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原発をとめた人びと

カテゴリー:社会

(霧山 昴)

著者 七沢 潔 、出版 地平社

もう2年にもなるのですね。正月早々から大地震が起きた能登半島ですが、実はそこに原発(原子力発電所)をつくる計画があり、関電(関西電力)が地元住民の声を札束(さつたば)ではたいて屈服させようとするのを、素人集団が「原発なんかいらん」と言って強力な反対運動をすすめたことから、ついに関電は計画を断念したのでした。なので、関電の計画が実現していたら、今ごろは能登半島一帯だけでなく、関西地方は人の住めない不毛の地と化していた可能性が十分にあったのです。能登半島で原発反対を叫んで闘った人たちは自分たちを守っただけではなく、日本を守ったと言えます。

トランプによる国際法違反のイラン攻撃によって中東からの原油輸入がストップとなり原発再稼働の動きに拍車がかかりつつありますが、中東問題は、トランプ対してに一刻も早くイランが手を引いて、戦争やめろと要求して声を上げるしか解決できません。ドサクサに便乗して原発再稼働なんて、とんでもないことです。

能登地震が起きたのは2024年1月のこと。2年たってもまだ多くの人々が仮設住宅に居住しているようです。そして、超高級旅館として有名だった和倉温泉の加賀屋はまだ再開していません。残念です。

珠洲(すず)に原発をつくる計画は、チェルノブイリ原発事故が起きた1986年のこと。関西電力は土地の地勢価格の5倍の値段で買収攻撃をかけた。住民を九州や北海道までアゴ足付きの視察旅行に連れていき、バーベキューをすれば肉を届け、また寿司を届けた。タレントを迎えての送迎バスつきの講演会、お土産つきの学習会。台風被害、地震災害があれば見舞金を届け、時に飲みに出たときの飲み代もタクシー代もみな関電持ち……。それでも反対派は関電に打ち勝ったのですから偉いものです。

町内は親子、兄弟でも賛成・反対に二分され、お互いに口もきかなくなったのでした。その後遺症は今でも残っているそうです。

関電は「日本では原発事故なんて起きない」と恥ずかしげもなく断言していました。3.11が起きた今、電力会社の言ってることは嘘だらけというのは明らかです。それでも、今なお、多くの裁判官が原発神話に取りつかれたままです。また、忘れっぽい習性をもつ多くの日本人が3.11で日本は危く壊滅しそうだったことを忘れてしまっています。本当に残念です。

結局、関電は断念し、27億円も自治体に寄付して撤退しました。このお金は奥能登国際芸術祭の費用として有効に活用されているそうです。

町を二分して激しく闘われた原発誘致反対運動について、現地では今もタブーになっていて、意外と知られていないのだそうです。貴重な記録を掘り起こした本として、しっかり読みました。

(2025年1月刊。1980円)

「望遠鏡と天文学者」

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)

著者 有本 信雄 、 出版 d ZERO

まえがきに、こう書かれています。太陽は、まだ誕生して46億年しか経っていないが、矮小(わいしょう)銀河の星の中には120億年以上という老齢な星がある。

どうでしょうか。46億年というのを、「まだ」と言い切るところは、さすが天文学者ですよね。たかだか100年ほどしか生きない人間なんて、ちっぽけすぎてケシ粒ほどにもなりませんね。

地球はいずれ今の金星のような灼熱(しゃくねつ)惑星になる。すべての生命が住めない天体になる。ただし、それは10億年後のこと。

著者は、だから、いずれ人類は地球から脱出しなければいけないと考えています。ハビタブルゾーンのある天体に移住するしかないというのです。でも、そんな天体を人類は先に見つけることが出来るのでしょうか。また、万一見つけたとしても、そこに到着できるでしょうか…。

トランプや高市のような、目先の自分のことしか考えない政治家が大手をふって闊歩している地球。戦争の収まらない地球で、そんなことを考えている余裕があるのか、本当に不安でなりません。

