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カテゴリー: アメリカ

盗まれた誇り

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者A.R.ホックシールド 、 出版 岩波書店

石炭産業の空洞化が生んだ、男性たちの誇りの空洞化…。喪失を埋めたのは、アルコール、薬物そして政治だった。これが、この本のオビの文句です。

なぜ、どうして、あんな野蛮な王(キング)として振る舞う男をアメリカ人の半数が支持するのでしょうか…。私にはとても理解できません。でも、日本のタカイチだって同じです。なんで、あんな低劣な人間を日本人の半数以上が支持しているというのか、私にはまるで理解困難です。

タカイチって、夫婦別姓に反対し、女性天皇を許さず、高齢者と病気の人と生活保護を受けている人を切り捨て、軍需産業とアメリカのためには惜しみなく税金を使いまくっているじゃないですか、私は絶対に許せません。

今日では、多くの白人貧困層(プアー・ホワイト)が共和党のトランプに惹きつけられている。

炭鉱のあったアパラチアでは、人々は連邦政府に不信感を抱いている。そして、「強いリーダー」を求めている。

2008年から2017年までのあいだに、民主党支持者の多い下院選挙区では世帯年収の中央値が5万4千ドルから6万1千ドルに増加した。共和党支持者の多い選挙区では、逆に5万5千ドルから5万3千ドルへ減少した。

地方部の貧しい白人層は、もっとも学歴が低く、都市部の貧しい黒人層よりも悲劇的である。アメリカでは、支持政党に関係なく、貧しい人も富める人も同じく、個人の経済的運命は、本人に責任があると考えている。富める人も貧しい人も、成功するか失敗するかは、個人次第だと考えている。しかし、現実には親の所属する社会階層(階級)に大きく左右されている。

炭鉱がなくなり、仕事がなくなると、かつて労働者と民主党を結びつけていた労働組合がおおむね姿を消してしまった。

父親としての存在感が幽霊のように希薄だと、そんな家庭環境に育った男の子は、自分を「失敗者」だと感じながら成長する。

白人は被害者であり、リベラルは加害者と認識している。

アメリカでは、大変多くの白人が刑務所で一時期を過ごした経験をもっている。ケンタッキーの受刑者の比率は、10万人あたり993人(1%に近い)。全米では10万人あたり664人。イギリスでは129人、カナダでは104人。受刑者の大半は、いつか釈放されるアメリカ市民だ。

国全体でみると、貧困状態にある人の割合は黒人の26%に対し、白人は9%にすぎない。黒人世帯の資産は、白人世帯の12%であり、富の格差は1968年から少しも変わっていない。

日経新聞に、アメリカの若者に共産主義に共鳴する人が増え、少し世代が上だと、社会主義を支持する人が増えているという大きな解説記事がのっていました。

45歳から54歳までの、働き盛りの白人死者数が予想以上に増加している。おもな死因は薬物の過剰摂取、自殺、アルコール性肝障害。これによって60万人もの人が亡くなった。とくに大きな打撃を受けたのが大学卒の資格を持たない白人の男性労働者だった。彼らは、ひとりまたひとりと、孤独のなかで恥にさいなまれて死んでいった。1999年から20年間に、全国で100万人が薬物の過剰摂取で死亡した。

トランプこそ神の使者とみなす考え方が共和党を支持する地元の男性聖職者たちに共有されている。

トランプを「われわれの後に立つ」と考えている。トランプをよいガキ大将とみる、恥を撃退する最強戦士のイメージでトランプをとらえる。

トランプ支持がアメリカの暗部に深く根をおろしている残念な現実を知ることができる本です。

(2026年3月刊。3960円)

アメリカ、崩壊の地をゆく

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 國枝すみれ 、 出版 毎日新聞出版

どうして、あんな国際法も国際憲章も無視するトランプをアメリカ人の半数が信奉しているのか、私には不思議でなりません。といっても、わが日本にも高市早苗の熱烈信奉者がいるわけですから、お互いさまだと言われるのでしょうね。

今やアメリカ人は何を信じてよいのか、分からなくなっている。 それを可能にしたのは、レガシーメディアの衰退とニュース源の分断化。コロナ禍のワクチン強制接種やロックダウンで強まった政府職権乱用。 それを支えるすべての制度に対する不信感だ。

2021年1月6日にアメリカで起きた連邦議会襲撃事件は、アメリカの民主主義は不滅であると信じていた人々にとって大きな衝撃だった。この事件で逮捕された人数は1600人で、1000人以上が有罪判決を受け、数百人が収監された。

