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未来の夜空はどう見える?

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)

著者 谷口義明 、 出版 岩波ジュニア新書

 私は、前にもこのコーナーで紹介しましたが、「夜空の星はなぜ見える?」という本を読んでショックを受けました。今も書棚に大切に残してある本です。1973年初版の本です。つまり、星は満点に無数にあるから、夜が真っ暗になるはずはないという疑問から出発します。どこを見ても星だらけだから万遍なく光っていて、夜の暗さは曇天以外ありえないはずなのに、くっきりとした星空が見えるのは、なぜなのか・・・。

 そして、この本によると、アンドロメダ星雲の正体はアンドロメダ銀河であり、私たちの住む地球を含む太陽系もその一部とする天の川銀河とは、重力で引きあっていてお互いに猛烈な勢いで接近している。時速100万キロメートルという超高速で接近中だ。すると、どうなるのか・・・。

もちろん衝突する。しかも、1回目の衝突では二つの銀河はすり抜ける。2回目もすり抜けて、3回目で合体する。そこで、どうなるか・・・。2つの銀河が合体して、一つの巨大な銀河になる。このとき2つの銀河の円盤は壊れ球のような形の銀河になる。そして、そのあと、合体の痕跡も消えてただぼうっと星々が輝いて見えるだけになってしまう。そこにはオリオン星雲も何もなくただ年老いた暗い星々があるだけ。なので、夜空を見ても、今のような美しい夜空ではなく、退屈するばかりの夜空でしかない。

 いやぁ、私たちの地球を含む天の川銀河がアンドロメダ銀河と3回も衝突して、ついに合体し、そのうち年老いた星だけになってしまうとは・・・。すべては無ではないけれど、無のような存在になってしまうだなんて、とても信じられませんよね。

 でも、ある意味で、安心して下さい。いつ二つの銀河が衝突するかというと、なんと今から40億年後のことなんです。そして2回目の衝突は、それから10億年後のことで、最終的に2つの銀河が合体するのは、今から60億年後。さらに、それから10億年たって70億年後には、何もかも消えて、年老いた星が残っているだけのぼんやりした夜空になっている。

 いやはや、10億年たったらとか、40億年後に衝突するだなんで、その真偽は誰がどうやって検証(実証)するのでしょうか・・・。そんなとき、人間なんているはずもないでしょうからね・・・。

 カラー写真があります。20億年後、37.5億年後、38.5億年後、39億年後、40億年後、51億年後、そして最後に70億年後です。それこそ見てきたような嘘の世界じゃないかと、つい思いたくなります。宇宙とか天文学の話のスケールの大きさには圧倒されるばかりです。

 高校の天文部の生徒2人の対話という形で進んでいきますので、少しは理解できました。

(2025年7月刊。940円+税)

まちぼうけの生態学

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 遠藤 知二・岡本 よしろう  、 出版 福音館書店

 著者は人間科学部の教授。でも、研究しているのは、虫そのものというより、虫と虫の関わりあい、生態学。

 草むらに潜むアカオニグモは、草むらにクモの網をはって、じっと待つ。昆虫が網にひっかかると、糸の振動で素早く行動し、獲物にクモ糸を張りめぐらせ、動けなくして、キバをさしこんで消化液を注入し、体のなかを溶かして吸って(食べて)しまう。

 でも、いつもうまくいくわけではない。テントウムシは網にからまると、足の関節から、アルカロイドという苦みのある黄色い汁を出して、逃亡した。

 ガが飛んできた。クモの網にひっかかるかと思うと、かの体や羽をおおっている鱗粉(りんぷん)を出して、クモの網から逃げていく。

 観察して3日間、クモは獲物を捕まえることが出来なかった。しかし、クモは飢えにとても強く、何も食べなくても、水さえあれば何十日も生きていける。これは、すごいことですよね…。

 アカオニグモを捕まえて食べようとしたキスジベッコウが、逆にアカオニグモに食べられているのも目撃した。どこの世界も一筋縄では行かないもの。

 要は、自分にあった場所で生きていくことなんですよね…。それにしても、草むらの中に夜までじっといて観察するなんて、本当に大変そうです。

 北海道の札幌市郊外での観察を踏まえて刊行された本です。絵もよく出来ています、まだ暗いうちの朝4時から草むらに入って、じっと虫たちが動き出すのを待ちかまえて観察するのです。学者って、本当にチャンス(機会)と辛抱強さが必要なんですよね。心からの拍手をお送りします。