人類が生存できる環境とするには、10億年から40億年という、無限に長い時間がかかる。著者はこうも言っています。トランプは地球温暖化なんて嘘だわめき散らし、世界的な取り組みに背を向け、足をひっぱっています。

高市さんはトランプに抱きつき、まったく盲従するばかりです。アメリカにこびへつらうだけの日本の首相は、世界中の笑い者です。ところが、支持率はまだ5割とか6割というのです。トランプだって3割台にまで下がっているというのに…。

冷害を心配していて宮沢賢治の時代は地球温暖化を心配する必要はなかった。なので、火山を噴火させて二酸化炭素を増やして気温を上げようという話が小説の中に出てきた。今は、もはやそんな時代ではない。

著者は運転免許証を持たないのですが、不便な生活を余儀なくされました。でも、それは、自動車の排出ガスを増やすのに自分も加担したくないからなのです。偉いものですね。

宇宙には2000億個の銀河があり、銀河には2000億の恒星がある。その星の1割には惑星があるだろう。すると、そのなかには人類が住める惑星があるのかもしれない。

私たちは、いったいどこから来たのか…。日本は地球温暖化をストップさせる努力を何もやっていない。残念な現実だ。

先の毎日の夕刊(5月1日)に、エイモリー・ロビンスさんというアメリカのエネルギー研究者のインタビュー記事がのっていました。この人は日本が原発回帰策を進めようとしているのは間違いだとしています。再エネ、省エネと比べて原発はコストが高いうえに今から10年もかかる原発に頼らずに再エネと蓄電池で電源を確保すべきだと強調しています。本当にそのとおりです。

原子力ムラとそれに群がる高市首相のような政治家たちが利権を吸うような、汚職にまみれた世界に戻ってはいけません。

それにしても、夜まともに眠れない天文学者って、大変な仕事ですね。頭が下がります。

(2026年2月刊。3520円)

世界自炊紀行

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 山口 祐加 、 出版 晶文社

日本人の若い女性が世界 12ヶ国をまわって、38家庭を 取材。うち、各国2家庭ずつ 24組の自炊状況を突撃 取材した面白いレポートです。

料理と、それをつくり出した台所が紹介されていますので とてもイメージが湧き、さぞかし美味しいことだろうと、ついヨダレがたれそうになります。

この女性は人並み以上の強じんな胃腸の持ち主かと思うと、タイのカレン族の料理があまりの唐辛子の辛さに胃腸をやられてお腹を壊したと書かれていて、ああ、フツーの人だったんだねと、むしろ安心してしまいました。

台湾では共働きが当たり前で、男女の平等も当然のこと。台湾はベジタリアン人口の比率は13%で、インドに次ぐ世界二位。台湾のご飯は日本のご飯に比べて水分が少ない。パサパサとした炊き上がりになる。

学歴社会の韓国では、家族そろって食べるのが難しい状況。

ポルトガルでは、あらゆる料理に「バカリャウ」という干し鱈(タラ)が必ず入っている。

スペインでは、オリーブオイルをたっぷり使う、決してケチってはいけない。スペイン人は、1日に5回も食事する。夜ごはんは10時に食べる。それでも、寿命は世界第5位の長寿国。身体的ストレスの少ない生活ができるから…。

レストランの食事もいいけれど、美味しい家庭料理を食べると、心神ともに安心できますよね。

(2025年8月刊。2750円)

鳥は飛びながら眠る

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 渡辺佑基 、 出版 中公新書

本屋に立ち寄って、たまたま手にした新書ですが、すこぶるつきの面白さでした。いやあ、生物はこんなふうに生きているのか……と、驚嘆し、感嘆し、また学者の地道な努力に対して、心から尊敬の念にあふれてしまいました。