ところが、刑務所に入っていてもトランプが再選されて、恩赦によって出所してもいるのです。そして彼らの多くは反省していないようです。恐ろしいことです。

FBIの工作員が議会襲撃を組織していたという陰謀論もあるそうです。

共和党はMAGAという怪物を制御できず、MAGAの奴隷になった。ネバー・トランプという、トランプだけには絶対投票しない共和党員もいるとのこと。でも多数派ではありませんね。   

トランプ支持者は、本来は共産主義者(コミュニスト)なのが共和党員のふりをしている名ばかり共和党員がいるといいます。 とにかく民主党はコミュニストに乗っ取られていると…。 あれまあ信じられません。

イーロン・マスクって、大富豪であり、大統領選挙不正論を拡散していた一人です。

アメリカでは、投票用紙の回収と開票作業は必ず民主共和両党の党員2人で実施するので、不正が起こるはずもない。なのに、今なお、トランプはバイデンに勝っていたと主張する人がいるのです。信じられません。

世界中から不法移民がアメリカに押し寄せる状況について、トランプは「我々は世界のゴミ箱になっている」と言い、「彼らは人間じゃない」「彼らは、この国の血を汚している」と、露骨な人種差別発言を繰り返した。

アメリカ人は自分が同意するニュースしか見ない。 嫌いなものは同意しない。 いやあ、これは最近の日本でも同じことです。 インターネットがますます促進していますよね。

アメリカ人は「隣人を助けろ」ではなく、「自助努力しろ」と言うようになった。 多くのアメリカ人が、「隣人を助ける余裕はない」と思っている。 お互い助け合うよりも、救ってくれる誰かを待っている。

移民の犯罪率は、アメリカ生まれの住民に比べて、ずっと低い。警察に捕まって強制送還されることを恐れるからだ。

アメリカ人は、キャッチーな言葉に引きずられていた。体系的な情報や事実を重要視しなくなった。アメリカ人は、井の中の蛙状態。しかも、ゆでガエル。

アメリカのメディアは細分化しているだけでなく、ひどく劣化している。多くの人にとって、自分が視聴しない媒体で流れるニュースはこの世に存在しないも同然。

インフルエンサーは、金と影響力の確保が目的。

社会の分断を深める最大の要因は、情報エコシステムの細分化とニュース源の分断による。 ニュースをどこから得るかは習慣で決まる。いわば癖。

アメリカを強行取材してきたルポです。 その対象は主としてMAGAの人たちです。 日本と似た状況もありますが、アメリカは銃を手にする人が多いので、日本よりはるかに危険だと思います。アメリカを駆け巡った著者の勇気に敬意を表するばかりです。

(2025年12月刊。2090円)

社会主義都市ニューヨークの誕生

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 矢作 弘 、 出版 学芸出版社

 素晴らしい本です。わずか180頁ほどの本ですが、中身がぎっしり詰まっていて、読み進めるほどに勇気と確信が湧いてきました。 被疑者国選弁護人として、警察の留置場前の廊下で、前の弁護士2人の面会が終わるのを待ちながら読みふけり、自宅に持ち帰って読了しました。すっきりしました。爽快な気分になりました。

 アメリカのトランプ大統領が、ベネズエラに続いてイランを攻撃して、国際法を平然と破っているのに、日本の高市首相は批判もしない。同じ日本人として恥ずかしい限りです。でも、今や諸悪の根源はアメリカ、そしてトランプです。プーチンのウクライナ侵攻を非難する日本政府がトランプのベネズエラとイラン攻撃を批判できないなんて、許せません。

ところが、そんなアメリカにも希望はあるのです。34歳のイスラム教徒で、両親がインド系である青年がニューヨーク市長になるなんて、トランプが毛嫌いしたのも当然です。でも、マムダニ市長は当選してまもなく、ホワイトハウスを訪れ、トランプに会って、政策実現への協力を少なくとも表面上、取りつけました。トランプはマムダニ市長と会見したあと、なんと、「素晴らしい市長になるだろう」と言って協力を約束したのでした。それを言わせるほどの素晴らしい人柄だということですよね、きっと。

 この本を読むと、マムダニが市長選挙で公約したことは、彼が初めて言い出したことではないことがよく分かります。それは、ニューヨークの家賃の凍結、市内を走るバスの無料化、保育料の無料化などです。ニューヨークは家賃がべらぼうに高いのですね。収入の半分を家賃の支払いにあてている夫婦が少なくないのです。家賃が30万円もしたら、それはそうでしょうね。東京も都心だと同じでしょう。

