存在すると推定されている。これは地球上の砂1粒あたり1兆近くのファージが存在するということ。

独ソ戦のなか、最大の激戦地だったスターリングラードで、ソ連の女性医学者が、毎日5万人の兵士と市民に投与できるほど大量のコレラ治療用ファージ混合物をつくっていたとのこと。初めて知りました。

ガンジス川の水は抗菌効果を持っている。煮沸しないガンジス川の水は、3時間以内に、コレラ菌を死滅させる。ええーっ、これって本当のことなんでしょうか…。信じられません。

ウィルスは群を抜いて豊富な生物学的存在。熱帯の海水1リットルに存在するファージの数は、世界人口より多い。

地球上のあらゆる環境において、ウィルスの数は、宿主である細菌の数を圧倒的に上回っている。

地球の歴史の大半を通じて、つまり40億年前に化学反応から生命が生まれて以来ずっと、生命はウィルスのスープに浸ってきた。ウィルスは、進化の主な原動力だ。

ウィルスは、ときどき細胞を殺す。しかし、細胞はウィルスからたくさんの、非常に重要な情報を得ている。あらゆる種類の細胞はウィルスを必要とする。

結核やコレラなどに対するファージ療法は、グローバル・サウスにとって特に有望だ。

条件がそろえば、フラスコの中で数個のファージが一晩で何兆個にも増える。

末尾に、ファージ図鑑があります。電子顕微鏡を通して見るファージの姿は千差万別であり、いかにも奇妙天烈です。これを見るだけでも、生命界の奥深さをちょっぴり実感できます。

(2025年11月刊。2700円+税)

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