画期的な新発見を次々に得たのは、バイオロギングです。超小型の計測器を動物の体に取り付けられるようになったからです。今や、人の目の代わりに、小さな電子機器と、上空に浮かぶ人工衛星が動物を観察する時代になったのです。そして、得られたデータを解析していくわけですが、そこには幾多の仮説を考え、想像して、データを当てはめたり分析していくという地道な作業が求められます。解明まで自動的に得られるというものではありません。

海中を泳ぎまわれるニシオンデンザメは、遊泳速度はのろいけれど、大人になるのに150年かかるという超スローの成長速度なので、寿命は400年という。ええっ、そんな大型生物がいるのですね、信じられません。

ニシオンデンザメは、北極の冷たい海中に生息するものとして、低体温。体が常時冷えきっているので、エネルギー消費量は非常に少ない。体重200キロのサメが1日に160グラムの魚を口にしたら、必要なエネルギーをまかなうことができる。いやはや、これは超超省エネの動物です。

ハチドリは、暗くて寒い夜になると、動きを停止して、昏睡(こんすい)状態になる。すると、昼間は40度の体温が、10度以下にまで下がり、3度になることもある。ハチドリは体温低下に伴って休眠する。

野生のゾウは1日に2時間しか眠らない。ゾウは無用のエネルギーを要する傾斜地を避けて平地のみで生活を完結させてエネルギーを節約している。

バショウカジキは、長い吻と大きな背びれを持っている。バショウカジキにも「利き手」がある。右利き、左利き、自分の得意な攻撃法を集団内に隠すことで狩りの成功率を上げている。

ヒトの女性は妊娠すると味覚が変化し、苦みについてさらに敏感になる。吐き気を催すのは、毒性への耐性の弱い胎児を守るための防御的な対応。

うまみは、消化しやすいタンパク質のしるし。

鳥は洋上を低く飛びながら、半球睡眠している。左目を閉じるときは脳の右側が眠り、左側は起きている。

オオツリハシギという鳥は、子育てが終わると、地球の裏側、1万キロも離れたニュージーランドまで、1週間ぶっ続けの羽ばたき飛行で移動する。

冬の寒いときに、小鳥がくちばしを自分の羽毛に埋めているのは、熱の発散を防ぐためです。

アザラシは、脳の片方の動きを止めて体が沈下しはじめるとノンレム睡眠が見られ、数分後にレム睡眠に切り替わって5分間ほど続き、最後に少しだけノンレム睡眠に戻ってから覚醒し、海面に向かって泳ぎ始める。このパターンだ。

クラゲには脳がない。神経細胞は体内に分散している。集中していない。それでも、観察すると、夜間に眠っている。

ヒトの睡眠パターンは、月の周期と連動している。女性の生理の周期は平均して29.5日。これは満月から満月までの日数とぴったり一致する。だから月経とも呼ばれる。

ヒトの睡眠にも月のリズムがある。満月の夜には寝付きが悪くなり睡眠が浅く短くなる。新月の夜は、逆にぐっすりと長く眠れる。

アザラシは、わずか4日間で子を独り立ちさせる。ズキンアザラシの母乳の脂肪分は、なんと60%にもなる。ヒトは3〜4%なだけなのに……。

生涯の途中でメスが閉経するのは、ヒトを除くと、シャチなど数種のハクジラ類に限られる。群れの行き先を決めるのはリーダーではなく、民主的な多数決で決まる。そのほうが失敗が少なく生存率向上に資する。

渡りをするツルに年長者がいるかどうかで、渡りの巧拙が決まる。やはり年長者の経験は生きるものなのですね……。

わずか250頁の新書ですが、次から次に新発見がテンコ盛りされていました。ご一読ください。

(2026年4月刊。1232円)

ヨーゼフ・メンゲレの逃亡

カテゴリー:ドイツ

 (霧山 昴)