 そこで、マムダニは家賃を統制できるアパートの大量建設を打ち出しました。これもなかなか大変と思います。そして、バス運賃の無償化。バス会社の収入減は、ニューヨーク市の財源から補填(ほてん)するのです。さらに、高い保育料を払えないため、若い夫婦はニューヨークに住めない。そこで、保育費を無償化する。財源は金持ちに課する税率を引き上げる。

 そんなことをしたら、金持ちはニューヨークを逃げ出してしまい、結局、税収増にならないという批判があった。しかし、現実には少しの税率アップで逃げ出すような金持ちはいなかった。やはり、ニューヨーク市のほうが教育・文化施設が充実していて、似た境遇の共同体も存在するので、そこから離脱はできないのだ。

 マムダニ市長について、日本のマスコミは「急進派左派市長」と決めつけるが、その実体はヨーロッパの社会民主主義レベルのリベラルである。

若いリベラルな市長は、ニューヨークだけでなく、シアトル、ボストン、シカゴ、アルバカーキ、デトロイトなどにもいるようです。地方からアメリカは変わりつつあると言えるようです。頼もしい限りです。日本でも、かつて、革新自治体が全国に続出したことを思い出します。

 マムダニは、古い6階建の家賃管理アパート(賃料が月2300ドル。これは平均より安い)に住んでいる。車を持たず、地下鉄とバスで移動する。

マムダニの父親はコロンビア大学の教授で、息子にこう言った。「私はウガンダ(アフリカ)ではインド人だった。インドではウガンダ人だった。アメリカでは、その両方。でもマイノリティだからこそ見える世界がある」

母親はインドに生まれ、ヒンズー教徒で、映像作家として著名。

市長選挙では10万人ものボランティアが、160万戸以上を戸別訪問し、200万回以上の電話作戦を繰り広げた。もちろん、SNSも駆使した。

 マムダニの公約の一つに公営のグローサリーストア(食料雑貨店)をつくることもある。買物難民のニーズにこたえ、価格を抑える店。

 日本でも共産党が「タックス・ザ・リッチ」を訴えましたけれど、残念ながら時の話題になりませんでした。でも、スーパーリッチに対する課税を強化して、そこから増えた税収を庶民一般のために使う政策は、日本でもすぐにやってほしいことです。「103万円の壁」なんてことより、よほど役に立つ政策です。

 大変勉強になりました。いまの日本で、高市首相の嘘とごまかし、軍事最優先のトランプの言いなり政治に真向から闘いたい人の心をきっと励ましてくれる本として、強く一読をおすすめします。

(2026年1月刊。2420円)

福音派

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 加藤喜之 、 出版 中公新書

 終末論に引き裂かれるアメリカ社会。こんなサブタイトルがついています。メインテーマに入る前に、高名な「宗教者」にもインチキな人間が多いという衝撃的な事実をまず紹介したいと思います。

全国福音派教会の代表をつとめたテッド・ハガードはメガチャーチの牧師として福音派の立場からしばしば同性愛を批判していて、ドキュメンタリー映画にも登場して同性愛について否定的な態度を示していた。ところが、ハガード自身が3年ものあいだ男娼と関係をもっていたこと、ドラッグを使用した性行為をしていたことが暴露された。

 FBI長官として長年にわたって「闇の帝王」のように君臨してきたフーバー長官も、表ではゲイを徹底して批判していましたが、実はずっと部下の男性と性的関係にあったことが明らかにされています。カトリック教会でも高位の司祭・司教たちによるセックス・スキャンダルは昔から無数に起きています。

 表の顔と裏の顔がまったく違うというのは、ある意味で、よくあることですが、宗教家がそうだと、「おまえもか…」と慨嘆したくなります。

 さて、本論です。

 アメリカ人の4分の1近くを占める福音派のうち、その6割は、世界は終わりつつあると信じている。そして、終末に向かう世界においては善と悪の戦いとして、現代の政治的・社会的な対立があると考えている。

アメリカは、そもそもからして対立の国だ。今なお、人種差別はすさまじい。中絶を認めようとしない。

 福音派は、イスラエルを祝福する者は神によって祝福され、イスラエルを呪う者は神によって呪われると考える。『創世記』にある約束に従った考えだ。

アメリカ人の半分近くは、今も進化論を否定し、万物は偉大なる創造主によってつくられたと考えている。

 「ゴッド・ギャップ」とは、定期的に協会に通う人は共和党を支持し、あまり通わない、あるいはまったく通わない人は民主党を支持するという一般的な傾向のこと。

 オバマ大統領は、オバマ・ケアとして、妥協しながらも国民の健康保険加入を促進しました。ところが、このオバマ・ケアについて、福音派は共産主義思想だと攻撃しました。連邦政府による個人の選択の領域への不当な干渉だというのです。