(2025年9月刊。1430円)

なぜハーバードは虎屋に学ぶのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 佐藤 智恵 、 出版 中公新書ラクレ

 タイトルからすると、中味の薄いキワモノ本だと思いがちですが、意外にしっかりした中味のある本(新書)でした。

 ハーバード大学経営大学院(ビジネススクール)は2年間に、500本のケースを学ぶ。ケースメソッドで、授業ではひたすら議論する。クラスでの発言点が成績の半分を占めるため、学生は必死で発言する。こうなると、議論をリードする教授は大変でしょうね。そのうえ、学生の発言を評価する必要があるというのですからね・・・。

 あの、ズシリと重たい虎屋の羊かんをもらったら、そりゃあ、うれしいです。小城(おぎ)羊かんも美味しいとは思いますが、虎屋になると数段優りますよね・・・。

 この虎屋は、なんと室町時代(16世紀初頭)に創業したという超老舗(しにせ)の和菓子屋。この本を読んで初めて知ったのですが、虎屋には、「社内には親族は一世代につき一人だけ」というルールがあるそうです。当主に何人か子どもがいても、その中から後継者になる1人を選ばなくてはいけないのです。いやあ、これはとても難しい選択(決断)ですよね。そして、自分が選んだ後継者が自分とは異なる決断をして、会社を変えていくのを見ても、決して口を出さないというのです。これは大変ですね。

 創業家出身の経営者が潔(いさぎよ)く引退するのは、とても難しいこと。前任者が介入して、大いにもめた会社はいくらでもある。あのトヨタでも、まだ創業者一族がいるというのですから、世の中は不思議です。

 日本には100年以上存続している企業が3万社以上ある。創業から200年以上も存在している世界中の企業のリストを見ても、その多くが日本にある。

創業から500年も続いている虎屋は、いつの時代にも、失敗を恐れず、イノベーションを創出し続けてきた。これが重要な長寿要因の一つになっている。

 虎屋が500年も存続できたのは、あくまでも結果であって、存続そのものを目的にしていたわけではない。長寿の企業が存続しているのは、革新的だから。イノベーションを起こし続けてきたからこそ、何百年も存続できている。

 ハーバード・ビジネススクールの授業料は、なんと3ヶ月間で1400万円と超高額。いやあ、これは高いですね・・・。ところが、日本企業は続々と、役員や役員候補者を送り込んでいるそうです。グローバル環境で臆せず、堂々とものを言える人材が求められているから。

 それでも、日本人学生は慣れないことに苦労している。しかし、堂々と、ゆっくりした英語で、「日本」の話をすると、周囲に目が変わると、著者はすすめています。

おかげで日本の長寿企業の存続のヒミツを学び、大変勉強になりました。

(2025年5月刊。1100円)

日本の防衛政策

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 杉本 康士 、 出版 作品社

 著者は産経新聞の外信部次長です。だからでしょうか、日本の軍事予算(防衛費)が天井知らずにふくれあがっていることに対する批判的視点はありません。でも、本当にそれでよいのか、果たして防衛費の増大は「日本を守る」ためのものなのか、本書を読んで私はますます疑問を感じました。

 集団的自衛権を容認し、アメリカの求めに応じて、自衛隊を海外のどこにでも派遣し、それを「下支え」することが出来るようになりました。安保法制下の安保三文書によって具体化が進どんどんめられています。

 バイデン前大統領は、「俺が岸田に言ったから日本の防衛費が増えた」と自慢している。そして、今、トランプ大統領は、さらに軍事費をGDP3%に増額するよう日本に要求している。とんでもない数字です。福祉も教育もますます切り捨てられることになります。年金は減るばっかりです。名目で少し増えても、介護料負担が増えるので、実質減です。そして、大学の授業料はどんどん値上がりしています。その結果、学生はアルバイト漬けになっています。

 2018年の中期防では、5年間の総経費は27兆4700億円で、物件費は17兆1700億円だった。それが今や、物件費は43兆5000億円と、2.5倍にはね上がった。ところが、防衛省・自衛隊の人数は今までと変わらない。自衛隊は定員割れだし、新規入隊は減る一方で、途中退官者は増大するばかり、同じ陣容で、これまでの2.5倍の予算を処理しなければいけない。これから、防衛省、自衛隊は予算執行という厳しい戦いを強いられる。