著者 オリヴィエ・ゲーズ  、 出版 創元ライブラリ文庫 

ナチスの医師メンゲレは 南アメリカに逃亡し、30年ものあいだ隠れて生活していました。といっても、実の家族とはずっと連絡をとっていて、ドイツで弁護士となった息子ともスイスで会っています。また、アイヒマンとも一時期はすぐ近くに住んでいたことがありましたが、メンゲレのほうが用心深かったためイスラエルのモサドから居所を探知されることはなく、メンゲレは病気のため衰え、ついに海で溺れ死んでしまいました。偽名のまま墓地に埋められたのです。しかし、結局は遺体は掘り起こされ、鑑定の結果、メンゲレだと判定されました。今、メンゲレの遺骨は、ブラジル医学界が保存しています。

メンゲレに息子は問いかけた「パパ、アウシュヴィッツで何をしたの?」「人を殺したの、パパ? 子どもを痛めつけて焼いたの?」

メンゲレは答えた。「ユダヤ人は人類に属していない」「蚊と同じように叩きつぶした」「何千年も前から、ユダヤ人はアーリア人種の絶滅を望んできた。あんなものはすべて排除すべきなのだ」「自分は、ただ兵士と科学者の義務を果たしただけ」「たくさんある歯車のうちの一つでしかなかった。一部にやりすぎがあったとしても、その責任は私にはない」

しかし、実際のメンゲレは単に「歯車の一つ」というものではありませんでした。単なる責任逃れの口上にすぎません。

アイヒマンはモサドに捕まったとき、メンゲレのことはひと言話さなかったようです。そのおかげでメンゲレはアイヒマンが1962年6月1日に絞首刑で死んだあとも、1979年2月7日に溺死するまで17年も生き延びたのです。

メンゲレは、1956年3月にはジュネーブで家族(妻と子)に再会しています。当時はロシアで戦死したことになっていたので、「アメリカのフリッツおじさん」と紹介され、息子に名乗りました。

南アメリカには、ナチス・ドイツの犯罪者を受け入れる組織があり、社会があったようです。アイヒマンはそのなかで悠々と生活していたわけですが、自己宣伝をしたことから、ついにモサドに捕まってしまいました。メンゲレは、実に用心深かったのですが、それでも本名で登録していたのです。

「死の天使、ヨーゼフ・メンゲレ」という映画が最近、日本でも公開されましたが、残念ながら見逃してしまいました。日本でいうと 七三一部隊に関わった医学者たちですね。「ミドリ十字」を創設してもらったり、また、東大や京大の医学部教授になったり、栄誉と名誉を得ています。許せません。

(2026年2月刊 1,430円)

子どもの日、快晴だったので、久しぶりに近くの小山(388メートル)に登った。わが家から頂上まで、1時間半かかる。途中、ミツバチの箱を20個ほども置いているところがあり、ハチたちが箱の上を乱舞している。道路はよく整備されているが、それでも20分以上は、かなり急峻な山道になっている。幸い頑丈なロープがところどころに張ってあるので、それにつかまり、あえぎながら、やっとの思いで登っていく。足を踏みはずして転落したら、「高齢の老人が山で負傷」という見出しで報道されるのだろうなと冷や冷やする。小鳥たちの鳴き声がかまびすしい。ウグイスも混じって鳴いている。ようやく、見晴らしのいい頂上に到着して、汗びっしょりの肌着とシャツを取り換えて、お弁当開きをする。昔ながらの濃い塩味の梅干し入りのおにぎりを眼下の有明海、そして雲仙岳を見ながらほおばる。紫色の野アザミの近くの白い花にアゲハチョウがとまって蜜を吸っている。弁当を食べ終わると、石のベンチでしばし横になる。陽差しが強くて、暑いほど。帰り路はだらだら坂を下っていく。電気柵が囲われている中にミカンの白い花が咲いている。電気は太陽光発電だ。そして、ビワの実に袋かけをしている人がいたので、声をかけて挨拶する。青葉若葉が目に沁みて、またとない生命の洗濯ができた。

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