日本は崩壊寸前ですが、今なお国民皆保険で国民は守られていますし、ヨーロッパはもっと進んでいて、病院の窓口で医療費を支払う必要がありません。すると、ヨーロッパは、イギリスもフランスも、福音派のいう「共産主義の国」になってしまいます。そんなことを言われたら、ヨーロッパの人々は「違う、違う」と大憤慨することでしょう。

 黒人の成年が白昼、何もしていないのに警察官から不当に逮捕・拘束されて死亡するという事件が相次ぎ、「黒人のいのちは大事だ」というBLMの運動が大きく盛り上がりました。そのとき福音派は「すべてのいのちは大事だ」という対抗スローガンを掲げたのです。人種差別という構造的な不正義が目の前にあるにもかかわらず、福音派の大部分はそれを認めようとしないし、BLMの運動は決して支持しない。

 今、アメリカでも協会離れが進んでいて、多くの人が「非宗教者」になっている。ただし、非宗教はただちに無神論というわけではない。

福音派のイメージは悪くなっている。モルモン教徒(25%)、無神論者(24%)、ムスリム(22%)よりも高い27%が、福音派を「好ましくない」としている。アメリカ社会における福音派の影響力は、数の減少以上に、構造的な事件で持続している。トランプ支持者と重なるところがあるということですね。

アメリカ社会の暗黒面だと思いながら読みすすめました。

(2025年11月刊。1320円)

「死線をゆく」

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 ナサニエル・フィック 、 出版 KADOKAWA

 アメリカ海兵隊の現場リーダーとして、アフガニスタンそしてイラクの最前線で活動した体験を振り返る本です。みすみす部下を死地に追いやるような作戦を最前線で指揮する中隊長に対して、明らさまに反抗した驚くべき経験も紹介されています。

 フェランド中佐は傲慢で、部下のことより我が身の出世を考えて部下を任務に行かせている。隊員たちはそう思っていた。中隊長は仕事熱心で人のいい男だが、戦術面では無能。指揮関係は信頼の上に築かれる。中隊長の判断は、あまりにお粗末で、海兵隊員が当然のこととして教えこまれる上官への信頼は、ことごとく打ち砕かれた。中隊長の命令に背いたのは、従えば誰かが何の理由もなく死ぬことになってしまう。戦闘指揮官としては最悪だ。

追撃砲は、標的を観測できる誰かが着弾点の誤差を追撃砲に伝え、砲弾を命中させようとしているものに誘導しないかぎり効果がない。したがって、その観測手を見つけて殺害しなければ、こちらが殺(や)られてしまう。

物資の補給では、燃料と水と弾薬が優先。食料はあとまわし。

 歩兵にとって、戦車と一緒に行動するのは、頭上に攻撃機が控えていたり、深い戦闘壕の底に潜っているようなもので、とにかく気分がいい。

 100万ドルの負傷とは、命に別条なく、戦線離脱して帰国できる負傷。

 1980年代、ソ連軍との戦いでムジャヒディンが消耗していたところに、CIAがスティンガー・ミサイルを供給したことで、戦いの潮目(しおめ)が変わった。スティンガーはロバの背中にのせて運べるほど小さいミサイルで、航空機の排気熱を追尾する。

 新参者(新兵)には近づきたくない。自殺行為をやらかすから。

 海兵隊でもっともタフな部隊は、偵察部隊だ。

 戦場における強さとは、手に負えない状況にも冷静に立ち向かい、穏やかにほほ笑みかけ、とことんプロフェッショナルな誇りをもって敵に打ち勝つ能力だ。

 ムスリムの暗殺者たちの多くは、自分の死後、99人の処女と永遠に生きられることを信じている。 「そんなのウソでしょ」という人はいない。

 戦闘は一種のめまいだ。どんな訓練をしようと、自分の感覚が信じられなくなる。

著者は大尉になったあと、海兵隊を早期に退職した。戦いを好まない戦士に自分がなったことを認識して、海兵隊を辞めた。著者は裕福な家庭に育ち、アイビーリーグの名門大学を卒業した白人男性で、戦場に出て戦争とは何か、正義とは何か、現実を見聞きするなかで考え、変化していった。海兵隊を去ったあと、ハーバードの大学院でMBAとMPAの学位を取得した。

アメリカの「強さ」の内実は、案外もろいものだとも、本書を読みながら思ったことでした。

(2025年5月刊。38050円)

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