 「予算が増えて喜んでいる奴が多いが、何も分かっていない。正直言って、これから予算を使うのは、本当に大変だ」

 これが、自衛隊制服部門トップの本音だそうです。

 増田和夫・元防衛政策局長は、「今の人員配置は、予算獲得と執行が9対1になっているが、これを逆転させて1対9にする。防衛省は、もう予算獲得に全力をあげる必要はないから」と語った。そこで、著者は疑問を投げかけるのです。

膨大な額の予算を執行できる体制を防衛省、自衛隊が十分に整えているかは疑わしい。現に、2023年度の決算では、防衛費に1300億円の使い残しがあった。

要するに、「日本を守る」ためには何が必要なのか、その新「兵器」を運用・操作・補修していくだけのスキルを身につけた人員を養成・確保できるのか、そのためにはいくら必要なのか。このような、下から積み上げられた結果としての軍事予算ではないのです。

 バイデンそしてトランプというアメリカの大統領からアメリカの最新兵器(オスプレイやF35のような欠陥機を含む)を買わされ、その購入を前提として、必要人員の養成・確保のあてもなく、次々に天井知らずに増額されているのが実際なのです。

 政府が設置した有識者会議のメンバーには三菱重工学の役員も含まれています。財界、需要産業は今でもひとり勝ちなのを、さらに上乗せしようとしています。そんなことで庶民の生活は「守られる」でしょうか…。高市政権は大軍拡をさらに進めるという号令をかけています。おー、こわ、こわ…。

 知りたくないけれど、知らなくてはいけない日本の現実です。

(2025年6月刊。2970円+税)

弁護士キャリア失敗事例集

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 北 周士 、 出版 第一法規

 東京の五大事務所と大々的宣伝で集客するカタカナ事務所への若手弁護士の集中傾向がますます強まっています。先日、ロースクール生を3週連続で受け入れ、お互いに新鮮な刺激を受けました。

 ロースクール生にとって、地方(はっきり言って田舎)の弁護士はまったく見えない。魅力のない存在のようです。地方には仕事がない。なので、自分で仕事を見つけなければいけない。事件の種類と幅も限られている。弁護士がいない(少ない)から、勉強する機会も少ない(勉強できない)。このような大いなる誤解を抱いています。

 ただ、誤解じゃないと私も思ったのがただひとつ、ありました。地方で弁護士やっていても、何億円もするようなタワーマンションを買えるという保証はない(いえ、買っている地方の弁護士もいますが、それは例外的です。むしろ地方だと、マンションよりも庭付き戸建て住宅を好みます)。私もタワーマンションを買えるほどの資産はありませんが、バブルとは一貫して無縁の住宅団地の一隅に、広々とした庭で花と野菜づくりという畑仕事をする(夏の雑草とりは大変ですが…)生活を送っています。

 そして、仕事のほうは、多種多様です。大半が着手金10万円とか30万円ほどで、法テラス利用も5割前後ですので、毎月の売上額はしれたものですから、税務署なんかちっとも怖くありません。

この本を読んで、ぜひ紹介したいと思ったのは、ネット広告集客を得意とする事務所で8年間も働いたので、そろそろ独立したいというA弁護士が紹介されているからです。

 事務局のサポート体制が非常に充実していて、収入面でも非常に良好。でも、特定の分野に特化していて、新たな学びや挑戦の機会が少なく、成長速度が停滞していると感じている。社内で割り振られる仕事をこなすだけで、他業種との交流のなく、新たな案件を開拓するという積極性が失われていった。

 そうなんですよね。上から与えられた特定の分野の仕事だけをこなす仕事って、魅力が乏しいですよ。

 ところが、このA弁護士に対して著者の北弁護士は、最初の就職先として、このようなネット広告集客系事務所を「おすすめ」としています。いやいや、本当にそうでしょうか…。何事も初めの3年間が大事だと、私は思います。

周囲の弁護士と何事につけ相談しながら、多種多様の案件に接し、顧客開拓の苦労もしながら、自らのキャリアを広げ深めることをまず真っ先に優先した方がいいと私は考えています。高収入なんか優先すべきではありません。いかがでしょうか…。

(2025年7月刊。3000円+税)

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